不老不死の暴君
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第三十話 東の聖地へ
翌朝。ガリフの地ジャハラの入り口にて。
「共に行きます。ブルオミシェイスへ」
アーシェはラーサーにそう言った。
「そう言っていただけるとと信じてました」
「まだ心を決めたわけではないのです。向かう間に答えをみつけます」
「会ってほしい人がいます。ブルオミシェイスで落ちあうことになっているんです」
「誰です?」
「敵ですが味方ですよ。あとは会ってからのお楽しみです」
ラーサーは軽く微笑んで、外に出て行った。
その会話を見ていてヴァンがアーシェに話しかける。
「ああいうとこあるんだよな」
「悪気はないのでしょうね」
「いいやつだよ。帝国なのにさ」
ヴァンとアーシェはそう言ってラーサーの後に続いた。
後ろにいたパンネロも後に続く。
それを少し離れたところから見ていたバッシュが呟く。
「神都ブルオミシェイスはヤクト・ラムーダの北部だ。ヤクトに入れば飛空挺による追撃は避けられるか」
「望み薄だな」
バッシュの呟きを聞いていたバルフレアが自分の考えを述べる。
「リヴァイアサンはヤクト・エンサを飛び越え直接レイスウォールの墓に乗りつけた。ヤクトでも飛べる新型飛空石・・・可能にしたのはどうせ破魔石だ。ったく奴らが必死に狙うわけだよ」
「それではきみこそ何が狙いだ? 同道してくれるのは心強いが」
バッシュはバルフレアに疑問をぶつける。
少なくともバルフレアは今まで自分の利益にならないことはしなかった。
アーシェを攫い、レイスウォール王墓に連れて行ったのも覇王の遺産狙いだったし、
ガリフの里に案内したのも指輪を貰ったからだ。
「破魔石を奪うつもりじゃないかって?」
バルフレアはバッシュに言葉の続きを予想してそう言った。
「まあ仕事柄疑われるのは慣れてるが今そんな気は欠片もない。なんなら剣にでも誓おうか?」
「・・・すまん。殿下はきみを頼っている。真意を知っておきたかった。きみが石にこだわっているように見えてな」
「物語の謎を追う・・・主人公なら誰でもそうだろ」
そう言ってバルフレアは近くにいたフランと共に里の入り口の方に歩いていった。
「苦労が耐えませんね」
「君か」
バッシュ後ろに振り返り、声の主に問いかける。
「きみはヴァン達がブルオミシェイスまで行くのを止めないのか?」
「いや、今回の一件はとことん関わると決めたので」
セアの返答を聞きバッシュは顔を顰める。
「まぁ、俺もバルフレアと同じく破魔石を奪う気はないんで気にしないでいいですよ」
セアは顔に笑みを浮かべバルフレアの後に続いた。
アルケイディア帝国帝都アルケイディスにて。
皇帝宮の廊下をふたりのジャッジマスターが歩いていた。
「元老院がなにを企もうとヴェイン殿の失脚などありえん。参謀本部を始め軍部はヴェイン殿支持だからな。あのお方こそ帝国の敵を討ち滅ぼす剣だ」
歩いているジャッジマスターが隣を歩いているジャッジマスターに話しかけるが彼は無視して歩き続ける。
すると後ろの方から声が聞こえてきた。
「卿は2年前のゼクトに似ているな」
その言葉を聞き2人のジャッジマスターは声が聞こえたほうに振り返る。
そこには唯一の女性ジャッジマスター・ドレイスがいた。
「ヴェイン殿を信じて従った彼がどうなった? ナブディスで消息不明ではないか」
「ジャッジ・ゼクトへの愚弄は許さん」
2年前のゼクトに似ているとドレイスに言われたジャッジマスター・ベルガは反論する。
自分が馬鹿にされるならばまだ我慢できるがジャッジの模範と言われたゼクトへの愚弄は黙って見ていることはできない。
「彼はまことの武人だった。その彼が信じたヴェイン殿を疑うというのか」
「かつて実の兄君らを斬った男だ。人とは思えん。非情に過ぎる」
「非情だと?大いにけっこう! たとえ肉親であろうと反逆者は容赦なく討つ。帝国の背負う者のあるべき姿ではないか」
そう言ってベルガは奥の方に歩いていった。
「おめでたい男だ」
ドレイスは俯きながらそう呟いた。
そして残っているジャッジマスターに話しかける。
「ザルガバース・・・まさか卿も信じているのか?あのおふたりが反逆など!」
「それがグラミス陛下の結論だ。口を慎めドレイス。あの事件はとうに終わった」
「ご一同召集令です」
反対方向から歩いてきたガブラスがそう言った。
【事故死】したギースを除けば対ロザリア最前線にいるジャッジマスターがここに集ったことになる。
「ヴェイン殿がご到着なさいました」
「承った」
ベルガはそう言い、ザルガバースと共に奥へ進んでいった。
ドレイスはガブラスに話しかける。
「ラーサー様はブルオミシェイスへ向かわれた。大僧正に働きかけて反乱軍の動きを封じるおつもりだ。オンドールが諦めるとは思えんが・・・反乱軍の行動が多少なりとも鈍ればよい。これでロザリアの侵攻も遅れ・・・わが国が備えを固める時間を貸せげる」
「グラミス陛下の狙い通りか」
ジャッジは帝国の法と秩序の番人であるがソリドール家の親衛隊という面も持ち合わせている。
必然的にジャッジが支持するのはソリドール家の者が多くなるが誰を支持するかは様々である。
例えばベルガはヴェイン派であるがガブラス・ドレイスはグラミス派である。
そしてロザリアの侵攻が予想されている今は穏健派のグラミスを支持する者の肩身が狭い。
「ともあれ頼もしい成長ぶりではないか。元老院の能無しが驚く顔が目に浮かぶ。あの老人ども・・・幼い皇帝を影からあやつる気だろうが・・・ラーサー様は人形で終わるお方ではない」
「そうだ元老院が望んでいるのは人形の皇帝だ。元老院がヴェイン殿の才能をどれほど憎んでいるか思い出せ。ラーサー殿が自分達の思い通りにならんと知れば・・・元老院は掌を返して潰しにかかる」
ガブラスの懸念を聞いたドレイスは元老院ならやりかねないと思った。
「まずいな。陛下にも報告しておく。ガブラス・・・卿と私でラーサー様を守り抜く。いいな」
ドレイスの言葉にガブラスは頷き、ベルガ達の後に続いた。
同時刻ケルオン大陸バングール地方オズモーネ平原東端にて。
森の入り口でバッシュはアーシェに話しかけた。
「ダルマスカと帝国の友好・・・ですか」
「頭ではわかってるの。今のところ大戦を防げる唯一の手段だわ。でも私に力があればそんな屈辱・・・!」
アーシェは自分の無力さを憎みながら拳を握る。
アーシェは王国再興が目的であるが例え今回の方法で王国が復活したとしても形だけである。
ウォースラが選んだ帝国の属国として復活するのとあまり差がない。
結局帝国にとって余計な真似をすればまた圧倒的軍事力で滅ぼされることになる。
「我々にとっては恥でしょう。しかし民は救われます」
バッシュの言うとおりアーシェ達が恥をかけば民は救われる。
もしこのまま状況が悪化すればダルマスカは二大帝国の戦争の激戦地になるだろう。
更にアルケイディアはまだ魔力が残っているであろう【黄昏の破片】がある。
それを使えばダルマスカ地方ごとロザリア軍を粉砕する可能性すらある。
それはアーシェも分かっているが心情的に納得できない。
「あなたは受け入れられるの?」
「私はヴェインに利用されて名誉を失いましたが・・・今なお騎士の誓いを忘れてはおりません。人々を戦乱から守れるのであれば・・・どのような恥であろうと甘んじて背負います。国を守れなかったその恥に比べれば・・・」
「・・・みんな帝国をにくんでいるわ。受け入れるはずがない」
「希望はあります」
そう言ってバッシュはヴァン達の方を見る。
「あのように手を取り合う未来もありえましょう」
ヴァンとパンネロとラーサーが楽しく会話している光景がアーシェの目に映った。
確かにそんな未来もあるかもしれないとアーシェは思う事にした。
アーシェ達の会話を聞いていたセアは心にある思いが浮かんでいた。
(こんなことならウォースラの提案を受け入れていればよかっただろうに・・・)
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