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魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~

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遥かに遠き刻の物語 ~ANSUR~ Ⅵ

最大禁呪“ラグナロク”によって、次々とヴィーグリーズに居た人命が失われていく。その“ラグナロク”発動地点。強烈な衝撃波が生み出され続ける中心である漆黒の光球。

「「ここに今、誓いを立てる」」

そこに過去ルシリオンとフノスが、生き残った同盟連合両軍の兵たちを逃がすために、そして“ラグナロク”を再封印するためにいた。過去ルシリオンは“ラグナロク”を封じるために完全解放した“グングニル”や他無数の神器を、発動地点を囲う様に突き立て結界を展開、神器群を維持していた。それと並行して行われようとしている魔術。

「我、フノス・クルセイド・アースガルド」

「我、ルシリオン・セインテスト・アースガルド」

過去ルシリオンとフノスが互いに自分の両手の親指の肉を切り、手の平を重ねるようにして傷口を合わせる。今行われているのは“契約(メンタルリンク)”と呼ばれる、魔術師における主従の契りを結ぶ儀式魔術。自分と相手の傷口を合わせ、血と魔力を混合することで魔力炉(システム)をリンクさせるというもの。

「「我ら、ここに誓いを築き、主従の理を宣言す」」

そして魔力をどちらからでも送ることが可能となる。魔力炉(システム)に掛かる負担も分けることで、片方の無茶な術式を補助することが出来ようになる、本来は主従を誓うための儀式。しかし今、2人が行っているのは“ラグナロク”を停止させるために必要な魔力を用意するための緊急用のものだ。2人の魔力炉(システム)がリンクを開始し、混合し暴れ回る魔力を制御する。

「「契約(メンタルリンク)」」

そして最後に、過去ルシリオンとフノスが口づけを交わす。儀式は晴れて終了となる。フノスを主とし、彼女から流れ来る魔力を、過去ルシリオンは結界を構築する神器群に流し、結界の効果を最高にする。
“ラグナロク”の破壊が一時的にとはいえ停止するのを確認したフノスは、悲しそうな表情をする過去ルシリオンに微笑み返す。対する過去ルシリオンは、自分が犯した後戻りできない罪に歯噛みし、フノスに見えないように涙を流した。

「目覚めて。私の神剣・・・グラム!」

魔道王フノスの有する神器――神造兵装第2位・“神剣グラム”。“グングニル”と同様にクリスタルのような剣身を持つ両刃の剣。その“グラム”が虹色の輝きを放つ。フノスはの固有能力・“空間干渉”を発動。“空間干渉”を、今から放とうとする真技に付加する。その様子を背後に感じ取った過去ルシリオンが「すまない」と激しく後悔した表情で呟く。もちろん、フノスには届かない。謝って許されるようなことではないのだから。

「っ・・・くそ・・・。今だ!」

後ろに控えていたフノスが、過去ルシリオンの合図とともに“ラグナロク”の中心へと駆ける。銀の長髪が波打ち、コバルトブルーの瞳は“ラグナロク”の中心のみを映し、その表情は決意と覚悟に満ちていた。が、その顔色は青を通り越して白かった。血の気の無い、まるで死人のように。

「フノス・・・!」

「ありがとう、ルシル♪」

フノスが過去ルシリオンの脇を通り過ぎる。一瞬だけ交差する2人の視線。片や笑み。片や泣き。フノスは優しく「大丈夫ですよ」とだけ告げ、そのまま“ラグナロク”の中心へと駆ける。過去ルシリオンは、背を向け走り去ろうとするフノスへと右手を伸ばす。だが彼の右手は、フノスの後ろ髪の毛先に少し触れるだけとなり、彼女の疾駆を止めることは出来なかった。

「くそっ・・・。何がみんな護ってやる、だ。私は・・・義妹ひとり護れないのか・・・!」

“ラグナロク”を抑える結界の楔たる神器群への魔力供給を停止させる過去ルシリオン。結界が消えたことで再び猛威を揮う“ラグナロク”。今度は過去ルシリオンからの魔力供給を受けたフノスが、自身と過去ルシリオン分の魔力を合わせ、“ラグナロク”へと最接近する。迫る衝撃波を一切の無駄のない流れるような動きで回避し・・・

「真技・・・!」

フノスは“グラム”の柄を両手で握り締める。表層世界全体とも言える全ての空間に張り巡らされた“ラグナロク”の力。それを寸断し、世界をこれ以上破壊させないために、フノスは跳躍。

神徒の(アポストリック)――」

そして“グラム”を頭上に掲げるようにして、“ラグナロク”の中心へと落ち行く。虹色の両翼を背に展開し、フノスは衝撃波を掠りつつも回避。

剣閃(セイバ)ァァァーーーーーーーーッ!!」

“グラム”の刀身を包む虹色の輝きが伸び、巨大な光剣となる。それを一気に振り下ろし、“ラグナロク”に巨剣の一閃を叩き込んだ。手応えを確信し、フノスはすぐさま“ラグナロク”より離れようとするが、足がもつれて倒れ込みそうになる。

「フノ――来い、フェンリル!!」

過去ルシリオンが叫び、それに応え姿を現すのは彼の使い魔フェンリル。その姿は本来の巨大な漆黒の魔狼となっていた。フノスの元へと近寄り、いつもの少女の姿となって彼女を抱え上げる。

「フェン・・・リル・・・?」

「はい、フノス様。すぐにシェフィリス様のところへと御連れ致します」

フェンリルはフノスを背負い、再度巨大な魔狼へと姿を変えた。そして1回の跳躍で、ヴィーグリーズより避難しようとしていたアースガルド・クルセイド王家保有の超巨大戦艦“フリングホルニ”の艦上へと移動、人型へと戻り甲板へと降り立った。

「よし。これで後は私の仕事だけだな」

それを見守った過去ルシリオンは、フノスの真技によって再封印され始める“ラグナロク”へと近付く。止めを刺すために展開した蒼翼で周囲の魔力を収集する。そのまま“グングニル”を完全解放し、“ラグナロク”へと投擲した。最高・最強の神秘を有する“グングニル”の直撃を受け、“ラグナロク”は完全に封印された。

『このラグナロクの影響によって滅んだ世界は大小合わせて840強。そして表層世界――つまりは私たち人間の在る単一次元が分かたれてしまった。これが再誕神話に記された単一次元だった表層世界の終わり、複数の次元世界への再生。再誕だ』

1つの次元が“ラグナロク”によって寸断され、空間を隔てた次元世界が生まれた。これが、古のルシリオン達の世界の終わりで、今のなのは達の存在する次元世界の始まりである。なのは達は何も言えなかった。まさか次元世界の始まりを見ることになるとは思わなかったからだ。
それ以前に、次元世界の始まりなんてことすら考えたこともなかったはずだ。生まれた時から次元世界を知る世界にいた、なのはとはやてを除くフェイト達は特に驚愕していた。全てを覆されたようなそんな感覚に襲われ、学者であるユーノは放心状態だ。

『ラグナロクが与えた影響はそれだけじゃなかった』

ルシリオンが重々しく告げ、なのはたちが絶句する中場面が変わる。

ルシリオンは語る。アースガルドも“ラグナロク”によって甚大な被害を被っていた。四王族の治める王領はほとんどが滅んでいた。臣民もまた多くを残さずに、だ。アースガルドは、全て空に浮かぶ空中大陸で構成され、その下は全部海といった世界だ。“ラグナロク”の影響で、大陸の大半が海に落ち、沈んだ。残ったのが、高さが2万mとある“支柱塔ユグドラシル”と呼ばれる、アースガルドの中心にそびえ立つ塔。そしてセインテスト王領、クルセイド王領の3つ。同盟世界もまた似たようなもので、ムスペルヘイムとニダヴェリールに至ってはその形すら残っていないのだと。


そんななのは達が居るのは、ユグドラシルが有する万を超える部屋の1つ。アンスールのリーダー、フノスの寝室だった。そこは豪華絢爛という言葉が一番当てはまる部屋。その寝室に置かれた天蓋付きのベッドに横たわるのは、布団を胸のあたりまで被ったフノスだ。寝息すら聞こえない、本当に生きているのかも怪しいくらいに静かな眠りだ。

『フノスはただでさえ体が弱く短命の少女だった。魔術を使用、ましてや戦うなんて自殺行為。イヴ姉様――イヴィリシリアのフノスに対する過保護もそこから来ている。それなのに、彼女は大戦でウリベルトと戦い、そして・・・』

ラグナロクを討った、とルシリオンは呟いた。

『いくらラグナロクを再封印するためにはフノスの力が必要だったとはいえ、私は体の弱い彼女と契約(メンタルリンク)した』

ルシリオンが眠りについているフノスへと歩み寄る。触れることが出来ないのを理解しつつ、彼は指をフノスの前髪を撫でるように動かした。

『私がフノスを殺したようなものだ。こうなることを知りつつ契約(メンタルリンク)したのだから。・・・大戦終結から1年。明日だ。彼女がその生を終えるのは。だが、これから起こることを見ることなく逝けた彼女は、幸せな方なのかもしれない』

場面が変わる。フノスの遺体が納められた棺を、ユグドラシルの霊廟へと運ぶ“アンスール”メンバー。ルシリオンは、なのは達にフノスの死に際を見せなかった。情けなく泣く自分を見られたくなかったからだ。過去ルシリオンの目が赤く腫れている。それだけでなのは達も判った。“アンスール”全員が未だに涙を流すが、過去ルシリオンだけはもう涙を流していなかった。フノスの遺体を霊廟へと納める場面が終わり、さらに場面が変わる。

「ヴァナヘイムが!?」

「はい、お父様。世界監視統制システム(エリスリナ)からの報告です」

そこはユグドラシルの最下層にある“ノルンの泉”。
“戦天使ヴァルキリー”全機を統括するシステム、“アプリコット・ノルン・ウルド。
世界を監視する目を担うシステム、“エリスリナ・ノルン・ヴェルダンディ。
アースガルドやビフレストと他世界を繋ぐ門を創りだすシステム、“リナリア・ノルン・スクルド”。
その“統括三女神ノルニル・システム”が置かれた場所。

今そこで過去ルシリオンと長女アプリコットが話をしていた。大戦終結から8年後、ヴァナヘイムが活動を再開したとの報告を、過去ルシリオンは受けていた。29歳となった過去ルシリオンは(アプリコット)と話を続ける。

「ヴァナヘイムは復興作業を途中で止め、ここアースガルドに攻め込む準備をしているそうなんです」

ヴァナヘイム。アンスール率いる同盟軍が陥落した連合主要世界の1つだ。あれから八8年経った今、ヴァナヘイムは敗戦世界として存在している。“ラグナロク”によってウトガルドとスリュムヘイムは完全滅亡し、ヨツンヘイムは何とか存続している状態。ヴァナヘイムの被害も甚大だったが、他の3世界に比べればマシなものだった。

「それは臣民の意を酌んだものなのか?」

「いえ。現皇帝カトラス・シュープリーム・ヴァナヘイムによる独裁のようです。アースガルドを攻め落とし、その魔道技術を手にして、一気に次元世界を支配するつもりかと」

「なるほど。しかしヴァナヘイムに世界を渡る術はあるのか?」

「申し訳ありません。不明です。ですが、ラグナロクを生き残った世界ですので、あるかと思われます。」

「そうだな。・・・くそ、こっちは復興作業がまだだというのに。エリスリナ! 引き続き、ヴァナヘイムの動向の監視を頼む!!」

過去ルシリオンはアプリコットから視線を外し、泉の中央に浮かぶ巨大なクリスタルに叫ぶ。するとそのクリスタルからフワッと現れた次女エリスリナが「了解です、お父様!」とそう答え、また姿を消した。

「アプリコット。念のためにヴァルキリーの戦闘調整を頼む」

「了解いたしました、お父様」

そしてアプリコットもまたクリスタルへと姿を消した。過去ルシリオンは難しい顔をしながら、ユグドラシル上層階へと向かった。

『また・・・戦争が始まるんですか・・・?』

キャロが涙目でルシリオンへと尋ねた。ルシリオンは『ああ』とだけ答えて、再度場面を変えた。そこは戦場だった。名の無い世界――いや、名があった世界と言うべきだ。元夢幻世界ウトガルド。“ラグナロク”によって滅んだ連合主要世界の1つだ。何も無い光景が広がる寂しい世界へと変わり果ててしまっていた。

「何故だ! 魔力の出力上限が低下してしまっているぞ!」

「アムティス相手にこんな無様を・・・!」

そこで戦いがあった。“アンスール”とヴァナヘイム軍の戦闘だ。8年前まで続いていた大戦では最強だった“アンスール”。しかしその“アンスール”が敗れた。相手は連合主力の1つだった“A.M.T.I.S.”の最新鋭機。

「近接と遠距離のタイプを兼ね備えた新型だ!」

「注意、注意!」

近接のタイプ・セイバーと遠距離のタイプ・アーティラリーの複合、タイプ・ハイブリット機。ロールアウトする前に先の大戦が終わってしまい、工廠に封印されていた機体。ランクにしてXXランク。過去ルシリオンとステアのEXランク2人がいれば余裕で勝てる戦いだったはずだ。だが敗れた。圧倒的な差とは言わずとも、それでも“アンスール”は敗れた。

『敗北の要因。ラグナロクの影響による界律の変調。魔術師ひとりにおける魔力使用総量が著しく低下させられた。最大X+ランク。それ以上は界律が認めない、許さない。人間ではないA.M.T.I.S.はその例外。だから後れを取ることとなった』

ルシリオンは続ける。彼らの使い魔であるフェンリルとガルムが行動不能になるまで弱体化させられたこと。
その他にも、魔術師の証たる魔力炉(システム)を持たない子供が生まれることが多くなってきたこと。魔力を持たない人間が生まれるのは初めてのこと。そして魔術や魔術師が次元世界から途絶え始めたこと。リンカーコアという器官を新たに持って生まれてくる人間が現れるまで、魔術は滅んでいたこと。
全ては“ラグナロク”による界律への悪影響の所為だということを。場面が変わる。“ヴァルキリー”の母であり総司令官シェフィリスと父である過去ルシリオンが、その数を1000体へと増やした“ヴァルキリー”全機を前にしている光景だ。

「みんなも知っての通り私たちアンスールはヴァナヘイム軍に敗れた。界律による魔術師への能力制限によって。だからあなた達に頼ることしか出来なくなったしまったの」

“ヴァルキリー”全機は黙って彼らの母でありシェフィリスの言うことを聞いている。

「もう一度お前たちを戦場に出すことをすまなく思う」

シェフィリスの隣、過去ルシリオンが復興用から再び戦闘用に調整された“ヴァルキリー”全機へと謝る。彼らは約束していた。争いの無い世界で最期まで共に生きようと。しかしそれが破られる。ヴァナヘイムの覇道というくだらない野望のために。

「問題ありません」

「私たちに戦う力があるのなら・・・」

「父様や母様方をお守り出来るのなら・・・」

「それこそヴァるキリー冥利に尽きるというものです」

だが、“ヴァルキリー”達は笑う。そんなことで謝らないでください、と。自分たちは父ルシリオンと母シェフィリス、そしてその仲間である“アンスール”を護る為の存在。だから戦うことに何の不満も無く、逆に“アンスール”の力になれることこそが最大の喜びだと。これが悲劇の始まりとも知らず、“ヴァルキリー”の参戦が決まった。
この2日後、ヴァナヘイムへと進軍を開始した“アンスール”と“ヴァルキリー”部隊。“A.M.T.I.S.”の相手を全面的に“ヴァルキリー”が引き受け、“アンスール”はカトラス帝の身柄拘束に動き出す。

タナクヴィスル川を掛かる大橋。
8年前に、シェフィリスがサー=グラシオン率いる騎士団と連合軍を潰した場所。そこでまた戦いが起きようとしていた。“ヴァルキリー”1000体と“A.M.T.I.S.”800機の大混戦。人間サイズと半端じゃない巨人との激戦。
“アンスール”は、“A.M.T.I.S.”の数が減ってから帝都を目指そうとしていた。戦闘開始から30分が経過しようという時、それは起きた。

「何をしているブリュンヒルデ隊! 何故味方を攻撃する!?」

前線で起こり始める“ヴァルキリー”の同士討ち。第一世代“ヴァルキリー”・ブリュンヒルデ隊。最高レベルの実力を誇る少数精鋭部隊。そのブリュンヒルデ隊が、味方“ヴァルキリー”へと攻撃を開始した。

「何が起きているの!?」

「どういうことだ、ガーデンベルグ!?」

ガーデンベルグと呼ばれた“ヴァルキリー”が、魔造兵装第2位“呪神剣ユルソーン“を手に、彼の部隊ブリュンヒルデを率いて反逆を開始。次いで・・・

「報告します!! ゲイルスケルグ隊、ヘルフィヨトル隊、ヘルヴォル隊が、ヴァナヘイム軍に付きました!!」

ランドグリーズ隊シリアル04リオが、“アンスール”の待機場所へと報告しに来た。驚愕する“アンスール”メンバー。

『アンスール諸君、聞いているか? 戦導世界ヴァナヘイム皇帝カトラス・シュ―プリーム・ヴァナヘイムだ』

そこに、帝都から聞こえるカトラス帝の声が、タナクヴィスル川を挟んだ待機場所へと届いた。

『突然の戦天使ヴァルキリーの反逆に驚いていることだろう。俺はな、この日を待っていた。お前たちの技術の粋を結集したヴァルキリーを操り、俺の手駒にする今日この日を。大戦中に散々情報を集めさせたおかげで、この計画がようやく陽の目を浴びたよ。ヴァルキリーに特製のウイルスを流し込み我が下僕とする“堕天使化計画(プロジェクト・エグリゴリ)”。これでお前たちは終わりだよ、アンスール。大人しく投降してくれると嬉しいな』

“アンスール”は――特に過去ルシリオンとシェフィリスは頭の中が真っ白になった。“ヴァルキリー”を操るなんて信じられない、不可能だと。しかし現に、ブリュンヒルデ隊、ゲイルスケルグ隊、ヘルフィヨトル隊、ヘルヴォル隊が反旗を翻した。事実だと受け止めるしかない。納得できないが、今は撤退することを第一として行動を開始した。

場面が変わる。堕天使計画より4日後、“アンスール”メンバーの集まる会議場で、過去ルシリオン達は耳を疑う報告をエリスリナから聞いていた。

「本当・・・なのか・・・?」

「はい。ヴァナヘイムは、堕天使――エグリゴリによって完全に滅亡しました」

プレンセレリウスに答え、エリスリナが再度告げる。カトラス率いるヴァナヘイムが、操って駒とした“堕天使エグリゴリ”によって滅ぼされたと。

「どういうこと?」

ステアの疑問に、アプリコットが答える。

「おそらくですが、ヴァルキリーのプログラムに完全介入できるほどのウイルスではなかったのかと。相反するプログラムの所為で暴走状態になったのかと思われます。お父様とお母様の組んだプログラムですし」

「アプリコット。エグリゴリと繋がる貴女から見て、堕天使は直せそう?」

19歳となった大人のシエルがアプリコットへと尋ねる。

「それについては先程、お父様とお母様と話したのですが、リカバリーはもう不可能なのです。時間を掛けて行えばいつかは・・・ですが、これ以上統括三女神(ノルニル)システムとエグリゴリを繋げておくと、私たち姉妹にまでウイルスが侵入、正常なヴァルキリー含む私たちまでウイルスに侵され暴走することになると思います」

苦々しく答えるアプリコット。それはつまり、ブリュンヒルデ隊、ゲイルスケルグ隊、ヘルフィヨトル隊、ヘルヴォル隊を諦めろということだった。正常な天使と女神を救いたいなら、堕ちた天使は殺せということだ。沈黙が流れる。“ヴァルキリー”の生みの親である過去ルシリオンとシェフィリスの決定には従うつもりでいる他のメンバー。過去ルシリオンとシャルロッテが口を開くのをただひたすら待とうとした時・・・

「堕天使エグリゴリの掃討を第一として、ステア、戦術戦略の構築を頼む」

大して時間を掛けずに過去ルシリオンはステアに告げた。アプリコットに話を聞いてからの数分間、全力で考えた末の結論だった。

「・・・それでいいの、ルシル?」

「ああ。堕ちたあの子たちには悪いが、このままノルニルや他ヴァルキリーを暴走させるわけにはいかない」

光景が一時停止となる。

『これが大戦終結から8年後に起きた“堕天使戦争”。再誕神話には記されていない物語だ。アンスールは、この1ヵ月半という短すぎる戦争で次々と命を落とし、私もまた・・・』

フェイトの表情が強張る。その先の言葉を聞きたくないと。なのはとはやては、フェイトの両側からその震えた手を握る。フェイトは少し驚いた顔をするが、『大丈夫、ありがとう』と微笑を浮かべた。アルフやエリオにキャロ、リンディとクロノもまた心配そうにフェイトへと近付き声を掛けていく。

『本当に・・・これ以上先を見せていいのか・・・』

そんなフェイト達を離れた所からルシリオンは見守っていた。フェイトの表情を見て、ルシリオンは先へ行くことを躊躇った。しかしフェイトの先の言葉を思い出し、場面を変えた。 
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