| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国†恋姫~黒衣の人間宿神~

作者:黒鐡
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

六章 幕間劇
  京巡り

「これが京の街か・・・・」

「うむ」

京の道をぶらぶらと歩いていたが。

「改めて見て回ると凄いな」

「ああ。草の報告で話は聞いていたが・・・・やはり、実際に見ると全く違うな」

「エーリカががっかりするのも分からなくもないけどな」

鬼退治に協力してもらうために、ここまで来たら幕府があんな感じだとは思わないだろう。面会した後から、あまり元気がない。ショックが大きいのは当然だと思う。

「一真もそうなのか?」

「いや、もしやとは思ったけどここまでとはね」

幕府の力よりもこの建物の荒れ加減がな、現代では観光地のはずなのに、見れば見る程、これが京都とは思わなくなる。

「ふむ・・・・。だが、こればかりはどうにもならん」

「・・・・・・・・」

「・・・・冷たいと思ったか?」

「事実だけど、受け止めるしかないと思うな」

「あれが憂いる原因は既に聞いた。辛気臭い顔をしているのは南蛮坊主の件だけではないのだろうが・・・・金柑が話さん以上、察しも出来ん」

「まあな、ひよ達も聞いているみたいだが」

この時代、ヨーロッパの歴史だと大航海時代真っ最中のはず。向こうも権力闘争とかで色々だろう。

「愚痴をこぼして気分が収まるなら、いくらでも聞いてやるんだが」

「吐き出した事に吐き出した後でも憂うというなら、その先は金柑が片付けるべき問題だろうな」

さらりと聞き流したが、いつの間にかエーリカの事を金柑って呼んでいるが定着しているな。たぶん、ひよの猿と同じパターンで定着しているんだろう。

「我らは既に動き出している。今は出来るだけの事をするだけだ」

「そうだな。それにしてもザビエル、ねぇ」

正史では、フランシスコ・ザビエルは、カトリック教会の司祭、宣教師。ポルトガル王ジョアン3世の依頼でインドのゴアに派遣され、その後1549年に日本に初めてキリスト教を伝えた事で特に有名である。また、日本やインドなどで宣教を行い、聖パウロを超える程多くの人々をキリスト教信仰に導いたと言われている。カトリック教会の聖人。

「いずれにしても、遥々海を越えて迷惑な話だ。・・・・さて、飯を食って二条に向かうぞ」

「分かった。それで何を食べる?」

俺らは散策の道を離れて、二条の道を歩きだす。道沿いに小さな料理店で軽く食事を済ませて、俺らがやって来たのは二条館。

「では、後を任せる。日が沈む頃には迎えに来い」

「承知している。一緒に帰ろうな」

今日も久遠とは一葉と話があるそうだ。俺は同席しなくてもいいそうだから、ここで別行動。

「う・・・・うむ。ではな」

「行ってらっしゃい」

会釈をすると久遠は二条館に堂々と入って行く。さてと、俺はどうしようかね。久々にトレミーに戻ってコーヒーでも飲もうかな。

「おや。一真様ではありませんか」

「幽に・・・・エーリカか?どうした?」

幽がここにいるのは当たり前だが、エーリカがこんな所にいる何てな。少しと言うよりかなり珍しい組み合わせだ。確かエーリカは朝、出かけたらしいけど・・・・。

「はい。幽様にチャノユのお誘いを戴きまして」

「チャノユ・・・・・・茶の湯?」

「天守教の方が、御所は兎も角二条に来るなど滅多にありませんからな。それなりに、繋ぎも付けておきたい所でして」

「接待ならもう少し上手く隠して言えばいいのに」

「ははは。それがし、そういった腹芸がとんと苦手でしてなぁ」

よく言うぜ、まあ本当はそっちこそと言うべきであるけど。ここは止めておこう、何か言われそうだからな。

「しかし、もしや一真様はお茶の心得はお有りでしたかな?だとすれば、一真様もお招きすれば宜しかったか」

「残念ながら、俺の世界ではそういうのはあまり見ない。茶の作法とか、その辺りはさっぱり。エーリカはお茶の席は平気なの?」

「はい。日の本の素晴らしい所を、また一つ教えて頂きました」

「いやはや、数寄の心と侘び寂びを解する南蛮のお方など、寧ろそれがしが驚かされました。・・・・ご母堂の教えが良かったのでしょうなあ」

そういえば、エーリカの母親は美濃の良い所の御嬢さんだったか。だから、茶道の心得があったのかもしれない。俺の所は、紅茶かコーヒーだから。あとそういうのは茶道部とかで、サークルやクラブ・部活とかで習うんだよな。学生の時は。

「それで今日はもう帰るのかい?」

「いえ。茶の湯の席で、私が日の本の建物に興味があるという話をしたら、幽様が京の街を案内してくださる事になりまして」

「それも接待の一環?」

「もちろん。何せ京の街案内は、茶の湯よりも遥かに安上がりですからなぁ」

まあ確かに茶道よりかは、街案内の方が気楽か。二条を仕切ってるなら街案内くらいは軽いと思っていいのか。

「御用とお急ぎがなければ、一真様も如何ですかな?」

「そうだな。俺も暇だし行くか」

と言って、馬で行く事になったので空間から馬を出した。外見は普通の馬だけど、中身は金属生命体。

「なあ、幽。京のお寺の実態はどうなってるの?」

「ああ、あいつら檀家の寄進や寺領の実入りでうなる程おぜぜを持ってやがりますからなぁ。正直、荒ら屋同然の二条よりも、景気は良い所がほとんどですよ。そのくせ二条にはやれ本堂の改築だの、屋根を直すだので寄進しろと何かと小金をせびりに・・・・」

何か黒いな、その話は。エーリカも分かっていないからよかったけど。

「まあそれは置いておいて、大文字山の方には応仁の乱の戦火を免れた寺社もそれなりに残っておりますからな。そちらを案内しようかと思うております」

「そうか、ならいいんだが」

「最もその辺りの連中も、あくどく儲けた生臭共の根城に成り下がった者がほとんどですが。・・・・とどうかされましたかな?一真様」

「いや何でもない。一応言っておくが、そいつらが悪さをしたら神の鉄槌が降ると思うから。恐らく近日中にかな」

「おっと、そうでありましたな。一真様は神仏の類の御方。神様仏様に聞かれた話ではなかったですなあ」

「一真様、幽様。どうかなさいましたか?」

「いえいえ、何でも。・・・・さて、エーリカ殿、あちらに見えまする寺は・・・・」

そんな事を話しながら、俺らは幽の案内に従って、ゆったりと京の東側へと向かった。

「あれが六波羅蜜時ですな。この先にあるのは、清水寺になりますぞ」

ふむ、清水寺かぁ。拠点D×Dの時に家族旅行として行った事があったな。他の生徒は、修学旅行だったけ。あの後曹操と戦ってから仲間にしたんだったな。でもまた来るとは思わなかったな。それもあの時より過去の清水寺に行くとはな。

「一真様もご存じとは、歴史あるお寺なのですね」

「そうそう。あと、先ほど渡った橋が五条大橋ですな」

「さっきのがか。何か見覚えがある橋だなとは思ったが・・・・」

「そちらも有名な橋なのですか?」

「まあそれなりに。平安の世の末に、義経と弁慶が対峙したという・・・・」

「ヨシツネとベンケイ・・・・」

「昔の武人さ、強くて有名だったけど」

で、俺らはその話をした後に清水寺に行った。何と言うか、前行ったより舞台がなかった。あの釘を一本も使ってない、かの有名な清水の舞台。でもエーリカにとっては良かったみたいだからまあいいか。

「あそこもちょくちょく焼き討たれておりますからなぁ。一真様の仰る清水寺がいつ頃かは存じませんが」

ちょくちょく焼き討たれてるのか。京は呑気だなと思ったが、随分と殺伐としてる。

「それ程の迫害が遭ってもなお信仰心を失わない・・・・。この国の神や仏の教えにも、素晴らしいものがあるのですね」

エーリカは清水寺の建物を見てテンションが上がっていた。やっぱり宗教者としては、そういう方向も気にしているんだろうな。あと神である俺としても嬉しい言葉だ、あとで帝釈天や他の神仏にでも言っておくか。

「そういえば、エーリカに聞きたい事があるんだ」

「何でしょう?」

「天守教の神はデウスだけだよな?」

「はい。それがどうかされましたか?」

「それって、日本の神や仏は有りなの?」

しばらく無言になったが、答えは無しだった。厳密に天守教を教えを守るならばという事だったけど。

「厳密に言えば、という所が肝ですな」

「はい。確かに私達の神はただ御一人ですし、そうでなければならない、という強硬な意見を持つ宗派が存在するのも事実です。ですが、そのような事をしていては、新たな地で教えを広めていく事などとても出来ませんから。日の本に来るまでに寄港した国でも、多くの神を信奉する国は珍しくありませんでしたし」

「その辺は結構融通聞くのね」

エーリカの場合は、母の影響が大きいと言っていた。母は神が天にただ一人という所まではこだわっていないと聞く。

「それが法王庁の考えと同じかは分かりませんが、そんな考え方も出来るからこそ、こうして宣教師に選ばれたのだと思っております。・・・・とはいえ、ザビエルの考えはそのような物とは訳が違います。あれだけは、許す訳にはいきません」

今まで穏やかに笑っていたエーリカの表情が、途端に曇った。ザビエルの話題になるとそうなるよな。

「ですな。何を信じようが勝手とはいえ、邪教の類はこちらに累が及びますからな」

「はい・・・・」

「ですが、辛気臭い話はその程度にしておいて、次はもう少し北に参りましょうか。あちらは最近の戦火を逃れた寺も多くありますぞ」

「まあ!もっと古いお寺もあるのですか!」

最近ねえ、幽が上手く話を切り換えてくれたから助かったけど。それはいつ頃の話なのかな。

「慈照寺も、とても美しいお寺でした」

エーリカは漆塗りの佇まいが凄く気に入った様子だった。まだほんのりと頬を赤らめている。まさかあれが現代で言う銀閣寺だとは思ってもいなかった。

「とはいえ、今の慈照寺は住職もおらぬ有様。一応、こちらで最低限の手は入れてありますが・・・・」

「そうなのですか?あれ程美しい建物なのに・・・・」

「お寺はどこも儲かってるという訳ではなさそうだな」

「寺領の少ない寺は酷いものですよ。・・・・しかし慈照寺は義政公の開いた寺社でありますゆえ、そう無碍にも出来ませんでなぁ」

「ですが、あの池のほとりの佇まいには、長い長い歴史を感じました」

「喜んで頂けたなら、何よりですな」

「俺からも礼をしたい。これなら神仏の諸君に良い報告が出来そうだ」

「気持ちが塞いでる時は、美しい物でも見て目の保養をするのが一番ですよ。幸い、京にはまだそれが出来る建物が幾つも残っておりますゆえ」

「塞いで・・・・。・・・・本当にありがとございます、幽様」

見れば分かるしな、今のエーリカの現状をな。

「でしたら、おぜぜもかからないがてら、もう一つ二つ、元気の出そうなお話などをさせて頂きましょうか」

「何でしょうか?」

「今日は、幾つかの寺をご案内させて頂いた訳ですが、そもそも仏の教えは、日の本で生まれた宗教ではございませぬ」

「・・・・何と。本当ですか?」

「ええ。あれはいつ頃でしたかな・・・・。そうそう、大和に都があった頃。海を渡って、大陸から伝えられた教えにございます。間には、色々と血生臭い騒ぎもあったようですが・・・・それでも日の本の元の神々と折り合いを付け、こうして都に寺を並べております。そういう話は一真様の方がお詳しいのでは?」

「まあ確かに幽の言った通りさ。一番古くて、552年辺りからだったか。今から千年前の話になるけど。たぶんだけど天守教も平坦な道ではないだろうな」

まあ事実だし。古い時代だと飛鳥時代辺りになるかな。幽ほど詳しくはないけど、それに宗派も色々あるからな。十三宗五十六派っていうし。

「茨の道となるのは、覚悟しております。それでもその先に光があるのでしたら・・・」

「・・・・であればそれがしに、言う事はありませぬ。何せ日の本は八百万。異教の神がもう一人二人増えた所で、さして気を悪くはせぬでしょう」

「ヤオ・・・・ヨロズ?」

「八百万とは、数字で表すなら八百万と言うな」

「は、はっぴゃくまん・・・・・・!?日の本には、それほどの神が・・・・!?」

「まあ日本の神は多いからな、俺を合わせてもそれ以上になるかもしれない。それと額面通りではないけどね」

とにかく神仏は一杯いる。俺が会った神仏はほんの一部だし。

「驚きました。ですが、それが本当だとしたら・・・・とても素晴らしいお話です。我らの神もその列に加わって、民に平穏を与えられるのですね」

まあそうなんだけどね。実際会った後、日本の神仏のところに行ってたし。

「そうやって受け入れられるエーリカも、相当凄いと思うよ」

こんな考え方ができるエーリカだからこそ、こうやって日本に来て神の教えを広めようとしているし。

「そうですか・・・・?だとしたら嬉しいです。この地を創ったとも言われる神様に。そのためにも必ずザビエルを倒さねばなりませんね。・・・・あれの悪事が実を結べば、教えはおろか、日の本そのものが危うくなってしまうでしょう」

「それも正直、さして心配おりませぬ」

「・・・・・というのは?」

「吉備津彦、源頼光、麻呂子親王や日子坐王・・・・」

「ああ、・・・・もしかして伝説の鬼退治をした英傑の事?」

スマホでは、その名前に出てくるのは全部キーワードは鬼退治とかだもんな。他に土蜘蛛退治とかあるけど。

「鬼退治の・・・・?」

「左様。日の本は、古来より鬼だの何だの怪異が後を絶たぬ土地。・・・・しかしそれ故に、鬼退治の逸話を持つ英雄豪傑も数多くおり申す。そして我が主たる足利家は、酒呑童子や茨木童子といった鬼の群れを下した頼光公の弟君、頼信公から続く家柄。まさに、鬼退治の英雄の末裔にございます」

「なんと・・・・ショーグン家には、そのようないわれがあったのですか・・・・!」

まあ事実だな。童話で言うなら桃太郎もそうだけど、あれは事実を素にした絵本。吉備津彦命というのだけど、一説には、命の家来である犬飼健を犬、楽々森彦を猿、留玉臣を雉と見て、この温羅伝説がお伽話「桃太郎」になったとも言われ、岡山県ではこれをして自県を「桃太郎発祥の地」として宣伝している。

「先程五条大橋に出てきた義経公も、源を同じくする源氏の家系」

「だとすれば、まさに英雄の家系なのですね・・・・。ああ、神よ。この巡り合わせに本当に感謝いたします」

「そういえば、幽。足利家がその頼光公の弟の子孫っていうのは分かったけど、肝心の頼光公の子孫はいるの?」

鬼退治の英雄の末裔なら、弟より本人の子孫の方が強そうな気がするが。

「もちろんおりますとも。頼光公からしばらくは都の要職も占め、この世の春といった様相でしたが・・・・最近は足利家を含む河内源氏に押されて、知名度は今一つといったところですが」

「なるほどね、英雄の家系にも色々あるんだなぁ」

「まさに栄枯盛衰ですな。・・・・ああ、そうそう」

「どうかなさいましたか?」

「そういえばエーリカ殿の明智家も、摂津源氏・・・・頼光公の血筋と言われておりますなぁ」

マジか?するとエーリカのとこもという事か。明智家の繋がりに関しては間違いない。詩乃がその辺り間違えるはずはないし、エーリカも間違う程の情報を持っていない。

「私にも、鬼退治の英雄の血が・・・・」

海を渡ったその血が、こうやってザビエルを倒すために戻ってくる何て。縁というより因縁という風に考えてしまう。

「ありがとうございます、幽様。そのお話が、今日一番嬉しいお話でした」

「それは重畳。いずれにせよ、日の本で鬼退治などさして珍しい事ではありませぬ。此度の鬼の顛末も、恐らくは古の言い伝えと同じく、多くの物語の一端となる事でしょう」

俺はそう信じたいけどな。エーリカも信じたいようだけど、幽はなりますともと言ってたな。

「さて。では帰り道に、賀茂御祖神社にも参っておきましょうか。外来の仏ばかりにかまけて日の本由来の神に参らねば、それこそ神罰を受けてしまいますからなぁ」

「はいっ!」

相変わらずの調子の幽に、エーリカは弾んだ声で頷いて、馬を従わせる。幽のおかげで元気になったけど、美濃に戻っても同じような笑顔になってくれると神仏の類としては嬉しい事だ。  
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧