八条学園怪異譚
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第五十六話 鼠の穴その二
「あそこ開くから、実は」
「あそこから入るんだ」
「そうなの」
「そう、動物園の人達は誰も知らないけれど」
開いて天井の中に入られるというのだ。
「あそこから入ってね」
「天井に入れば」
「そこがなの」
「そう、天井に入るあそこがね」
まさにそこがだというのだ。
「泉かも知れない場所なんだ」
「ううん、高いわね」
小柄な愛実はその場所を見て顔を曇らせてこう言った。
「ちょっと」
「いや、脚立あるから」
鉄鼠はその愛実にすぐに言った。
「幾ら何でもそのままで行けないでしょ」
「あっ、脚立ね」
「そう、ちゃんとあるからね」
大丈夫だというのだ。
「というかそのまま行くって忍者じゃないんだからね」
「鼠さん達は大丈夫よね」
「まあ僕達は裏道とか知ってるからね」
鼠達だけが行ける道だ。
「天井裏とかはいつも行くよ」
「そうよね」
「そう、まあとにかくそこがね」
その天井に入る壁の一隅が開く場所がというのだ。
「泉かも知れない場所だから」
「わかったわ、それじゃあね」
「今夜いいかしら」
愛実と聖花は鉄鼠にあらためて言った。
「今夜ここに来て」
「それで確かめて」
「いいよ」
即答だった、最初から決めている感じの。
「じゃあ今夜ね」
「ええ、十二時にね」
「来るから」
「胡桃とかピーナッツとか用意しておくからね」
鉄鼠はここでこう二人に言った。
「後は大豆とかもね」
「何か固いものばかりね」
「鼠さん達が食べるものよね」
「そうそう、リス君達もいるからね」
リスもげっ歯類だ、だからいるというのだ。
「後はナキウサギ君とかプレーリードッグ君もね」
「げっ歯類っていっても多いのよね」
「兎とかもそうだし」
「そうだよ、数だけじゃないんだよ」
種類もだというのだ。
「鼠や兎は多いんだよ」
「意外とそうなのよね」
「兎さんも多いし」
その種類がというのだ。
「野兎に穴兎?」
「その二種類よね」
「大体学校とかで飼ってるのは穴兎だよ」
そちらだというのだ。
「穴兎は生まれてすぐには動けないんだよね」
「毛も生えてなくて赤くて」
「それで動き回ることも出来ないのよね」
二人も穴兎はこれまで、幼稚園や小学校で見てきたので知っている。学校で子供の情操教育の為に飼っているものを見たのだ。
「けれど少ししたら毛が生えてきてね」
「それで親と一緒の姿になって」
「後は動けるのよね」
「野兎みたいね」
「そうだよ、少ししたらね」
動ける様になるというのだ、鉄鼠も言う。
ページ上へ戻る