このクラスに《比企谷八幡》は居ない。
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とにかく『神崎奏』は孤高だ。
孤高とは、個人の社会生活における1つの態度を表し、ある種の信念や美学に基づいて、集団に属さず他者と離れることで必要以上の苦労を1人で負うような人の中長期的な行動とその様態の全般を指す。本来は俗世間との通行を自ら断って1人で道を求める者の姿を指しており、私利私欲を求めず他者と妥協することなく「名誉」や「誇り」といったものを重視する姿勢から、周囲が「気高さ」を感じるような良い意味での形容に用いられる他に、協調性を欠いた独自の態度を軽く批判する場合にも用いられる。迎合主義の対極に位置する。芸術家や指導者に多く存在する。
さて、なぜ俺がこんな長文を書いてまで孤高を知って貰いたいのかというと、それは俺がひねくれ者でぼっちだから孤高なんじゃ無くて、名誉や誇りを大事にしているから孤高だということだ。
「・・・・・」
俺はウォークマンをして机に突っ伏し、話しかけられないようなオーラを醸し出していた。
「うっわ、気持ち悪っ・・・」
「最悪・・・」
最初はてっきり俺に言っているのだと思っていた。
ふと頭上げると、クラスメイトの雪姫暦が水浸しで立っていた。
「っ!?・・・・・・」
雪姫は泣きもせずわめきもせず、ただ外に出ていった。
「ははっ、ざまぁねな!」
そう言ったのはクラスの中心人物、滝澤海渡。
「おい!海渡!何やってんだ!」
教室に入ってきたのは滝澤の敵対人物、箱根隼人。
「・・・・・」
後ろには雪姫も立っている。
「ヒーローの登場か?」
「海渡・・雪姫さんがいやがってるだろ!」
「そいつがキモいのがいけないんだろ?」
「おい!どこに行くんだよ!話は終わってないぞ!」
滝澤は教室を出ていった。
「くっ・・大丈夫かい?雪姫さん。」
「あ、はい。」
うっわwwwリア充うぜーーwwwww
「・・・・」
俺は一部始終ウォークマンを片耳で聞いていた。
「はぁ・・・」
俺はイライラしながら放課後を迎えた。
「ははっ、雪姫~お前箱根に優しくされて嬉しかった?ww」
「・・・・」
雪姫は表情を歪めた。
「そんな君にプレゼントwww」
滝澤はどこからじゃ入手した蜂蜜とチョークの粉を頭に振りかけた。
「!?」
「・・・・・」
雪姫は相変わらず黙ったままだ。
ははは、どっからハチミツ取ってきたんだよ、でも・・・・こんなのって無いよな・・・
もしも・・・もしも、箱根のリア充が女になってもしもいじめられてたとしても・・・足を引っ掻けるくらいしかしないぞ?
でも・・・どう考えても、あいつだけはゆるさねぇ・・・・・・
それに、そうやって攻撃されるポジションは俺のものであって
他の誰かにやすやすと譲ってやるわけにはいかないわけだ。
あー、あとあれだ。
「……気に入らねぇんだよこの野郎。」
俺はそう口に出した。
「ん?なんっていった?」
俺は近づけてきた顔を、力いっぱい右ストレートを食らわせた。
「がっ!」
滝澤は悶絶して地面をのたうち回る。
「気に入らねぇって言ったんだ・・・」
俺はそのまま続けた。
「こいつはな・・・俺とは違って好きで孤高なんじゃ無いんだよ・・もっと他の人と話したいんだよ・・・それがお前に分かるのか!?わからないよな!人の気持ちも知らずに生きてきたんだからな!」
しばらくの沈黙のあと、滝澤が口を開いた。
「聞いたか!?今の!好きで孤高じゃ無いんだよ!だってさ!」
「「「「・・・・・」」」」
滝澤の笑いだけが虚しく響く。
「あ、あれ?」
「確かに・・やりすぎかも・・」
「雪姫さんがかわいそうになってきた・・・・」
「神崎だっけ?の言い分もわかる気がする・・・・」
「滝澤ってサイテー・・・」
その言葉が出た瞬間、滝澤の顔は青ざめた。
「あ・・・・・ああ・・・」
俺はそんな滝澤をよそに雪姫を保健室へ連れていった。
「大丈夫か?」
「ありがとう、神崎君。」
「おお、名前を覚えている奴がいたとは。」
「はは、面白いね。」
雪姫が初めて見せた笑顔に俺は不覚にも可愛いと思った。
しかし俺は知っている。
俺は優しい女の子は嫌いだ。
ほんの一言挨拶を交わせば気になるし、メールが行き交えば心がザワつく。
電話なんか掛かってきた日には着信履歴を見てつい頬が緩む。
だが知っている、それが優しさだという事を。
俺に優しい人間は他の人にも優しくて、その事をつい忘れてしまいそうになる。
真実は残酷だというのなら、きっと嘘は優しいのだろう。
だから優しさは嘘だ。
いつだって期待して、いつも勘違いして、いつからか希望を持つのはやめた。
訓練されたぼっちは二度も同じ手に引っ掛かったりしない。
百戦錬磨の強者。
負ける事に関しては俺が最強。
だからいつまでも優しい女の子は嫌いだ。
「ねぇ、神崎君。」
俺は一つ一つの動作にドキドキする。
「私・・・・神崎君の事が・・・・」
ふん・・どうせ好い人かも・・とか言うんだろ?俺の対抗力舐めんな。この前女子が俺に告白する罰ゲーム流行ってたからな。
「ーーーーーーー好きかも・・・」
一瞬言葉を失った。
「マジですか?」
「本当に・・・」
え?なに!?1話目でリア充展開!?
「どどどどどうせばばばば罰ゲームかかぁかっっかかk何かかだろ!??!?!?!」
「かみかみだね・・・」
雪姫はあきれた顔で俺を見てくる。
仕方ないだろ?人と話すことすら稀なのに。
「でででででもいいいいいいきなり恋人ってててててもおかししいだろろろろ!?」
「いや噛みすぎだって。」
そして彼女はこう言った。
「それじゃあまずは友達からっ!」
ハチミツがかかって水で制服が濡れている雪姫の立ち姿はなんだかエロ・・美しかった。
保健室についた俺は国語教師の二階堂静にハチミツをとるのを手伝わされた。
「さぁ、楽になっただろう?」
「めっちゃ痛かったですけどね!」
「気にするな。私はタバコを吸ったり奉仕活動をする部活を作ったりはしない。ひねくれぼっちはいるがな。」
「誰がひねくれぼっちだ。確かに俺もモットーは孤高は名誉や誇りを大事にしているから孤高だ。ですが・・・」
「『……たとえ、君が痛みに慣れているのだとしてもだ。
君が傷つくのを見て、痛ましく思う人間もいることに
そろそろ気づくべきだ、君は』」
「名前が同じだからって性格も同じになる物なんですね。」
「ふふ、これはキャラだ。」
「それじゃあもとはどうなんですか?」
「清楚で大和撫子。
「嘘つけ。」
おもいっきし殴られた。
「腹パン!?」
俺は悶絶して転がってると雪姫が話し出した。
「それじゃあ私は?」
「雪乃と結衣を交ぜた感じだな。
喋りは雪乃、性格は結衣、境遇は雪乃、体型は結衣、成績は・・・結衣。」
「バカって事ですか!?」
「いや、ビッチって事だ。」
「そっちの方がひどい!」
「まぁ確かに胸はでかいな。」
俺は雪姫の横で呟いた。
「復活早!」
「俺を舐めるな?」
「ではもう一発。」
「すいませんやめてください。」
制服をピシッとして手を地面につく、そのあと足を曲げ膝をつき、太ももとかかとをくっつけ、腕を曲げ、最後に頭を地面に擦り付ける。
これで綺麗なDOGEZAの完成だ。
「おお、さすがに綺麗だな。」
「土下座を誉められても嬉しくありません。っていうかなんであんた達このネタ分かるの!?」
「ふふふ参ったか?」
「参りません。」
俺は言うことを全部言い尽くして、バックを持って帰ろうとしていた。
「神崎君待ってよ!」
雪姫も俺の後ろを付いてくる。
この世界に比企ヶ谷八幡は居ない、雪ノ下雪乃も由比ヶ浜結衣も。
いるのはひねくれぼっちな俺といじめを克服した雪姫、そして二階堂静だ。
「どう考えても似てるよなあの教師。」
「ん?何?」
「いや何でもない。」
俺はポケットに手を突っ込む。
ーーーーこの世界に青春ラブコメは無い。
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