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戦国異伝

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第百五十四話 北ノ庄その二

「そうじゃな、それではな」
「うむ、そうじゃな」
「ここは争っても仕方がない」
「大軍に囲まれておるしな」
「戦になれば死ぬだけじゃ」
「顕如様も無駄死にはするなと仰っておられる」
「それではな」
 こう話してそしてだった、彼等も。
 信長の誘いに乗り降ることになった、それでなのだった。
 彼等はこうだ、こう言ったのだった。
「門徒達も死ぬことはない」
「村で信じておれがそれでよい」
「それが真の信仰じゃな」
「それではな」
 こう話してそしてだった、彼等はそれでいいとした。
 それで城の門が開けられ門徒達は武器を捨てそれぞれの村に帰った、信長はそのうえで城に入り僧侶達の話を聞いた。
 だがそれでもだ、彼等もこう言うばかりだった。
「あの者達については我等も妙に思っていました」
「どの村から来たかさっぱりわかりませぬ」
「しかも鍬も鋤も持っておりませぬし」
 その代わり刀や槍を持っている、しかもやたら質のいい。
「鉄砲に弓矢の数も多いですし」
「百姓の持っているものではありませぬ」
「尚且つ念仏を唱えませぬ」
「待て、念仏をか」
 信長はこのことにだ、目を顰めさせて僧侶達に問い返した。
「一向宗だというのにか」
「はい、左様です」
「むしろ我等が念仏を言うと避けておりました」
「まるで聞きたくない様に」
「門徒達だとのことですが」
「門徒ではあるまい、それでは」
 信長は僧侶達に言った。
「念仏から逃げるなぞ一向宗では有り得ぬわ」
「それで我等も不思議に思っていました」
「門徒達なのかと、まことに」
「その様に」
「そうであろうな」
 信長も僧侶達の言葉に頷く。
「そもそもどの村の者達かもか」
「全くわかりまんでした」
「聞いても言いませぬし」
「それで動きはやけに速かったですし」
「実に奇怪だと」
「左様であろうな」
 信長はあらためて言った。
「あの者達はな」
「御主達から見てもな」
「まことに百姓か」
「一度顕如様にお聞きしようかと思っていましたが」
「その機会がまだありませぬ」
「どうも」
「そうであるか」
「はい、妖しいことなので」
「どうにも」
「そうじゃな、とにかくわかった」
 あの者達が僧侶達ですら知らない様な者達であることをだ、信長が特に思うのはこのことであった。
「村すらわからぬとはな」
「はい、そうです」
「どの者もどの村にいるのかが」
 わからない、このことだった。
「わかりませぬ」
「面妖なことに」
「そんなことは有り得ぬわ」
 絶対にだとだ、信長は言い切った。 
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