| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

とある碧空の暴風族(ストームライダー)

作者:七の名
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

新たなる力へ
  Trick63_ムサシノ牛乳

その後、滝流と紗和琥が用意した昼食を、特別メニューの白井も合流して食べて練習を続けた。

全員が数度転ぶ程度で100mを歩ける頃には15時となっていた。

「皆様。そろそろ15時、午後3時の自由時間になります」

滝流から次の時間が来る事を報告された。

「はぁ、はぁ、はぁ。た、滝流さん・・・自由時間は・・どう過ごしてもいいんですか?」

「はい。私はそのように窺っております」

息を切らせながら、御坂は確認をした。

「旅館内には温泉も用意しています。疲労回復、打ち身擦り傷などの軽い怪我にも
 効能があります。そちらに浸かるのも良いと思いますよ」

「お、おんせ、ん」

一番に反応したのは、意外にも美玲だった。

「温、泉ということは、温泉卵もあるのですか!? とミレイは目を輝かせてみます」

「あんた、ブレないわね」

腹ペコキャラが反応しただけだった。そんな美玲に間髪いれず美琴の突っ込みを入れる。

「温泉とは魅力的ですわ」

「わたくし、旅館の温泉に入った事がありません。すごく興味があります!」

「汗を流すのにいいかもしれません。婚后さん、ご一緒にどうですか?」

湾内と泡浮の2人は温泉に婚后を誘ったが、婚后の表情は曇っていた。

「・・・いいえ、わたくしは今は結構ですわ」

「こ、婚后さん?」

「なんだかスッキリしませんの。もう少し汗を掻いてから温泉には浸かりますわ。
 泡浮さん、湾内さん、わたくしの事は気にせずに先に入ってください。

「ですが・・」

「大丈夫ですわ。わたくしは婚后 光子ですのよ?」

「はい」「わかりましたわ」

「「お先に失礼します」」

訓練はあと2日もある。

初日に無理をして残りの日に影響を与えてしまえば元も子もない。
湾内たち2人は休む事を選び、礼をして旅館へと歩いた。

「雪姉ちゃん、大丈夫? そろそろキツイでしょ?」

「はぁ、ぁは、は、はぁ、ちょっと、休む。・・琴ちゃんは?」

「温泉入ってきたら? 私は自主練習を続けるけど。
 自由時間からだ、何してもいいでしょ」

「あ、そっか・・・
 私も、まだ、・・・もう、少し、だけ」

「無理に私に合わせなくても」

「別に、琴ちゃんに、合わせているわけじゃ、ない。
 もし、琴ちゃんが終わっても、私は続けていたと思う」

「わかった。玲、あんたは?」

「私も続けますが一度休憩に入ります、とミレイは雪姉さまに肩を貸して移動します。
 どうぞ、雪姉さま」

「ありが、と」

「私、もうちょっと≪歩く≫の練習してくる。
 玲、ちゃんと雪姉ちゃん見張っといてよ」

「イエスマム、とミレイは軍隊風の返事をします」

美玲に任せて、美琴は練習を再開した。

「婚后、さんは、どうする?」

「せっかくですし、美雪さんと一緒に休憩をしてお話しさせていただきますわ」

「♪」

婚后も美雪と美玲がいる木陰に入って腰を下ろした。

しばらく休み、美雪はようやく息を整えた。

「そういえば、婚后さんはなんでA・Tをしたいと思ったの♪?」

「理由は2つ、ありますの」

「ほうほう♪」

「なんだか楽しそうですのでミレイは黙って聞きます、とミレイは沈黙に徹します」

「1つ目は単純に友人の力になりたいからですわ」

「湾内さんと泡浮さん♪?」

「そうですが、彼女たちだけではありません。
 今回の一番の理由は御坂さんです」

「琴ちゃん♪?」

「ええ。わたくし、昨日の模擬戦を校舎から拝見していましたの。
 その時、御坂さんが負けて、信乃さんにお願いするところも見ましたわ。

 ここ数日、御坂さんは何処か追い詰められたような雰囲気を持っていました。
 案の定、今日の御坂さんはどこか焦ったように練習をしてますわ」

「うん、それは私も思った・・・」

「ですから、もし何かあった時に兄姉に相談し辛いことでも、友人であれば話せる事が
 あると思いますの」

「うん、そうだね・・距離感が近すぎると話せない事ってあるもんね」

「ですから、御坂さんが困った時にすぐに手伝えるようにしたかったのですわ」

「ありがとうね、婚后さん♪
 あなたのような人が妹の友達だと姉としてとても嬉しい♪」

「/////いえ、別にわたくしは感謝されたくてこのような事をしているわけでは・・コホン」

照れて顔が赤くなったのを自覚し、話を戻すために咳払いをした。

「2つ目の理由ですが、単純にわたくしがA・Tに興味を持ったからですわ」

「昨日の模擬戦を見たから♪?」

「はい。あの方の事は湾内さんが誘拐されたときを含めて話は伺っていましたの。
 それで軽く興味を持っていた程度でしたが、昨日の模擬戦からは
 強い興味を持つようになったのですわ」

「私もね。同じなんだ♪ 小さい頃から信乃はA・Tが好きだったの♪
 話を聞いていて、信乃と一緒に飛びたいなって、ずっと思っていて♪
 そしたら模擬戦ですごいことしちゃって、もう我慢できなかった♪
 昨晩にお願いして今こうしているの♪」

「そうでしたの」

「ミレイはてっきり、信乃にーさまを取られると勘違いして
 急いで練習に参加したと思っていました、とミレイは心中穏やかではありませんでした」

「玲ちゃん、そんな勘違いしていたの♪?
 信乃の行く所だったら、私はどこまでもついて行くってだけだよ♪」

「なっ////!? 美雪さん、そう言った事を口にするのはどうかと////」

「あははは//// 自分で言っていて恥ずかしくなってきた////」

美雪と婚后、両者とも顔を赤くして俯いてしまった。

「////は、話を戻すね♪
 婚后さん自身もA・Tに興味を持った、でいいよね♪?」

「ええ。ですが信乃さんの3日という期限を考えると、教えるつもりはなさそうでわ。
 今やっているのは合格できない試験でしょう。
 ですから、わたくしは合格できずとも3日間でどこまでできるかを試しているだけですわ」

「? 合格できるでしょ? だって佐天さんの場合は・・・・・あ、やっぱり言えない♪」

ガク

婚后と美玲は同時にズッコケた。

「な、なんですの!? 途中でやめずに最後まで仰ってください!」

「その通りです。最後までやめずに最後まで仰ってください! とミレイは復唱します」

「ゴメンゴメン♪
 でもね、言えないの♪ ううん、言ったら意味がないと思う♪」

「どういうことですの?」

「禁則事項です♪」

「そんな某未来人風にいっても可愛いだけですよ、とミレイは可愛いは正義を
 陰ながら主張します」

「やった♪ 誉められた♪」

「そうではありません!」

「婚后さん、落ち着いて聞いてほしい」

「・・・なんですの?」

「この試験、難題だと私も思う。でも無理じゃない。
 信乃は心の底から気に入らないなら、試験も受けさせずに拒否する。

 それをしないってことは、可能性が残っているよ」

「・・・・」

美雪の真面目な話し方に、婚后は困惑した。

信乃に対して婚后は良いイメージを持ってはいない。
最初に会った時は、事件現場に置き去りにされた。
2度目は自分の水着を誉めずに、エカテリーナちゃんだけを誉めていた。そのうえ料理について説教を受けた。
3度目以降は常盤台中学の修理中にすれ違い、挨拶を無視された。

良いイメージどころかマイナス要因が多い。

だが、自分は人を見る目があると自負している。
信乃は素直ではない。性根は良い人間だと思う。

友人の美琴は信乃を慕っている。湾内も他人以上の好意を持っているはずだ。
気に入らないが、悪い人ではない。と婚后は思っている。

「・・・・わかりましたわ。美雪さんがそこまで仰るのなら、深く追求はしません。。
 そしてA・Tを体験できればいい、などという適当な考えではなく本気で試験を
 合格するつもりで挑みますわ!」

「「おお~!」」(パチパチパチ)

美雪の言葉を受け入た婚后は改めてやる気を出し、その宣言に美雪と美玲は拍手を送った。

「そうですわ美雪さん! 今回の試験は経験者の≪こがらすまる≫の人たちには
 聞いてはいけないと言われましたが、わたくし達同士で協力してはいけないとは
 言われていませんの」

「あ、そうだ♪ たしかに言われていない♪」

「ではルールの隙をついて、ここにA・T初心者同盟を結びましょう、
 とミレイは提案いたします」

「わたくしも同じことを考えてましたの。どうでしょう、美雪さん?」

「はい、よろしくお願いします♪」

3人は右手を重ねて円となり、微笑みあった。

「では後で湾内さんと泡浮さんを誘う事に致しましょう」

「あとは琴ちゃんだけだね♪ 琴ちゃ~ん、少しこっちに来て~♪」

美雪は今も≪歩く≫の練習をしている美琴を見て、その背中に向けて呼びかけた。

「なに、雪姉ちゃん?」

ヨチヨチながらも、美雪がいる木陰へと美琴はきた。

「今回の試験、A・T初心者同盟を組んで合格を目指そうって話をしてたの♪
 だから琴ちゃんも「待って雪姉ちゃん」 琴ちゃん?」

「・・・ありがたい話だけど、その同盟に私は入らない」

「!? なぜですの?」

「んー・・・そういうの否定する気は無いのよ。
 みんなで一つの目標を成し遂げようってのは立派だと思うし。

 でも、今回は自分の力で合格したいかな、と考えているの」

「御坂さん、なんだか嬉しそうですのね」

「そうかも。私、何か難問とか壁にぶつかったら、全力を出して乗り越えたくなるのよ」

「お姉さまは“壁好き”(クライマー)ですね、とミレイは信乃にーさまからの情報を披露します」

「クライマーとはなんですの?」

「困難や難問にあたった場合、それを見せ場と認識して喜ぶ人たちの総称です、
 とミレイは概略を説明します」

「そうね、それで言ったら私はクライマーね。
 困難や難問って、乗り切ったときの快感が好きなのよ。
 立ち上がった時の自分が誇らしく思ったりもするしね」

「なるほど。お姉さまはやはり壁馬鹿(クライマー)です、とミレイは確信を持ちます」

「なんかさっきとニュアンスが違う気が・・・」

「気のせいです、とミレイはしれっと答えます」

「とにかく、私は同盟には入らないわ。自分の力で乗り切ってみせる!」

「そっか・・・・わかった、応援する♪

 でも琴ちゃん、間違えないでね。優先順位は何か、間違えないでね」

「えっと、うん」

美雪の意味ありげな発言に、美琴は唾を呑んだが、一応は肯定を返した。

「さて♪ 時間は有限だし休憩はここまでにしよう♪
 って言っても私が一番疲れていたから、お前が言うなって感じだけどね♪」

美琴、美玲、婚后は頷いて練習の為に立ちあがった。



―――――


「只今の時刻は17:50です。皆様、そろそろ自由時間が終了します。
 18:00には信乃様がA・Tを回収します。
 
 くれぐれも時間にはお気を付け下さい」

再度の紗和琥の時間報告。夢中で練習をしていた4人は足を止めた。

「もう・・・そんな時間?」

「夢中になっていると早いね♪」

1日目の自由時間を全て練習に費やした4人。
紗和琥の言葉でようやく片づけを始めた。

「結局≪歩く≫が完全に出来たのは雪姉ちゃんだけだね」

「でも、玲ちゃんも琴ちゃんも婚后さんも、コツを掴み始めているでしょ♪
 歩き方が安定し始めているよ♪」

「そうですわね。紗和琥さん、A・Tと防具はどのようにしたらよろしいのですか?」

「私の方から信乃様へお渡しします。

 お疲れと思いますので温泉に案内します。
 着替えなどは私が準備いたしますので、気兼ねなくお楽しみください」

「あら、そうですの。それではお願いしますわ」

「お願いしまーす♪」「お願いします、とミレイは疲労した体を引きずります」

「はい、こちらへ」

紗和琥の案内で歩き出した所に、2人の人影が近づいてきた。

「ん?・・・・あ、佐天さんだ!」

「あら、本当ですわ。そう言えば≪こがらすまる≫は先に訓練をしていると
 西折さんが言っていましたわね」

「訓練と言うか合宿ね♪ 合宿は夏休み入ってからすぐに始めていたって♪」

「え!? たしかに夏休みに入ってから佐天さんに会ってないけど、
 ずっとA・Tやってたの!?」

美琴の驚く声に、向こうから歩いてきた佐天と黒妻が気付き、佐天は手を振った。

「お~! 御坂さん達だ! 久しぶりで~す!」

「そういや、信乃が合流するのは今日だったな」

近づいてくる2人は≪小烏丸≫に正式に入った佐天と黒妻。
改めてみると、2人の雰囲気は少々変わっていた。

黒妻は腕の筋肉が以前より増した気がする。
A・Tの練習だからと言って足だけを使う訳ではない。
むしろレベルが上がれば上がるほど、全身を使った(トリック)は増える。

黒妻も佐天も合宿の特訓から全身が鍛えられていた。

特に佐天が変わっていた。

熱いために、白いTシャツの裾を縊り、へそを出して体の熱が放出できるようにしている。
下は短パンで丈が短い。腹出しのスタイルと合わせて女子陸上選手に見えた。

お腹も以前に水着で見た時よりくびれた感じがあり、
足もカモシカのような足と言えるほどになっていた。

4人は一瞬、佐天に見惚れるがすぐに正気を取り戻した。

「さ、佐天さん、久しぶり! 黒妻さんもお久しぶりです!」

「おう、元気そうだな御坂の嬢ちゃん。それに美雪さんもな」

「黒妻さん、私のことは呼び捨てでも大丈夫ですよ♪」

「私も嬢ちゃんなんてつけなくてもいいですよ」

「そうだったな。まだ慣れないせいで前の呼び方しちまった。

 ん? 俺の知らない奴が2人ほどいるが・・・」

「初めまして。諸事情がありまして数日前に信乃にーさまの妹になりました
 西折美玲と申します。と、ミレイは懇切丁寧に自己紹介を致します」

「信乃さんの妹!?」

「こりゃまた予想外だな」

佐天も黒妻も美玲の回答にさすがに驚いた。

「諸事情については信乃にーさまから口止めをされてますので、
 信乃にーさまに直接お聞きください、とミレイは口を閉ざします」

「信乃は面倒事は嫌いなくせに、面倒事を引きこむからな。
 で、もう一人は?」

「常盤台中学の次期エース、婚后光子ですわ。佐天さん、お久しぶりですの。
 それと黒妻、と仰る貴方。わたくしは貴方に一度お会いしてますわ」

「? ・・・すまん、覚えていないな」

「2ヶ月ほど前ですが、スキルアウトに絡まれた時ですの。

 普段であれば、スキルアウト如きはわたくしの能力でちょちょいのちょい、でしたが
 その時はなぜか頭痛に襲われまして気を失いましたの。
 気を失う直前にあなたが間に入ったまでは覚えてましたが、目を覚ました時には
 わたくしに絡んできたスキルアウトが気絶してましたの。

 貴方がわたくしを助けてくださいましたのね?
 お礼を言ってませんでしたの。ありがとうございますわ」

「あー、ビックスパイダーの時のか。

 それについては気にしなくてもいい。能力者狩りの一因は俺にもあったんだからな」

「それでも助けていただいたことに感謝を述べなければ、婚后家の末代までの恥となりますわ」

「それじゃ、素直に受け取っておくよ。

 それにしても信乃はこんな大人数を連れてきたんだな。
 こりゃ、≪小烏丸≫も賑やかになるな」

「黒妻さん♪ それについてちょっと説明があるんだけど♪」

美雪は、ここにいるメンバーを含めて≪小烏丸≫に入りたいとお願いした事、
信乃が試験を設けた事を説明した。

「うわー、それ厳しいね。
 でも私の時も、A・Tを始めるときに厳しく聞いてたからな~」

「そうね。佐天さんの時、一緒にお願いした初春さんは却下されたし」

断られた初春の事を思い出し、佐天と御坂はしみじみ頷いた。

「信乃、A・Tについては異常に真面目だから♪」

「だな。美雪たちにアドバイスをしたいところだけど、信乃が禁止してるから俺らは応援だけしておく」

「御坂さん、美雪さん、婚后さん、美玲さん、頑張ってください!!」

「ありがとう♪ それにしても佐天さんと黒妻さんは何でここに来たの?」

「ああ、クールダウンの為だ。

 今日の練習は終わったから。ここには100mレーンがあるから
 適当に何本か走って終わりだ」

黒妻が指さしたのは下。つまり美琴達が練習で使っていたレーンをこれから使おうとしている。

クールダウンは、いわば準備運動の逆。
本番と言える運動した後に、適度に体を動かして徐々に体を元の温度へと
下げるための運動だ。運動のデメリットを最小限にする効果がある。

それを聞いた試験組4人は、A・Tを返した後に同じようにクールダウンをしようかと考えた。

と同時に、ふと視線を佐天と黒妻の脚元に向けた。

「あれ? 佐天さん、それってA・Tじゃないよね?」

見れば、A・Tではない変わった靴を着けていた。
佐天のものはブーツ型でふくらはぎまでを覆っている。
黒妻は従来と同じくるぶしまでを覆っているが、革靴のように表面が滑らかだ。

そして何より、2人の靴はローラーが無い。A・Tの最大の特徴がない。

ローラーの代わりに、地面に接する部分が長く伸びている。
例えるならば、天狗や修行僧が使う一本刃下駄のようだった。
それは横幅はあるが縦幅はない、バランスを取りづらいものだ。

「ああ、これ? A・Tじゃないですよ。
 バランス感覚の訓練に使っているやつです」

「よくそれで立てるね。ここに向かって歩いてた時も全く気付かないくらいに
 安定していたよね?」

「練習しましたから。A・Tはバランス感覚がとても重要なんですよ、御坂さん」

「・・・それで練習したら、私達も上手くなるかな?」

「無理だと思うよ、琴ちゃん♪」

「どうしてでしょうか、とミレイは疑問を投げます」

「佐天さん達が使っているのって、相当難しいと思う♪
 たぶん、≪歩く≫どころか≪走る≫が出来るようになっても、まだ安定できない♪
 体幹バランスが3、4段階ぐらい上手くならないとまともに練習すらできないよ♪」

「さすがだな美雪。信乃も同じ事を言ってたぜ。
 俺らも先々週ぐらいにようやく立てるようになったぐらいだ」

黒妻は感心したように頷く。

「私、健康目的なんですけど太極拳をやっているの♪
 そのおかげで短い一本歯の下駄なら使えるよ♪ 佐天さん達が履いている靴より
 難しくは無いバージョンのやつで練習したことあるのよ♪」

『へ~』

「皆様、お話をお楽しみのところに申し訳ありません。
 そろそろ18:00になります。A・Tを回収する時間が迫ってます」

雑談に花を咲かせていたが、メイドの紗和琥によって一時中断された。

「そっか! 危ない危ない。ありがとうございます、紗和琥さん」

「いえ、お気になさらずに。お仕えするものとして当然のことです」

「それじゃ、みんな♪ A・Tを返した後に、私達もクールダウンで適当に走ろうか♪」

「「「はい」」」

「黒妻さん、私達もクールダウン始めましょうか」

「だな」

こうしてA・Tを預けた後もしばらくの間はレーンを走っていた。


――――――――――



「やっぱり佐天さんの体、適度に鍛えられて綺麗になっているね」

場所が代わって露天風呂。クールダウンを終えた美琴たちは旅館の名物である
露天風呂を堪能していた。

温泉は白い濁り湯。疲労回復など、A・T合宿に都合が良い効能が多く含まれている。
露天風呂は混浴だが、紳士の黒妻が佐天たち女性に露天風呂の全権を渡しているので
のびのびと使えるのであった。

温泉に浸かりながら、御坂はマジマジと佐天を見ていた。

「え//// 急に何言ってるんですか?!」

「私も思った♪ 特に足が綺麗になったよね。
 カモシカの足ってこういうこと言うんだよね♪ と言うよりも全身鍛えられているから
 カモシカの足のような体って言うのかな♪

 羨ましいな~♪」

「そ、そんな////

 美雪さんこそ、スタイルとてもいいじゃないですか!」

「・・・胸は大きい自覚はある。でもそれ目的で近づく男の人がいるから
 あまり好きにはなれない。それに、私標準より少しポッチャリだし・・・・」

「B85・W62・H86であると、ミレイは報告します」

「え? ちょっと玲ちゃん!♪? 何で私のサイズ知っているの!♪?」

「電子で体表面を計測した結果です」

「そんなことできるの!? 濁り湯だから見えないし、電子計測は無理な筈だよ!?」

「ウソです。雪姉さまがおやすみの間に、手で調べました、とミレイはワキワキ手を動かします」

「ヒェ!?」

美玲はいつのまにか美雪の後ろに回り込み、豊満なそれを揉みだした。
その手は腰、お尻、太腿までたっぷりと揉んだ。

「ア・・・・ゃ、ラメェ・・・」

「雪姉さま、前回よりウエストが1cm引き締まっています、
 とミレイは最新スリーサイズ情報を更新します」

「雪姉ちゃんに何しているのよあんた!?」

「ナニはしていません。雪姉さまのことは大好きですが、そこまではしません。

 ちなみにミレイのサイズはお姉さまのBは5cm、Hは3cm増しになります、
 とミレイは優越感に浸りながら微笑します」

「いくらアンタが私の1年成長版だからって優越感に浸るな!」

「? 御坂さん、1年成長版ってなんのことですか?」

「い、いやね、私そんなこと言った? 聞き間違えだと思うけど・・アハハハ・・」

「言いましたよ。たしかに似て「佐天さん」 婚后さん?」

「御坂さんと美玲さんは同じひいおじい様の血が流れているそうですの。
 似ているのは偶然だと思いますわ。

 それに信乃さんは諸事情を聞かないでほしいと言ってましたの。
 わたくしも美玲さんについて知りませんが、出来れば追及しないでいただけませんこと?」

「・・・・そうですね。
 ごめんね、美玲さん。

 そういえば美玲さんって歳はいくつ?」

「2ヶ月は経ってないと思いますと、ミレイは簡潔に応えます」

「「「は?」」」

「ちょ、ちょっと玲!? 今の言い方は違うでしょ!?
 あのね、違うの! 誕生日から2カ月しか経っていないって意味で!!」

「そ、そうなの! 玲ちゃんったら紛らわしいな♪」

「そうでした、とミレイは2人のお姉さまのフォローに助けられます」

誕生日とは生まれた日だ。美琴が言うように、誕生してから2ヵ月でも
誕生日から2ヶ月しか経っていないとも言っても間違いではない。

「御坂さんを『お姉さま』と呼んでらっしゃると言う事は、
 美玲さんは中学1年生ですの?」

「まぁ、そんな感じ♪」

「なんだろう、気になるな・・・・追求しないですけど、なんか都市伝説ハンターの
 血が(さわ)ぐ、(たぎ)るような・・・」

「「「・・・・」」」

都市伝説『御坂美琴のクローンが存在する』。佐天は知らずの内に答えを勘付いていた。


―――――――――


温泉を堪能した後、旅館の浴衣に着替えて夕食を用意している広間へと移動した。

そこには既に席に付いた白井、湾内、泡浮、黒妻が席に付いていた。

「よう、居残り練習組。風呂は堪能したか?」

「はい、黒妻さん。いつも露天風呂を譲ってもらってありがとうございます」

「気にすんなよ、佐天。同じ≪小烏丸≫の仲間だろ?」

「でもお礼ぐらいは言わせてくださいよ」

「へいへい。それと、風呂上がりのコレ。飲むか?」

「お! やっぱり風呂上がりにはこれですね!」

「「ムサシノ牛乳!」」

「あ♪ 私ももらっていいですか♪? ムサシノ牛乳大好きなんです♪」

「わかった、ほらよ!」

冷蔵庫から取り出し、渡されたムサシノ牛乳 (ビン)を受け取り左手を腰に当ててグビっと勢い良く一気飲みする佐天。
美雪も同じポーズを取るが、いささか貫禄が欠けている。だが、幼い可愛らしさが感じさせた。

「「プッハー!」」

本当に気持ちよさそうに一気飲み干した。
その時の勢いで佐天の胸がプルンっと動いた気がする。
気のせいか、夏休み始め頃のサイズよりも大きくなっているように見えた。

一緒に飲んでいた美雪は、確実に擬音付きでプルプルンと胸が弾んでいた。

見事な飲みっぷりと、“胸”を張って飲む姿を見ていて、風呂上がりで喉が渇いている事を思い出す一同。
代表して美琴が口を開いた。

「黒妻さん、この牛乳はまだありますか?」

「一応、全員分あるけど飲むか?」

『お願いします!』

風呂上がりからしばらく経っている白井、湾内、泡浮も合わせて全員で飲み始めた。

「ほらよ」

黒妻が冷蔵庫から取り出して全員に渡した。

『ありがとうございます! グビッグビッ・・・』

一気飲みがはしたないと考えている泡浮、湾内、婚后は途中で一度休憩をはさんだ。

「まぁ、お前達はまだ育ち盛りだしな。それほど胸を気にする事もないと思うがな」

「殿方に胸の事を言われてますのに」

「不思議と」

「嫌らしくありませんの」

これぞ黒妻クオリティ。

「これは美偉から聞いたんだが、ムサシノ牛乳を飲み始めた時期から
 胸が大きくなったらしいぞ」

『おかわり!!!』

固法、美雪、佐天の実例 (?)がある。
この“ムサシノ牛乳”(バストアッパー)は彼女たちに効果があるのか・・・



夕食は千賀紗和琥、滝流の2人が用意していた。
世界一の料理人の元で修行した事があり、期待を裏切ることなく全員を満足させた。

スケジュールでは夕食後は自由時間となっている。

佐天、黒妻はそれぞれの部屋に戻り、早々に眠りに行った。
平気そうに見えて、2人はかなり疲労している。
夕食後はほとんど寝ている。


A・T初心者同盟は湾内と泡浮に声を掛け、同盟について説明をした。
2人も納得し、自由時間を使って練習時に掴んだコツなどを共有化した。

一方、同盟参加を拒否した美琴は外に出て涼むと同時に瞑想をしていた。
能力開発の時に『行き詰ったら情報を整理する』という幼少時に信乃の教えで
瞑想をしている。レベル5になってからは長らく瞑想をしていなかったが、
今日は久しぶりに行っている。

そんな一人きりの美琴を心配し、白井だけが隣にいた。

「お姉様、大丈夫ですの?」「大丈夫よ」

「・・・・」

御坂の返事は短く早かった。

声色も表情も態度も、普段と同じ。だが白井はパートナーとして気付いていた。
御坂美琴は焦っている事を。

「お姉様、本当によろしいのですの?
 美雪お姉様たちと協力した方が確実に上達しますの」

「わかっている。でも私は自分の力で試験を合格したいの」

「・・・・」

本日のA・T試験組の成果。

1位 西折美雪
    ≪歩く≫はほぼ習得済み。≪走る≫はゆっくりであれば100mの走行可能。

2位 婚后光子・西折美玲
    ≪歩く≫を練習中。危なげなく、ゆっくりながら100mを転ばずに走破。

3位 湾内絹保・泡浮万彬・御坂美琴
    ≪歩く≫を練習中。危なげなく、ゆっくりながら30mを転ばずに走破。


美琴は自由時間を全て使い練習していたが、早めに切り上げた湾内たちと同じ成果だった。


つづく
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧