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マウンドの将

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第七章


第七章

 第二試合もまずは予告先発からであった。横浜はその整った顔立ちが人気の右のエース斉藤隆、西武も男前で評判のある豊田清だった。両方共顔には定評のある好投手なので試合開始前からスタンドでは話題だった。
 だが観客席にいるのは殆どが横浜ファンであった。これには西武ナインも苦笑した。
「おいおい、俺達の援軍はあれだけかよ」
 西武ファンはほんの僅かであった。だがその声援は熱かった。
「その援軍に応えるぞ」
 東尾はナイン達に対して言った。こうして試合がはじまった。
 まず西武は斉藤の立ち上がりを攻める。ノーアウト一、二塁。だが彼を攻めきれず結局無得点に終わる。
 その裏の横浜の攻撃である。またしても石井にヒットを許した。
「またかよ・・・・・・」
 東尾は唇を噛んだ。そして例によって走られた。
「伊東の肩に問題があるな」
 そして同じように鈴木にタイムリーを許す。まるで昨日の試合のVTRを見ているようだ。
 だが違うところがあった。残念ながら西武にではない。横浜にであった。
 斉藤は絶好調であった。西武打線を見事に抑えている。まるで打たれる気がしなかった。
「斉藤の調子はいいですね」
「ああ」
 権藤は全く動かなかった。斉藤はなおも飛ばしていく。
 五回の横浜の攻撃。まずは石井がホームランを打った。
「またあいつか」
 東尾は苦い顔をした。そして鈴木にも打たれた。
 一塁には鈴木がいる。彼にはバッティングの他にもう一つ武器があった。
 スチールを決めたのである。初回にも走られている。これで二盗塁である。
 そしてローズに打たれた。これで豊田はマウンドから降りた。
 七回にも追加点を入れる。タイムリーを放ったのはやはり鈴木であった。
「石井とあいつは何とかならんのか・・・・・・」
 東尾は顔を顰めて呻いた。この二人には特にやられていた。
「打たれるのは構わんがな」
 彼は目の前で累上で誇らしげに笑う鈴木を見ていた。
「走られては元も子もない。これだけやられたら黙っているわけにはいかんな」
 試合は結局横浜の勝利に終わった。斉藤はシリーズ初登板ながら見事完封勝利を収めた。
「今日は監督もコーチも必要なかったな」
 権藤は記者達に対して言った。斉藤の好投のことを言っているのである。その言葉が横浜の雰囲気を表わしていた。
 逆に西武は沈む一方であった。
「このままだと四連敗もあるぞ」
 東尾は一人腕を組んでいた。
「ここは一つ思い切ってやってみるか」
 彼は何かを決した。元々博徒として知られた男である。ここぞという時の奇計は有名であった。
「舐められるわけにはいかん、そして勝つ為にはな」
 東尾はそう言うと北西の方を見た。次の試合からは舞台が変わる。西武の本拠地西武球場だ。彼はここで一か八かの大博打を打つことにした。
 翌日行なわれる筈だった試合はまたしても雨で流れた。
 十月二三日、第三戦は西武球場で行なわれた。西武の先発は潮崎哲也、黄金時代から抑え、そして先発で活躍してきたサイドスローである。武器はシンカーである。横浜はリーゼントで有名なハマの番長三浦大輔、立ち上がりに不安はあるもののその独特の二段フォームで知られる実力派である。
 ここで観客達が驚いたのはキャッチャーである。何と西武のキャッチャーは中嶋聡である。
「伊東じゃないのかよ!?」
 皆目を見張った。実はこのシリーズにおいて注目される対決が二つあった。一つは石井対松井稼頭夫。ショート、そして切り込み隊長同士の対決。そしてもう一つは谷繁対伊東。キャッチャーの対決であった。ここで東尾はその伊東を外してきたのだ。
「また思い切った作戦に出ましたね」
 コーチの一人がそう言った。
「これが博打ってやつだ」
 東尾は不敵な笑みを浮かべて答えた。
「相手に舐められたら勝負の世界ではそれで終わりだ。今からそれを見せてくれるさ、中嶋がな」
 彼はそう言って潮崎のボールを受ける中嶋は頼もしそうに見た。こうして試合がはじまった。
 伊東のリードは一つの特徴がある。それはピッチャーに最もいい球を投げさせるというものである。どんな球でもキャッチする。そうした彼の卓越したキャッチング技術があるからこそできるリードである。古田も卓越した技術があるが彼の場合はピッチャーの最もいい球を引き出す。これもまたリードの違いである。
 それに対して中嶋は強気のリードで知られる。グイグイと押すタイプのリードだ。
 中嶋のリードはストレート主体であった。それが功を奏した。初回石井を四球で出し嫌な雰囲気を作ったものの次の波留を併殺打に打ち取った。これには彼の肩があった。中嶋の強肩はよく知られていたのだ。
「流石に走ってこないな」
 東尾はダブルプレーとなりベンチに戻る石井の背を見ながら言った。彼の采配は的中したのだ。
 横浜はチャンスを作るものの得点を入れられない。逆に西武は立ち上がりの不安定な三浦からチャンスを作ることに成功した。
 
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