| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~

作者:月神
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

As 03 「騎士達と少年」

 とある公園の街灯の下にあるベンチには金髪の女性が座っており、近くには青色の毛並みの守護獣がいる。言うまでもなくシャマルとザフィーラだ。
 近づいている気配を感じて視線を向けると、私服姿のヴィータが立っていた。戦闘前とは打って変わって、自分を責めているような顔をしている。

「ヴィータちゃん、どうしたの?」
「あいつが……あたし、あいつを……」

 今にも泣きそうになるヴィータにシャマルが駆け寄り、落ち着くように話しかける。
 ヴィータは我々の中では最も精神が幼い。だが、主はやて以外のことでここまで取り乱すことはないはずだ。いったい何が……
 ふと頭を過ぎったのは、主の友人である少年。彼とは出会ってからまだ数ヶ月しか経っていないが、頻繁に主に会いに来ていた為、我らも親しい間柄になった。
 彼は同年代の子供と比べると表情がないのだが、主のことを大切にしてくれているというのは見ていれば良く分かる子だ。それに彼がいると主は本当に楽しそうに笑う。だから最初は警戒していた私達も次第に心を開いていったのだ。
 彼が作ってくるお菓子で陥落したのか、純粋なのかは定かではないが、ヴィータは彼に懐いていた。主はやて以外で取り乱すとすれば彼に関することくらいではないだろうか。

「ヴィータちゃん、落ち着いた?」
「お、おお……」
「じゃあ何があったか話せる?」
「……あいつがいたんだ」
「あいつ?」
「先ほどのヴィータの様子から推測するに……夜月ではないのか?」

 ザフィーラの問いに、ヴィータは首を縦に振った。シャマルはヴィータを慰めるように頭を撫でる。
 シャマルも顔にこそ出してはいないが、優しい奴だ。夜月ともよく話していたから、内心複雑だろう。……私も似たような感情を抱いているか。

「……シャマル、あいつの居場所を特定できるか?」
「え……ええ、大まかな位置なら出来ると思うわ」
「ならできるだけ早くやってくれ」

 夜月が魔導師だと分かった以上、あいつの存在は危険だ。
 この世界に魔法文化は存在していないが、デバイスを所持しているということは魔法文化のある世界と繋がりがあるということになる。管理局に知り合いがいてもおかしくない。
 そのため我らと親しい間柄にあったと知られてしまえば、必然的に主の存在が明るみに出てしまう。主の存在がバレてしまえば、主に今行っている行動を隠し通すことは不可能だ。そうなれば優しい彼女を傷つけてしまう。
 いや、それだけならまだいい。魔力を集めると決めたときに、主に嫌われることになったとしても……と覚悟は決めたのだから。問題は、我らの行動を知った主は頑として魔力を集めようとしないだろう。たとえ自分が死ぬと分かっても、意思を変えようとはしないはずだ。
 騎士の誇りを失うとしても、主はやてを死なせたりしない。そう我らは決めたのだ。夜月に何かあれば、主はやては確実に悲しむだろう。だが我らはもう止まることなどできない。最悪、あいつの命を絶つことになろうとも……。

「ちょっと待てよ。シグナム、いったいあいつに何をする気だよ!」
「言わなくても分かるだろう」
「――ッ、あいつに何かあったらはやてが傷つくんだぞ! 泣いたっておかしくねぇ!」
「……それがどうした」

 自分で思っていた以上に冷たい声が出た。
 ヴィータの気持ちは充分に理解できるというのに。蒐集を始めると決めたときに覚悟を決めたというのに、今のは完全に八つ当たりだ。私がこれでは、皆が余計に考え込んでしまうではないか。

「ヴィータちゃん、シグナムだってそれは分かっているはずよ」
「なら……!」
「ヴィータちゃんだって本当は分かってるんでしょ? ショウくんの行動次第ではやてちゃんが危ないって」

 シャマルの言葉にヴィータは黙って俯いた。同じ内容を言ったとしても、私が言っていたならヴィータは反抗していたかもしれない。今のようなとき、シャマルは必要不可欠だと強く思う。

「ヴィータちゃん、はやてちゃんのことが大好きでしょ? 死んでほしくないから、はやてちゃんとの約束を破って蒐集を始めたのよね?」
「……うん」
「だったら……シグナムがしようとすること、分かってくれるわよね?」

 ヴィータはしばしの無言の後、首を縦に振った。顔を見せないようにしているのは、泣きそうになっているからかもしれない。
 自由奔放で私には反抗的な態度を取ることも多い奴だが、根は優しい奴だからな。主はやてが傷つくのも、夜月を傷つけるのも嫌なのだろう。

「心配するなヴィータ。お前は何もしなくていい」

 最悪、あいつの命を奪わなければならない。ヴィータやシャマルにさせてしまえば、確実に顔に出るだろう。ザフィーラは問題ない気もするが、蒐集すると決断したのは私だ。この十字架を背負うことになった場合、私が背負うのが筋というものだろう。

「シグナム……」

 名前を呼ばれるのと同時に、そっと肩に手を置かれていた。視線を向けると、ひとりで背負う必要はないと言いたげな顔をしたシャマルの顔が映る。
 シャマルとは長年の付き合いだ。先ほどの考えたことを見通されたのかもしれない。もしかしたら顔にも出てしまっていたかもな。だが

「心配するな」

 そう言って、肩に乗せられていたシャマルの手をそっと退ける。彼女も納得したのか、それ以上は何も言わなかった。

「……なあシグナム」
「ん……今度はどうした?」
「その……いきなり襲うのか?」
「……ああ」

 できることなら騎士としてやりたくはないが、事態は一刻を争う。魔力を蒐集させてもらった少女達と守護獣は商店街の一角に置いてきた。だが夜月は……先ほどのヴィータの様子では、そのまま放置した可能性が高い。
 合流されている可能性もあるが、ヴィータもあれだけ取り乱していたのだ。夜月は子供らしからぬところが多いが、同年代と比べた場合だ。ヴィータのように取り乱して、冷静な判断をしていない可能性も充分にある。

「あのさ……」
「ヴィータ」
「分かってる! ……けど、あいつははやてのこと大切にしてる。それはみんなだって知ってるだろ!」
「……ええ。でもねヴィータちゃん」
「それは分かってんだって! でもよ、あいつははやてを売るような真似しないって思っちまうんだよ!」

 ヴィータの言葉に返事をするものはいなかった。誰もがどうにかしなければと思う一方で、ヴィータの言ったようにあいつは主を不幸にするような奴ではないと思っていたからだろう。

「さっきだってあたしと同じように戸惑ってたのに、必死に剣を振ってたんだ。最初は何でって思っちまったけど、あたしらと繋がりがないって思わせるようにしてくれたんだと思うんだよ。だから……あたし、あいつを思いっきり攻撃しちまった……」
「そうだったの……だからあんなに」
「……でもさ、それってわたしが都合の良いように考えてるだけかもしんねぇよな。もしそうなら……いや、はやてのために何だってするって決めたんだ」

 ヴィータは涙を浮かべながらも、覚悟が窺える表情を浮かべている。シャマルはそんな彼女をそっと抱き締めながら頭を撫でた。私とザフィーラは、何も言わずに待ち続ける。

「……見つけた」

 ぼそりと呟かれた声だったが、静寂の中では大きな音だった。視線を向けると、黒衣に身を包んだ少年の姿が視界に映る。
 少年がゆっくりと近づいてくるが、私達は身動きひとつしない。まさか彼のほうから出向いてくるとは予想していなかったからだ。
 距離が縮まるに連れて、少年の姿がより鮮明になる。ヴィータの攻撃で負傷したのか左腕を押さえており、右頬からは血が垂れている。それなりに深く切っているようで止まる様子はない。
 ヴィータは強い罪悪感を感じているようで、少し後退った。私は皆よりも一歩前に出ながら、レヴァンティンだけを起動し、剣先を彼に向けた。

「……よく自分から来たものだな」

 本来ならば自殺行為に等しい行動だ。だが夜月の表情は、自殺をしに来た者のものではない。目の前に突きつけられている剣にさえ、視線を向けたのは一瞬だった。現在の状況に恐怖を感じていないように見える。

「これが愚かな行動だと、理解できていないわけではあるまい」

 レヴァンティンを振るい、首筋で寸止めしても表情に変化はない。ヴィータが私の行動に反射的に動こうとしたようだが、先ほどの決意は本物のようで言葉を発しはしなかった。今ので首を落としていたのなら違っただろうが。
 それにしても、今ので身震いひとつしないとはな。よほどの胆力なのか、それとも私が命を奪うような真似はしないとでも思っているのか。もし後者なのならば、その考えは甘い。私は主のためなら鬼にでも悪魔にでもなってみせる。

「……はやての寿命は……あとどれくらいなんだ?」

 我々への問いではなく、確信に迫る一言に思わず手が震えた。レヴァンティンが彼の首筋をわずかだが斬り裂く。
 夜月は一瞬ばかり痛みで顔を歪ませたが、それ以外に反応を見せない。自分の身よりも主のことを優先させていなければ、現状の説明がつかない。
 しかし、魔導師とはいえ彼は主と同年代の子供だ。自分の命をかけてまで、他人を優先することがあるのだろうか。あるとすれば、いったい何が彼をここまでさせる……。

「何の話だ?」
「……真実は話してくれないんだな」

 夜月の浮かべたどことなく寂しげな顔に罪悪感を感じてしまうあたり、私も親しくなっていたということなのだろう。
 彼は一度目を閉じて大きく息を吐いた後、再びこちらに視線を向けた。

「だったらそっちの反応を見て判断するよ……今聞くことでもないんだが、話してもいいか?」

 この場での最善は、一刻も早く夜月の命を絶つことだ。
 先ほどの戦闘が終わってからまだそう時間は経っておらず、彼の様子からして誰かに連絡をしていることもなさそうである。ここでもし行動を起こせなかったら、事態は最悪へと向かう他ない。
 しかし、現状に全く動ぜずにいられる彼の内が気になるのも事実だ。最後には必ず……なのだから、話ぐらい聞いてやってもいいだろう。
 騎士としての誇りを捨ててでも……と決意し、ヴィータにも先ほどあのようなことを言ったのに私も甘いな。

「好きにしろ」
「そうさせてもらうよ……まず、俺ははやてと長い付き合いだ」
「そうね。ショウくんとはやてちゃんの仲が良いのはよく分かるわ」
「そうか。なら……俺がシグナム達をはやての親戚じゃないと思っていた、と言っても信じてもらえるかな」

 我々より前から主はやてと交流があったのは事実としか言いようがない。主が話す思い出の量やアルバムにあった写真からも明らかだ。
 主の両親が亡くなっているということも、主が前に話したと言っていた。つまり夜月は家庭事情にも精通していることになる。いきなり現れた私達を親戚だと信じるのは無理としか言えん。だがそこに一切触れることなく、我らとも普通に接していたのは主はやてがそれを望んだからだろう。
 主が親戚だと嘘を言ったのは、夜月が魔法文化を知らないと思っていたからだ。時期を見て話すとは言っていたが、主のようにすぐに適応するのは彼の性格からして難しい。
 ――考えれば考えるほど、主と夜月が互いを思いやり、理解していると思ってしまうな。下手に考えすぎれば、決意が鈍りかねん。気をつけなければ……。

「だけど、みんなといるはやては幸せそうだった。本当の家族のように見えた。だから最初は何かしら目的があるんじゃないかって思いもしたけど、どこの誰だろうといいと思えるようになっていたんだ。それなのに……」

 どうして……、といった視線を我らに向ける。誰も返事を返すことはなかったが、ヴィータやシャマルは視線を逸らしたかもしれない。
 夜月は自分の思いを押し付けてはいけないと思ったのか、何度か頭を横に振る。先ほどの表情に戻った彼は、再度私達に話しかけてきた。

「……突然現れたことと魔力を集めていること、はやてのことを主だと呼ぶことから推測するに、シグナム達は何かしらのロストロギアに関係する存在なんだろ?」
「…………」
「……でもはやては、他人を傷つけるような真似はしない。他人が傷つくくらいなら自分が……って思うような優しい奴だ。シグナム達がはやてを大切に思ってるのは分かってる。だから本当なら、はやてが傷つくようなことはしない。したくないはずだ」

 夜月は私達が主を傷つけるような真似をするはずがない、と続ける。
 誰もが彼の言葉に返事を返したりはしない。何もかも見通しているかのような彼の言葉に、心がかき乱されているからだろう。彼は味方になってくれる……だが最善は、と何度も自問しているはずだ。

「だけど現実は……。俺ははやてがどんな奴かも、みんながどれだけはやてのことを好きなのかも分かってるつもりだ」
「…………」
「それにはやての身体のことも知ってる。ロストロギアが絡んでいたのなら、治療しても成果が出ていない説明もつく。魔力を集めるという行為は、ある意味では治療なんじゃないか? みんながはやてを傷つけることになってもって行動を起こしたのは、そうしないと今後はやての容態が悪化していって最悪……だからじゃないのか?」

 夜月が口を閉じてから数秒経っても、私は何も言えずにいた。夜月の導き出した答えに驚愕しているのも理由だが、何よりも彼に恐怖のようなものを感じているからだ。
 こいつがどれだけ主を大切にしているかは知っている。肯定してしまえば、蒐集の協力は難しくてもこちらの行動を邪魔したりはしないかもしれない。……だが、この年でここまで頭が回る奴だ。我らの味方をするフリをして、こちらの情報を流す可能性もありえる。
 様々な思考が胸中を渦巻いて考えがまとまらない。ただ、距離を置いて接していたのならば迷うことなく夜月を斬ることができた、という後悔だけは強まっていく。

「……沈黙ってことは、少なからず当たってるって解釈させてもらうよ。……俺は、はやてを死なせたりしたくない」
「……だからどうすると言うのだ? 我らと共に行動するとでも言うつもりか?」
「それはできない」
「……そうか」

 夜月にも立場や事情があるのは分かっている。そもそも我らが行っているのは犯罪行為だ。彼のような年の子供に手を染めろというこちらがおかしい。
 だが、こいつなら主のために協力してくれるのではないかと思っていた。……いや、我らが行っている行動は主が望んだことではない。こいつが主が悲しむようなことをするはずないか……夜月は私よりも大人かもしれんな。

「……だが!」

 はっきりと拒絶された以上、こいつは主の――私達を脅かす敵だ。
 一度レヴァンティンを引き、せめて楽に死なせてやろうと急所目掛けて振るった。先ほどと違って止める意思のなかった剣撃は夜月の肌を容易く斬り裂く――ことはなかった。
 それは、彼がこちらが剣を引くのと同時に抜剣し、紙一重のところで受け止めたからだ。先ほどまでどこか虚ろで悲しげだった夜月の瞳には、抗おうとする意思が見える。

「この状況で勝てると思っているのか?」
「思ってないさ。だが……あいつが泣くかと思うと、楽に死ぬわけにはいかない」
「ああ……確かにお前に何かあれば主は悲しむだろう。だが、我らも止まるわけにはいかない。たとえ主を悲しませることになろうとな!」

 強引に振り切ると、夜月は簡単に吹き飛んだ。自分から飛んで距離を作ったのだろうが、片腕を負傷しているためにまともに競り合うことができないのも理由だろう。
 距離を詰めて追撃するが、紙一重のところで回避または防御される。移動速度はあの少女に及ばないが、反応速度は上か。
 いや……それだけじゃないか。こいつには何度か剣術を教えたことがある。多少厳しく扱いても文句のひとつも言わなかったから、つい熱を入れてやってしまっていたな。ヴィータからは加減しろと怒鳴られたこともあったな。
 持ち前の反応速度もあるのだろうが、そこでの経験からこちらの太刀筋をある程度予測しているのだろう。しかし、私の本気があんなものだと思ってもらっては困る。

「ふ……!」
「くっ……」
「いい加減諦めろ。下手に避けていれば、かえって苦しい思いをすることになるだけだぞ」
「たとえそうなったとしても、諦めるつもりはない。俺ははやてを救いたいんだ」
「そう言うのは簡単だ。お前にいったい何ができる? 我らと共に行動はできないだろう!」
「ああ。だが、はやてを救う方法はシグナム達の取る道だけじゃないはずだ。俺はそれを探す!」

 競り合い状態から再び距離が開ける。こちらはまだ余裕があるが、夜月は肩で息をしている状態だ。
 ――当然といえば当然だろうな。数でも実力でも夜月のほうが劣っている。我らの甘さが彼を生き残らせているだけだ。負傷によるハンデ、緊張や恐怖によって肉体的にも精神的にも限界に近いだろう。むしろここまでよく持ちこたえていると言うべきだ。このまま続ければ、間違いなく私が勝利を収めるが……

「なあ……もういいんじゃねぇか?」

 衣服を引っ張って注意を引いたのはヴィータだった。彼女の言おうとしていることは、夜月は我らに手を貸してはくれないが、主を助けることには協力してくれる。だからこれ以上戦うな、といったところだろう。

「……確かに主を救う道は他にもあるのかもしれない」
「じゃあ……!」
「だが、あいつの提案を受け入れるということは好きにさせるということだ。いつ裏切るか分からない、という不安を常に抱えておくのは得策ではない」
「――ッ。シャマルにザフィーラ、お前らはどう思ってんだよ!」
「……ヴィータちゃんの気持ちも分かるし、ショウくんのことを信じてもいいと思う自分もいるわ。でもね……」
「このようなときの判断は将に任せるのが妥当だろう」
「……つまり、シグナムに信じてもらうしかないってことだな」

 夜月は言い終わるの同時に剣を鞘に納めた。そのまま無防備にこちらのほうへ近づいてくる。

「……私が斬らないとでも思っているのか?」
「……ああ。斬る意思があるのなら、そんなことを言わずに斬っているはずだ」
「先ほど斬りかかっていた相手に対して甘い考えを抱くものだな」
「確かにな。だけど、シグナムが本気ならとっくに俺はやられてるはずだ。シグナムの中にある甘さを、俺は信じるよ」
「ふっ……本当に甘い奴だ!」

 私は本気で剣を振るった。宙に何かが舞い散る。
 後ろの方から悲鳴にも聞こえるような声がした気がしたが、それ以降は沈黙が続く。夜月もぴくりとも動く気配はない。
 髪が切れるほど目の前を剣が通過したというのに、全く動じないとはな。こいつが私の甘さを信じきったということか。ならば、私もこいつの主への思いを信じてみることにしよう。……不安は消えていないが、安心している自分がいるな。自分が思っていた以上に甘く……人らしくなっていたのだな。

「いいだろう。お前はお前の好きにすればいい。だが、主を売るような真似をすれば……」
「分かってるさ。あいつを売るくらいなら、そっちと一緒に魔力を集める道を選ぶ」
「ふ……我らはある意味共犯だ。繋がりがバレないためにここでの出来事のデータは消去しておけ」
「すでにやってるよ。今日のことがバレたら俺が大変な目に遭うからって」
「主思いのデバイスだな……名前は何と言う?」
「ファントムブラスター。普段はファラって呼んで……」

 会話の途中で夜月の身体がふらりと揺れた。反射的に受け止めた際に、主はやてとほとんど変わらない小さな身体をしていると実感した。私達との関係を隠し、主の治療法を探す。場合によっては、戦場でまた顔を会わせることになるかもしれない。そうなれば、繋がりがあることを悟られないために戦う他ないだろう。
 この小さな身体に抱えるにはお前の想いは大きすぎる……、といった風に考えたのもつかの間、夜月の息が小さくなっていることに気が付いた。

「おい」
「ん……あぁ大丈夫」
「大丈夫じゃないだろう。寝るのは家に帰ってからにしろ。我々はお前の家を知らんのだぞ」


 
 

 
後書き
 あとを追ってきたショウとシグナム達は衝突した。しかし、はやての思う気持ちが彼らを結びつける。
 ショウはシグナム達との約束を守り、誰にも協力関係のことを言わずにいた。だがそれが、彼に別の葛藤を生じさせる。考えれば考えるほど深みにはまりそうになるショウだったが、そんな中でも彼の心の中にはある思いが生まれていた。

 次回 As 04「強くなりたい」

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧