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万華鏡

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第五十五話 演奏その八

「他にもいるから、そういう人は」
「不遇の天才ですね」
「時代に合わなくて」
「栄光なきっていうかね」
 部長はこの言葉も出した。
「そうしたこともあるし」
「ニーズに合わせてもですね」
 このことは彩夏が尋ねた。
「そうしてもですね」
「人気が出ないこともあるわよ」
「流行の音楽を演奏しても」
「ええ、そうなるから」
 だからだというのだ。
「その辺りは一概に言えないのよ」
「難しいですね」
「何をしても人気が出る時もあればそうでない時もある」
「その辺りはですね」
「どうしてもなんですね」
「そうよ、だから私もね」
 五人がどちらを選んだにしてもだというのだ。
「いいって言ってたのよ」
「正解がないことだから」
「それで」
「正解がない場合もあるのよ」
 世の中には、というのだ。
「何でも答えがあるとは限らないのよ」
「そういうものですね」
「どうしても」
「そうよ、だからいいわね」
「はい、じゃあ私達はそうします」
「それでいきます」
「阪神だけに切り替えていきます」
 こう部長に言ってだ、そしてだった。
 ステージに立った、そのうえでだった。
 演奏をする、最初は六甲おろしで選手達の応援歌も歌い演奏する、すると。
「よし、桧山な!」
「今岡いいよな!」
「福留怪我するなよ!」
 皆笑顔で応える。
「今年の阪神はよかったからな」
「来年もこうしていきたいな」
「そうだよな、黄金時代の到来だよ」
「そうなればいいな」
「皆、いい?」
 琴乃も歌の間に観客に応える。
「阪神の歌どんどん歌っていくから」
「選手の応援歌もう大抵歌っただろ」
「まだあったか?」
「現役はもうあらかた歌ったぜ」
「他にあったか?」
「OBの人達の歌も歌うから」
 彼等の応援歌もだというのだ。
「バースや掛布もね」
「おお、そっちか」
「バース様の歌か」
「それも歌うか」
「あの頃の応援歌もね」
 昭和六十年だ、阪神の歴史に燦然と輝く年だ。日本中がタイガースフィーバーに湧いた伝説の年である。
「歌うわよ」
「ああ、じゃあ歌ってくれよ」
「やっぱりバースだよな」
「阪神っていえばな」
「あの人だからな」
 バースといえば阪神最高の助っ人だ、阪神はおろか日本のこれまでの助っ人の中で最高の助っ人とさえ言われている。
 そのバースの名前を聞いてだ、彼等も言うのだ。
「よし、じゃあな」
「今からな」
「歌ってくれよ、バースの歌」
「他の人の歌もな」
「ええ、それじゃあ歌うわね」
 琴乃はギターを手にし応える、他の応援歌もだった。
 五人で演奏し歌う、八十五年の選手達が最も応援が凄かった。
 それでステージの後でだ、琴乃は汗を自分のタオルで拭きポカリスエットを飲みながら他の四人にこう言ったのだった。 
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