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不老不死の暴君

作者:kuraisu
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第十二話 王女と侯爵

リヴァイアサンからの脱出に成功し、空中都市ビュエルバのターミナルにいる。
セアは前々からこの会社は空賊の利用を認めている時点で限りなくブラックに近い会社だとは思っていた。
しかし今回の件で完全にブラックゾーンに突入していることを確信した。
だっていくらなんでもアルケイディア帝国軍の輸送機に乗っていて深入りしてこないなんて。
セアの疑問を今の日本で解り易く言うと空港に自衛隊の火薬などを運ぶ輸送機を一般人が止めて誰も疑問を言わないみたいな話である。
この会社の本社は帝都アルケイディスにあるらしいが政府からなにも言われないのだろうか?
セアはそんな思考に耽っていた。
パンネロはバルフレアに近づきハンカチを手渡した。

「あの。これ・・・洗っておきました」
「光栄の至り」

バルフレアは丁寧にパンネロに礼をした。
バッシュはアーシェにオンドール侯爵に会うべきだと進言していた。

「オンドール侯に? でもあの人は・・・」
「お会いになるべきです。表向き帝国に従っているように見えてもそれは侯爵の本心ではありません。こうして殿下をお助けできたのも侯爵の[助言]があればこそです」

そしてバッシュは少し俯き、一言付け加える。

「・・・少々危険な手段ではありましたが」

実際には少々どころかとても危険な手段である。
侯爵がしたことはバッシュ達を罪人として帝国に引渡し、ウォースラを帝国兵の中に紛れ込ませただけである。
・・・まぁ実際アーシェは助ける事が出来たからよしとするべきだろう。

「自分も同感です」

ウォースラもバッシュの進言に同意を示す。

「これまで距離を置いてきましたがもっと早く侯爵を頼っていれば・・・自分が愚かでした」
「ウォースラ」

ウォースラの言葉を聞きアーシェは侯爵に会ってみる事にした。

「殿下。私に時間をください。我々の力だけでは国を取り戻せません。別の道を探ります。・・・自分が戻るまではバッシュが護衛を勤めます。まだ彼を疑っておいででしょうが国を思う志は自分と変わりません」
「あなたがそこまで言うなら・・・任せます」

ウォースラからナルビナの調印式の罠の事をアーシェは聞いていたがまだバッシュの事を疑っていた。
そのことを察しウォースラはアーシェに説明しバッシュの方に向いた。

「殿下を頼む。オンドール侯爵のもとで待っていてくれ」

バッシュが頷くとウォースラはまたターミナルの奥に向かった。
セアはウォースラが出て行くのを見て横にいたバルフレアにはなしかけた。

「ようやく面倒事が終わったか・・・」
「いや、まだだろ?」

予想外の言葉を聞きバルフレアの方に体を向けた。

「面倒事がまだあるんですか?」
「ああ、王女の救出に協力したんだぜ? 侯爵から礼をもらわないと」
「・・・流石空賊」
「まぁ別にいらないならお前達の分まで俺が貰っておくが?」

バルフレアの台詞を聞きヴァンは侯爵邸に行く気になってしまった。
セアが無理やりラバナスタに連れて帰ろうかと思ったが礼だけなら貰っておくかと思い侯爵邸に行く事にした。




侯爵邸に行くとオンドール侯の政務が終わる夜まで待たされることになった。
そして警備兵に呼ばれ、執務室に案内された。
机の向こう側に初老の侯爵が座っているのは前に来た時と同じだ。
最初はアーシェとバッシュとオンドール侯爵で情報交換をしていた。

「あの調印式の夜・・・父の死を知ったウォースラはラバナスタに戻って私を脱出させました。ヴェインの手が伸びる前にあなたに保護を求めようと」
「ところが当の私が貴女の自殺を発表・・・帝国に屈したように見えたでしょうな」

侯爵がアーシェを見るとアーシェが頷いた。
それを見て侯爵は発表の経緯を話した。

「あの発表はヴェインの提案でした。当時は向こうの意図を掴めぬままやむなく受け入れましたが・・・狙いは我等の分断であったか」

そう侯爵がアーシェの自殺の発表をしなければアーシェとウォースラは侯爵と協力しもっと効果的に帝国に抵抗できたはずだ。
だが侯爵がヴェインの提案を受け入れたせいで王女と侯爵は分断されてしまった。

「でもそれも終わりです。私に力を貸してください。ともにヴェインを!」

アーシェの言葉を聞いた侯爵はため息をついて立ち上がりアーシェを見た。

「抱っこをせがんだ小さなアーシェは・・・もういないのだな」

侯爵は感心したような声で言った。

「殿下は大人になられた」
「それではおじさま・・・」
「しかし仮にヴェインを倒せたとしてその後は?」

侯爵はそう言いアーシェから顔をそらし窓の方に体を向ける。

「王国を再興しようにも王家の証は奪われました。あれがなければブルオミシェイスの大僧正は殿下を王位継承者とは認めんでしょう」
「それは・・・」
「王家の証を持たない殿下に今できることは何ひとつございません」

そう言いながら侯爵はアーシェに振り返った。

「しかるべき時までビュエルバで保護いたします」
「そんな、できません」
「では今の殿下になにができると?」

侯爵が少し怒気を含ませた声で言った。
その様子をみていたバルフレアが侯爵に話しかける。

「王女様を助けた謝礼はあんたに請求すりゃあいいのか?」

侯爵はバルフレアの方に向き、アーシェは部屋から出て行った。

「まずは食事だ。最高級のやつをな」
「用意させよう。少々時間がかかるが?」
「だったらそれまで風呂でも入るさ。いくらか冷や汗掻かされたもんな。あ、あとは着替えもいるな」

・・・流石空賊。侯爵相手にタメ口とは。
セアは素直に感心していた。
王国再興の話の最中に報酬の話をするのはどうかと思うが元々セアはダルマスカ王国の再興に関心がないので気にしない。
ふとセアは窓から夜のビュエルバの街を眺めた。
侯爵邸から見る夜のビュエルバの景色もまた格別だなと思いながらテーブルにあったワインを飲んでいた。
なにはともあれようやくパンネロを救出できた。
最初は誘拐犯を半殺しにしてパンネロを救出してラバナスタに帰るつもりだったのだが大分面倒な事に巻き込まれたものだ。
セアはそう思いながらビュエルバの景色を眺めていた。
その後バルフレアが言った最高級の食事を食べ直ぐに寝た。
疲れがたまっていたからだ。
そのせいでセアが寝ている間に空賊が誘拐事件を起こしたことには気づかなかった。 
 

 
後書き
おまけ
何故セアは呼ばれなかったのか

フラン「彼を連れて行かなくてもいいの?」
ヴァン「セアならアーシェを侯爵に引き渡すと思うぞ」
パンネロ「セアさん面倒事が嫌いだからね」
バルフレア「あいつを連れて行ったらまたシートが汚れる」
バッシュ(酷い言われようだな。否定できないが) 
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