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将の気質

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第三章


第三章

 そんな彼を見てだ。この年に横浜ベイスターズの監督に就任した権藤博はこんなことを言った。
「あれでいいんだ」
「いいんですか?東尾監督のやり方で」
「それでいいんですか」
「野球は闘争心なんだよ」
 こうだ。権藤は言うのである。
「やられたらやり返せだ」
「だからなんですね」
「それでなんですか」
「そう。東尾の西武は絶対にやる」
 そのことを断言しての言葉だった。
「ではうちもだ」
「優勝目指しますか」
「そうされるんですね」
「俺のやり方でそれをさせてもらうよ」
 あまり強くはないが確かな声でだ。権藤は言うのだった。
「横浜を優勝させる」
「そうですか。優勝ですか」
「横浜を」
 その三十八年間優勝していない横浜をだ。そうしてみせるというのだ。権藤のそのやり方もだ。かなり独特なものであった。
 選手の自主性に任せだ。怪我をするような無理はさせない。そしてミーティングもあまり行わず采配もバントや盗塁はさせずとにかく打たせる。横浜のマシンガン打線の個性を存分に出させたのだ。
 しかしその采配を見てだ。野村も森も言うのだった。
「あんなんで優勝するつもりか」
「何かが違うね」
 こう言うのだった。
「ミーティングせんでどないするにゃ」
「バントや盗塁ってのは大事なんだよ。そうした小技で野球は決まるんだ」
「あれで優勝できるて思うのがピッチャーの悪いところや」
「どうもね。あれは」
「東尾と同じやな」
「どちらも危ういね」
 こう評するのだった。彼等にしても何度も日本一になってきた自負がありその野球理論から彼等の采配を危ういものを見ていた。しかし東尾も権藤も。
「そんなことはシリーズに出てから言って欲しいな」
「見ていてくれとしか言えない」
 こう言ってなのだった。
「ピッチャーの何処が悪いんだ」
「結果が全てを語るものだ」
「最後の最後にそのことがな」
「よくわかる」
 彼等は野村の言葉も森の言葉も全く意に介さずだった。そうしてだった。
 ペナントを進め。遂には。
 西武もペナントを制し横浜も同じだった。日本シリーズのカードが決まった。
 このカードにはだ。一つの特徴があった。その特徴は。
「よく考えたらはじめてか」
「ああ、はじめてだよ」
「本当にな」
「今回のシリーズがな」
 野球を知る者達がだ。こう言い合う。そのはじめてのこととは。
「どっちもピッチャーあがりの監督のシリーズなんてな」
「今回がはじめてだよ」
「案外ピッチャー出身の監督って少ないからな」
 もっと言えば成功した監督も少ないと言われている。東尾も権藤も実際のところ就任直前には大丈夫かと言われてきているのだ。
 その投手出身の監督同士のぶつかり合いとなりだ。彼等は言うのだった。
「どんな対決になるかな」
「今ではお互いに勝負師みたいなエールを送り合っていたけれどな」
「あの二人プライベートでは仲がいいしな」
 東尾と権藤は実はプライベートでは仲がいいのだ。共にピッチャーとしての野球理論を持っておりだ。それを認め合う関係でもあるのだ。
 
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