ゲルググSEED DESTINY
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第九十三話 最後の参戦者
「ようやくたどり着いたぜ。全く、ここまで時間が掛かるなんてな……」
「仕方がないことだ。乱された部隊を立て直すのに時間が掛かってしまったからな。それにまだ敵との交戦距離に入っていないとはいえ、油断は出来んぞ」
イズモ級の艦隊の艦橋でロウと劾は戦場がようやく視認できる距離までたどり着いた事について話す。ネロブリッツ等によるミラージュコロイド部隊によって部隊を混乱させられてしまい、彼らは戦場に辿り着くのに大幅な遅れを取る事になってしまった。その為、今現在辿り着きつつも、戦場の状況は把握しきれていない。
「ダンスの時間にこそ遅れてしまったが、我らも参加させてもらうとしよう」
だが、それでも間に合いはしたのだ。そしてこれから介入する為、ミナはそう言って回線を開き、高らかに謳いあげるかのように宣告する。
「メサイアを防衛するザフト諸君に告げる。我はアメノミハシラのロンド・ミナ・サハクだ。其方らのデスティニープランは我の提唱する『天空の宣言』の考えに反するものであり、また武力による強制的な支配となるであろうその行動は、後に我らにとって脅威となるものだと判断している。よって、我らはその居城を破壊するためにこれより戦闘に対し、介入を行う」
一方的な通告とも言えるがデスティニープランの方も似たような行動を行っている。相手がやったのだから自分もやっていいというわけではないし、政治や戦争はそんな単純なものではないが、時と場合によってはそういった選択肢もありといえた。
「早速来たようだな」
その宣告を聞き、敵と判断されたのだろう。ザフトのMSや艦隊がこちらにも矛先を向けて準備を整え始めた。
「では、ゆくとするか。其方らも頼むぞ」
「へっ、まかしとけ!宇宙一のジャンク屋の力を見せてやるよ」
「任務了解。作戦行動に移行としよう」
ミナが自ら出撃すると発言し、ロウや劾もそれに同調して出撃準備に取り掛かる。王道から外れた者たちも、この後の歴史として正道となるであろう舞台の転換点に介入するのであった。
◇
「オーブの影の軍神が大きく出たな……一度仕掛ければ、引き下がってこれまで通り裏で動くと思っていたのだがね」
戦場を移動していたギルバート・デュランダルはサハクの勢力が介入をするという宣言を聞き、現在の戦局がどう動くかを考えていた。元々、メサイア側――――つまり議長派の部隊はメサイアにいる部隊も含め、ザフトの約6割を占めている。残りの4割の内、1割弱は日和見、或いは中道とも言える状況で存在しており、残った3割強はミネルバ側の勢力だ。
戦力比はおおよそ2対1。メサイアという要塞拠点兼、ネオ・ジェネシスという戦略兵器もあることから戦況は一見こちらに圧倒的に有利に思われる。
「しかし、こうも手こずる結果になるとはな。やはり他勢力も侮れんな」
アークエンジェルを中心としたオーブ軍や連合の残党部隊が介入していることで戦局は目に見えて圧倒するという事にはならなかったのだ。数自体は全軍を集計したところでメサイアの戦力を超えることはないだろう。最も多いミネルバ側のザフトも含め、それらを合計した戦力は多くてもメサイアにいる議長派と同じ程度しかないと予想される。
しかも、別に彼らは協力関係にあるわけではない。連合とザフトの部隊が相容れないのは当然の事であろうし、アークエンジェルの戦力も今回の大戦で嫌われ者の立場となってしまったが故に積極的に協力関係を結ぶことが出来ない。
「私だ、そちらの戦況はどうなっている――――そうか、なら戦線をいったん下げることも考慮にすべきだな。時間はこちらに味方している。なに、長引けば長引くほど彼らは自らの首を絞めることになるさ。下手にこちらから動きに行く必要などどこにもない」
旗艦クラスの艦が通信の中継地点となる事で司令部との連絡を議長は行う。そう難しい指令を出すつもりもなく、細かな命令内容に関して彼は司令部に委任していた。とはいえ、司令部としても不安はあるのだろう。その為、司令部は議長に意見を上申していた。無論、議長は別段異常な作戦でもない為あっさりとそれを受け入れる。
戦線を動かすのは戦略の基本だ。ましてや宇宙での三次元戦闘ともなれば拠点であるメサイアを切り捨てるとでも言わない限りいくらでも戦線は帰るべきだろう。勿論、それで見方が崩れるようなことが無いという前提が必要になるが。
「フッ、だが意外に分からんものだな。戦局は未だこちらに有利な筈だが、どうもチェックメイトに至るには足りないものがあるらしい。ならばそれを手掛けるために相手の象徴となるものを落とすとしよう」
そう言って議長は本格的に戦場に参戦する様に行動を移す。今回の戦場で、議長は戦場にいたことに変わりはないが、どれも主戦場となる様な所ではない。
ノイエ・ジールⅡでストライクフリーダムと戦った際には敵艦や他のMSは先行し、それ以外の敵とは戦っていなかった。ナイチンゲールに搭乗し、戦場に出た後も主戦場より後方側でしか戦っていない。
「そろそろこの機体にも慣れた。敵の位置も把握している」
周囲の味方部隊にも連携を密にするよう言い渡し、敵を落としにかかる。
「さあ、終幕の時だ。私を落とせるというのであれば落としてみせるがいい」
そう言って遂に彼は主戦場となる舞台へと現れた。
◇
クラウ・ハーケンは破壊されたリゲルグで逃れた戦域からラー・カイラムとは違う母艦に帰還していた(尤も、ラー・カイラムはミネルバ側の戦力なので当然と言えば当然だが)。クラウのリゲルグはストライクフリーダムによって手足が撃ち抜かれてしまった事で、まともな着艦をすることが出来ず、アンカーによって引っ張ってもらいながら着艦する。
「両手両足やバックパックが破壊されても肩にスラスターがついてるんだから移動自体は問題ないんだよね……この機体はもう使い物にならないだろうけど」
艦に収納され、降りたクラウは、何故手足と後ろのスラスターを破壊されていながら移動できたのかを、破壊されたリゲルグの様子を眺めながら独り言のように呟く。そして、そのままその隣にメサイアから移動させ用意しておいた機体を見て彼はこう言った。
「ZGMF‐14Å(AA)とでも名付けるべきかな……この機体には」
見た目は初期生産されていたS型やA型のゲルググのようにしか見えない。実際、持っている武装に関してもビームライフルとナギナタ、シールド、予備のサーベルとマシンガンの五つだけだ。だが、この機体は内部機構は初期型のゲルググとは根本から違うものだ。そして、それを知っているのは開発の許可を出した議長と直接開発に携わった少人数の者しか知らない。
「まあ、名前はどうでもいいや……出撃準備はどうなってるの?」
「はい、いつでも出撃は可能です。しかし、他の武装やバックパックは本当に必要ないので?」
数少ない整備士に尋ねられる疑問。確かに、装備の数は五つ。しかも内二つは予備で一つはシールドだ。B型やC型であればその場ですぐに取りつけることも可能であるし、そうでなくてもビームマシンガンやバズーカといった他の武装を持つ位の事は出来るだろう。
「良いよ別に、持つ武器増やして選択肢を多くしても使わないものは使わないだろうし――――選択肢の多さがそのパイロットを救う事もあれば、選択肢の多さが判断ミスを呼び込むこともある。俺はたくさんの武器を使いこなせるほど器用じゃないんだよ。なら態々機体に無駄を増やして重くする必要性はないだろう」
そう言って武装の増加を却下する。バックパックに関してはまた別の理由もある為か、整備士もそこまで追及せず、そのまま彼らは機体の出撃の準備の為に最終調整を施す。いつでも発進可能と言っても何度でもチェックは怠らないのがいい仕事をする整備士の癖のようなものであり、それを同じ一技術者として理解しているクラウもパイロットとして、そして技術者として自分でもチェックを行う。
「よし、問題はないな。発進させる、下がってくれ」
そうして最後の確認も終え、ようやく出撃しようとするクラウ。
「現状は確認できる限り、どうやら艦隊戦を中心に押されてるようだね――――まあ、戦略規模で見ればメサイアがある分、こちらの有利に変わりはないか……」
ノーマルスーツのヘルメットを被り直し、コックピットに乗り込む。それとほぼ同時に周りにあった空気が抜けていき、ハッチが解放された。
「クラウ・ハーケン、ゲルググ――――出撃する」
◇
「どうだ、修理は出来るのか?」
議長の乗っていた機体から何とか逃れることが出来たマーレはルドルフとアレックの二人と無事合流し、援護してもらいつつ何とかラー・カイラムに帰艦することが出来た。しかし、乗っていた機体の損傷が激しい事には変わりない。
腕や足が失っているという事こそないが、機体の全身が損耗している。光の翼によって受けたダメージは相当なものだろう。
「予備のパーツもあるだけ使って騙し騙し使えるといった所ですね。関節部はともかく、直接機体を破壊された部位が無いのが不幸中の幸いというべきでしょう。腕や足がやられていればすぐに直せなかったでしょうしね。関節部のパーツさえ交換、修理すれば何とかなります」
ラー・カイラムの整備士はそう言いながら修理を続ける。
「そうか、なら頼む。すぐにでも出ないと更に厄介なことになるだろうからな」
「わかりました。ただ、分かっているとは思いますが、機体の装甲部の修理は時間もパーツも足りないので損傷の酷い部分を除いて、簡易的な修復になってしまいます。装甲の弱化は避けられませんよ」
整備士は現時点での修理で解決できないであろう留意点を言う。マーレもそれはわかっているのだろう。当たらなければどうという事はないといった様子で「それでも構わない」と言いつつ、ここで自分が居ても邪魔になるというのと、少しでも体を休める為に一旦ロッカールームで休息を取ると言ってその場から離れた。
「おお、遅かったではないか。それで、機体の方は如何なのだ?」
ロッカールームにつくと同時にそう声を掛けてきたのはルドルフだ。彼も流石にこの長期戦で機体もパイロット本人も疲労があった様子から一度休息の為にラー・カイラムに帰艦していた。もう一人のパイロットであるアレックは機体の確認を行ってから休息に入るつもりのようだ。
各々の休み方には彼らの性格というものが現れやすい。細かいことを気にしない性質に資産家という上流階級の立場であるルドルフは、最終的なチェックはともかく残りの確認は全て人に任せて自分は休めるときに休むという考えを持っている。一方でアレックは信頼こそしているが機体を自分で見ないと納得しない性質だ。
そういった関係もあって彼らは休む時間にも差が生まれるのだろう。マーレも性質的にはアレックに近いが彼は自分にとって重要な所以外はあっさりと流す性質なのでアレックよりも先にロッカールームに来ていた。
「機体の修理は一応可能だそうだ。だが、万全とは言い難てえ。アレと戦っている間に下手に不具合でも起きたら確実に落とされる……」
頭に手を当てつつ現状の難点を告げるマーレ。議長の乗っていた機体は桁違いのスペックを誇っていた。
あの機体と対峙していた連合機は連合の中でもトップクラスの性能と技量を誇っていたことがあの僅かな戦いでも見て取れた。しかし、その連合機二機をほんの僅かな時間で片づけたのだ。半端な状況で出て果たしてあれを落とせるのかマーレは不安に思う。
「ふむ、そこまでのものなのか?機体の性能であれば僕らの機体も相当なものであろう?」
ルドルフがそんなにまで警戒するほど驚異的な機体なのかと問いかける。ルドルフのギャンクリーガーもマーレのRFゲルググもアレックのガルバルディβも優秀な機体だ。ことマーレに関してはサードシリーズとも言えるデスティニーを降した実績すら持っている。
そのエースとも言える自分たち三人がいてなお、そこまで恐れる必要があるのかとルドルフは尋ねる。純粋な戦力で言ってしまえばデスティニーと互角に戦ったマーレがいる以上、それにプラスアルファで自分達がいるのだ。そのマーレが不安になるという事は、単純に考えて敵はデスティニー以上ということになってしまう。
「ああ、あの機体はまず間違いなく規格外の機体だろうよ。デスティニーすら上回っていると俺は思うぜ」
しかし、マーレはそのルドルフの疑問詞する相手の実力をあっさりと認める。自信家の節が多少なりともあるマーレですら規格外だと認める相手。ルドルフはその反応に驚きつつも納得した。
「君がそういうのであればそうなのだろうな……よし、ではこの僕が直々にその機体を落としてやろうではないか!」
「……お前話聞いてたのか?」
マーレよりも自身家の彼はならば自分が討ち果たしてみせようと自信満々に断言する。マーレはその様子に呆れつつも、そうやって豪語出来るルドルフを頼もしく思う。まあ若干の不安も拭えないが、そのあたりはルドルフのバディとも言えるアレックが上手く手綱を握るだろうと考えて放置することにした。
後書き
アレック「ん、何だ?」
整備士(男性)「どうかしましたか?」
アレック「い、いま確かに悪寒が……いや、胃痛が……(ルドルフの奴がまた面倒な事を言ってないと良いが……)」
整備士(女性)「やはり少しでも休んだ方が良いのでは?パインサラダでも用意しておきますよ」
整備士(男性)「そうですよ、とっておきのサラダですから、期待してください」
アレック「いや、それは止めてくれ」
オペレーターじゃないからセーフ?いや、とっておきのサラダでアウトだ(笑)
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