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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】

作者:月下美人
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原作開始【第一巻相当】
  第二十一話「修行終了 上」

 
前書き

 なかなか筆が進まない……。
 

 


「はぁ……はぁ……はぁ……はぁ……っ」


 鬱蒼と茂る森の中、大木に背を預けて乱れる呼吸を必死に整えていた。


 先生から課せられた試験を迎えて一日が経過した。


 正直、試験を終えるどころか、無事朝日を拝めるかも分からない。


 難しいってレベルじゃない。本当に死と隣り合わせの日々だ。上る太陽を目にした時、生き延びたんだと思わず涙しちゃったくらい。


 っていうか、先生あれでホントに手加減してくれてるの!? 殺す気満々じゃないか!


 先生は絶対人間じゃない。というか一種の災害だと思う。この二日間で俺はそれを身を持って味わった。


「ふぅぅ……。さすがに撒いた、よね……?」


 ドッと湧き出てくる汗を手の甲で拭う、と――。 


 パキ……ッ。


 渇いた音がすぐ後ろから聞こえた。


「うわ、もう来たっ!」


 慌てて大木から離れる。


 パキパキと音を鳴らしながら大木から手が現れ――。


「ドゥゥゥゥゥラァァァァァァァァァァァァァァ――――――――ッッ!!」


 樹齢百年はあるんじゃないかと思えるような大木を文字通り二つに裂きながら、先生が現れた。


 体中から蒸気を立ち上らせ、どういう原理か口から怪光線を発しながら。


 目を閉じた状態だというのに正確に俺に顔を向けると咆哮を轟かせる。


「ブルゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォッ!!」


「どこのバーサーカーだよ本当にもう!」


 天高く跳躍してからの飛び蹴りをバックステップで避ける。


 あまりの威力に地面が所々隆起し、地が揺らいだ。


「おわっと」


 立っていられないほどの揺れ。修行の成果もありバランスを保つことに成功したけど、先生を見た途端肝を冷やした。


 大きく息を吸うのを目にした俺は慌てて耳を塞ぐ。


「カァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアア――――――ッッ!!」


 大音声。隆起していた地面が破片と化す。


 さらには音が衝撃となり無数の破片が飛んできた。


「ぐぅ……っ」


 顔の前で腕を交差させて石礫から身を守るが、すぐにハッと目を見開いた。


「オロロロロロロロロロロロロロロロロロ!」


 いつの間にか眼前に移動していた先生が今にも蹴りを繰り出そうとしていたからだ。


 あんなの食らったら身体が真っ二つになっちゃうよ!


 しかし、到底避ける時間も距離もない。


 先生の前蹴りを食らうまでの間――僅か一秒にも満たない間でそう思考した俺は決断した。


 今こそ先生から教わったこの技を使うしか、俺に生き延びる道はない!


 目を見開き一瞬で集中力を高める。これから使う技は生半可な覚悟と集中力がないと使えないのだ。


「剛体操――ぐふぁぁぁぁぁぁぁっ!?」


 先生の脚が腹に突き刺さり、もの凄い衝撃が襲ってくる。恐らくトラックの衝突なんて目ではないだろう。


 地面と平行に滑空しながら再び木々の中に身を投じた。





   †                    †                    †





「き、今日も無事に生き延びた、ぞ……」


 あれからさらに三日が経過し、今日で五日目。


 今日も今日とて這う這うの体で生き延びることができた。


 現在俺は森の一角で遅い晩飯を迎えている。近くの川で仕留めてきた魚に先生から逃げる途中で入手した果実が今晩のメニューだ。


 先に果物を食べてから魚を食べる。そこら辺で取ってきた枝を使い焚き火をして魚を炙る。


 こうして食事を迎えてる最中も気は抜かない。というのも食事中や就寝中の襲撃なんて日常茶飯事だからだ。


 寝てるところに怪光線を発した先生が至近距離にいたのを見たときはびっくりしすぎて心臓が止まるかと思ったよ。


「だけど、そのおかげ――この場合は弊害っていうのかな? 気配に敏感になったけどね」


 修行中によく口にしていた先生の言葉を思い出す。


 ――恐怖しろ、青野。恐怖を飼いならそうなんて思うな。それは後に過信に、そして慢心に繋がる。


 ――恐怖を感じるが故に人は慎重になれる。


 ――恐怖心は時にセンサーのように身の危険を察知してくれる。


 ――恐怖に過敏であれ。されど恐怖に呑まれるな。


 その時はよく言っている意味を理解できなかったけど、今は身をもって理解できる。この恐怖心というのは動物が感じる本能、殺気のことなんだと。


 ほどよく焼けた魚にかぶりつきながら今後のことを考える。


 今日で五日。残り二日しかない。にも関わらず、先生にはまだ一撃も有効打を与えられていない。


「不用意に近づけばアウト。不意打ちも効かない」


 ――考えろ。思考を止めるな。客観的に分析し常に頭は冷静であれ。それでいて心はマグマの如く熱くあれ。


 これも先生に教わった言葉だ。


 分析する。この五日間を通して見た先生という人を。


「目を閉じて呼吸は大きい。攻撃も大振り、機動も亀並みに遅い。一撃は災害級で僅かな音から居場所を探知する」


 対してこちらは武器なし。有効打になりそうなあの技も発動率が八割。それも修行の時点でだから、今は二割満たないと思う。


 不意打ちも効かないし接近戦もダメ。となると――。


「罠をしかけるしかない。自分を囮にして」


 出来るか……? いや、やるしかない。


 どんな罠にしよう、どうやって罠に掛からせるか。


 考えがまとまったのは朝日が昇った翌日だった。





   †                    †                    †





「いけるかな……いや、やるしかないんだ……」


 大丈夫、死にはしないと思う。……たぶん。


 あれから色々と準備に時間を費やしてなんとか間に合った。


 今日で試験最終日。


 頭の中には一日かけて考えたプランがあるが、正直成功するかなんて一割も満たないと思う。これがダメだったらもう後がない状況だ。


 今俺は木陰に身を隠して息を潜めている。


 視線の先には先生が周囲を窺うようにゆっくり歩を進めていた。彼我の距離は二十メートル。


 ――よし、い、いくぞ……!


 木陰から飛び出す。僅かな音も聞き逃さず先生がこちらを振り向いた!


「ブルゥゥゥウウウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォ――――――!!」


「うわっ、きた! 怖えぇ~っ!」


 早く逃げないと。


 幸い先生の足は遅い。十分距離を確保できる。


 付かず離さずの距離を保ちながら先生を特罠が仕掛けてある場所へ誘導する。


 その罠というのは定番中の定番である落とし穴だ。


 昨夜のうちに別荘に戻り、倉庫にあったスコップとレジャーシート等を使い作った。


 深さは三メートルほど。中に竹を槍のように尖らせたものを設置しようかと思ったけれど、さすがに危ないから何も入れていない。まあ先生ならそれでも無事でいそうな気がするけど。


 ぶっちゃけこの落とし穴は足止め程度のものだ。足を挫けば御の字程度。


 この罠は二段構えになっていて、落とし穴の上にはレジャーシートがピンと張られている。シートの中には大量の水が入っており、縄を切ればすぐに落とせる仕組みだ。


 先生はスーツを着ている。そのため水で服が肌に張りつけば動きの妨げになるだろうと思ってのトラップだ。落とし穴の本命はこちらである。


 ――よし、なんとか誘導できた!


 先生の前には少し違和感が残る地面。穴に蓋をするため少し盛り上がっているが、先生は目を閉じているから見分けられないだろう。


 ズボッ、と音を残して先生が落とし穴を踏み抜く。狙い通り先生の姿が穴の中へと――。


「イィィヤァッ!」


「へ?」


 ズンと壁に向かって拳を突き出す先生。易々と壁に腕が埋没し落下を防ぐ。


 そのまま交互に腕を突き刺して上り始めた。


「うっそぉん……でも、これは避けられないでしょ!」


 近くの茂みに張られたロープをナイフで切る。このナイフも別荘から持ってきたものだ。


 落とし穴から這い上がってきた先生の真上に設置されたレジャーシートが傾き、勢いよく水を流す。


 今度は避けることが適わず、全身水濡れになった。


「コオオオオォォォォォォアアアアアアァァァァァァァァァァ――――――ッッ!!」


「うわー、超怒ってるよ……!」


 その場で地団駄を踏む先生。いつもの冷静沈着な姿は完全になりを潜めていた。


 ズドンッとも、ズシンッともつかない重たい音とともに地面を揺らし、鬼のような形相でこちらを睨む。目を瞑っているのに殺気が籠った視線をビンビンに感じたような気がした。


 次のチェックポイントに誘導するため再び走り出す。


 そこはここからそう遠くない場所にある開けた空間。少し準備がいるため、走る速度を上げて先に目的地へと向かった。

 
 

 
後書き

 バーサーカー千夜は某最強の弟子の無敵超人をイメージしていただければと思います。まあ、諸事情によりややご都合が入ってますが(汗)

 今回の話がひと段落したら久々にIFを書こうと思います。萌香成分が不足しているので、ここらでチャージしようかと。
 
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