立派な人
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第三章
第三章
「監督をシリーズで胴上げや!」
「絶対にやったるで!」
こう言ってなのだった。彼等は一丸となって戦うのだった。そしてだ。
彼等は西本の下で巨人に向かった。そこにさらに人材が集った。
山田久志、福本豊、加藤秀司。長池徳士や米田哲也、足立光宏に加えてだ。
その彼等が加わりだ。阪急はさらに強くなった。
そしてその戦力でだ。今度こそはと誰もが思った。
だがそれでもだ。ドラフト以前に手段を選ばぬやり方で選手を集めていた巨人にだ。結果として阪急はまたしても敗れてしまった。
山田が打たれた。王のサヨナラアーチはあまりにも衝撃だった。
そのホームランの後阪急ナインは呆然となった。特に打たれた山田はマウンドに蹲り動けなかった。だがその山田と阪急ナインをだ。
西本は静かに迎えに行き責めなかった。そうしてだ。
穏やかな笑顔でだ。こう言ったのである。
「ご苦労さん」
「監督・・・・・・」
「すいません・・・・・・」
「ええ」
言わなくていいとだ。西本は項垂れる彼等に言ったのである。練習でも生活でも厳しい西本だがこの時は決して責めはしなかった。
そしてだ。彼等はあのことを思い出した。それは。
「あの時だってそうだったよな」
「ああ、わし等の前に立ってくれてな」
「審判に抗議してな」
「意地でも引かなかったわ」
以前のシリーズでだ。キャッチャーのブロックを巨人の選手がかいくぐってホームインしたのだ。それは西本から見ればベースを踏んでいなかった。だが審判はそれをセーフと言ったのだ。
キャッチャーはそれに抗議してだ。シリーズではじめての退場となった。しかし西本は選手の側に立ってだ。審判に立ち向かったのだ。
「あれかて。こっちが悪いのにな」
「選手のわし等の側に立ってくれてな」
「それでああして泥も被ってくれた」
「そうした人なんやな」
西本のその温かい人間性を感じてだ。彼等は言うのだった。
そしてだ。その西本の責めない姿勢を見てだ。彼等は余計にだった。
意気をあげ野球に向かった。選手達はあくまで西本を慕った。しかしだった。
阪急は結局巨人に勝てずだ。西本は阪急を去った。その彼が次に監督になったのは。
近鉄バファローズだった。その新たな地でもだ。
西本の指導は変わらない。やはり厳しかった。
不真面目なランニングを見れだ。すぐにだった。
鉄拳制裁を浴びせる。その拳を受けてだ。
選手達はだ。驚いて言うのだった。
「あれが西本さんか」
「噂通りやな」
「阪急さんでやってたことって事実やっやんやな」
「本当に怖い人やな」
「いきなり殴るんやからな」
西本の鉄拳制裁は有名になっていた。しかしだ。
彼等近鉄の選手達もだ。そこにだった。
西本の心を感じたのだ。そうしてだった。
「真面目に野球をしようか」
「そうやな。それでわし等もな」
「優勝できるかもな」
「ひょっとしたらな」
近鉄は伸び悩んでいるチームだった。優勝は遠いと誰もが思っていた。それは他ならぬ彼等自身が一番思っているtことだった。それでだった。
練習も気が抜けていた。西本はそこに喝を入れたのだ。それによってだ。
彼等は真剣に練習に、野球に向き合う様になっていた。その中でだ。
梨田昌考、栗橋茂、羽田耕一、佐々木恭介といった若手が台頭していった。そしてだ。
エースであり看板選手である鈴木にもだ。西本は向かい合ったのだ。
鈴木にだ。西本は何かあると口を出した。それに対してだ。
鈴木は最初だ。怒りと苛立ちを覚えた。そしてだ。
「わしにはわしのやり方があります」
こう言ったのである。そのうえだ。
衝突が重なり遂にだ。フロントに直訴したのである。
「あの監督の下ではやれません」
「おい、まさかと思うが」
「近鉄を出るというのか?」
「阪神か何処かに行かせて下さい」
こうフロントに言ったのである。
「そこで野球します」
こうまで言った。しかしだ。
このトレードの話は消えた。フロントが彼を必死で引き止めたのだ。しかしだ。
鈴木の西本へのわだかまりは残った。しかしそれはだ。
昭和五十年の後期優勝の時にだ。彼はこれまでの低迷から脱却し思いも寄らぬ活躍ができ胴上げを見た。そこでわかったのである。
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