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魔法少女リリカルなのはA's The Awakening

作者:迅ーJINー
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第二十三話

 
前書き
 誰も止められないからやめろって言われたけど、この二人のカードは見たいし書きたいんだよ! 

 
 リインフォースの話を聞いて、とりあえず仕切り直しとシグナムが言う。またはやてが眠ってはいるが命に別状はないということも、それに拍車をかけたのだろう。そして、シグナムが確認のために告げた。

「主がご無事ということでひとまずは安心だな。さて、次はあの繭だが」
「ああ。あれだが……かなりやっかいな代物だぞ。なにせ、切り離した防衛プログラムが書の魔力を持ってそこにあるのだからな」

 続けてリインフォースが言うには、例の繭は防衛プログラムの待機状態であるという。そこから開放された防衛プログラムはもはやただ破壊をもたらす化身でしかない、とか。

「しかしリインフォース、そうなるとお前が使える力は全部あれに持って行かれたんじゃないのか?」
「まぁな……主と融合できればまた違うんだが、今の私はただの抜け殻だ。一人じゃただの魔力の塊でしかない。それでも、融合機としての力が残っていただけ私からすれば奇跡といっていい。本来ならそれすら持っていかれるところだったが……まぁ、そこまでは奴にとって必要なかったのかも知れん」

 そう自嘲する彼女の姿からは、無力な自分に対する悔しさのようなものがにじみ出ていた。先ほどの威厳ある姿を見せていた人間と同一人物とは思えないほどの変化である。ただ、彼女が言うことが本当だとするならば戦う時は常に主の一番近くにいれるということになるので、そのことに羨望のようなものを覚えたシグナムだったが、今はそれどころではないと頭を切り替えた。

「……とりあえず、話を戻そう。あれはどうしたらいいんだ?」
「下手に壊すと力が暴走して何が起こるかわからん。一瞬で消滅させるほどの魔力を浴びせることができればいいんだが……」
「なるほどな……やっと高町の出番ということか」

 そう。ここまで誰も触れていないが、対リインフォース用としてチャージしたなのはのスターライトブレイカーは発射準備を完了していて、未だに待機状態にあるのだ。

「そういえば、どこからか巨大な魔力を常に感じてはいたが……あれだったのか?」
「ああ。あれだけの魔力なら、吹っ飛ばすのに支障はなかろう」

 そしてシグナムは、なのはに念話を飛ばすと、魔力の繭に向けて発射するように伝えた。

「やっとだね……待たせてごめんね。行くよ、レイジングハート!」
「No problem.Star light braker.」

 力強いレイジングハートの声に応えるべく、なのはが最後のワンアクション。

「照準補正終了、発射準備!」
「All right master!Shoot it!」
「全力、全開!スターライトォォ……」

 レイジングハートを大きく振りかぶると、前方に球体として固めた桃色の魔力にまるで野球のバットスイングのごとく力いっぱい叩きつける。

「……ブレイカァァァアアア!」

 それがトリガーとなり、受けた魔力は光線となって真っ直ぐに繭に向かって伸びていき、直撃した。魔力と魔力が激突し、一瞬だけスターライトブレイカーが止められたように見えたが、そのまま飲み込んで突き抜けた。それを見た騎士たちの反応は、唖然としただけといったものだった。

「そんな……これほどの魔力が、一体あの少女のどこに?」
「……さぁな、私もこれを見たのは初めてだ」

 しかし、とザフィーラがシグナムの横に来て告げる。

「もしこれで破壊できていなければどうするつもりだ?テスタロッサは戦えない。高町もおそらく……」
「……確かに、今の状態を楽観視はできないな。それにもうひとつの心配事として、兄殿と山口殿、そしてクロノ執務官も戻られていない。せめて彼らがいてくれればまた違うんだが……」
「彼らも消耗している可能性も十分あるぞ。おそらく何者かと交戦中だろうからな」
「ああ……」

 竜二も直人も、謎の魔力反応を検知して確認しに飛んでいったきりでまだ戻ってきていない。しかし、そこにリインフォースが待ったと声を上げる。彼女が言うには、気になる魔力反応が一つこちらに向かっているとのこと。その正体は長距離の魔力探知を苦手とするシグナムであってもすぐわかるほど近づいてきていた。それは砂煙を巻き上げ、猛スピードでシグナム達の元へと向かってくる。

「兄殿!?」
「ほう、どうやら探し人の一人のようで何より。しかし、兄殿とは?」
「後で紹介する!どうやらただ事じゃないようだ……」

 どうやら、魔力探知するまでもなく垂れ流しとなっている濃密な魔力構成を感じ取れたのだろう。そして、ソードマスターモードで突進してきた竜二も、シグナムを見つけるとその手前で止まろうとしたが、勢い余ってシグナムの前でつまづいたか派手に転倒し、ユニゾン状態から分離。そのままうつ伏せから仰向けに体勢を変え、深呼吸を一つして呟く。

「ゲホッ、ゲホッ……さ、流石に死ぬかと思ったわ……」
「お疲れ様でした、主」
「ハァ……しばらく体がまともに動かんでこれ……あちこちいてぇ……」
「主、こちらに」
「ん、おう……」

 アスカは倒れ込んできた竜二を抱きとめ、そのまま抱き上げた。それを見たリインフォースの顔が驚愕に彩られる。

「融合機……だと?何者だ貴様……!?」
「闇の書の闇を滅ぼすために生み出された閃光の書。そこに眠っていた融合機であるアスカ殿だ」

 そこでシグナムが紹介した。それを聞いたリインフォースは、険しい表情をほぐすとシグナムに聞く。

「ということは、そこの青年が……」
「契約者の八神竜二。我らが主の兄殿だ」

 絶句するリインフォース。ある意味、シュールとも言えるだろうか。自らの主の兄が、戻ってきたらいきなり倒れ込んで女性に担がれているのだから。するとそこに、なのはからシグナムに念話で連絡が入った。

『シグナムさん、今大丈夫ですか?』
『高町か?どうした?』
『すみません、あれじゃ全部吹き飛ばすのには足りなかったみたいなんです!』
「なんだと!?」

 なのはからの念話に応答していたシグナムは、つい大声を上げてしまった。それに対して周りが一斉に彼女の方を向いたが、彼女自身は繭の方を見た。シグナムはそれを確認すると、嘆息してなのはに避難勧告を出した。

『繭は未だ健在です!私、どうしたら……』
『……そうか、わかった。アルフとテスタロッサを連れてすぐそこから離れろ』
『……わかりました』

 そして念話を切る。なのはの最後の声には、悔しさと申し訳なさでいっぱいと言いたげであった。

「シグナム?」
「……恐れていた事態が起きてしまった」
「まさか……」
「ああ……繭を覆っていた魔力を吹っ飛ばしただけで、どうやら健在らしい。それどころか、まもなく中身が暴走するぞ」

 まばゆい光を撒き散ら煎しながら解けた繭から現れたのは、男性とも女性ともわからぬ人の形をしたシルエット。ただ黒一色に染まったその姿から、禍々しい気のような魔力が濃厚に立ち上っている。今のところはまだ動く気配がない。

「あれが、闇の書を闇の書たらしめる闇か……ふむ、こう聞くと紛らわしいな」
「確かにな。だが油断はするなよ」
「むしろこれだけの魔力を感じて油断できる奴がいるなら見てみたい」
「それもそうか」

 闇の書に蒐集された魔力をほぼ全て持ってそこに存在するのだから、並の魔導士なら恐怖を感じるのが当たり前。それどころか、一般人でもなんとなく近づきたくないという雰囲気がわかるくらいに撒き散らされる殺意。それを感じ取ったか、不完全ながらも竜二が目覚めた。

「やれやれ、ようやくお目覚めか。俺の体は」
「主……大丈夫ですか?あまりご無理は……」
「阿呆。こんな事態でいつまでもボケっと寝とれるかい。とりあえずおろしてくれや」
「はい」

 竜二はアスカの肩から降りると、そのままシグナムの元へと向かう。

「よう」
「兄殿か」
「ああ。すまんな、きた瞬間ブッ倒れて」
「それは構わないが……大丈夫なのか?」
「少しでも寝れればなんとかなるようになっとんねん人間の体は。で、状況は?」
「……最悪の事態の一歩手前と言っていいだろう」

 シグナムはそう言うと、黒いシルエットを指差した。竜二もそれを見て顔をしかめる。

「高町の砲撃が直撃した結果、あれが出てきた。おそらくあれを倒せば、闇の書の防衛プログラムは一旦停止する」
「その間に、アスカが闇の書にアクセスして防衛プログラムを解除、切り離すってことか?」

 リインフォースとシグナムが頷いた。

「わかった。あの野郎の足止めは俺達が引き受ける」
「……頼む。本来なら我々の仕事なんだが……」
「闇の書の一部でしかなかったお前らが、本体に勝てるわけあらへんやろ」

 そう言って、アスカと再びユニゾンした竜二。刀を腰に装備したということは、今回はソードマスターモードで接近戦を挑むつもりらしい。

「まぁそこで見とれ。休ませてもらったぶんきっちり仕事はこなすわ。死に様咲かせてみせやしょうってな!」

 そして竜二は魔力噴射によって超加速を生み出し、シルエットへと向かっていった。その周囲には砂埃が舞い上がり、その様はまるで砂嵐のごとく。

「あの二人だが、魔力だけは凄まじいな……一度くらったことがあるとはいえ」
「制御できる魔力もどんどん増えている。我々と初めて会った頃とはまるで違う」

 彼が走り出してから、リインフォースはシグナムにズバリ聞いた。

「……彼、勝てると思うか?」
「わからない。兄殿一人なら力の差、経験の差から無理だと断言できるが、あのアスカ殿が一緒である以上……」
「そうか……ん?」
「どうした?」

 リインフォースが何かに気づいたのか、周囲に目を配らせる。しかし何も見つからなかったのか、シグナムに顔を向けた。

「将、すまないが一つ頼まれてくれないか」
「なんだ?」
「こちらに多数の魔力反応が接近してきている。味方なら問題はないが……」
「偵察か。本来ならシャマルの仕事なんだが……ここでじっとしていても仕方がない。引き受けよう」
「ならば、我も同行しよう」
「頼む」

 そして、シグナムとザフィーラが謎の魔力へと当たることとなった。騎士達の主である八神はやては未だに目覚めない。そんな中突っ込んでいった竜二は、ある程度の距離まで詰めると一旦止まり、峰を地面に向けて刀を左手で支える。

「ターゲットロック。後は突っ込むだけやな。行くで!」
『了解!空中機動のイメージ展開は忘れずにお願いしますよ!』
「当たり前やろが……喰らえや刃の弾丸!うぉぉぉぉぉぉおおおおおあああああ!」

 刃の先端を敵に向けると、右手を強く握り込んで再び駆け出した。いわば、地面スレスレの超低空飛行。刃の先から風を切る音が哭くように響く。しかし、10メートルほど手前で弾かれてしまった。どうやら防御フィールドのようなものを展開していたらしい。

「ぐぁっ!?何や今の!?」
『おそらくアレの防御魔法ですよ。不可視の防御壁』
『くそったれが……ブチ破るには!?』
『LEBなら確実ですが、そこまでの時間をくれるかどうか……』
『アレか……普通にヴェスパインでぶち抜けんのか?いくらなんでも無茶やろ』

 LEBとは、ライトレイ・エクストリーム・バーストの略である。破壊力・貫通力は申し分ないが、チャージ時間と使用魔力が半端じゃなく必要になるのでめったに使わない。

『……訂正します主。我々はアレにLEBをぶち込んでいたことをお忘れなく。もしかしたらまだ足りないかも知れません』

 闇の書の闇との距離は直線にして約15メートル。砲撃を叩き込むには十分とも言える上、ソレは未だ動く気配を見せない。 

『上等……微動だにせんのが不気味やが、今はそれをラッキーやと思うことにしようか』
『やりますか?』
『ああ。全力をこの一撃にかける!』
『その後は私にお任せを!』
『お前は何を言ってるんだ……?』

 しかし、そのアスカの一言を否定するかのように、竜二は静かに告げた。すると竜二はいつの間にかスナイパーモードを展開していた。そして、強烈な一言を叩きつける。

『……まさか、それ全部を叩き込むおつもりですか!?』
『そんぐらいやらなアカンやろ!後のケツは騎士達に持ってもらおうや!』
『あなたって人は……』
『さっき自分で吐いた「死に様咲かす」って言葉、嘘にさせんなや!』
『……わかりました!最期までお付き合いいたしましょう!』

 そして竜二はヴェスパインを構えた。

「ヴェスパイン、カートリッジロード!」
「Yes sir.」

 そのままカートリッジを二発消費し、銃口の前に魔力が塊として現れた。

『もっとぶっ込めや!こんなんちゃうやろ!LEBを超えたLEBを作るんやこの場で!』
『了解!』
『俺も絞り切る……引き金を引く力さえ残ればそれでええ!』

 アスカの魔力も竜二の魔力も込められたことで、さらに濃密に、さらに巨大になる魔力塊。既に竜二の足元を中心に砂嵐が舞い上がっている。

「殺しきる……この一撃で!」

 体を支える足も、銃を支える腕も震えている。それでも彼は投げ出さない。なぜなら、彼は一人じゃない。騎士たちが、妹が、仲間たちが、彼の腕を、足を支えている。

「ええぞええぞ……上がってきたで熱くなってきたでアドレナリンぶっぱ来たでこれぇッ!」
『ちょ、テンション上がりすぎて何言ってるかわからないんですけど!?』
「安心せい俺もわからんわ!クスリ入ってなくても全身の血が沸騰するようなこのハイテンション!これこそクライマックスって奴やろ!」

 そして口上を述べ、最大の砲撃を叩き込む。

「咎人へと突き刺され、断罪の閃光!受けてみろや、俺たちの限界突破!ライトレイ・ブレイカァァァァァァァアアアアアッ!」
『行っけぇぇえええッ!』

 文字通りライトレイ・エクストリーム・バスターのパワーを即席で超えてきた、竜二とアスカの持つ最強の砲撃魔法、ライトレイ・ブレイカー。その太い魔力光は、防御壁ごとソレを吹き飛ばしたように見えた。



 その頃直人とクロノは、襲い来る集団を片付けていた。

「しっかし鬱陶しいほどおるなぁ。俺らの獲物じゃ殺せんし」
「仕方ないだろう。気絶させて黙らせることを最優先だ」

 直人が二丁拳銃で牽制しつつ剣で殴り倒し、クロノも体術で応戦する。

「怪我させるだけで動けんくなると思ってたけども、脚吹っ飛ばすくらいはせんといかんとは、なんともしぶとい連中やで」
「文句を言う暇があるなら体動かせ」
「どこの体育教師ですかアンタ」

 脚を軸にして回転しながら拳銃を連射し、止まった方向に抜刀して突撃、そしてまた自分を中心に銃撃というパターンを繰り返す直人。クロノは魔力強化した肉体を最大限利用し、小さい体躯を生かした俊敏な動きで確実に人体の急所を打ち抜いて沈めていく。

「しっかし、こんだけの数どこから湧いてくんのか」
「人を蛆虫みたいに言うな」
「失敬な!蛆虫ちゃうわ!ホモクレ虫や!」
「余計ひどい!しかもそんな虫は実在しない!」

 などと喋りながらも互いに動きが止まらない。

「そ、そんな……」
「というか、この状況でよくそんな無駄口が叩けるな!」
「むしろ叩かなやってられっかい!俺らが抜かれたらあいつらのところまで一直線やねんぞ!」
「論理性を欠いているせいか何を言っているのかわからん!」
「安心しろ、俺もわからん!」
「おィィィイイイイ!?」

 すると、直人は突然飛び上がった。クロノもそれを追従する。

「おい、どうするつもりだ?」
「流石にこれを全部相手にしてたら身が持たんでな。練習中やから使いたくはなかったけど、広域範囲攻撃、やらせてもらう!」
「おい直人、さっきはないって……」
「安心してというか、確実に抑えきってぶっ放す余裕があるかわからんかっただけや。こうなったら後のことは何も考えん。全て焼き払う!」

 既に直人は苛立ちでかなり頭に来ていたようだ。声を荒らげてジューダスに命ずる。

「ジューダス、フルバースト行くで!」
「Yes sir!Full burst mode ignition!」

 快諾したジューダスが直人の全身を魔力で覆うと、その一瞬あとには銀色の巨大なロケット砲のようなものを右肩に担いだ彼の姿があった。

「案の定や、俺らが消えたらまっすぐ向かっていきおる」
「おい直人、何をするつもりかは知らんが、確実に止められるんだろうな?」
「無理やったらさっきのやってや」
「そんな時間もないだろう。僕は先に戻るから、撃ったらすぐ来い」
「了解」

 クロノが放った去り際の呆れ声を聞きながら、直人は大砲の照準を合わせるためにスコープをサイドから取り出して覗き込み、ロックする。

「さぁて、いっちょ派手にやったろか!」
「Are you fuck'n ready?」
「イェァ!」

 そして砲塔の先端に魔力を収束し始める。

「Everybody commit to hell!」
「Yes sir!Start to charge『Destruction Burst』!」
「Good job.Let's Rock!Just now is party time!」

 テンションが上がると英語が飛び出るのはデバイスが英語を操るからだろうか。ただし、ノリだけで喋っているから文法とかはかなり無茶苦茶ではある。

「Judas,are you ready?」
「OK.Full charged it now.」
「Good job.『Destruction Burst』Full Fire!」
「Yes sir!On Fire!」

 そう言うと直人は、砲塔を上に向けて放つと、その場から離れて魔力操作を行う。

「我が身に宿りし怒号の炎神よ、我らが前に立ちはだかるもの全て焼き払え!デストラクション・バーストォ!」

 デストラクション・バースト。直人が編み出した広域範囲攻撃魔法。砲塔の先端に貯められた魔力を拡散して、地上に空襲のごとく降らせるもの。制圧力こそ充分だが無差別攻撃となるため、使う状況には十分注意しなければならないのが欠点か。しかし突然降りしきる魔力の豪雨に逃げ惑う敵を見て直人はついつい言ってしまった。 

「ハハハァ!走れ走れェ!迷路の出口に向かってよォ!」
「……What are you talking about?」
「細かいことは気にすんな!ロックしてへんで!」
「……Oh yes……」

 デバイスにまで呆れられる直人であった。しかし、それでもまだそれなりの数が残っている。

「いくらなんでもこれは撃ち漏らしが多すぎるぞ直人。もう少しなんとかならなかったのか?」
「そうは言うが執務官殿、あれだけの数を全員確実にダウンさせられるんかいな?っとぉ!」

 残っていた敵を掃討にかかる二人に、繭のところからここまで出張ってきたシグナムとザフィーラを迎え、四人で防衛ラインを構築していた。

「僕ならできたな。もっともあんな無茶な真似はしないが」
「何そのでしゃばった俺が悪いみたいな!」
「あながち間違いじゃないな。それに口ばかり動かす暇があるならいい加減体と頭を動かしたらどうだ?」
「あぁもう腹立つぅぅうううう!」

 シグナムとザフィーラはただひたすらに敵を屠る。剣の一振り、拳や脚の一撃が響くたび、確実に一人、また一人と倒していく。そんな中、シグナムとクロノが念話を繋いだ。

『全く、とんでもない数だな。これを二人で止めてたのか?』
『ああ。正直、ジリジリと防衛ラインを下げられつつあるがな』
『それでもここまで時間を稼いでくれただけで十分だ。こちらの目的はほぼ達したも同然だからな』
『そうか、なら今度は全員が撤退できるまでここで粘る必要がある、ということだな』

 一方、直人は回転切りで周囲を吹き飛ばし、体勢を整えると、ゆっくりと剣を上段に構えた。

「大技その二、行くでワレェ!」
「What you use?」
「"Destruction Wave"Stand by!」
「Yes sir.Stand by"Destruction Wave"!」
「Let's destroy and kill them all!」

 すると、直人の構えた剣に炎が纏わり始めた。クロノはそれを見て舌を打つが、シグナムが苦笑しながらクロノに答える。直人のサポートに入るため加速する二人を追撃せんと追う男を、ザフィーラが右ストレート一撃で沈黙させた。シグナムは、右足を前に出して正眼に構え、静かに唱える。

「紫電……一閃!」

 剣に炎が纏われると同時になぎ払い、直人の元へと向かう道を作った。しかしその時には直人もチャージが完了していたようで、剣を振り下ろす瞬間だった。

「舞い踊れ、死の荒波よ!全てを攫う嵐となれ!デストラクション・ウェェェェエエエエエエエブッ!」

 叩きつけた剣の先から、約前方120度に渡って広がる炎の荒波と砂嵐。それは多くの敵を飲み込み、火炙りを加え炭と為す。逃げ惑う者に砂を浴びせ、埋もれさせて逃げ場を潰す。

「な……んだ、これは……?」
「これは一体……僕も初めて見たぞ……?」

 クロノとシグナムが呆気にとられていると、その横から魔力弾が迫る。それをザフィーラが左脚で弾くと、シグナムは突然伸びてきたそれに驚きつつも礼を述べた。

「驚くのはわかるが、ここはまだ死地。気を抜くな」
「そうだな。よし、山口殿を回収して、一旦戻ろう」

 さっきの魔法の影響か、うずくまる直人をザフィーラが右肩にかつぎ、シグナムとクロノが護衛をしつつ退却していく。しかし、その横を一人の魔導士がものすごいスピードで駆け抜けていった。そして、その魔導士を追ってクロノが飛び出していく。その魔導士が向かう先は竜二だった。

「後ろ見ろ竜二!来てるぞ!」
「なんやおガハァッ!?」

 すると、ヴィータが叫びながら突撃してくる。それに気づいて反転すると、竜二の心臓をその魔導士が握る魔法剣が貫いていた。

「い、つの、間に……」
「八神竜二、討ち取ったりィィィイイイイイイイ!」
「竜二ィィィィィイイイイイイイイイイイイ!?」

 そのまま剣を抜かれると、貫かれた胸と背中から血を吹き出しながら倒れこんだ。



 そこから離れた数十キロ以上離れた位置では、二人の男が死への輪舞を舞っていた。拳と剣が奏でるは、肉を裂き、骨を砕く鈍い音。それでも二人は倒れない。好戦的な笑みを浮かべながらも戦い続ける。

「不死身はお互い様ってわけか!?」
「そういうことらしいな!」

 誰も邪魔できない、重量級同士がぶつかり合う超高速戦闘。火花が散り、血肉が飛び、大地が割れ、空が哭く。フレディは腹部を割かれ、ビスカイトは左胸に風穴が開いており、どちらも血まみれ。それでも狂ったように笑みを浮かべ、平然と戦い続ける彼らはまさに戦闘狂。

「クククッ……これが戦よ、闘争よ!フレディとやら、久しぶりにここまで愉しい戦にしてくれたこと、心から感謝いたす!
「それはお互い様って奴だビスカイトォ!」

 もはや生物としての常識など通じない、今の彼らにあるのはただ一つ、どちらが生き残るか。生存本能と闘争本能が、互いを殺せとうるさく喚く。

「クカカカッ、お前も本当に死なねぇな。あの時と同じこと聞いてやろうか?」
「このような時間に言葉など無粋。そうは思わんかね?」

 それを聞いたフレディは、天に響く高笑いをあげた。ビスカイトも釣られて声を漏らす。

「そうか、それもそうだな!死なない相手なら安心だァ、久しぶりに遠慮なく全力で行かせてもらうぜェ!」
「かかってこい、我らが敵たるベルカ最古の騎士!今は亡きプロトン王よ、天より私の全力をご照覧あれ!」
「そうか、前から引っかかってはいたがプロトン所属ってことはあの頃か……亡国の騎士が相手とあっちゃぁ、失礼があっちゃいけねぇよなぁ!」

 肉に食い込み、骨が軋むほどの力で拳を握り締めるフレディ。その痛みすら心地よいのか、麻痺して何も感じていないのか、そのまま拳を地面に叩きつけると、まるで鯨が飛び上がった時の水しぶきのように砂が大きく舞い上がり、二人の外へと降りかかる。

「古代ベルカの技と力を、今に引き継いでいる騎士が相手ならば何の不足もない。我も、久々に全力で参ろう!あの時は調査任務の最中だったが故小手調べ程度だったが、今はそんなことを気にする必用もないからな!」

 こちらもまた剣が軋むほどの力で握り締め、横薙ぎにひと振り。それだけで先ほど直人が放った技以上の衝撃波と砂の波がフレディを襲う。互いに亡くした国を背負った騎士と騎士、懸けるのは意地と誇り、昂ぶるのは本能。もはや思考など意味を持たない。あるのはただ力を振るい、目の前の相手に叩きつけるだけ。

「改めて名乗り上げといたそう。古代王国プロトン王の親衛隊隊長並びに教導官、ビスカイト・ローウェル元中将!」
「古代ベルカ王朝騎士隊元隊長、時空管理局一等空佐並びに特務捜査隊捜査官、フレディ=アイン=クロイツ!」

 そして、互いに声を揃えて叫んだ。

『推して参る!』 
 

 
後書き
 フレディさんキャラ変わってきてる気がするけどこんなんで大丈夫だろうか。 
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