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とある星の力を使いし者

作者:wawa
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第143話

真っ黒の服を着た白髪の子供はとある公園に向かっていた。
別に意味はない。
ただ彼を救ってくれた少女がいるのかどうか、それを確かに来ただけだ。
すると、公園に近づくと誰かの泣き声が聞こえた。
その声に聞き覚えがあった子供は走ってその公園に向かう。
入り口まで行くと、中央付近で二人の男の子が一人の少女を苛めていた。
もちろん、暴力で苛めている訳ではなく、言葉による苛めだった。

「や~い、でこっぱち!」

子供の悪口など大人からすれば大したこと無いように聞こえる。
しかし、当の本人にとっては泣くほどつらいものだった。
少女はピンで前髪を左右に分けており、そうする事でおでこがより見えるようになっていた。
少女はその髪型がとても好きだったのだ。
だからこそ、その悪口を言われると悲しかった。
そんな光景を見た男の子は気がつけば走っていた。
走って一番近い男の子に蹴りを入れた。
それを受けた男の子は地面に倒れ、もう一人の男の子が突然やってきた男の子に動揺している。

「彼女を泣かせる奴は俺が許さない。」

そう言って、もう一人の男の子にも蹴りを入れる。
子供の蹴りにしては効いたのか、苛めていた男の子達は泣きながら公園を出て行った。
それを確認した男の子はポケットからハンカチを取り出して、まだ泣いている少女に渡す。

「これで涙を拭け。」

「う、うん。
 ありがとう。」

ハンカチを受け取り、涙を拭いていく。
ある程度落ち着いてから、少女は尋ねた。

「どうして助けてくれたの?」

その質問に男の子はこう答えた。

「君は俺を・・・俺の命を救ってくれた。」

「?」

男の子の言っている事は少女は理解していないらしい。
それでも男の子は良かった。
彼女が忘れていても自分が覚えている。
あのたった一言が自分を救った事を彼は一生忘れないだろう。

「だから、君は俺が守る。
 何があっても君は俺が守る。」

それだけ言って男の子は公園を出て行こうとする。
しかし、後ろから手を掴まれてしまう。

「ねぇ、名前は何て言うの?」

少女の質問に、男の子は振り返って言う。

「麻生恭介。」

「私は吹寄制理。
 恭介、明日はこの公園に来る?」

そう言う制理の言葉に麻生は断ろうと思ったが、満面の笑みを浮かべて言う制理の顔を見て断れなかった。

「多分、来ると思う。」

「なら、一緒に遊びましょう!」

「あ、ああ。」

そう返事をすると、彼女は手を離して反対の出口に向かって走り去る。
最後に振り返り、麻生に向かって手を振る。
麻生は小さく手を振り返すと、満足したのか走り去って行った。
その次の日、律儀に公園に向かうと制理の他に子供が数人いた。
制理は麻生の姿を見ると、嬉しそうに駆け寄り他の子供に紹介する。
そして、子供達と一緒に遊ぶ事になった。
おそらく、これが最初で最後になるであろう子供のような遊びを麻生は体験した。
星から真理を見せられた麻生にとって子供の遊びなど全く意味が無い。
そもそもする必要も、面白味も感じないだろう。
だが、麻生は少し、ほんのちょっぴりだが楽しいと感じた。
これも制理に出会わなければ感じる事はなかった筈だ。
遊び尽くした後、日が暮れ解散となる。
皆が家に帰る時、制理は麻生に言う。

「また明日も来る?」

そう聞く制理だが、麻生は首を横に振る。

「いや、もう来ないよ。」

「えっ・・どうして?」

その言葉を聞いて悲しそうな顔をする。
麻生は言葉を続ける。

「次はもう楽しむ事はできないと思うから。
 こんな奴が居たら楽しい遊びも楽しくなくなる。」

「そんな事ないよ!
 私は恭介が一緒にいたら楽しいもん!!」

制理の言葉を聞いた麻生は少しだけ唖然とした表情になる。
今にも泣きそうな顔になっている制理を麻生は優しく抱き締める。

「泣かないでくれ。
 お前が悲しんだから、俺も悲しくなる。」

自分が泣かせている原因だという事は分かっている。
だが、次にここに来ても麻生は今回のように楽しみ事はできないだろう。
そこまで自分は腐っている。
こんな奴と遊べば制理や他の子供も腐ってしまう。
だから、麻生はこう言った。

「こうしよう。
 制理が強くなったら、また遊ぼう。」

「本当に?」

「ああ、約束だ。」

そうして麻生は小指を差し出し、制理も自分の小指を麻生に絡ませる
指きりのおまじないの言葉を言って、そこでテレビを消すかのようにその場面が消えた。
これが今朝見た麻生恭介の夢である。











一方通行(アクセラレータ)と別れてから、麻生はぶらぶらと散歩しながら打ち止め(ラストオーダー)を探していた。
地下街の近辺を中心に探しているが、その姿らしきものは確認できない。
何より、一人で打ち止め(ラストオーダー)を見つけるのに無理がある。
能力を使えばすぐに見つかるが、そんな緊急事態でもないのに能力を使うのも馬鹿らしい。
眠そうに欠伸をしながら麻生はふと思い出した。

(そう言えば、懐かしい夢を見たな。)

今朝見た夢を麻生は思い出す。
あれは麻生がまだ子供の頃だった。
真理を見た麻生は子供の頃の記憶が曖昧でよく覚えていない。
確かに覚えているのは愛穂と桔梗と制理に命を救われた所くらいだ。
それ以外はあまり覚えていない。
だから、制理とあんな約束をしたのも今朝の夢を見て、思い出した。
それがきっかけなのかもう一つ思い出した事もある。
その時、麻生の頬に水滴が落ちてきた。
上を見上げると、空からの雨滴だった。
それらは徐々に降り始めていく。
それほど強くはないが、傘を差すか差さないか悩むくらいの雨だった。
周りでも差す人もいれば、差さない人もいる。
麻生は後者だ。
パラパラとした雨を身体で感じながら思った。

(そう言えば、あの時もこんな雨の降っている時だったな。)

そう思った麻生は自然と、ある所に向かっていた。
少し歩くと、公園が見えてきた。
子供の頃に麻生と制理が遊んだ公園だ。
子供からすると広い公園に見えるが、麻生くらいになると狭く感じる。
滑り台やブランコなど、一般的な遊具が設置されている。
雨が降り始めたからなのか、公園の中には子供の姿が見えない。
しかし、中央に青色の傘を差した人物が立っていた。
麻生の足跡が聞こえたのか、その人物はゆっくりと振り返る。
傘を差している人物は吹寄制理だった。
今朝見た夢に思い出した記憶、それらは全てこの公園と制理が関係している。
気まぐれに訪れたのに、その公園には制理がいた。
この偶然に麻生は少し驚きつつも、それを表情に出す事なく言う。

「こんな所で何をしているんだ?」

「別に。
 貴様こそ、何しに来たのよ?」

「俺も特に用はない。
 近くを通っただけだ。」

制理は高校の頃に再会した麻生の姿を見ても、気がつかなかった。
そんな制理に本当のことを話しても意味はないだろう。
長居する意味もなく、麻生は公園を立ち去ろうとした時だった。

「麻生、私達って昔に何回か会っていない?」

その言葉に麻生は足を止めて、制理の方に振り返る。
制理は真っ直ぐにこちらを見つめていた。

「どうしてそう思うんだ?」

「私ね、夢を見たの。」

不意に制理はそう言った。
まさか、と思う麻生。
制理は言葉を続ける。

「この公園で白い髪をした男の子に助けられる夢。
 小さい頃、でこっぱちとか何とか言われて苛められてたの。
 あの頃は泣き虫でただ泣いている事しかできなかった。
 公園で二人の男の子に苛められている時、一人の子供が私を助けてくれたの。
 その子の名前を聞いた筈なのに、大事な所は聞こえなかった。
 他の子供達とその子と一緒に遊んで楽しかった。
 楽しかったのに、その子はもう来ないって言ったの。
 理由は分からないけどね。」

その時の事を思い出しているのか、制理は懐かしい物を見るかのような表情になる。

「私はそれを聞いてものすごく悲しかった。
 思い出したから分かるんだけど、凄く悲しかった。
 それで、その子はこう言ったの。」



「こうしよう。
 制理が強くなったら、また遊ぼう。」

「本当に?」

「ああ、約束だ。」



「そう言って指きりまでしてね。
 本当に懐かしいわ。」

制理の言葉を聞いて麻生は何も答えない。

「実はその子とはもう一度だけ会っているの。
 こんな風に雨が降っている時だった。
 私は傘を差して、公園に向かったら猫が倒れていたの。
 原因は分からないけど、凄く怪我をしていた。
 私は死にそうな猫を見て泣きそうになった。
 強くなるって決めてたのに、泣きそうになった。
 その時に、横から誰から猫に触ったの。
 瞬間、怪我が一瞬で消えて猫は元気に立ち上がって、どこかに行った。
 それを見て、私は大はしゃぎして横にいる人物を見たの。
 私は横にいる人を見ると、それはあの子だったの。
 その子は何も言わずに公園を立ち去って行ったわ。
 傘を差さずにね。」

制理は麻生の眼を見つめる。
麻生も視線を逸らさない。

「そう、こんな風な雨だった。」

二人は黙って見つめ合っている。
制理はその時、胸が大きく脈を打ったのを覚えている。
自分が助けてほしい時にやってくる、そのヒーローのような男の子に。
それを思い出した、今でも胸がドキドキする。
それでようやく気がついたのだ。
自分はその子に恋をしていると。
何で、そんな事を今まで忘れていたのか。
何で、こんな大事な事を忘れていたのか。
沈黙の空気を破ったのは制理だった。

「麻生、貴方があの時の男の子なの?」

「何でそう思う?」

「だって、特徴とか色々似ているし。」

確かにあの時の男の子は麻生だ。
それは麻生自身も分かっている。
なのに、麻生はこう言った。

「人違いだろ。」

「えっ・・・」

「だから、人違いだ。
 俺はこの公園には来た記憶はない。
 何より、そんな優しい甘ちゃんと俺が同一の人物だと思うか?」

何故、嘘をついたのか自分でも分からない。
でも、ここで本当のことを言えば何だか駄目な気がしたのだ。
本当のことを言えば、制理が危険が及んでしまうような。
麻生の直感がそう告げていた。
その言葉を聞いた制理も少し納得した表情を浮かべる。

「そ、そうよね。
 貴様のような奴とあの子が一緒な訳がないわよね。」

「そういう事だ。
 じゃあな、俺はもう行くぞ。」

「別に私に聞かなくても、さっさと行けばいいでしょ。」

それもそうだな、と麻生は言って公園を出て行こうとする。
振り向き様に制理は一瞬だけ、あの時の男の子の姿と麻生の姿が重なって見えた。
呼び止めようとしたが、寸前で止まる。

(あいつは人違いよ!
 そうに決まっているわ!)

自分に言い聞かせ、制理も別の出口から公園を出て行くのだった。 
 

 
後書き
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