魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
海上隔離施設の乙女(笑)たち ~Leviathan’s diary~
――○月×日 晴れ
ルーテシアとアギトと一緒に、この海上隔離施設に来て2日。
そしてゼストは・・・、ゼストは、やっぱり死んだとのことだ。
ゼスト本人から死期が近いことは聞いていたけど、やっぱりいないと悲しい。
うん、悲しいと思える。ゼストの死に、心の痛みを感じる。
――ダンナは、きっと満足して逝った。あたしはそう思う――
泣くのを必死に抑えながら、アギトはそう言った。なら、そうなんだと思う。自分の納得のいく、満足の出来る死を迎えられる人は幸せだ。
――○月×日 晴れ
姉妹と久しぶりに会った。けど数が足りていない。
――あぁ、ウーノ、トーレ、クアットロ、セッテの4人だ。4人は捜査協力を拒んで、それぞれの軌道拘置所に入れられたのだ――
チンクからそう聞いた。現状ではチンクが、他の妹たちにとってのリーダーだ。
チンクより下の数字を持つ妹たちは、チンクの進言で海上隔離施設に来たみたいだし。
それに妹たちの捜査協力することも先導していたとのこと。身体は小さいのに、妹想いの良いお姉さんだ。うん、小さいのに。
――チンク・・・小さいのに・・・偉い――
――ち、小さい・・・・orz――
笑ってるけど、雰囲気的には落ち込んでいると見る。何だか知らないけどごめんなさい。
――○月×日 晴れ
第三の力と第四の力が面会に来た。目的は、わたしとルーテシアの契約のおけるちょっとした検査。
病院でルーテシアと一緒に居た時でも度々来ていた。検査とは言っても質疑応答だけだから、他の人から見ればただの面会に見える。
――そう言えばレヴィヤタン。もうペッカートゥムじゃないんだし、私とルシルは名前で呼んでほしいんだけど――
そんな質疑応答も終わって、面会時間も残りわずかとなったとき、第三の力がそう提案してきた
「・・・名前・・・うん・・・」
感謝してもしきれない恩人たちからのお願い。断る理由もないし、それに“大罪ペッカートゥム”との決別の意を含めて、これからは2人を名前で呼ぼう。
――・・・えっと・・・名前・・・知らない――
それ以前の問題だった。だって仕方ない。知らないものは仕方ない。
一応愛称のようなものはさっきから耳にしているけど、わたしがそれで呼んでいいのか判らない。
だからちゃんと名前を教えてもらって、それからちゃんと呼ぼうと思う。
――・・・シャルロッテ、・・・ルシリオン――
2人を呼んだ。シャルロッテは笑みを浮かべるけど、ルシリオンはちょっと判らなかった。コソッとシャルロッテに聞くと、満更でもないとのことだった。
シャルロッテがルシリオンに聞き取れないような小さな声で、わたしにある単語を言うようにお願いしてきた。意味は解らないけど、それくらいどうってことはない。
――ありがとう・・・ロリコンの・・・・お兄ちゃん――
言われたとおりにルシリオンをそう呼んでみた。
――っ!? レヴィヤタンに何を吹きこんでいるんだお前はっ!!――
ルシリオンの表情が一瞬引き攣って、次にシャルロッテへと視線を移して怒鳴った。
「わーごめんなさーい!」
2二人は本当に仲が良いと思った。面会時間も終わっての別れ際、わたしはシャルロッテに日記帳というのを貰った。その日に起きた印象的な出来事を書くためのノートらしい。
この施設の職員にも許可は取ったって言った。どうやって取ったかは秘密らしい。それなら早速、今日を含めたここ数日の事も一緒に書いた。
それにしてもシャルロッテがセインやウェンディと知り合いとは思わなかった。チンクともそれなりに話をしていたし、シャルロッテと何かあったのは間違いなそう。
――○月×日 曇り
今日は曇り。この天気は好きじゃない。人間だった頃のわたしの最期の日が曇りだったから。
少し憂鬱になりながら日記帳を開く。すると今まで気づかなかったけど、端の方に小さな文章が書かれていた。
――お題:悩める乙女たちの悩みを聞き、解決せよ。by C.F――
もしかしたら、悩みが無い、ということは考えなかったのかもしれない。
何を企んでいるのか解らない。わたしのことを考えてか、それとも別の意図があるのか。
ちょうど今、みんなは更生プログラムの時間を終えて、自由時間となっていた。ちょうどいい。書いてあるやり方の通りに事を開始しようと思う。
メンバー全員に白紙を渡して、悩みがある人のみ書いてもらって、返してもらう。そこに解決法を書いて、わざわざわたしのところまで見に来てもらう、らしい。
ちなみに匿名で書かせないといけないとのこと。
――何でこんな面倒な事をするんだろう――
結局はそれに従って、始めるわけだけど・・・。そして何枚か届いた紙を読む。まず1枚目。
――どうしてもノリで喋って行動してしまうっス。その所為で双子からの扱いが少し冷たいっス。どうしたら良いっスかねぇ――
・・・・・・ウェンディだ。匿名の意味が無さ過ぎる。語尾が、~ッス、だなんてウェンディ以外の何者でもないし。
どうして口癖が文章にまで現れるのだろう。謎だ。まあいいや。これの解決法は・・・
――すでに手遅れ。諦めることを推奨――
よし。まずはひとつ解決だ。
次は・・・
――あたしの性格、妹とも分け隔てなく接するせいかあまり姉として扱ってもらえない――
う~ん、これは大変な悩みかもしれない。
だったら・・・
――その性格を変えることを推奨。常に姉としての威厳を保つような態度でいること――
よし。2つ目解決。わたしは結構相談役としてやっていけるかもしれない。あ、そうか。シャルロッテはそれを見抜いていたのか(←そんなわけがない)。恐るべしシャルロッテ。
次は・・・
――自分の体型に少しばかり不満がある。もう少し大きく・・・――
最後の方は文字を何度も書いて消しすを繰り返したっていう形跡がある。なんでだろう?
それにしても体型についての相談だ・・・。どうしよう、戦闘機人って成長するものなのかな・・・?
これはかなり難しい相談だ。じっくりと考えて答えてあげないといけない。
――改造手術推奨。どこを大きくしたいのか分からないけど、それで万事解決――
よし。なかなか満足のいく方法だ。すごい。わたしはかなりすごいかもしれない。
次は・・・
――ウェンディがうざい――
・・・・・・・・。
どうしよう。これはいろいろとまずい気がする。
――頑張って耐えてください。心から応援しますので――
と書く。だってこの相談の答えなんて見つけられない。うん、忘れよう。そしてウェンディにはもう少し優しくしよう。
次は・・・
――・・・・・・・・・・・・――
???????
え? これは相談は無いということでいいのかな?
よく見ると同じような紙がもう1枚。相談事が無くても“・・・”を書いて提出。律義。明らかにオットーとディードの紙で間違いない。うん、悩みが無いならそれで良いことだと思う。よし。次で最後だ・・・
――時々面会に来る高町さんを見ると何か嬉しい。この胸の高鳴りはなに?――
高町さん・・・?
あ、思い出した、あの女の人だ。確か、シャルロッテとルシリオンの友達という・・・。
わたしも一度面会したことがある。かなりの美人だ。その人が来ると嬉しい。う~ん・・・。
――それは大好きだから――
短く書く。それだけで十分だと思うから。わたしもルーテシアの事が大好きだから良く解る。
よし。来た悩みも解決させたし、午前中までの嫌な気分も吹き飛んだ。シャルロッテに感謝しよう。
――後日
セインが妹たちにすごく偉そうな態度を見せていた。
そして反発が起きて、セインは崩れ落ちた。セインは何がしたかったんだろう?
――○月×日 晴れ
シャルロッテが面会に来た。今日はルシリオンがいないから1人だ。
聞くと他の世界での契約執行中とのこと。シャルロッテはサボっていていいのだろうか?
――んー、そうしろってルシルに言われてるから。ルシルは、出来るだけ私に良い思い出をつくってもらおうとしてるみたい――
ルシリオンはシャルロッテに優しい。もしかしてシャルロッテの事が好きなのかも。
そして今日の目的はいつもの質疑応答。
――ルーテシア、あなたのお母さん、メガーヌさんが目を覚ましたよ――
シャルロッテが来たのは、これを伝えるためだった。もちろんあとで管理局の人から聞くのかもしれないけど、出来るだけ早く知らせてあげたかったとのこと。
聞けば、ルシリオンが特例として治療に参加したらしい。ルシリオンには次々と恩が出来る。契約を終えてこの世界からいなくなるまでに、この恩を返しておきたい。
シャルロッテは目的を終えて、姉妹の面会へと向かった。姉妹は少しずつだけど、シャルロッテと打ち解けている。
やっぱりシャルロッテは“界律の守護神テスタメント”の時と違って、今は面白い人だった。
――良かったね・・・ルーテシア――
うん。
ルーテシアの表情にあまり変化はない。だけど、やっぱり嬉しそう。手を取り合って、外を眺める。これからもずっとルーテシアと一緒にいられますように。
――○月×日 晴れ
自由時間。このときだけはある程度の行動は許される。
ゆったり寛ぐチンクがコーヒーを飲んでいる。
ここ海上隔離施設は収容所と言うよりは、更生施設に近い。
だからそういうことは制限されない。一応限度はあるけど・・・。
――それはある暑い夏の日・・・だったっスよ――
チンクの側でそう語り出したウェンディ。それに耳を傾けるのは他の姉妹たちだ。
――ある少年が喉の渇きを覚えてキッチンへと行くと、そこには冷えた一杯のアイスコーヒーがあったっス――
チンクもアイスじゃないホットコーヒーを飲みながら聞き耳を立てている。
――その少年はラッキーと思って、そのコップを手に取って一気飲みしたっス。そして飲み干した少年は夏と言う暑さを忘れるほど背筋が凍ったっスよ・・・――
ウェンディは微笑を浮かべて、話を続けていく。正直嫌な予感しかしないけど、先が気になるから黙って聞く。
――少年の視線はコップの中にくぎ付け。そこから視線を離したくても離せないっス。自分が犯した恐ろしい行為に、凍ってしまったっスからね~――
うんうんと頷いて焦らす。その先の事が気になるのか、ノーヴェが先を促す。
――んだよ。何があったんだよ。誰か上の偉いやつのだったのか?――
――ふふん、実はそのコップの中には・・・――
たくさん溜めたあと・・・
――・・・・・一匹の黒いゴキ○リが死んでいたっスよ――
――ごぶぁっ!?――
――っ!? チンク姉ぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!――
ウェンディから語られた最悪な話に、チンクがコーヒーを盛大に吹いた。それを間近で見ていたノーヴェが叫ぶ。
――げほっげほっ・・・ウェンディ・・・お前は・・・! 危うく鼻からも出すところだったではないか・・・!――
チンクの目が怖い。でも気持ちは解る。ウェンディに向けられる他の姉妹の視線も冷たい。ルーテシアは口元を押さえているし、アギトはルーテシアの背中を擦っている。
――ええっ!? 面白くなかったっスか!?――
――気持ち悪いだけだぁぁぁぁぁぁっ!!――
――ウェンディ姉様、最悪です――
大顰蹙。
――おかしいっスね~。あ、じゃあもうひとつ面白い話があるっスよ!――
――もう黙ってろ!!――
海上隔離施設は、今日も平和です。
――○月×日 晴れ
今日のページにもお題が書いてあるのに気づく。
――お題:話し方の改善(出来るだけ間を開けないように)by C.F――
わたしに対してのお題のようだ。
――どうしたのレヴィ?――
「ルーテシア・・・えっと・・・」
そうか。この間を無くすことが今回のお題なんだ。でも、気づいたらこの話し方だった。それを今さら直すなんて、少し面倒くさい。
――話し方の改善・・・?――
――C.F・・・? 誰か知らねぇけどレヴィに何させるつもりだよ――
ルーテシアとアギトが、わたしは2人に掲げて見せた日記帳の端を見て、声を出して読んだ。
わたしはそれに頷いて応えた。
――やっぱり・・・聞き取りにくい・・・?――
――そんなことない――
――あたしも今のままで良いと思うぞ――
――でも・・・――
うん、やっぱり直そう。これからをこの世界で生きるなら、甘えは許されない。それで、どのようにして直そうかと姉妹に相談した。
――レヴィお嬢様は別にそれで良いと思うっスよ?――
――どうかしたんですか?――
まずはウェンディとセインに相談した。話し方の改善が必要になったと告げて、どうすればいいか訊いた。ウェンディは現状で良いとのことだ。
――う~ん、すぐに直せるものじゃないんですよね? だったら時間をかけてゆっくりと直していくしかないと・・・――
セインはゆっくり時間をかけて、っと。
――そうですね・・・早口言葉、はどうでしょうか? あれは滑舌を良くするのに良い方法だと思いますが――
――そうだな。私もオットーの意見に賛成だ――
今度は、集まっていたチンク、オットー、ディードの3人に尋ねてみた。早口言葉。聞いたことはあるけど、具体的なものは知らないみたいだった。
――レヴィお嬢様。ここには読書室もありますから、そこで御調べになるのがよろしいかと――
――うん・・・ありがとう・・・ディード。チンクと・・・オットーも・・・ありがとう――
やっぱりあの3人は頼りになる。ウェンディとセインもわたしのことを思ってのことだろうけど、やっぱり早い内に直したい。
それから読書室に向かって、ルーテシアとアギトに手伝ってもらって早口言葉に関する本を探す。見つかったのは1冊だけだったけど、内容を見れば十分だった。
――月々に・・・月見る月の・・・多けれど・・・・月見る月の・・・この月の・・・月――
結構つらい。
――月々に月見る月の多けでっ!?――
アギトが思いっ切り舌を噛んだ。あれは痛い。
――分かった? 分からない? 分かったら「分かった」と、分からなかったら「分からなかった」と言わなかったら、分かったか分からなかったか分からないじゃない。分かった?――
ルーテシアは早口言葉というレベルじゃない遅さで早口言葉を口にした。
・・・・・・・。
沈黙。そう簡単にいくわけもないか。本のページを捲って、次々と早口言葉に挑戦した。
――光合成・・・合成・・・毒性・・・化合物・・・――
――光合成合成毒性化合物!! よっし言えたぁぁぁ!――
アギト、それを何回か繰り返さないとダメなんだよ。
――放射線照射装置掃射総責任者・・・・――
――手術中・・・集中しなくて・・・中傷集中・・・砲火・・・――
口にする早口言葉の選択が間違っているのかもしれなかった。さすがに初心者にはレベルが高過ぎる気がした。
――レヴィお嬢様、ルーお嬢様、アギトさん、首尾はどうっスかぁ?――
陽気な声で読書室に入ってきたウェンディ。上手くなる方法を訊いて、まずは簡単なものから始めることになった。
――じゃあレヴィお嬢様、いくっスよ。生麦生米生卵、はい!――
――生麦・・・生米生・・・たまご・・・――
慣れた話し方だとどうしても間を空けてしまう。どうしてこんな話し方をするようになったんだろうか。
――もう1回っスよ。生麦生米生卵、はい!――
――生ふぎ生ほめ生なまこ――
――いろいろと惜しいっスねぇ――
――でも間が空かなかった。それだけでも進歩だよ、レヴィ――
――あ・・・うん・・・――
――ありゃ空いたっスね――
もう少し時間がかかりそうだ。けどいつかは言えるようになってみせるって決意した。
――○月×日 晴れ
今日は更生プログラムの一環でお菓子作りとなっていて、調理室に移動した。
と言うか、何故お菓子作りなんてものが更生プログラムに入っているのかが不明だ。
だけど料理はアギトのおかげで好きになったから、やる気はある。
――つうか何で菓子作りなんだよ。んなもん必要ねぇだろ――
だけどノーヴェはあまり乗り気じゃない。
――まあそう言うな、ノーヴェ。もしかしたらここを出たら必要になるかもしれん――
――チンク姉がそう言うなら、しゃあねぇ――
ノーヴェが簡単に折れた。これが鶴の一言というものか。渋々ノーヴェが残っている白いエプロンを手に取った。他の姉妹も、すでに手に取っていたシンプルなエプロンをつけていく。
――チンク姉、可愛いっス! ノーヴェは似合わねぇっスけど――
調理に邪魔にならないように髪を結ったチンクを見てウェンディがチンクへの褒め言葉と、ノーヴェへの余計なひと言を口にした。
――うっせぇっ! テメェだって似合わねぇじゃんかよ!――
――そんなことねぇっスよねぇ、お嬢様方~?――
――・・・・・・――
――無言っスか!? 無視っスか!? あたしも変なんスか!?――
――ニアッテル――
――棒読みっスか!?――
もうどうすれば良いのか判らないから、ウェンディをセイン達に任せた。視界からウェンディを外して、わたしもルーテシアもアギトもエプロンをつけた。
――変じゃない?――
ルーテシアが桃色のエプロンの裾を摘まんで、変じゃないか聞いてきたからそう答えた。
――変じゃない――
――そうだぜ、ルールー。似合ってるって――
――ありがとう、レヴィ、アギト――
わたし達の準備は完了。姉妹たちもエプロン装着済みで、いつでも始められる状態だ。
――ごめんなさい、遅くなって!――
調理室へと入ってきたのは、姉妹たちの更生プログラムの指導をしてくれる1人、ギンガ・ナカジマ。
以前ここに面会に来たスバルのお姉さん。時々ギンガとスバルのお父さんや、ギンガの上官のラッドお兄さんも来る。
――えっと、それじゃあ今日はクッキーをつくります。簡単なものだから、すぐに出来ます――
ギンガがエプロンをつけて、コンソールを操作してクッキーの作り方をモニターに出した。
――それじゃあ役割を分担して、始めましょう――
姉妹たちが作るのはチョコクッキー(約70枚)
バター、もしくはマーガリンを240g。三温糖100g。ミルクココア(砂糖入り)100g。小麦粉260g。カカオマス、もしくはチョコレートを40g。
役割を決めて、クッキー作りを始めた。何も知らない人が姉妹たちを見たら、それはもう普通の女の子に見えるに違いない。
――それじゃあルーテシアちゃん達も始めようか――
ギンガがわたし達の所まで来る。わたし達は頷いて、メープルクッキー(約30枚)を作り始める。
料理経験者であるアギトとわたし。そう苦労しないで作れるはず。薄力粉100g。片栗粉10g。サラダ油おおさじ。メープルシロップ大さじ3。お菓子作りの鉄則は、分量をしっかり守ることだって教えを受けたから、しっかりと量った。
――そんじゃあやるぞ、ルールー、レヴィ――
――うん――
まずはサラダ油とメープルシロップを混ぜ合わせる。薄力粉と片栗粉も混ぜて、一塊にする。冷蔵30分。170度のオーブンで15分。
――出来は完璧だな――
――ルーテシアの・・・型抜きが可愛い――
――ありがとう、レヴィ――
姉妹たちより早くに完成。クッキーの出来は満足のいくものだ。いろんな形をした香ばしい匂いがするクッキーを見た。
――ぐああ、失敗だぁ!――
――真っ黒ですね、チョコクッキーだけに――
――上手くもなんともねぇよ――
――何が美味いんスか?――
――ちゃんとオーブン見とけよなぁ――
焦げ臭い。向こうはいろいろと苦戦しているみたい。もう一度作り直そうとしている姉妹たち。
――・・・そうだ。ルーテシア・・・アギト、耳を貸して・・・――
時間が余りそうだったから、とある事をルーテシアとアギトに提案してみた――
――お、そうだな。あたしは賛成だ――
――わたしも――
わたし達はギンガに材料を貰ってもう一度クッキーを作ることにした。それは感謝の意味を込めて作るクッキー。
――後日
機動六課の人たちにクッキーを渡した。みんなからのクッキーの評判はすごく良かった。だけど・・・
――ぐぼぉっ!? レヴィヤ・・・タン・・・・な・・・ぜ・・・だ・・・?――
ルシリオンに渡ったクッキーには姉妹たちの失敗作が紛れていたらしく、それを食べたルシリオンが悲しいことになったって後で聞いた。いろいろとごめんなさい。そしてありがとう、ルシリオン。
制限された空間だけの生活だったけど、すごく楽しい日々だった。ルーテシアが居て、アギトが居て、姉妹たちも居て、友達も出来た。
わたしは本当に幸せだった。だから、この時間をくれてありがとう、ルシリオン、シャルロッテ。
――4月12日 曇りのち雷雨
そう。やっぱりあなたは諦めずに動くのですね、“主”。
でも、好きにはさせない。この世界は必ず守ってみせる。
この今日と言う運命の日を、ルシリオンとシャルロッテは必ず乗り越える。
それは絶対。だから、諦めて消えてください、―――――――様。
ページ上へ戻る