ソードアート・オンライン~神話と勇者と聖剣と~
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DAO:ジ・アリス・レプリカ~神々の饗宴~
第十四話
前書き
今回は十二話にひき続き伏線(?)回
純白の王城。それは、この世界に作られた、《彼》の城の現身。六門の王者たちに守られた、世界の頂点。
そこから近く、土の王が住みし巨城。
そこに住まうは、六門の王たる《六王神》が一角、《土の王》、《万物を読まんと欲する者》べヴィティール。碧にも黒にも見える長い髪、シンプルなメガネをかけた、胸の大きな妙齢の女性。普段着のローブを羽織い、本に囲まれた自室の揺り椅子に座ったその姿は、一見すれば唯の司書にしか見えない。
べヴィティールは一人、自らの城から彼の城を眺める。六門神たちに《白亜宮》と呼ばれるあの城に住まうのは、この世界を提供し、支配する《王》達。《六門神》を超える、外の世界の《神》達。
そこを支配する者たちと、自らの間にある圧倒的な差に、べヴィティールはため息をつく。
『どうした、嬢ちゃん』
『お嬢様がため息とは珍しい』
とたんに、部屋の本棚から特におしゃべりな二冊が語りかけてくる。《彼ら》は常に誰かと喋りたくてうずうずしているのだ。
「何でもないわよ……ほら、黙りなさい」
『ちっ』
『お嬢様は薄情者ですね……』
べヴィティールが手を振るうと、途端に二冊が黙り込んだ。《意志ある本》としての力を奪われ、ただの魔導書となったのだ。
彼らは、べヴィティールの128の《ギア》の中でも、特に古い二冊だ。彼女と共に過ごした年月も、一番長い。そんな彼らと話しをしていれば落ち着くし、悩みなど吹き飛んでしまいそうだったが、今日は彼らとずっと話しているわけにはいかないのだ。そろそろ、来るはず――――
『――――土の王よ』
来た。
ずるり、と空間が曲がる。漆黒の門が口を開き、中から虚無があふれ出てくる。虚無は姿を取ると、一人の人間を吐き出した。
水の色とも、空の色とも違う、不思議な度合いの青い長髪の少女。年は人間換算で16ほど、瞳の色は両目ともに紅蓮。
「……■■■様」
「ふむ……グリモワール達の調子はよさそうだな。なぁに、気にするな。今日は私も貴殿から本を取り上げに来たのではない。……眷王が御呼びだ」
「……分かりました」
べヴィティールは揺り椅子から腰を上げる。彼女が手を振るうと、先ほどまでのローブから、より豪奢なローブに姿が変わった。右手には彼女の最強の《ギア》である《聖典級魔導書》、《最初の知識》が、いつの間にか出現していた。
「それでは参るか」
青髪の少女が手を振るうと、再び虚無の門が現れる。二人してそれを潜ると――――
――――その先は、色の無い世界だった。
それも、普段《白亜宮》を彩る白ではない。黒だ。漆黒の闇――――
「眷王よ。《土の王》をお連れした」
「は~い、ありがとうございます、■■■」
闇の中に、突如として色彩が現れた。
真っ白い髪の少女だった。目はやはり紅蓮。長い白髪は、先端に近づくにつれて、彼女の瞳と同じ紅蓮色に変わる。穏やかな笑みを浮かべたその顔には、一握りの狂気が混じっている。片時も外さない、彼女の《兄》とお揃いのマフラーは、やはり紅蓮色。
この白き王宮を支配する存在、その最高の眷属たる《七眷王》、それを支配する《眷王》……。
彼女の名は、グリヴィネ。グリーヴィネスシャドウ。グリーヴィネスシャドウ・イクス・アギオンス・アンリマユ。今は能力をあらかた封じた《普段着》であるが、これが完全な力を開放した《天衣》となれば、べヴィティールを始めとする四人に加えて、かつての仲間たちを加えた最盛期の《六王神》が束になってかかっても、人にらみで敗北する―――――そんな、超上存在。
「よく来てくれましたね、べヴィティール。お兄様は此処には来てませんけど、きっと感謝してると思います」
「……恐悦至極でございます、眷王……」
にっこりと笑みを浮かべるグリヴィネ。しかしべヴィティールは知っている。ひとことでも対応を誤ると、瞬時に彼女によって《断罪》させられることを。
ゆえに、一つのボロも出さないように、彼女が望むように答えを選ばなければならない。
「……べヴィティール、今日、あなたを呼んだ理由……わかっていますよね?」
グリヴィネが問う。早くも、べヴィティールに動揺が走る。何だ。全く想像がつかない……。
「……何でございましょうか、眷王……」
「とぼけるなッ!!」
別の一角から、新たな人物の声。そこにいるのは、紅蓮い髪の、純白のローブの少女だ。グリヴィネと同じ、20歳ほどの外見。
彼女の名はトリス=アギオン。トリス=アギオン・イクス・アギオンス・ゼロベータ。断罪システム《神罰》をつかさどる、絶対滅殺の女神……。
「あなたが先日よこしたグリモワール、ページが一枚抜け落ちていました。あれは■■■様への手土産、あれからページを破り捨てた!?許されるわけがないと知れ!」
激高するトリス。べヴィティールは内心で絶句していた。先日、彼女たちが兄とあがめる《王》の娘へと手向けた魔導書。あれはかなり古い本だった。しばらく読んでいなかったので、最後に渡す前にチェックを入れたはずだったのだが……。
「……幸いなことに、私たちのお兄様が魔導書を修復してくださいました。それにあなたは《監視》のかなめ。お兄様は、あなたに対する罰を最大限軽減するように、とおっしゃりました故に――――」
グリヴィネの瞳が、真紅に発光した。彼女の体を、恐ろしいほどのプレッシャーが蓋っていく。
「極限まで苦しみなさい。……惟神、ルクシュリア・ラスト」
ゴォッ!!
大気が、悲鳴を上げる。時空を割って出現したのは、グリヴィネの神威の具現化たる《惟神》、《ルクシュリア・ラスト》。今は本気を出していないためか、その神威の一片のみが出現しているだけだが……
べヴィティールを屈服させるには、十分だった。
「かはっ!?」
べヴィティールを、かつて経験したことの無い《快楽》が貫く。
《ルクシュリア・ラスト》の司るのは、《色欲》――――つまり《性欲》だ。かの惟神の咆哮は、中てられたものを片っ端から絶頂に追い込む。現在はその能力が解放されていないため、凄まじい快感が続くだけだが……一瞬で終わらないだけ、むしろ苦痛になる。
「か……ぁぁっ……」
「しばらくそこで転げまわっていてくださいっ、お兄様からの罰ですよ♪」
にっこり、と満々の笑みを浮かべて、グリヴィネの姿が消滅する。トリス、青い髪の少女、そして、姿を現さなかった残り四人の《七眷王》が姿を消す気配。
後に残されたべヴィティールは、自らの体を貫き続ける快感に耐え、のた打ち回るだけだった。
***
「くすくすくす……」
白い城の、その最奥部で。彼女たちの《王》は1人笑う。
「土の王は騙されやすいなぁ。まじめすぎるのかなぁ……ああ、僕がそう『ツクッタ』んだっけ?はっ……」
彼の手には、一枚の紙が。裏表に、びっしりとワケの分からない言語が書かれている。
「最初から彼女のグリモワールは完璧だった。破ったのは僕。この罰則会を描くためだけにね」
そして彼は笑う。上空に浮かんだ一枚の、場違いなホロウィンドウに向けて。
「さぁ、僕の掌の上で踊るんだ、『神話剣』の勇者たち」
くすくすくす、と、彼の笑い声は続く……。
後書き
と、言うわけで早めの更新だったかわりに短い&ワケの分からない話となりましたDAO編第十四話。そんなわけでお久しぶりです、Askaです。今回は《オリジナル》のグリヴィネが登場。じゃぁ『神話剣』で活躍したグリヴィネは誰なのか?という話はDAO編後編に明かされます。
今回登場した《惟神》、《色欲》のルクシュリア・ラストは、七大罪の『ルッスーリア(ラテン語)』『ラスト(英語)』をローマ字読み的な感じで呼んだ名前となっております。意味はまんま『色欲』。
それでは次回もお楽しみに。
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