魔法少女リリカルなのはANSUR~CrossfirE~
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お得感の足りないシリアスセット(Sサイズ)
・―・―・ヴィヴィオとパパと・―・―・
†††Sideなのは†††
「――というわけで。私、ヴィヴィオを正式に養子として引き取ろうって思ってるんだ」
「そっか。うん、いいんじゃない、そういうのも。というか大賛成だよ、なのは。まあ、今さら感もあるけどね」
メイド服に関して完全に開き直ってしまっているシャルちゃん。今日もメイド服で仕事をしていたそんなシャルちゃんと、ヴィヴィオの今後について私は話していた。
「ヴィヴィオを正式に引き取って、なのはも本当のお母さんになるんだぁ。フフ、なんか嬉しいし、それにすごく羨ましい」
なんだろう。シャルちゃんの表情。・笑顔なのに、笑顔じゃない。いつも元気いっぱいで楽しく生きることに全力なシャルちゃんらしくない表情に不安を覚えた。
「シ、シャルちゃんだって、すごく人気があるから、その・・・」
「ん? う~ん・・・」
さっきまでの陰のある笑顔じゃなくて、いつもどおりの雰囲気に戻ったシャルちゃんが腕も組みながら唸る。小学中学、管理局でも結構男の人に人気があったシャルちゃん。その気になれば今日にでも恋人をつくれそうな程だ。
(何を考えているんだろう?)
本気でうんうん唸っているシャルちゃん。自分が誰かと付き合っているシーンでも想像してるのかな
・・・。
「そうだね。あはは・・・。うん! その気になれば男の5~6人に貢がせることくらいは出来る! うんうん、そういうのもなかなかだね!」
「えええええええ!!?」
今すごいことを言った。悪女だ。その発想は完全に悪女だよシャルちゃん。その発想のためにあれだけ真剣に唸って考えてたの、って驚きを隠せない。
「あはは! 驚き過ぎだよ、なのは。冗談冗談! ジャーマンジョーク!」
ジャーマンジョークって・・・。意味が解らないよ。
「そうだね、私なんかを好きって言ってくれる人がいてくれるなら、それは嬉しいよ。けど、私はもう・・・」
「え? なに、シャルちゃん?」
「ううん、なんでもない。おめでとう、なのは。って言うのも変?」
今度こそ陰のないシャルちゃんの笑顔。なんだけど、こう胸の奥がモヤモヤする。
「変じゃないと思うよ。だから、うん、ありがとうシャルちゃん」
「いえいえ♪」
シャルちゃんが呟いた言葉。私は聞こえなかったけど、そのときシャルちゃんが呟いた言葉は・・・
――すでに時間を終えた人間だから――
「さてと、そろそろ仕事に戻らないと。なのははこれからヴィヴィオの迎えだっけ?」
「うん。聖王病院までね」
ヴィヴィオは今でも念のために聖王医療院へと検査通いをしている。でもほとんど異常もないとのことだし、あと1~2回になるはずだ。
†††Sideなのは⇒シャルロッテ†††
「――というわけ」
医務室の掃除という理由をつけて、今日はそこでシャマルを手伝っているルシルに、なのはとしていたさっきの話をする。
「そうか。なのはもようやく決心したというわけか。よし、完成だ。どうぞ、シャマルお嬢様」
「ありがとう、セインテスト君♪」
執事服を着てるルシルからお茶を受け取って、シャマルが嬉しそうに笑みを浮かべている。でもシャマルさ。シャマルはお嬢様って言うより・・・なんでもないです。考えていることを察知したかのようにシャマルが私を見てきて「な~に?」ってニコニコ笑顔を向けてきた。ちょっぴり恐怖。すかさず「いいえ、シャマルお嬢様」って頑張って笑顔を作った。
「それにしても、執事服に白衣着た人間って結構危ない人だよね」
「まったくだ。格好が変である上に動きにくい。しかも向けられる視線がいろんな意味で痛い」
大きく嘆息して、私にもお茶を出すルシル。一応仕事中だけど、ここは頂いておこう。
「でもこれでなのはちゃんも本当のお母さんになるのね。いつかそういう日が来ると思っていたけど、まさかこんなに早いなんてね」
「確かに。19歳で子持ちと言うなら早い・・・のか?」
「そんなことないと思うけど。まあ、なのはとヴィヴィオの年齢からすれば変になるかもしれないけどね」
19歳のなのはが、六歳のヴィヴィオの母親になっちゃうのか~・・・。ということは。わぁお、リアル1○才の母になってしまう。ていうか・・・
「ユーノの鬼畜ぅぅぅぅーーーーッ!」
「「ぶふっ!!?」」
ユーノに襲われる中学時代のなのはを想像してしまった。フッ、一体何をバカなことを想像してしまったのか。この私としたことが。
「ってうわっ、2人ともお茶吹いて汚っ!」
ルシルとシャマルが思いっ切り咽ていて、そしてルシルが咽ながらも床を雑巾で拭き始めた。
「お前が突然変な事を叫ぶからだ!!」
「痛っ!? なんで叩かれるの!?」
「だから、変な事を叫んだからだ!」
ルシルがいきなり立ち上がって、何故かスナップを利かせた平手で頭を叩いてきた。少し涙が出る。それほどに痛かった。意味が判らないんだけど。なんで叩かれたの?
「えほっえほっ・・・ごめんねセインテスト君。フライハイトちゃん、なんであんなことを・・・」
床拭きの続きに入ったルシルに謝りながらシャマルがそう訊いてきた。でもどういう意味なのか判らなくて、「あんなことって・・・?」小首を傾げる。
「えっと、ほら、その・・・き、鬼畜・・・って」
「鬼畜?・・・って、何でシャマルが私の心の内の想像を知ってるの!? やっぱりシャマルって人の心が読め――」
「お前がさっき全力で叫んだんだ!」
「あ痛っ!?」
ルシルにまた叩かれ・・・違う。今度は拳骨だった。これ以上ツッコませるなっ!ってルシルが怒鳴ってくる。
(っつぅ~、だったら無視とかすればいいのに・・・)
あまりの痛みに蹲る。くそぉ、覚えてろよ。
「まったく。2人に対してとんでもない失礼な想像だぞ」
「ぅぅぅ・・・」
「はいはい。フライハイトちゃんも悪気はなかったんだから、セインテスト君も許してあげて」
パンパンと手を叩いて止めに入ってくるシャマル。ふんっ、命拾いをしたねルシル。今日はシャマルに免じて許してやろう。
「でも、そうか。それなら私の父親役もいよいよ終わりだな。ああ、なかなかに良い夢を見せてもらった気がするよ」
「「あ」」
お茶を淹れ直しながらルシルがそう寂しそうに漏らした。そうかぁ、ルシルがヴィヴィオの父親役を引き受ける期間は、ヴィヴィオが引き取られるまでとなってるんだった。ふと「そうだね。で、どうする? ヴィヴィオにパパと呼ばないように言うの?」そんなことを訊いてしまった。
「そうだな。ヴィヴィオの母親が正式になのはになるなら、私が父親と呼ばれるわけにはいかない」
「でもヴィヴィオが言うことを聞くかしら? もうずいぶんとセインテスト君を父親として見ているのに・・・」
「「「・・・」」」
きっと無理だ。ヴィヴィオが嫌だと泣く様がハッキリクッキリコッキリ見える。ルシルとシャマルも私と同じように想像できたのか少し顔色が悪い。
「ちょっと無理っぽいよね」
「・・・だな。まあ、時間をかけてゆっくりと直していくしかないか」
それでも直りそうにないと思うのは私だけかな?
†††Sideシャルロッテ⇒なのは†††
ヴィヴィオと一緒に聖王医療院から帰って来て、隊舎の脇を通って寮へと続く道を歩く。その途中にある芝生の上に座って、「あ、ルシル君」が木にもたれながら本を読んでいるルシル君を見つける。時々ルシル君はそうやって時間を潰している。声を掛けようか少し迷う。本を読んでいる時のルシル君は、何というか近寄りがたい雰囲気を持つ。上手く言えないけど神聖さを醸し出しているというか、そんな感じだ。ヴィヴィオも何となく気付いているのか、私とルシル君を何度も交互に見ている。
「ん? おかえり、なのは、ヴィヴィオ」
私とヴィヴィオが足を止めて迷っている内にルシル君も私たちに気付いてくれて、本から視線をこちらに移してくれた。その表情は読書中の時とは違って微笑み。本を閉じて、芝生の上に置く。
「ルシルパパー! ただいまー!」
そう言って立ち上がったルシル君へとヴィヴィオが勢いよく駆け寄って抱きついた。ヴィヴィオの頭を優しく撫でながら、ルシル君はもう一度「おかえり」って挨拶している。
『なのは、少しいいか?』
『え? あ、うん。なに?』
いきなりの念話。口頭で話すような内容じゃないのかもしれない。念話に応えつつ、私たちは寮へ向かうために歩き出す。
『シャルに聞いた。ヴィヴィオを正式に引き取るらしいな』
ヴィヴィオを真ん中にして、私が右側、ルシル君が左側に立って、ヴィヴィオと手を繋ぐ。そんなヴィヴィオはすごく嬉しそうだ。さっきから私たちを交互に見て笑顔満面。
『うん。ヴィヴィオの居ない生活が考えられなくなっちゃって』
『そうか。・・・ヴィヴィオにはもうそのことを?』
『うん、もう話してあるよ。書類の手続きとかも全部揃えてあるし』
あと少しの記入と提出で、私はヴィヴィオの正式な母親になれる。
『そうか。・・・憶えているか、なのは。私がヴィヴィオの父親として居る期間のことを』
『っ!』
もちろんそれは憶えている。ルシル君がヴィヴィオの父親役として居てくれるのは、ヴィヴィオが引き取られるまで間と言う約束だ。でも・・・
『でも引き取り手は私だし、このままでもいいよ?』
ヴィヴィオがルシル君を父親として慕っているのは間違いない。それを今になってやめさせるなんてことは出来ないし、したくない。こんな良い笑顔なんだから、これからもルシル君を父親として・・・あ。今さらながらに思い知る。正式な母親の私。ならルシル君は? 父親になる。それはつまり・・・
(ルシル君が・・・私の旦那さん・・・?)
ということになるわけで。ううん、それはダメ。だってルシル君はフェイトちゃんの・・・。
「なのはママ? ルシルパパ?」
ヴィヴィオの声で思考から抜ける。いつの間にか寮のエントランスにまで辿り着いていた。私は立ち止まって、少し考えを整理。そして、『・・・ルシル君』いま決心したことを伝えるベク、ルシル君の名前を呼ぶ。
『ん?』
『これからも、ヴィヴィオのパパでいてくれますか? もちろん本当の父親になってほしいとまではお願いできないけど・・・。ルシル君さえよければ・・・』
それが私の出した結論。フェイトちゃんからルシル君は奪えない。奪ってはいけない。でも、それでもヴィヴィオのパパであり続けてほしい。たとえ形だけでも。それが今の私の願い。ルシル君を見上げる。その表情は、シャルちゃんと同じどこか陰のある微笑み。でもそれも一瞬で、すぐに普段の微笑をルシル君は浮かべた。
『・・・ああ、なのはとヴィヴィオが良ければ。――』
『ルシル君、今何て言ったの?』
またシャルちゃんと同じ。その先の言葉が聞こえなかった。2人とも、なんか大事な言葉を濁してるような気がしてならない。
「『いや、何でもない』これからもよろしく、なのは、ヴィヴィオ」
でもルシル君がそう言うなら深くは訊かないでおこう。ルシル君もシャルちゃんも、何も間違ったことは言わないし、やらないから。
「うん。こちらこそお願いします」
「よろしくお願いします・・・?」
ルシル君が頭を下げるのに続いて私も頭を下げる。ヴィヴィオは何が何だか解らないといった風だけど、それでもルシル君に行儀よく頭を下げた。こうして私は正式にヴィヴィオの母親になって、ヴィヴィオは“高町ヴィヴィオ”になった。
・―・―・シャルシルの休暇・―・―・
†††Sideシャルロッテ†††
「へ? 私とルシルに休暇?」
「そや」
「はいです!」
終業となって寮へと帰ろうとした時、はやてとリインが私とルシルを止めて、そう伝えてきた。
「私たちに休暇なんて必要ないと思うが。毎日が休暇のようなものだし・・・」
「毎日って言うのは言い過ぎだけど、でもルシルの言う通りかも。私たちって単なる客人のような立場だしね」
日々お手伝いばかりやってる私とルシル。あとフォワードの自主練の仮想相手役。それ以外はのんびり過ごさせてもらってる。
「そうは言うてもちゃんと仕事もしてもらっとるし、それに今は正式に六課所属の魔導師やしな」
「「は?」」
そんなの聞いてない。六課所属、しかも正式に、なんて初耳だ。ルシルも同じだから抜けた声を出してしまっている。
「はやてちゃん、もしかしてお2人に言ってなかったですか?」
「・・・・。まあ、とにかく1日だけやけど休暇や。2人でゆっくりと休んできてなぁ」
あらら、忘れていたとは言わないわけか。でも私たちが知らない以上は忘れてたのは間違いない。しかも目も泳いでいるし、分かり易いよはやて。
――んで翌日。なのは達に見送られながら隊舎を後にする。
「どうしようか・・・?」
ある程度街に出てから、隣を歩くルシルに訊ねる。正直、どうこの休暇を過ごせばいいか見当がつかない。今までに2人だけで行動していたことは何度でもあるけど、こういうふうに過ごすのはなかった。契約執行中とかはお腹空かないし、睡眠も必要ないし、娯楽なんてものも当然必要なし。人間としての生活なんてものは何1つとして必要ない。だから少し変な感じだ。こういう時間を過ごすのが。
「そう・・・だな。まぁ適当にふらついて、気になる店があれば入るくらいでいいだろう」
「うん」
ルシルが私を抜いて先を行く。私もそれに続くように少し早歩きで、ルシルの隣にまで戻る。
「(あ、そうだ。良い機会だからあそこに行こう)ルシル、行先決定! ついてきて!」
行先を決めた私は、ルシルの手を引いて目的のお店に向かって駆け出した。
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
「よっし!!」
シャルがガッツポーズしつつ、さらにコインを追加。そして私の腕にもぬいぐるみがさらに1つが追加された。シャルに手を引かれて辿り着いたのはゲームセンターだった。シャルはそのままゲームセンターへと入り、真っ先に向かった先はクレーンゲーム。百発百中の腕前で、次々と箱の中のぬいぐるみを獲っていく。いろいろとツッコミたいが、あんな楽しそうにしているのなら邪魔するのは邪推だろう。
「なぁ、シャル。一体これほどのぬいぐるみをどうするつもりだ?」
いつかこの世界を去る私たち。自分のために獲るならあまり意味はない。さらに獲ったぬいぐるみを抱えながらこちらに振り返り、「ん? んんー・・・誰かへのプレゼント?」思案顔になりながらそう答えた。
「疑問形って・・・」
「一応考えてるよ。・・・どこの世界にも恵まれない子供っている。でね、これは特別保護施設の子たちに贈ろうかなって思ってるんだ」
特別保護施設。希少能力や特別な魔力を持ち、その所為で事件に巻き込まれた子供達を保護する施設だ。かつてはエリオもそこで過ごしていたそうだ。
「そう・・・か。よし、なら私も手伝おう」
私も隣のクレーンゲームをレッツプレイ。
「ふふん、じゃあルシル、どっちが先に空にするか競争ね。あ、そうだ。ねぇ、今日1日何かの勝負をして、負けた方がお金を出す。どう?」
「乗った」
ぬいぐるみを店員からもらった袋に詰めて、“英知の書庫アルヴィト”の“蔵”へとしまい、バトルスタート。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
「あー楽しかった! 私の勝ちだから、そうね・・・・うん、まずお昼はルシル持ちね♪」
「くっそー、あの時ミスしなければ勝てていたのに・・・!」
ネクタイを弛めながら随分と悔しがるルシル。ああいう遊びはあまり好きじゃないと思っていたけど、なんだ、ルシルもまだまだ子供じゃん。
「はぁ・・・。にしてもあの店の店員、最後は泣いていたな」
「あー、ちょっと悪いことしたかもね~」
4台も空にされては泣きたくもなるか。う~ん、やりすぎた。もしかしたらあそこのブラックリストに載せられてしまうかも。でも他のゲームでお金を使ったんだから、それで許してほしい。
それからルシルの奢りでランチして、次はレヴィヤタンに会いに行くことにした。レヴィヤタンは今、ルーテシアや戦闘機人たちと一緒に海上隔離施設にいる。ルーテシアと契約を結んだため、ルーテシアの傍を離れられなくなってしまったからだ。まぁそれを望んだのはレヴィヤタンだし、あの子自身もそれを受け入れている。
「さてと、次は海上隔離施設までの交通費なわけだけど・・・」
勝負するためのお題を周囲を見て探すけど、そんな簡単に見つかるわけもなかった。だから「あはっ、そうだ。しりとりでいこう♪」そんな子供っぽいお手軽なお題を提案してみた。却下されるかな、と思って隣を歩くルシルを見上げる。
「・・・乗った」
ちょっと意外だった。だけどこの時に思い出すべきだった。ルシルがかつて呼ばれていた神器王や孤人戦争に並ぶ、普通じゃない3つ目の二つ名――移動図書館と呼ばれたほどの知識の集合体であることを。
「それじゃ最初は定番の、しりとりの“り”」
「リン酸三ナトリウム」
なんかすごい返しだ。
「無添加」
「過炭酸ナトリウム」
「無知」
「チオ硫酸ナトリウム」
ちょっと待って。なんか嫌な予感が・・・。
「む、む・・・無理」
「硫化水素ナトリウム」
「無許可」
「過塩素酸ナトリウム」
イライライライライラ。
「無気力」
「クロロ酢酸ナトリウム」
「む、無手」
「テトラフェニルホウ酸ナトリウム」
プッツン。
「うっっっっっっっざぁぁぁーーーーーーーッ!!!」
叫んだ。街中とかどうとか完全無視して全力で叫んだ。ていうか叫ばずにはいられない、こんちくしょぉぉぉッ。一斉に私とルシルに向けられる好奇の視線。ところどころから「痴話喧嘩?」とか聞こえるけど、今はそっちにツッコミを入れられるほど余裕はない。
「うざっ、うざい、うざすぎる! イジメだよね!? 今のって明らかにイジメだよね!?」
「は? しりとりだろ? なら繋がればいいじゃないか」
「だからってナトリウムって何さ! 強敵過ぎるよナトリウムの“ム”!! 地味だよ! 陰湿だよ! 泣けてくるよ!!」
息を切らしながらツッコむ。
「脳筋体育会系の君が私に勝てるわけがないだろう」
「うわっ、ムカつくぅ・・・!」
「はいはい。どちらにしても私の勝ちだ。交通費はシャル持ちな」
「っくぅぅ・・・・納得いかないよ・・・」
結局払いました。グスッ(泣)
†††Sideシャルロッテ⇒ルシリオン†††
海上隔離施設へと着き、私はレヴィヤタンとルーテシアとの面会。そしてシャルは戦闘機人たちと親しくなってしまっているため、そっちと談笑している。最初の方は相手にされていなかったが、ウェンディとセインの2人とは早くに打ち解け、そのまま他の連中とも仲良くなっていった。
「レヴィヤタン、身体の調子はどうだ? 何か不都合が起きているとかはないか?」
「うん、大丈夫。ありがとう、ルシリオン」
まずは恒例のレヴィヤタンを存在させ、ルーテシアと繋ぐ核・“生定の宝玉”の確認。随分と馴染んでいるため、もう定期的に出向く必要はないが、やはり気になってしまう。
(それにしてもレヴィヤタンの話し方もすっかり良くなったな)
以前のように、言葉の間も無くなって聞きとり易くなっから助かる。それと私とシャルのことは名前で呼ばせるようにした(シャルの提案だ)。レヴィヤタンは、もう“ペッカートゥム”でもなく敵でもないからということだ。
「そうか。ならルーテシア、君は何か不調とかないか?」
ルーテシアのことに関しても訊いておく。この世界のルールと、私たちのルールは少々違うからだ。何か問題があれば対処策が必要になってくる。
「うん、大丈夫。あの・・・それと母さんのこと、ありがとう」
「ん? ああ、どういたしまして。私としてもメガーヌさんとは知り合いだ。かつてお世話になったことへの恩返しのようなものだよ」
ゼストさんやクイントさんと同様にメガーヌさんにも世話になったからな。そもそもメガーヌさんの治療に関しては少しばかりの手伝いをしたにすぎない。だから礼を言われるほどのようなものじゃないが、ここは素直に受け取ろう。それから少しばかり話をし・・・
「それじゃあレヴィヤタン、ルーテシア、そろそろ行くよ。次はいつかになるか判らないが、近いうちにエリオとキャロが来るだろう」
「「うん」」
満足そうなシャルが戻ってきたところで、海上隔離施設を後にする。ルーテシアとレヴィヤタンは今後、メガーヌさんと共に辺境世界で過ごすことになるそうだ。魔力の厳重リミッターに、辺境世界においての8年間という長期間の隔離。それがルーテシアに与えられた処罰。レヴィヤタンは公式には表立っていないため、罪はない。しかし彼女自らがルーテシアと共に罰を受けることを望んでいる。どの道一蓮托生だが。
「もうこんな時間か・・・」
「楽しいと時間なんてあっという間に過ぎちゃうよね~」
時計を見ればもう午後6時前。1日休暇も残りわずかだ。シャルに最後はどこへ行きたいかと訊いてみれば、
「海」
シャルがそう一言。確かにここから目と鼻の先なため、金と時間はかからない。
「まぁいいか」
ミッドの冬は比較的暖かい。だからと言ってこの時期に海はキツイ。と思っていたが、浜辺は少しヒヤッとするくらいで、それほど寒さは感じられない。
「うひゃっ、冷たっ!」
シャルは浜辺に着いた途端にブーツを脱いで海に向かって歩いていく。そしてスカートの裾を摘み上げて、波打ち際で楽しそうにはしゃいでいる。
(まったく、折角の綺麗な服が濡れでもしたら・・・・ん?)
そういえば今日のシャルは随分と女の子らしい格好だ。髪もいつものストレートではなくハーフアップ。髪の手入れはきちんとするシャルだが、髪型に拘らないのが彼女だ。服は黒のタートルネックトップ、淡い桜色のロングワンピース、白のカーディガン。よく見れば何となく気合の入った服装だと思う。今のシャルには何と言うか清楚可憐と言う言葉がしっくりくる。普段の彼女とは結びつかない言葉だが、今日の、そして今のシャルにはピッタリだ。
(この世界に来て本当に良かったんだな、シャルは)
あんなに楽しそうな笑顔は、この世界でなければ見れないだろう。これも全てはなのは達のおかげだ。彼女たちと過ごしたからこそのあの笑顔だ。そんなことを思いながら、シャルを見続ける。と、シャルは打ち寄せる波から逃げようとしたのだが、砂に足を取られたのか身体が傾く。
「うわっ・・・!」
さすがに放っておいてびしょ濡れにするのはまずいと判断、すぐさま駆け寄る。そして倒れそうになっているシャルの腕を取る。
「ごめん、助かった。ありがと」
「ふぅ・・・気をつけ――」
「「っ!?」」
今までになかった力強い波に足を取られ、2人仲良く転倒。それは冷たい波の餌食となりました・・・。
「・・・・・プ」
「・・・・・フ」
「「あははははははは!!」
笑う。もう笑うしかない。頭から足先までびしょ濡れになって、しかも冬の海。少々頭のおかしい2人に見えるかもしれないな。あぁまったく。それから浜辺で炎熱の魔術を使って服やら何やら全て乾かして、六課へと帰る。夕飯を食べに行くことも出来たが、やはりみんなとの食事が一番と言うのが私とシャルだった。
†††Sideルシリオン⇒シャルロッテ†††
「あとどれくらいの間こうして過ごせるかな・・・?」
六課への帰り道、ふと、そんなことを口走ってしまう。折角の休日、その最後に話すような内容じゃないのに。
「・・・知ってる? スバルは湾岸特別救助隊からスカウト。ティアナは執務官補佐」
「ああ、知っている。キャロは前所属の自然保護隊。エリオもそれについて行くということだ」
「うん。あの子たちはあの子たちだけの未来へ歩み始めた。それはすごく嬉しいことだね」
「まったくだ。これから幾度も壁にぶつかるかもしれないが、生きている以上は当然のものだ」
「見守っていってあげたいね」
「・・・それは、私たちの役目じゃない」
「・・・そっか・・・そう・・・だね」
なんてね♪ ルシル、私はそうは思わないよ。
「すまないな。君もレヴィヤタンのように残せればいいんだが・・・」
「仕方ないよ。界律の守護神の存在の概念は強過ぎる。レヴィヤタンのように、何て言うか・・・軽いものじゃないからね」
私は残れない。すでにこの身は滅んでいるから。
「・・・全てが終わるその時まで、あぁその時までは見守ろう」
「うん」
私はそれまでだけど、ルシルはその後もみんなを見守っていくんだよ。
――翌日
ルシルと2人して風邪をひきました。
くあぁ、寒い! へっくしっ!
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