八条学園怪異譚
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第五十五話 百鬼夜行その十七
「あの人が鉄鼠さんよね」
「そうよね」
「うむ、そうだ」
その通りだとだ、一つ目入道は二人に答えた。
「あの御仁がな」
「そうよね、それじゃあ」
「今日ね」
もう鉄鼠と話をしようというのだ。
「それでお話をして」
「そうして」
「うむ、わかった」
一つ目入道は二人の言葉に頷いた、そうしてだった。
二人はその鉄鼠のところに向かった、そこで彼に尋ねた。
「ええと、鉄鼠さんよね」
「そうよね」
「そうだよ」
その通りだとだ、その大きな鼠も答える。大きさは土佐犬程はある。ヌートリア等と比べても遜色はない大きさだ。
「わしがその鉄鼠だよ」
「そう、それじゃあ」
「お願いがあるけれど」
二人は早速鉄鼠に話をはじめた。
「今度ね」
「あんた達のところに行きたいんだけれど」
「ああ、泉だね」
鉄鼠はその辺りのことはすぐにわかっていて二人に返した。
「それのことだね」
「ええ、そうなの」
「それのことだけれど」
「泉かも知れないところは知ってるよ」
鉄鼠は二人にこう答えた、二人にとっては望んでいた答えと言ってよかった。
「あんた達今度はそこに行きたいんだね」
「そうなの、ここの空井戸も違ったし」
「だからね」
「わかったよ、話すよ」
鉄鼠も二人の言葉に快く応えた、だが。
ここでだ、鉄鼠は二人にこう言ったのだった。
「ただね」
「ただ?」
「何か条件があるの?」
「いやいや、泉のことはどうってことないことだから」
鉄鼠は二人が求めていることについてはあっさりと返した。
「あんなことはね」
「あんなことって」
「泉のことが」
二人は泉のことをあっさりと言う鉄鼠に呆気に取られた顔で返した。
「私達真剣に探してるけれど」
「あんなことって言われると」
「ああ、あんた達は真剣に探してたね」
「そうなの、だからね」
「あんなことって言われると」
どうしてもだとだ、二人はこのことを軽く言われることはあまり快く思わなくてそれで少し強く言ったのである。
「ちょっと悪いけれどね」
「そこは訂正して欲しいけれど」
「御免御免、とにかくわし等にとってはこの学園の出入り口で大事だけれど」
それでもだというのだ。
「絶対にあるものだから何時かは必ず見つかるじゃない」
「だからなのね」
「そう言ったのね」
「言葉のあやだよ、まあ普通にあるものとしてね」
そう受け取ってもらいたいというのだ。
「そういうことでね」
「そうね、わかったわ」
「こっちもちょっと怒ったわね」
「些細なことなのに」
「気を悪くしたら御免ね」
「うん、そうなんだよ」
こう言うのだった、鉄鼠の方も。
「このことについてはね」
「それでどうしたの?」
「ただっていうと」
「今は飲もうよ」
鉄鼠がここで優先順位の先にしたのはこのことだった。
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