ゲルググSEED DESTINY
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第九十六話 小夜啼鳥は死を招く
『冗談じゃないぞ……』
ストライクEに乗っていたネオは悲痛な声で絞り上げるかのように口から言葉を零した。ネオ・ジェネシスの発射は事前に予想していたことだ。だが、それが発射されるまでのインターバルのずれが策を崩す致命的な要因になった。
即ち、ガーティ・ルーの沈没。ネオ・ジェネシスの攻撃によって隠蔽しつつメサイアへと接近していたネオ達の艦は蒸発したのだ。そして、クルーがランチで脱出したのか、また仮に脱出したのだとしても今の攻撃によって落とされていないかどうかもネオには分からなかった。
『クソッ、始めから謀られてたって事かよ!』
おそらくガーティ・ルーの存在は既に露見していたのだ。だからガーティ・ルーごとネオ・ジェネシスで薙ぎ払った。騙されたという意味でも、上手く対処を成されたという意味でも彼らは完全に謀られていたと言える。
『ここからじゃあまともに情報も得られねえ……リー達は無事なのか?』
ガーティ・ルーのクルーの安否と、メサイア攻略の為にどうにかする手立てはないかを考える。思いつくのはまともに策とは言えないような考えばかり。今のネオには手札が足りないのだ。
エミリオやアウルとは別行動。切り札のガーティ・ルーは沈没、周りの味方とも敵とも言えないフリーダムやザフトは自分で切ることの出来ない札。今残されている唯一切れる手札は己の身一つだ。
『いっその事、この身一つで特攻でもかますか?』
「まあ、まず成功しないだろうね。だけど、可能性は零じゃない……故にその脅威、ここで落とさせてもらうとしよう」
そう言って突如ネオのストライクEに攻撃を仕掛けてきたのはジュール隊を突破したクラウだった。撃ち放たれるビームライフルの威力は桁違いに高い。ネオはその攻撃を翳める程度にまで躱したのだが、余波とも言えるビームの微粒子がストライクEの肩を若干ながらも融解させる。
『ムウさん!』
『だから……俺はネオ・ロアノークだっつうの!』
ストライクフリーダムのパイロットであるキラが安否を問い、ネオはそれに一々訂正を入れる。そんな軽口を叩きつつもネオは相手の攻撃の威力を脅威と判断して下がる。
『また貴方か!いい加減に――――』
「しつこいのは嫌われるって言いたいのかい?ま、同意はするけどね。生憎と、みすみす君らを見逃すわけにもいかないのさ」
クラウはゲルググのビームライフルで攻撃を続ける。その火力の高さにキラは驚愕した。
『まさか、その機体も!?』
ハイパーデュートリオンなのかと疑うキラ。実際、放たれるビームのエネルギーはストライクフリーダムのビームライフルを連結させて放つロングレンジ・ビームライフルすら上回る出力だ。
(武器を最小限に減らすことで武装一つ一つの火力を高めているのか?ならシールドへのエネルギー配分率の変更……このまま接近戦で!)
『下がってください!僕が落とします!!』
銃撃戦のビームが脅威であるならば接近戦を仕掛ければいい。相手のビームナギナタの出力も上がっているだろうが、ビームシールドのエネルギー配分を切り替えたことで、そうやすやすと突破される事はないだろう。もし仮に突破されたとしてもそれを躱す自身がキラにはあった。
「流石だな、スーパーコーディネーター。だが己のその傲慢さを後悔するがいい」
近づく瞬間を狙ってビームライフルが放たれる。回避ルートを予測しつつ放ったその攻撃をキラはビームシールドで防いだ。しかし――――
『そんなッ!?ビームの出力が……こんなに高いなんて!』
キラは自身が想定していた以上の火力に驚愕する。これまで戦ってきた機体のどの砲撃よりも出力が高い。もはや艦砲クラスといっても過言ではない威力だろう。このまま戦闘を続けたのではビームシールドが抜かれる。そう判断してキラはドラグーンを射出し、光の翼を展開させることで高機動戦に切り替え攻撃を受けるのではなく躱すことに徹する。そのまま接近し、今度こそビームサーベルを振り抜いた。
「賢しいな、接近戦なら勝てるとでも思っているのか?それともまたドラグーンで撃ち落とす?甘いと言わせてもらおう」
シールドで攻撃を防いだクラウは、そのままストライクフリーダムを弾き返す。
『なんてパワーだ!?これは一体!』
出力の差があり過ぎる。ストライクフリーダムの出力は現行のMSの中でもトップクラスの筈だ。そのストライクフリーダムが真っ向からの衝突で押し負けた。それでもキラはドラグーンによる攻撃でリゲルグを撃ち落とした時のように撃ち抜こうとする。
「そう何度も、同じ手は喰らわん!」
ドラグーンの攻撃を躱し、逆に軌道を読んで撃ち落とす。それだけにとどまらず、キラの動きに追従して逆にナギナタで攻撃を仕掛けた。
「量子インターフェースが単調なんだよ!何度も使ってるなら、その軌道くらい読み切れるさ!!」
クラウの本職はパイロットではない、技術者だ。故に、彼の戦い方は機体を知ることで初めて本領を発揮する。先の戦闘時におけるリゲルグでの戦いは、あくまでもその軌道パターンを読むための情報収集に過ぎなかったのだ。その為に自機含めた二十五機もの機体を犠牲にしたが、その程度の対価ですむなら安いものである。
地上のオーブ戦のデータも含め、今のクラウの頭の中にはストライクフリーダムの動作パターンをほぼ総て把握していた。
「技術者には技術者なりの戦い方がある――――悪いけど、勝たせてもらう!」
◇
「見苦しいな、アスラン。例え君ほどのパイロットであっても私とこの機体を落とすことは出来ないことなど分かっているだろう?」
『グゥ……だとしても、そう簡単に落とされるつもりはない!』
議長のナイチンゲールとアスランのセイバーによる戦いは、終始ナイチンゲールが圧倒していた。パワーも機動性も装甲も、ありとあらゆる面でナイチンゲールがセイバーの性能を上回っている。セイバーの優位点である近接戦での武装の多さも、議長自身の卓越した技量によって呆気なく防がれていた。
「それが人の限界だ。人が人の枠を超えない限り、私に勝つことは出来ない」
ナイチンゲールがセイバーの右腕を切り裂く。アスランはその切り裂かれた右腕を左手で掴みとり、牽制がわりに投げつけた。
『そんな傲慢な理屈で……まるで自分が人を超えたとでもいうつもりか!』
だが、その牽制も議長の乗るナイチンゲールを前にしては大した意味をなさない。ただの質量のある物体が投げつけられた程度では機体がダメージを受けるはずなどなく、視界を遮る程度の役割しか果たすことは出来ない。
「ああ、私自身が人を超える。それもまた一つの選択肢として存在しているとも」
何たる傲慢、何たる自身――――圧倒的とも言えるその性能に違わない議長の大言が余計にアスランの神経を逆なでさせる。はたしてそれすらも議長は計算していたのか。その一瞬の苛立ちによって生まれた隙を議長は逃すことなくセイバーの両足を切り落とした。
『しまった!?』
「これで終わりだ」
万事休すかとアスランは悔しさで顔を歪めながら歯を食いしばる。
(また俺は何もできないままに終わってしまうのか。自分で止めることが出来ず、間に合わず、他人に任せる事しか出来ないままに落とされるしかないのか!)
だが、結果はアスランの死ではなく、横合いから放たれたビームの攻撃による妨害だった。その突然の攻撃を議長はシールドで防ぐが、同時にセイバーを逃すことになった。
「やはりそうやすやすとは取らせてもらえないという事か」
『ヘッ、目の前で討たれそうな機体があるとなりゃあ、宇宙一のジャンク屋として手を出さないわけにはいかねえな』
そう言って現れたのはタクティカルアームズIILをアローフォームにして構えていたレッドフレーム改であった。そしてナイチンゲールの後方からレッドフレームと同様にタクティカルアームズIIのソードアームを構えたブルーフレームセカンドリバイが叩き切ろうとする。
『貰った!!』
「それはどうかね?」
その不意を突いた攻撃をナイチンゲールは振り返る事もせずにビームトマホークを持っている方の腕を後ろに回して、そのまま受け止めた。
『共にダンスを踊るものとして一対一でないことは心苦しく思うが、これはどうかね?』
そう言って現れるのはミラージュコロイドを使いブルーフレーム同様に近接戦を仕掛けに来たゴールドフレーム天ミナによるものだ。ゴールドフレームの構えるトツカノツルギは寸分違わずナイチンゲールの関節部を貫こうとしている。ナイチンゲールはブルーフレームのタクティカルアームズIIによる攻撃によって、ゴールドフレームの攻撃を躱す為に動くことは出来ない。
「見事な連携だ。しかし、狙いが容易いとはいえ正面から仕掛けるのは無謀だと言わせてもらおう」
関節部が最も露見するのは正面だとは言え、ナイチンゲール相手に真っ向から攻めて来たのは議長の言うように無謀と言えた。隠し腕から現れたビームサーベルがトツカノツルギを切り裂いたのだ。構造上、堅牢とは言い難いトツカノツルギだが、それでもあまりにも呆気なく切り裂かれたことにアストレイに乗る三人は目を見張る。
『下がれ!その機体は普通じゃない!!』
一拍遅れてアスランが警告する。見事な連携による攻撃にアスランは何時声を掛けるべきか迷っていたのだが、この時点で失敗したと感じていた。躊躇せずにすぐにでも下がるように言うべきだったのだ。
「甘いな――――ニュータイプは数では倒せん」
腹部の拡散ビーム砲が火を噴く。その攻撃はゴールドフレームに命中した。
『無事か!?』
「ほう、やるな……」
しかし、寸での所でオキツノカガミによるビームシールドと攻盾システムのトリケロス改を正面に構え、両腕を交差する様に防御することで撃墜は免れていた。ロウは安否を確かめるかのように叫び、議長は感心したかのように呟く。
『中々に心躍るものではないか――――ここまでして一撃も与えれないとは』
だがゴールドフレームも無傷では済まなかった。近距離で放たれたが故に拡散ビームはその殆どがゴールドフレームに命中することになり、圧倒的ともいえるその火力はビームシールドを突破していたのだ。左腕は損傷し、右腕のトリケロス改による防御が無ければコックピットを撃ち抜かれていたとしても不思議ではなかった。
ミナと劾の劣勢を悟ったロウはアローフォームからフライトフォームへと切り替え、ガーベラ・ストレートとタイガー・ピアスを抜き放って斬りかかる。
『こいつはどうだ!!』
その動きを見た劾も合わせようとブルーフレームを一旦引かせてタクティカルアームズIIを右手に握り直し、左手から腰のアーマーシュナイダーを抜く。
『頼りにさせてもらうぞ、ロウ!』
二機の前後からの同時攻撃。隠し腕による攻撃も腹部の拡散ビーム砲も既に確認している武装だ。不意を討たれることはない。ミナも距離を取り直しつつトリケロス改からビームを放つ。だが――――
「あえて言わせてもらおう、当たらなければどうという事はない!」
牽制程度のミナのビームは機体をずらす程度の動きで躱し、ロウのガーベラ・ストレートとタイガー・ピアス――――その二刀の攻撃を下に移動し、そして微妙な距離で後ろに下がる事で翳めることもなく避ける。
そこを突いて劾のタクティカルアームズIIは横薙ぎに振るわれた。しかし、その攻撃も反転しつつ機体を斜め後ろに傾けることで躱してみせた。そのまま劾は左手に持つアーマーシュナイダーで貫こうとするが反転しきったナイチンゲールは隠し腕でその腕をつかみ取る。
『休む暇など与えんよ』
だが、つかみ取ったという事は動きを止めたという事だ。劾の技量であれば掴まれた状態から敵に振り回されることなく、逆に敵の動きを抑えれる。そう信頼してミナは右手にもう一本のトツカノツルギを握りつつトリケロス改からビームセイバーを展開し、損傷している左手はツムハノタチを展開させて斬りかかる。
『そこだ!』
それに合わせるのは当然ロウだ。二連の攻撃を躱されたからと言って簡単に追撃を諦めるような男ではない。
「だがそれでも私には勝てぬさ」
『――――ああッ!?』
アスランは目の前で起こった出来事が信じられなかった。両足を失ったセイバーは操縦があまり利かなかったが、それを発見したアメノミハシラに所属しているのであろうM1Aアストレイの部隊によって引き下がらされていた。だが、僅かに離れたナイチンゲールとアストレイ部隊の戦いの結果は、思わず叫んでしまうほどに信じられないものだった。
『嘘だろ……8、何とかならねえのか!?』
『グッ、無様なものだな……』
その攻防は一瞬だった。いや、寧ろ刹那と言い換えても良いかもしれない――――レッドフレームとゴールドフレームが攻撃を仕掛けるその直前に、ナイチンゲールはブルーフレームをその桁違いのパワーによって隠し腕の一本で振り払い、ゴールドフレームをビームトマホークによって、そしてレッドフレームとブルーフレームをナイチンゲールの肩から取り外された数基のドラグーンによって見るも無残な姿に変えたのだ。
腕が切り裂かれ、頭部を焼かれ、胸部を損傷させられた。命が助かったのは偏に彼ら自身の技量と悪運によるものだろう。
「小夜啼鳥は死を招く――――君達のような王道から外れる者に、この舞台を上がる資格はない。だが、その実力は本物だ。まさか三人とも生き延びるとは思いもしなかった。故に、その誇りと実力に免じて命までは取らないでおこう」
『情けを掛けるつもりか……!?』
劾はそう叫ぶ。確かに腕を失いはしたが、まだ戦えないわけではない。それどころかここで取り残せば必ずや再び相対することになるだろう。
「私は本質は兵士や戦士ではない。人を殺すことは私の本分ではないのだよ」
だが、議長にとってそんな事は関係ない。そう言って議長は彼らに止めを刺すことなく、再び戦場へと駆けるのであった。
後書き
クラウのターンの筈だったんだけどね……何故か議長の方が活躍してるね。ま、いっか。
あと、いい加減サブタイトルが適当。いや、これは前からだな。
おまけ
クラウ「バレンタインデー?やだなぁ、プラントにチョコを贈る文化なんて――――」
マーレ「あるぞ」
クラウ「え?」←チョコ0個
マーレ「いや、だからあるぞ。チョコレートを貰う文化」←チョコ7個(基本MS乗りはモテる)
議長「ああ、ついでにホワイトデーもあるな」←チョコ13個(タリアのチョコは保存済み)
クラウ「え…………」←チョコ0個(大事な事なので二回言いました)
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