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八条学園怪異譚

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第五十五話 百鬼夜行その十五

「そうしようね」
「うむ、今夜もな」
「とりあえず私達今から行ってきます」
「一つ目入道さんも手伝ってくれるし」
 二人は一つ目入道と茉莉也にこう話した。
 そのうえで空井戸の中に入る、登山の要領でロープに手をかけ足を空井戸の中にかけて下に降りていこうとする、その空井戸の中には。
 ちゃんと手すりが一段ずつある、二人はその手すりを見て茉莉也に言う。
「あれっ、手すりがあります」
「ちゃんと」
「あれっ、手すりあるの」
「はい、見れば」
「鉄のが」
 丁度煙突の昇り降りに使う様なそれがあるというのだ。
「誰か前に使ってたんですか?」
「用意がいいですね」
「空井戸だから誰か落ちた時のことを考えてかしらね」
 茉莉也はいぶかしむ二人にこう話した。
「住職さんが付けてくれたのかしら」
「このお寺の住職さんがですか」
「そうしてくれたんですか」
「住職さん用意がいい人だから」
 それでそうしたのではないかというのだ。
「どちらにしてもこのことは有り難いでしょ」
「はい、お陰で安全に行けます」
「心強いですね」
「井戸って危ないからね」
 落ちた時はだ、井戸が使われていた頃は子供が落ちたりしない様に用心することもまた忘れてはならないことだった。
「落ちて死ぬこともあるし」
「怖いんですね、井戸も」
「思っているよりも」
「怖いわよ、落ちる可能性があるから」
「ですよね、だから手すりがあると有り難いです」
「安心して行けます」
 二人は茉莉也にその手すりを見ながら応える。
「一段一段行きます」
「そうしていきますね」
「ええ、滑べらない様に注意してね」
 茉莉也は手すりがあってもそうならない様にとも言った。
「いいわね」
「そうですね、そのことも気をつけて」
「下まで降ります」
「本当に気をつけなさいね」
 茉莉也は先輩として二人にこうも告げた。
「落ちたら下手したら怪我じゃ済まないから」
「はい、それじゃあ」
「本当に慎重に」
「命綱は任せるのだ」
 一つ目入道は自分の太い胴に縛りつけているそのロープを握りつつ二人に話す。その口調は極めて穏やかである。
「いいな」
「悪いわね、じゃあね」
「そちらはお願いね」
「うむ」
 一つ目入道は二人に確かな声で応える、そしてだった。
 二人は井戸の下に降りていく、一段一段慎重に。
 そのうえでだ、その底まで行くと。
 ただの空井戸だった、愛実は後から降りてきた聖花に対して苦笑いを浮かべて言った。
「次はね」
「鼠さん達のところね」
「ええ、鉄鼠さんだったわね」
 この学園の鼠の親分の名前がここで出る。
「そうだったわね」
「そう、鉄鼠さんよ」
「今度はその人に会って」
「それで泉を探すことになるわね」
「そうね、それじゃあ」
「今はね」
 二人で話す、そしてだった。
 二人は共に外に出ようとする、それで上を見上げて。 
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