| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

戦国異伝

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第百五十二話 近江平定その八

「いや、全くな」
「与三殿、何か」
「よく生きておるものじゃ」
 宇佐山城の激しい戦のことを思い出しての言葉だった。
「猿夜叉殿に朽木殿、そして殿がおられてじゃ」
「助かったというのですか」
「そうじゃ、流石に今度ばかりは駄目かと思うた」
 森はしみじみとして述べた。
「しかし助かった、助かったからにはな」
「これまで以上にですな」
「うむ、殿をお助けする」
 まさにそれをするとだ、森は池田に強い声で述べる。
「そしてじゃ」
「そのうえで、ですか」
「織田家に奉公しようぞ」
「ですか、与三殿の忠義はさらに強うなりましたな」
「死ぬところを助かったのじゃ、いや助けられたからのう」
「それ故にですか」
「うむ、奉公するわ」
 こう言うのだった。
「必ずな、今もこれからもな」
「ではそれがしも」
 池田は森の言葉を受けて確かな声になった、そのうえでの言葉だった。
「及ばずながらも」
「御主もそうしてくれるか」
「これまで通り、いやこれまで以上に」
 励み信長を護るというのだ。
「励みましょうじ」
「ううむ、これはいかんな」
「いかんとは」
「若い御主に頑張られてはわしの出る幕がない」
 だからだというのだ、森は池田より年配なのであえて悪戯っぽくこう言ってみせたのだ。
「それでは困るわ」
「いやいや、それがしもです」
「わしと同じか」
「それがし与三殿に勝ったことは一度もありませぬ」
 彼が記憶にあ限りだ、まさにそうしたことは一度もない。
「ですから」
「それでか」
「負けませぬぞ」
 池田は不敵な笑みで森に告げた。
「それがしも」
「むっ、そうきたか」
「それがし殿のご幼少の頃より共にいます」
 信長の乳母の子だ、その縁はかなり深く強いものだ。
「ですから殿への忠誠では負けませぬじ」
「わしにもか」
「誰にもです」
 森だけでなくというのだ。
「当家には忠義の強い方も多いですが」
「平手殿といいな」
「ううむ、平手殿はまた別格です」
 代々織田家に使えしかも信長のお守役であった、今も織田家のご意見番として信長の傍にある。その彼と比べると、というのだ。
「あの方はまさに全身忠義です」
「そうした方ですな」
「全く以て」
 そこまで強いというのだ、平手の忠義は。
「ですから」
「平手殿には勝てぬか」
「負けじと思ってはいます」 
 忠義の強さにおいてというのだ。
「それでも」
「その意気じゃ、ではな」
「はい、それではですな」
「越前、加賀でもな」
 これから行くその二国においてもだというのだ。
「殿をお守りしようぞ」
「共に」
 こう話してだった、二人は信長の周りを固める兵達を率いつつ越前に向かう。再び越前で大きな戦がはじまろうとしていた。
 このことは彼等も見ていた、彼等は闇の中で話していた。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧