パンデミック
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第四十八話「過去編・渦巻く絶望」
ついに最悪の事態を迎えた。
無数の感染者と突然変異種が、日本支部内に押し寄せて来た。
「クソッ!! どっかの壁が壊されたか!?」
レックスが日本刀を鞘に納め、感染者達の方へ構え直した。
「司令、あの数を我々で………しかも屋内で戦うのは無茶です!!」
タガートがヴェールマンの方を向いた。
ヴェールマンの表情は、無念と悔しさで歪んでいた。
「……………………やむを得ない……な……」
感染者達が侵入して来たのは、非常用の出入口の方だ。おまけに、正面のゲートまで破られた。
兵士達は完全に退路を絶たれた。
もしこのまま退けば、どんどん日本支部の奥まで追いやられる。
ヴェールマンは、苦渋の決断を下した。
「これ以上の日本支部防衛は不可能だ! 総員、撤退せよ!!」
日本支部の放棄。
この命令が出された瞬間、"日本の放棄"が決まったのだ………
「退路を切り開くぞ!!」
レックスが隊を率いて、正面のゲートを目指す。
「タガート! レックス隊を援護しろ! 退路を確保するんだ!」
「了解!」
「私はブランク隊と共に、取り残された日本支部の兵士を救出する! ブランク! 隊を率いて私と来い!」
「了解」
兵士達は一斉に行動を開始した。
日本支部の壊滅はもはや避けられない。しかし、目の前にある命を救うことならできる。
―――【日本支部内・地下6階 装甲車両格納シェルター】
ヴェールマンとブランクの隊は、装甲車両が格納されているエリアまで降りてきた。
周囲には、複数の装甲車両が並んでいた。
「この装甲車両………ここから出る時に使えませんか?」
フィリップが装甲車両を眺めてヴェールマンに聞いた。
しかし、ヴェールマンは装甲車両に見向きもしなかった。
「さすがにこれを爆撃機に乗せることは出来ない。これに乗り降りするのは時間のロスになる」
ヴェールマンは自分達の安全よりも、早急な脱出を優先させた。
「ん? あれは、人か?」
ブランクが何かを見つけた。
ブランクの視線の先には、赤色の作業服を着た作業員が4人、装甲車両の後ろに隠れていた。
それを見つけたフィリップは、素早く作業員達のもとに駆け寄った。
「おい、無事か!?」
作業員達は、青ざめた表情から少し明るい表情に変わった。
「あ、アンタは……アンタらは、本部の兵士か?」
「助けが来たのか?」
作業員がフィリップに質問した直後、ヴェールマンが前に立って答えた。
「そうだ。私達は取り残された日本支部職員の救出に来た。このエリアには君達以外に職員はいるか?」
ヴェールマンの質問に、作業員4人は俯いた。
「…………………もう、このエリアには俺達だけだ……」
「あの化け物共………この地下6階にまで降りてきたんだ………」
「そいつらに、俺達の同僚は………」
「そうか………」
ヴェールマンの落胆は大きかった。
より多くを救う。日本支部防衛が果たされなかった瞬間に決めた希望すら、容易く壊された。
救えなかった後悔と絶望。それらがヴェールマンの心に渦巻く。
そして、それは他の兵士達も同様だった。
ブランクを除いては………
ブランクは慌ただしく周囲を見回している。
何かがこのエリアにいる。それも、人間でも感染者でもない。
……………まさか……!
「司令! 彼等を守って下さい!!」
「! 分かった!」
その直後………
バギィィィィィン!!!
鉄が折れ曲がるような強い衝撃音。と同時に、装甲車両が派手に吹き飛び、転がる。
「グガァァァァァァ!! ゴガァァァァァァ!!」
「嘘、だろ?」
フィリップとブランク隊の兵士達の表情が一気に青ざめた。
ヴェールマン隊の兵士達も、怯えはないものの、驚きは隠せなかった。
突然変異種が、装甲車両を押し退けて姿を現した。
その数は7体。
「司令! 彼らを頼みます!」
ブランクが化け物共に向かって走り出した。
「まったく………また無茶しやがる……!」
フィリップも援護するために走る。
「グルァァァァァァァ!!」
突っ込んできた突然変異種の顔面を、ブランクの右ストレートが捉えた。
グチャッ
「グゲッ……ガァ…………」
原型を留めず崩れた突然変異種の頭。
後ろに振り返る際の回転を利用し、すぐ後ろにいた突然変異種に回し蹴りを浴びせる。
上顎が吹き飛び、転がる。
「ガァァァァァ!!」
鋭い爪がフィリップを引き裂こうと迫る。
「おっと!」
咄嗟に身体を右に捻り、回避する。引っ掻き攻撃が避けられ、バランスを崩す。
「食らえ」
後頭部にククリを突き刺し、地面に叩き伏せた。
「ガアァァァァァァァァァァ!!!」
ドスッ
「う…ぐぅっ!?」
仲間を殺され、怒り狂い突っ込んできた突然変異種の爪が、フィリップの左脇腹に深く突き刺さる。
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