久遠の神話

「そうよ」
「高貴な野獣ですね」
「多少潔癖症ではあるわね」
　智子は加藤のその資質も見て言った。
「どうもね」
「清掃業でしたね、表の仕事は」
「そうよ、それに出ているわ」
「あの人の潔癖症が」
「そして潔癖症であるが故にですか」
「戦いでもね」　
　それにおいてもだというのだ。
「彼は卑怯ではないわね」
「野獣であっても」
「ええ、正面から戦いね」
　己の全力を尽くしてだというのだ。
「勝とうとするわね」
「野獣として、過激なことはしても」
「はい、卑怯なことはしていません」
「純粋な野獣よ」
　高貴であると共にだというのだ、加藤は。
「そしてそれが故にですね」
「彼を戦いから降りさせることは」
「難しいですね」
「極めて」
　そうだというのだ、残る三人の剣士の中に。
　そしてだ、そうした話をしてだった。
　智子は二人にだ、こう言ったのだった。
「彼については私も答えが全く出ないから」
「それで、ですね」
「今は」
「ええ、二人よ」　
　コズイレフ、そして中田のことを進めていくというのだ。
「彼については後回しになるわ」
「最後ですね」
　聡美が言った。
「あの人は」
「そうなるわ、けれど必ずね」
「必ずですね」
「彼にも戦いから降りてもらうわ」
　例え最後になろうとしてもだというのだ。
「そうしていくわ」
「絶対にですね」
「そのことは」
「全ての剣士が戦いから降りれば」
　願いを適えてだ、死ぬことなく。
「そうすればね」
「これまでそうしたことはありませんでしたが」
「それでもですね」
「それで何かが起こる筈よ」
　これが智子の読みだった。
「剣士達が最後の一人になるまで願いを適える為に戦い」
「そしてですね」
「そのことからでしたね」
「姉様は力を集めておられたから」
「それがこの戦いの摂理」
「摂理を壊すのですね」
「摂理が壊れたなら」
　それならというのだ、剣士達の戦いにおいても。
「それで必ず何かが起こるわ」
「そしてそれに乗って、ですね」
「私達は姉様をお止めするのですね」
「そうよ、残念だけれど姉様は私達の話は聞いてくれないわ」
　智子はこのことを残念に思いながらも述べた。
「だからこうした実力行使もね」
「仕方ないですね」
「そうなりますね」
「それしかないのなら」
　智子は彼女のやり方、考え方から述べた。