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消耗品

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第一章


第一章

                          消耗品
 権藤博には持論があった。それは何かというと。
「ピッチャーの肩は消耗品だ」
 こうだ。常に言っていた。それでだ。
 コーチになっても監督になってもだ。ピッチャーにあまり投げ込みをさせなかった。それよりだった。
 走り込みやそうしたことをさせた。これが彼の指導だった。
 その指導を見てだ。ある若い記者がだ。首を傾げさせながら先輩に尋ねた。
「権藤さんって変わってますよね」
「ああ、ピッチャーに投げさせないことか」
「はい。あれ何でなんですか?」
 首を捻りながらだ。先輩に尋ねるのだった。
「あれはどうしてですか?」
「あれな。まあピッチャーは足腰だよな」
「スポーツなら何でもそうですけれどね」
「足腰が第一だからな」
 それ故にだというのだ。
「投げるよりもな」
「下半身ですか」
「そういう考えじゃないのか?」
 先輩もこう言うのだった。
「やっぱりな」
「それでなんですかね」
「だからだろ。まあ一つの考えだよな」
 先輩も少し考える顔になって述べた。
「それだからだろ」
「そうですか。そういえば権藤さんがコーチや監督になったら投手陣はよくなりますね」
 その指導には定評があった。このことも確かだった。
「ピッチャーのことがわかってるのも事実ですね」
「そうだな。それは間違いないな」
「ええ。それにしても権藤さんはどうしてなんでしょうかね」
 まだだ。この記者は言うのだった。
「本当に練習であまり投げさせないのは」
「気になることではあるな。どうしてだろうな」
 先輩も首を傾げさせる。二人は何故権藤がそうした指導なのかわからなかった。
 権藤の取材に行く。そこでもだった。
 彼はとにかくピッチャーに練習で投げさせない。他のトレーニングを合理的に教えさせている。それを見てだ。先輩はこんなことを言った。
「よくな。ピッチャーは投げてこそだってな」
「ええ。言われますよね」
「投げて覚えるってな」
 俗に言われていることをだ。彼は若い記者に話した。
「言われてるよな」
「実際にそうした指導する人多いですよね」
「実際に投げないとわからないこと多いからな」
 先輩は言う。球場でランニングをする中日投手陣、権藤の古巣であり今彼がコーチを務めているそのチームの彼等を見ながら。
「投げて投げて大成した人だっているだろ」
「このチームだと岩瀬さんとかですね」
 ストッパーのその彼だった。高速スライダーで知られている。
「あの人もですし」
「だろ?あの人だってどっちかっていうとそうだよな」
「中継ぎで頑張ってからストッパーになってますからね」
「だからな。ピッチャーってのはな」
「練習でも投げてですね」
「色々身に着けるものだろ。けれどな」
 権藤は投げさせない。あまりといえど。それでだ。
 先輩は首を捻りながらだ。記者に言ったのである。
「本当に独特っていうかな」
「わからないですね」
「それで結果も出してるけれどな」
 権藤が指導者になってチームの投手陣は成績をあげる。このことも確かだ。
「作戦を立てる能力もあるけれどな」
「その指導法にも秘訣がありますね」
「絶対にな。けれどあの教え方ってな」
「どうやって行き着いたんでしょうかね」
「それがわからないな」
 彼等は首を捻りながら権藤を見ていた。権藤は相変わらずピッチャーに練習ではあまり投げさせない。そして他のトレーニングをさせていた。このことは変わらない。
 このことについて疑問を感じる二人だった。そしてだ。
 二人は試合を取材していた。名古屋ドームの一塁側にいてそうしていた。グラウンドでは。
 中日投手陣が好投していた。巨人の自称強力打線を次から次に討ち取っていた。それを見てだ。
 先輩は満足する顔でだ。こう記者に言ったのだった。
「今日もいい感じだな」
「はい、このままだと今日もですね」
「巨人に勝てるぞ」
「ですよね」
 中日番としてだ。二人は中日が勝つことを喜んでいた。
 
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