リリカルなのは~優しき狂王~
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第五十九話~見え始めた終幕~
前書き
しばらく投稿が空きました。
更新を待っていてくださった方には感謝を。
更新が空いた理由といたしましては、学校の試験やバイトが忙しくこちらにまで手が回らなかったのが一点。
そしてこの作品ともう一つ新しく書き始めた作品に興が乗ってしまったのが原因です。
前者はともかく後者は自分勝手な理由なので申し訳ないです(ーー;)
では本編どうぞ
ゆりかご・聖王の間
ヴィヴィオに言葉を告げると、ライは無言でCの世界との接続を行う。その為、再び脳とリンカーコアに痛みが走る。
同時に、ライはヴィヴィオに向けて言い放つ。
「ヴィヴィオ、少し我慢して欲しい」
身体が勝手に動こうとするのを必死に抑えているヴィヴィオ。彼女はライの言葉に苦しそうな表情を浮かべながらもしっかりと答えた。
「ガマン………する……パパと一緒に帰れるならっ」
ヴィヴィオは今浮かべられる精一杯の笑みを浮かべて、ライに答える。そしてその子供からの期待に応えるべく、ライは行動を開始した。
と言っても、何か特別な事をするわけでもなく、ただ無防備に一歩一歩着実にヴィヴィオに向かって歩くだけ。傍から見れば正気とは思えないライの行動にヴィヴィオは驚きの表情を浮かべる。
「パパ?!」
そんなヴィヴィオにライは大丈夫という意味を込めて微笑む。
すると、とうとう抑えが効かなくなったのか、ヴィヴィオがライに向かって虹色の魔力塊を放つ。
その光景に思わずヴィヴィオは目をつむってしまう。
だが、ライはパラディンをヴァリスからMVSの形態に変化させ、それを両手で柄を掴み振りかぶる。
自身の身の丈ほどある魔力の塊が迫る中、ライは少しも動揺せずにMVSの刀身に魔力を纏わせる。
「フッ!」
自然と口から出た声と同時にMVSを下から切り上げる。だが、刀身が接触する前に纏った魔力が干渉し、砲撃を持ち上げた。
軌道が逸れた砲撃はそのまま進み、ライの背後の壁に直撃する。
その着弾の音にビクついたヴィヴィオは恐る恐ると言った風に目を開けた。彼女の目に映ったのが、目を閉じる前と変わらないライの姿であることに彼女は安堵する。
そして似たようなやり取りを数回繰り返し、とうとう2人の距離はお互いが手を伸ばせば届く距離となっていた。
「ハァ…ハァ…」
近づいたことで、ライはヴィヴィオが操られていることに必死に抵抗しているのが見て取れるようになる。そんな彼女がとても愛おしく感じている辺り、自分もルルーシュのシスコン振りを注意できないな、と内心でライは苦笑した。
幼い子供は他人の雰囲気に敏感である。ヴィヴィオも肉体は大人であっても精神的には子供である為、それは同じであった。その為、ライが何かを可笑しく感じていることを察する。
「パパ?」
今の状況でなぜそんな顔をするのかヴィヴィオには分からなかったが、目の前にいる自分にとっての大切な人が助けてくれる事に疑問を抱く事も、疑うこともしなかった。
「ヴィヴィオ、次に目が覚めた時には全部終わっているはずだから」
ライはそう告げると、徐ろにバリアジャケットもデバイスもすべて解除する。そして魔力を伴わない手でヴィヴィオの顔に手を伸ばす。敵意も魔力も篭っていない手に聖王の鎧は反応せず、ライの手は彼女の頬を撫でた。
そこから感じる温もりの心地よさにヴィヴィオの心は弛緩する。
「今はおやすみ。君の悪夢はもう終わるから」
その言葉を紡ぐと、ライは頬に触れていた手を振り抜き、ヴィヴィオの顎を急激に揺らすことで彼女の脳を揺さぶった。
そして戦闘の防御面に関しては聖王の鎧に頼り切りであった彼女が、その衝撃に耐え切れるわけもなく、彼女は意識を落とす。
意識を失ったことで前のめりに倒れる彼女をライは抱くように受け止める。しかし、戦闘の傷と疲労で足がぐらつき、受け止めることに成功はしたがそのままライは尻餅をついた。
「っと………最後にこれじゃ格好がつかないな」
どこか自嘲気味にそう言うライであったが、その表情には安堵と達成感を表情から滲ませていた。
先程まで激しく、苛烈で、煌びやかな戦闘をしていたとは思えないほどに簡単な幕切れ。この戦いはある意味歴史に残るほど戦いであった。何しろ、次元世界のある意味中心である世界の今後を決める事件で会ったのだから。
だが、歴史に名を残す戦というものの終わりは得てして呆気なく終わるものである。
大きな戦い、戦争や紛争などでもたった一枚の調印で終結するようにこの2人の王の戦いは静かに幕を閉じた。
アースラ
ライがヴィヴィオとの戦いを終えた頃、ここアースラのブリッジでもようやくの落ち着きを見せていた。
押され気味であった戦線は何とか維持することができ、敵戦力の中核であった戦闘機人達も六課メンバーが取り押さえ、後は攻めて来ている残敵とゆりかご直下に配備されているナイトメアフレーム群の排除だけとなっていた。主犯であるジェイル・スカリエッティも先ほどなのはとフェイトの2人からの報告で確保に成功し、今ははやて達と合流しようとしている。
現時点で今回の事件の集結は時間の問題。もちろん今回の戦闘で多くの被害は出ているが、この戦闘の終わりが見えてために気持ちの余裕が生まれていたために、敵に押されていた時の悲壮感と焦燥感は拭われていた。
今、アースラのブリッジにいる六課のオペレーター陣はライから受け取った指揮系統を統括しながら事態収拾に勤しんでいる。
そんな中、1本の通信が飛び込んでくる。その通信は今回の事件で聖王教会側からの協力者であるシャッハ・ヌエラと聖王教会との個人的な繋がりを持ち、管理局の査察部に所属しているヴェロッサ・アコースの2人からであった。
この2人は今、ミッドチルダ市街ではなく、郊外にあるスカリエッティのアジトを抑えるために別行動を取っていた。
2人からの通信は施設の確保に成功したか、若しくは増援要請かと思われたが、その内容はひどく危険なものであった。
ゆりかご・聖王の間
気を失ったヴィヴィオを壁にもたれかけさせ、ライは聖王の間に備え付けられていた投影型コンソールのキーを叩く。
開いては閉じていく画面群。ライを中心に展開されるその光景は、中世を彷彿とさせるその部屋にはひどく不釣合なものであった。
(ゆりかごから聖王への魔力供給カット。動力炉の維持は最低限。目標高度は予定されている管理局側の増援の近くに再設定。AMFの展開中止。あとは―――)
ヴィヴィオを無効化したことでゆりかご側へのアクセスは不可能と思っていたが、モノは試しにとやってみたところすんなりとそれは可能となった。これは今現在もヴィヴィオの体内にはレリックが残っていることが原因とライはなんとなく予想していた。しかし今の自分にはそれを摘出することも、治療することもできない事も理解していた為、今は彼女に睡眠薬を飲ませ放置という形をとっていた。
因みに睡眠薬はデバイスの格納領域内に保存されていた、管理局武装局員の標準装備であるファストエイドキットの中にあったものである。ライも簡易ではあるが今は止血を行い、鎮静剤を飲むことで簡単な治療は行っていた。
(―――よし、操作できる範囲内での作業は終了。外部との通信回線は……これか)
ここにあるコンソールでゆりかごのコントロールをできるだけ行い、ライは今の周りの状況確認の為に通信回線を開こうとする。
これまではクアットロが他の戦場の映像を音声付きで流していたが、彼女をライが狙撃してからはその映像も途切れていた。もう一度同じ回線を開こうともしていたが、ライが狙撃した影響か、その回線は何故か使えなくなっていた為、わざわざ別のラインを引っ張ってくる必要があったが。
「こちらゲスト1、管理局機動六課聞こえますか?」
『…………ラ…く…?!……今、どこに……』
返事は帰ってきたが、それはノイズ混じりで酷く聞き取りにくかったが、聞こえてきた声はライの聞き覚えのあるものであった。
「その声ははやて?」
『……そう…!……今から…脱出するんやけど……そっちに……』
何か伝えようとして来た所で通信は途切れる。
通信が途切れたことでここに居る必要性が消えたため、ライもゆりかごを脱出するためにヴィヴィオを背負う。
そして、いざ部屋を出ようとしたところでその部屋に入ってくる姿があった。
「ライ君!ヴィヴィオ!」
入ってきたのはなのはであった。彼女はヴィヴィオを抱えるライを見ると、抑えていたものが溢れ出し、2人に駆け寄り抱きしめる。
「なのは?」
「良かった……良かったよぉ…………」
ライの胸に顔を埋めるようにして、なのはは嗚咽を漏らし始める。
ライは始めそれに驚くが自分が行方不明になっていたことをハタと思い出し、自分が今ここに生きて存在することをアピールするように、彼はヴィヴィオを支えながら片手でなのはの頭を撫でてやった。
数秒間その状態が続き、ライとしても心地よい感情があったが、状況が状況の為に早速口を開く。
「なのは、今の状況はどうなっている?」
「……えっと、スカリエッティと戦闘機人は全員逮捕して今は皆ゆりかごから脱出してる」
涙を拭いながらなのはは状況を説明する。彼女の説明によると今ゆりかご内に残っているのはライ、ヴィヴィオ、なのはの3人だけらしい。
クアットロの方にはフェイトが向かい、その持ち前のスピードで回収したとのことであった。
「なら、外の方は?」
「外は……その……」
「?」
「ナイトメアフレームの増援がこっちに向かっているって報告が……」
なのはの口から出てきた言葉にライは緩んでいた表情をすぐさま引き締める。
「スカリエッティのアジトを抑えた部隊が、戦闘機人を確保した後にアジトを調べていたら見つけたって。それでついさっきその機体群が急に起動してこっちに来ているって……」
尻すぼみになっていくなのはの言葉。彼女の雰囲気からライは彼女が説明しなかった部分を察したが、敢えて追求した。
「その規模は?」
「およそ……120機」
「フロートユニットは?」
「全機ではないけど、部隊の八割は飛んでるって報告があった」
彼女の報告にライは苦虫を噛んだ。
ここまでの行程で、ジェイルの方がこちらに有利な条件を出しているのは分かっていたが、これほどまでに出し惜しみしていたとは流石のライも予想外であったのだ。
「管理局側の増援は?」
「予定通りなら後30分で衛星軌道上に集結する筈だよ」
(遅すぎるっ)
管理局側の増援がどの程度の規模なのかは、ライも事前の調査で知っていた。そしてその増援が来れば時間は掛かるがナイトメアフレームの殲滅も可能であると考えている。だが、今地上で戦闘している部隊ではその30分の間で多くの死傷者が出ることもライは予想していた。
命を無駄に捨てなくても上手くいくように行ってきた、今回の事件での行動。たった1人でも出来ることはあると信じてきたが、それをせせら笑うように現実はライを追い詰める。
何かないかと必死に頭を働かせるライであったが、時間が経つに連れて増えていくのは焦燥感のみ。何もできない自分に辟易しそうになったその時、ある声がライの脳裏に響いた。
『やれやれ、童貞坊やの詰めの甘さが移ったのか?』
『C.C.?なぜ君が―――』
『そんな事はどうでもいい。それより話がある』
『今こっちはそれどころじゃ―――』
『まぁ、聞け。実はこっちで処分に困っているものがあるんだが』
自分の言葉に被せるように喋ってくる彼女に若干の苛立ちが募ったが、C.C.の言葉にライの反応が大きく変化する。
『―――と言うわけだ。だからそちらに送るからお前の方で処分しておいてくれ』
『C.C.……こっちの世界はゴミ箱じゃないよ』
『なんだ、捨てられて都合が悪いのか?』
ライの批判と呆れの籠った言葉にC.C.は誂うような言葉を返す。その見透かしたような言葉にライは内心でため息を着いた。
『ピーピングされる趣味は僕にはないよ?』
『失礼な奴だ。偶々見えただけだ』
証拠のない批判は受け付けないぞ、と言う態度にライは苦笑しか返せない。だが、C.C.の要望は願ってもないことである。ライにとっても、今の戦況にとっても。
『C.C.』
『なんだ?』
『ありがとう』
『……さて、私はお前にこっちの世界にとっての粗大ゴミを押し付けているだけだなのだがな』
あくまで惚けるような態度の彼女にライはもう一度苦笑をこぼした。
だが、一方的にやりこまれたままなのはライも不満があったため少しだけやり返す事にした。
『そう言えば、こっちの世界にも君のような魔女はいるよ』
『ほう、それはどう言う意味だ?』
若干怒りを含んだ声。ライはそんな彼女の声を聞いたあとに自分の切り返しにどんな反応をするのか期待する。
『まぁ、魔女というよりは魔法を使う人達なんだけど―――』
『?』
『君のように誰かを思いやれる優しいお人好しな人達だよ』
『なっ!』
可愛い声を漏らしたC.C.に満足しながら、ライは一方的に彼女との繋がりを切った。もう少し彼女の反応を伺いたかったが、真っ赤になった彼女の顔を簡単に想像できたので下手に追求される前に、ライは次の行動に移った。
「なのは、頼みがある」
そしてライは傍らの女性に話し始めた。
後書き
と言う訳で次回は対ナイトメア戦です。
え~~と今回疑問に思われるであろう増援の数ですが、消耗した部隊がナイトメアフレームを100機単位を相手するのは流石にきついと思ったので、この値になりました。
あと、ヴィヴィオとの決着あっさりしすぎと思う人も多いと思いますが、そんなにポンポンと新技出すのも変と感じたのでこんな感じの決着にしました。
では次回も更新頑張ります!
ご意見・ご感想をお待ちしておりますm(_ _)m
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