戦国異伝
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第百五十二話 近江平定その三
「朽木殿もお心当たりがないですか」
「全く」
首を捻って返す朽木だった。
「どうにも」
「左様ですか」
「朽木の辺りにもおらぬ筈です」
「あそこまで武器のよい百姓達は」
「あれは百姓の武器ではありませぬ」
最早、というのだ。
「刀も槍も」
「そして弓矢や鉄砲も」
「そのどれもです」
百姓の持っているものではないというのだ。
「それにしてはものが良過ぎます」
「ですな、どう考えましても」
「まことに何者か」
「そこがですな」
わからないと話す彼等だった、そんなことを話してから飯を食い再びだった。
戦を行う、そして日が高くなったところで。
南南西の方から声がした、そこを見ると。
「おお、助かったぞ!」
「殿じゃ!殿の馬印じゃ!」
まずは信長の馬印が確認される。
「青い具足に旗じゃ!」
「しかも数が多いぞ!」
「殿が長島から来られた!」
「間違いないわ」
こう叫ばれるのだった、そうして。
森もだ、その大軍を見て笑顔で言った。
「皆よく生きていてくれたな」
「はい、生きてきたかいがありました」
「これで我等は」
「助かるぞ」
生きていたからこそだというのだ。
「皆な」
「では、ですな」
「これより」
最後の一踏ん張りをしようと決意してだった、そして。
彼等は奮戦し敵を退ける、それは軍を率いる信長も見た。
信長は城の方を見て笑顔で言った。
「よし、城は陥ちておらん」
「はい、当家の旗が立っています」
「無事ですぞ」
その信長に加藤と福島が応える。
「間に合いましたな」
「与三殿が」
「与三だけではないな」
城にいるのは、というのだ。
「猿夜叉もおるぞ」
「あの方もですか」
「おられますか」
「うむ、見よ」
信長は城の方を見る、すると。
青い旗の中に紺の旗もあった、それこそがだった。
「ちゃんとあるな」
「はい、ですな」
「それでは」
「猿夜叉が来て与三を助けてくれたのじゃ」
「小谷城から出られて」
「そして、ですか」
「よくやってくれたわ」
青い旗に混ざって翻る紺の旗を見ながらだ、こうも言う信長だった。
「あ奴がおらねば宇佐山城は陥ちていたやもな」
「ですな、まだ詳しいことはわかりませんが」
「そうなっていたやも」
「猿夜叉がいてくれてよかったわ」
長政、彼が生きていてだというのだ。
「さもなければ与三も城もな」
「陥ちて、ですな」
「そうして」
「皆死んでおった」
信長はあえてこの最悪の事態も言った。
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