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八条学園怪異譚

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第五十三話 空手部主将その七

「豹も身体は細いですけれど」
「筋肉はしっかりしてるわね」
「そんな感じですよね」
「豹ね、女豹ね」
 茉莉也はくすりと笑って愛実の言葉に応えた。
「いい言葉ね、黒豹とかね」
「何か特撮か刑事ドラマの主人公みたいですけれど」
「そこまで研ぎ澄まされてはいないつもりだけれどね」
「というか先輩はむしろ虎ですよ」
 聖花はここであえてこう言った。
「そっちですよ」
「お酒飲むからね」
「はい、セクハラされますから」
「やれやれね、まあ今夜にもで行くわよ」
「わかりました」
 いささか強引にだった、茉莉也は二人に同行すると言い二人もそれを受け入れた、そのうえでだった。その夜に。
 三人は空手部の道場に向かった、真夜中に学校に来た愛実と聖花を茉莉也が出迎える。今夜の茉莉也の服はというと。
「今夜は巫女さんですか」
「仕事着なんですね」
「さっきまでお仕事してたのよ」
 神社の仕事をだというのだ。
「お祓いをね」
「といいますとこの学園の中ですか?」
「そこでなんですか?」
「いえ、外でね」
 そこでだとだ、茉莉也は二人を商業科の正門のところで出迎えてから道場まで案内する道の中で話す。
「八条鉄道の線路で出たから」
「あっ、幽霊がですか」
「出て来たんですね」
「自殺した人がいてね」
 飛び込みだ、残念なことに今もそうして死を選ぶ者は多い。
「その人の幽霊がまあ」
「怨霊ですか」
「そうなったんですね」
「そうよ、それでその人をお祓いしていたのよ」
 そうしたというのだ。
「いや、大変だったわ」
「お祓いですか」
「それを今までなんですか」
「そうだったのよ、まあちゃんと成仏してもらったから」
 だからだというのだ。
「安心していいわ」
「そうですか」
「それならいいですけれど」
「ええ、それで今はこの服なのよ」
 仕事着である巫女の服だというのだ、あの白い上着と袴である。
「やっぱりこの服っていいわよね」
「よく似合ってますね、本当に」
「いい感じですね」
「そうでしょ、私もこの服好きなのよね」
 茉莉也はにこにことしながら二人に話す。
「実際にね」
「ですよね、よく着ておられますし」
「着こなしもいい感じですし」
「そうでしょ、とにかくね」
「はい、今からですね」
「道場に」
「行きましょう」
 こう話してそしてだった。
 三人でその道場に赴く、すると。
 その古風な、今にも中から掛け声が聞こえてきそうな門を潜って木造の床と白い壁、そして筆で書かれた標語等を見回す、夜だが目が慣れているので見える。
 その道場の真ん中に進むとだ、太い男の声がしてきた。
「何用だ」
「先生ですね」
「その声は茉莉也嬢ちゃんか」
 茉莉也の言葉にも反応を見せてきた。
「久しいな」
「はい、こんばんは」
「うむ、こんばんは」 
 まずは声だけだった。 
 そしてその姿を現わしてきた、空手着に黒帯の角刈りの青年だ。背は高く身体つきは鍛えられたたくましいものだ。
 その姿を見てだ、愛実と聖花も挨拶をした。黒帯の幽霊も礼儀正しく挨拶を返してきた。 
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