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戦国異伝

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第百五十二話 近江平定その五

「だからな」
「あえて追わずに」
「元の仕事に戻させますか」
「そうじゃ、あの者達は斬るな」
 武器を捨てて逃げるなら、というのだ。
「わかったな」
「はい、さすれば」
「この戦でも」
「向かって来る者達だけじゃ」
 あくまでだ、彼等だけをだというのだ。
「倒せ、よいな」
「はい、それでは」
「これまでの様に」
 将兵達も応える、そしてだった。
 彼等は果敢に向かって来る者達だけを倒す、その向かって来る者達も。 
 同じだった、灰色の者達ではなく。
 闇の服の者達だった、彼等だけだった。
「鉄砲か」
「弓矢も多いぞ」
「刀も槍も多い」
「全く以てな」
「長島と同じぞ」
「どういうことじゃ」
「ううむ、妙じゃのう」
 羽柴もだ、戦をしながら顔を顰めさせて言う。
「何故またこの者達がおるのじゃ」
「ですな、長島の時と同じく」
 秀長も応えながら言う。
「闇の服の者達がおり」
「刀や槍がよくてな」
「しかも鉄砲も多いです」
「今は鉄砲は使わせておらぬが」
 接近している、それで鉄砲も弓矢も使わせていないのだ。織田家にとっては不得手な斬り合い、突き合いだがそうして攻めているのだ。
「しかしな」
「はい、どうも」
「妙じゃな、一向宗にしてはな」
「おかしいですな」
「百姓ではなかろう、あの者達は」
 今目の前にいるその者達を指し示しての言葉だ。
「どう見ても」
「そうですな、どうも」
「忍に近いがのう」
 彼等の動きがというのだ。
「しかしそれでもじゃ」
「忍でもありませぬな」
「忍にしては数が多過ぎる」
 羽柴が最初に言うのはこのことだった。
「それにじゃ」
「しかもです」
「忍とはまた違う闘い方じゃ」
 それでだった。
「相手の隙を闇から伺う様な」
「身のこなしは近いですが」
「大抵の忍は逃げつつ闘うか」
 忍は忍ぶ、隠れるから忍者だ。だから逃げつつ闘うのが普通なのだ。それか。
「飛騨者達の様に術を使うか」
「どちらかです」
「しかしあの者達は術は使わぬ」
 忍術、それをだというのだ。
「そしてじゃ」
「しかもですな」
「忍の武器は使っておらぬ」
 それも一切である。
「忍者刀も手裏剣もな」
「そうしたものは一切ですな」
「全く使わぬ」
「ですから忍ではないです」
「では何者かじゃ」
「そこがわかりませぬな」
「百姓でないことはわかるがな」
 それでもだというのだ。 
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