『八神はやて』は舞い降りた
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第2章 赤龍帝と不死鳥の騎士団
第22話 もう何も怖くない
前書き
・体が軽い…こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて…
オカルト研の部室にて、レーティングゲームの幕開けを待つボクたち。
「はやてたちの助力は、正直とてもありがたいわ。けれども、お互いのメンバーをチーム混ぜてよかったのかしら」
「たしかに、グレモリー眷属と八神家と分けた方が、連携という意味では上だろう。だが――」
「――わたしの力を大勢の前で披露する機会でもあるわけね。お兄様を含めたお歴々の前で、フェニックス家の長男を撃破する。わたしの実力を嘲り血筋目当てだけで、足元をみる輩はいなくなるでしょうね。ライザーのように」
そう。ボクたち八神家は、あくまでグレモリー家の客人にすぎない。
ボクたちが活躍してしまうと、たとえ勝利しても、「リアス・グレモリー」自身の能力が評価されないのである。
実力のない有象無象を避けるためにも、ボクたちはサポートに徹するべき――と、表向きの理由を説明してある。
むろん、嘘はいっていない。
が、本音としては、実力を曝して余計なやっかみを受けたくないだけだ。
まあ、焼き鳥に分をわきまえさせる以上ある程度は実力を見せつけることになるわけだが。
「ライザーの『女王』であるユールベーナは強敵です。『爆弾王妃』の異名をとり、上空からの一撃は脅威でしょう」
姫島朱乃が、イヤホンマイク式の通信機器――戦場ではこれを使ってやり取りをするらしい――を配りながら言う。
それにしても、ボムクイーンってかっこいいな。
ボクもかっこいい異名が欲しいものだ。
いや、夜天の王は十分な肩書かもしれないが。
後日、何か異名を名乗りたいといったら、家族に全力で反対された。
漆黒の暗黒魔導師ザ・ダークネスはやて、略してダークはやて、ってかっこいいと思ったんだが。
(通信機器とは、ね。やはり、念話は大きなアドバンテージになりそうだ)
「リインフォースは、姫島先輩を補佐するように。上空は、空中戦ができる二人に任せるよ」
「承知しました、マスター。ユールベーナの相手は、私がしよう。姫島朱乃は、地上の援護を――」
「いえ、私も空中戦は得意です。修行の成果をみてみたいのです。リアスの『女王』として、ユールベーナと戦ってもいいでしょうか」
同じ『女王』としての意地だろうか。
敵の『女王』との一騎打ちを頼む姫島朱乃。
「……いいだろう」
「ありがとうございます」
(ゲームの勝率は、ボクたちを除いたグレモリー眷属だけでも、五分五分――いや、こっちの方が有利かな。実力も、状況も原作より大分よいだろうし)
(私もそう思います。ライザー以外は、任せてもいいでしょう)
『開始のお時間となりました。それでは、ゲームスタート』
つい先ほどまで、ゲームの説明をしていたグレイフィアの声が響く。
と、同時にあたりに木霊する学校のチャイム音。これが、ゲーム開始の合図となる。
――――レーティングゲームが幕を開けた。
◇
「なんというか。これは予想外ね」
レーティングゲームが、始まってから1時間弱。
下馬評では、ライザー・フェニックスの優位が報じられていたが――あっけないほどに、リアス・グレモリーが圧倒的に優勢であった。
「勝っている分には良いではないか。グレモリー先輩とボクにとっては、負けられない試合なのだからね」
「なんだかなあ。俺たちが出る幕がなさそうだな」
「怪我がないようで、一安心です」
(烈火の将たちも、うまく援護に徹している。こちらの実力を曝す必要がなくて助かるな)
◇
まず、体育館の裏側から進撃していた木場祐斗たち。
木場祐斗とシグナムの剣士タッグは、攻撃に秀でる前衛だ。
シャマルが、そんな二人をうまくサポートするという――奇襲に長けたチームである。
「木場くん、次の廊下を右に行ったすぐに二人いるわ」
「わかりました」
「はあああああっ!」
「なっ……奇襲だと!?」
シャマルの索敵により、一方的な奇襲を行う。
『ライザー・フェニックス様の「戦車」1名リタイア』
「後ろにいったわよ。気をつけて」
「奇襲などさせん。紫電一閃!」
「どこを狙ってやがる、次はこっちの――」
相手の奇襲さえも、シャマルに察知される。
シグナムの紫電一閃をかわし、余裕の笑みを浮かべる相手。
その間隙をつき――
「――貰った!」
「しまっ――」
『ライザー・フェニックス様の「兵士」1名リタイア』
「一瞬の隙をついたよい一撃だったな」
「シグナムさんのお陰ですよ」
シャマルが策敵を担当し、後方支援と指揮をとる。
指示に従う木場祐斗が、素早さを活かして、敵に先制攻撃を仕掛ける。
シグナムは、彼に合わせて、位置取りを変えつつ、敵を誘導していく。
誘導された敵は、木場祐斗と1対1の状況に持ちこまれ、切り捨てられる。
敵が揃う前に進撃していき――『兵士』3名、『戦車』1名を撃破した。
(木場の実力をどうみる、シグナム)
(あの合宿で腕をあげたようです。こちらも援護しやすいですし、彼は鍛えがいがあります)
(鍛練と称して模擬戦をするつもりだな?ほどほどにしておいてやれよ)
◆
木場悠斗は歓喜していた。
シグナムに師事した合宿で、剣術の腕は、一つ上のレベルに到達したと断言できる。
それほどまでに、濃密で意義のある合宿だった。
何度も何度も模擬戦でぶちのめされ、こいつバトルジャンキーじゃね?とぼやいたりもしたが、実力はめきめきと上がっていた。
とくに、はやての幻想世界による特訓はよい経験だったといえる。
「ふっ!」
剣で相手と打ち合う。
以前だったら真っ直ぐ剣を振るだけだったが、いまの木場は違う。
フェイントを混ぜ、わざと隙を作って相手の攻撃を誘う。
「隙ありっ――えっ」
「もらった!」
案の定、罠にかかった相手の首を落とす。
首から血しぶきをあげながら倒れ伏す身体をみて、思う。
グロい。とにかくグロい。
これで死なないというのだから、悪魔の技術力はすごいな、と場違いな感想をもつ。
思考するだけの余裕が、彼にはあった。
「木場、そっちに誘導するぞ」
この試合の主役はあくまでグレモリー眷属。
リアス・グレモリーの技量を見せつけるためにも、グレモリー眷属が矢面に立った方が何かと都合がよい。
シグナムは木場と敵が一対一の状況になるよう誘導し、木場は目の前の相手を倒すことに集中できた。
連戦になるが、地獄のような特訓をくぐりぬけた彼には、何ともなかった。
つらつらと考えつつも身体は勝手に動いてくれる。
いつの間にか周囲に敵の姿はなくなっていた。
「あとは、生徒会室に乗り込むだけだ。勝ったな」
不適な笑みを浮かべるも、戦闘中に油断するな、慢心するとは何事か!とシグナムに切りかかられて涙目になる木場悠斗だった。
◇
次に、正面玄関から突入した塔城子猫たち。
防御寄りだが、攻防のバランスがとれた塔城子猫は、真っ向勝負に強い。
同じく攻守のバランスがとれたヴィータが、彼女を援護する。
ザフィーラは、彼女たちに邪魔が入らないように、防御に徹する――正攻法に強いチームだ。
「喰らいな。テートリヒ・シュラアアーク!」
「ぐうっ、動け動け!固まるとまとめて撃破されるぞ」
「貰いました!」
『ライザー・フェニックス様の「騎士」1名、リタイア』
ヴィータが特攻し、相手を分断する。
あわてて散開した敵を子猫が奇襲する。
「くっ、舐めるな!」
「手出しはさせん。守りは任せろ」
破れかぶれの攻撃も、ザフィーラの防御を抜くことはできない。
「よし。分断したぞ。子猫っ!」
「よっ、とっ!まだまだ!」
「こんなところで……」
「きゃあっ」
『ライザー・フェニックス様の「兵士」2名、リタイア』
ヴィータが突撃し、侵入路を確保する。
塔城子猫が後に続き、ザフィーラが、彼女を守る。
敵をヴィータが分断していき、塔城子猫が各個撃破していく。
ザフィーラは、状況に応じて両者を援護する。
その繰り返しだ。
堅実だが確実に進み――『兵士』3名、『騎士』1名、『僧侶』1名、『戦車』1名を叩きのめした。
(怪我はないかい?ザフィーラ、ヴィータ姉)
(無傷です、主)
(大したことない奴ばっかりだな。子猫の方が、よっぽど強ええぜ)
◆
体が軽い…
こんな幸せな気持ちで戦うなんて初めて…
ヴィータ、ザフィーラの援護により、順調に撃破スコアをあげていく。
ただ、一つだけ難点をあげるとすれば……グロイ。
塔城子猫は首から血しぶきを上げる敵の首なし死体を見て思う。
とにかくグロイ。
合宿で、現実世界では、「非殺傷設定だから大丈夫」という言葉のもと、死ぬような特訓を受けつつ死ねなかった。
幻想世界では、「何度死んでも蘇るから大丈夫」と言われ、攻撃を受けると無駄にリアルな死体が出来上がった。
だから――
「もう何も恐くない――――!」
――スターライトブレイカーをぶち当てたことで出来上がった、吐き気をもよおす凄惨な殺人現場を前にして、自前のグロ耐性に感謝する子猫だった。
後書き
・もう何も怖くない。首ちょんぱされるのは敵でした。南無。
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