魔法少女リリカルなのはA's The Awakening
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第二十二話
前書き
マイファスかっけぇな。みんなアルペジオ見ようぜ!
闇の書の意思を相手に、フェイト・シグナム、ヴィータの三人が前衛として突撃していく。だが彼女の周囲に張られている不可視の防御壁に阻まれ、ここまで誰一人接近できていない。同時突撃に多方面同時攻撃など、様々なものを試しているが、やはり元々の魔力値が違いすぎるのが原因か。また今の彼女に意思はなく、ただ戦うことだけに思考を巡らせているのもあるのだろう。
「くっそ硬ぇ……このアタシとアイゼンでブッ潰せないなんて……」
「弱音を吐いている場合か?」
弱った様子を見せるヴィータを叱責するシグナム。しかしヴィータは悔しさを滲ませるように呟いた。
「仕方ねぇだろ。しかしこいつ、こんなに強いなんて……」
「我らより上位に位置する管制人格としての騎士なのだ。普通に考えれば当たり前の話なのだがな」
「んなことは分かってんだよ!」
たまらず怒鳴るヴィータ。頭でわかってはいても感情が納得しないということだろう。彼女も騎士であり、自分に与えられた役割へのプライドは高い。しかし、ある程度接近できないとバインドをかけられないが、このままジリ貧でいられるほど時間は無限ではない。なのはならもしかしたら貫けるかもしれないが、そのあと追撃のための最チャージをしている時間はくれそうにない。
「鉄槌の騎士たるアタシに貫けないなんざ情けねぇ……」
「今回は相手が悪いというのもあるかも知れないがな。さて、どうしたものか……」
ちなみに、なのはは彼女たちが攻撃を始めた段階からスターライト・ブレイカーのチャージを始めている。今回はどれだけの魔力が必要なのかわからないため、ディバイン・バスター・パワードでは不足と判断したのだろう。そこでシグナムはフェイトに確認した。
「テスタロッサ。確かお前もミッドチルダ式だったな」
「ええ……まさか!?」
フェイトもシグナムの言わんとすることを理解したようだ。彼女は自らのデバイスであるバルディッシュを握り込み視線を落とすと、反応が来た。
「Please believe us.」
「バルディッシュ……」
「We can achieve it absolutely.Please Beleive us my buddy.」
「……うん、そうだね。私たちならやれるよね!」
「Of cource!」
すると、フェイトはシグナムに向き合い、はっきりと言い放つ。
「やらせてください。私とバルディッシュで貫きます」
「わかった。一発目は大きく頼むぞ」
「はい。行くよ、バルディッシュ」
「Yes sir.Sealing form set up.」
そしてフェイトは覚悟を決め、バルディッシュの形態を変化させた。先端に光の翼を展開させ、まるで槍のような姿となる。先端を闇の意思に向け、静かに言葉を紡ぐ。
「アルカス・クルタス・エイギアス。強靭なりし雷神、我が示しのままに今裁きの鉄槌を下せ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。フォトンランサー・ワンショットシフト!」
「Photon lancer oneshot sift.」
すると、バルディッシュの先端に雷の球体が現れ、徐々に大きくなっていく。そのチャージ時間はスターライト・ブレイカーほどではないだろうが長い。
「なのはみたいな一点砲撃は初めてだけど……やるしかない!」
「Stand by.」
周囲に点在している魔力の残滓をかき集め、雷撃の槍としての質量を高め一直線に飛ばす。それが、フェイトがもともと扱っていたフォトンランサーという射撃魔法の派生バリエーションとして、バルディッシュとの間で編み出した一点射撃魔法であるワンショットシフト。術式はもともと組み上げていたのだが、実際に発動させるのは今回が初めてとなる。ヒントは、直撃を食らったなのはのスターライトブレイカーだとか。竜二の時といい、一点突破の砲撃といえば彼女という点はなんともはや。
「くっ……」
「Master,are you OK?」
これだけの大きな魔力の制御をする機会など、彼女の戦闘スタイルからしたらほとんどないために、バルディッシュのサポートがあっても演算が苦しいのか、彼女の表情が厳しくなる。
「……うん、みんなのために、こんなところでくじけていられない!」
「……I see.I do the best now.」
「やるんだ、みんなのために!」
そして、チャージが完了し、バルディッシュから合図が来ると、フェイトは改めて照準を闇の書の意思に合わせる。彼女の母親であるプレシア・テスタロッサの指導の賜物か、なんとか発射準備は整えることができた。後は引き金を引くだけだ。
「行くよ……ファイア!」
「Shooting!」
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおあああああああああ!」
そして、まるでトリガーを引いたかのように、フェイトが反動を受けると同時に雷の砲撃が彼女へと一直線に向かった。それと同時に、ヴィータとシグナムがその軌跡を追って突撃をかける。しかし、フェイト自身も自らの力だけで貫くつもり満々であった。
「ワンショットに込めた魔力はファランクスと同じくらい、いやそれ以上のはず。必ず……!」
ファランクスとは、彼女が放てる魔法の中で最大規模のものである「フォトンランサー・ファランクスシフト」のことである。30発以上のフォトンスフィアより繰り出される、フォトンランサーの一点集中高速連射。発射されるのは毎秒7発、その斉射を4秒継続するというのだから、その凄まじさは威力だけでなくそれを制御しきる彼女とバルディッシュだろう。注意点としては、フェイト自身の魔力を莫大に消費するため、1度使うと後がない状態に追い込まれかねないことだろうか。それほどの魔法以上に魔力を込めたというのだから、彼女の覚悟も相当なものだ。そして、ワンショットが彼女の防御壁に近づくと、まるで紙のようにあっさり貫通してそのまま直撃。シグナム達の目に映ったのは、墜落していく彼女の姿だった。
「……」
「……」
地面に叩きつけられた闇の書の意思。動く気配こそないが、まだはやてが表に出てきていないため、安心はできない。全員が固唾を呑んで闇の書の意思を見守る。すると……
「う……あぁ……くっ……」
「あっ、大丈夫!?」
「落ち着けテスタロッサ。まだ奴の可能性がある」
うめき声らしきものを上げ、起き上がろうとする彼女に近づこうとするフェイトをシグナムが止めた。彼女の言うとおり、まだ防衛プログラムである可能性が残っている以上、当然の対応と言える。
「う……あっ、がっ、ぐぅっ……がぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああっ!」
「何っ!?」
そのまま彼女は立ち上がって叫び声を上げると体をわずかに反らせた。すると彼女の全身から黒い瘴気のようなものが吹き出していく。それらは地上10メートルほど高いところで塊となり、球体を形作っている。その間に響く、彼女の悲痛な叫び。まるで喉を壊しかねないほどの声であった。一同は完全にこの空気に呑まれているようで、誰一人声を出すことさえしない。
「ああっ……がはっ……」
そして彼女からそれが全て放出されると、力が抜けたのか再び地面へと倒れこむ。その闇の光は、空に光る黒い太陽と化した。
「シグナム、これは一体何がどうなっている……?」
「私にわかるはずがない。こんな場面など初めて見たのだからな……シャマル、彼女を頼めるか?」
「ええ、任せて」
誰ひとりこの状況を理解できていない。無理もないことではあるが。闇の書の意思たる彼女を、シャマルが助け起こすと、その球体の直下から離れさせ、なのはの近くまで下がらせた。そして、空に浮かぶ黒い塊は、地上に降りると黒い繭となった。地面に根を張り、中心にある繭の部分を覆う繭暗い緑の管のようなものが脈動を繰り返す。あまりにもグロテスクで禍々しくもあるが、今すぐどうにかできるものにも見えない上、これを知っているであろう彼女は未だ目覚めない。八方塞がりとはまさにこのことだろうか。
「……シグナム、我らはどう動くべきなのだ?」
「わからん……とにかく、彼女が起きるのを待つしかあるまい。シャマル、様子はどうだ?」
「特に魔力の乱れは感じないから、自然に起きてくれると思うけど……」
「そうか。だが正直、今はあまり時間をかけてはいられないな……」
闇の書の意思は、シャマルの膝枕で眠っている。その表情は、あまりにも無垢で安らかなものであった。
「これが一体どういうものなのか、吹っ飛ばしていいものなのかどうかもわからない。下手に触って大惨事、といったことになっては……」
「ええ……」
「こうやって放っておいていいものにも見えないがな」
ザフィーラが言うのは、スターライトブレイカーを繭にぶつけるということだろう。あれだけの破壊力のある魔法が直撃すれば、もし吹き飛ばなかったとしても無傷ですむことはないと思われる。だが、どうしていいものかわからない以上、勝手な行動で取り返しのつかないことになっては手遅れであるが故、行動の選択も自然と慎重にならざるを得ない。
「せめて兄殿とアスカ殿がいれば、また変わってくるのだろうが……」
その二人共今はここにはいない。さらに言うと、直人とクロノもいない。各々、別の戦場で戦っている。すると、待ちに待った「彼女」が目覚めた。
「うぅっ……かはっ……!?」
「起きたか!?」
「ゆ、揺らすな……ここは……?」
そして彼女は起き上がり、シグナムに向き合う。
「目覚めたばかりですまないが、まずいくつか質問したい。大丈夫か?」
「ああ……すまない、癒し手。世話になった」
「ええ、構わないけど……」
しかし、彼女は仲間であるはずの他の騎士達を何故か名前で呼ばない。
「……さて、時間を取らせてすまなかったな。何から聞きたい?」
先程とは違い、はっきりとした意思を感じさせる目をしたその姿からは、何かしらの覚悟を決めた者が放つオーラのようなものが漂っていた。その彼女に、シグナムが放った最初の質問は、やはりはやてのことだった。これは全員が気になっていたことでもある。
「それは大丈夫だ。主はちゃんと、私の中にいる。少し待ってくれ」
それに対して彼女は自信満々に答えると、体を白い光に包む。やがてその光が収まると、そこには彼女とはやての姿があった。車椅子に座って眠ってはいるが、間違いなく生きてそこにいる。
「「主!」」
「「はやて!」」
「「はやてちゃん!」」
全員の反応を見て安心した顔を見せた彼女は続けた。
「説明していなかったが、主は私と融合状態にあった。だから、あの力を放出したところで、私と主が離れることはない」
「そうか……主を守ってくれたこと、感謝する」
「礼は不要だ、将よ。普段出てこないから忘れているのかもしれないが、私も騎士だ。心が闇に堕ちようとも、その誇りだけは捨てん」
彼女はそういうと、握り締めた右拳をシグナムに向けた。それを察したシグナムも、彼女に同じく右拳を合わせる。
「では改めて。久しいな、将よ」
「ああ、そうだな。そういえば、お前の名前は聞いたことがなかったような気がするが……」
「私も名乗った覚えがない。そもそも名乗るべき名前がないのだから、仕方がないといえば仕方がない話だが」
「名前が……ない?」
シグナムは驚いた。そもそも名乗りあった記憶がないのもそうだが、守護騎士たる自分たちでさえきちんとした名前があるのに、管制プログラムたる彼女に名前がないことが信じられなかったのだろう。
「まぁそれもこれまで。つい先程、主からかけがえのない素敵な名前を頂いた。故に私は、これからはこう名乗ろう。みんな、聞いてくれ」
そして彼女は、シグナムだけでなくその場の全員に高らかに名乗り上げた。
「私は、最後の『夜天の主』に仕えし守護騎士ヴォルケンリッターが一人、そして、『夜天の書』の管制プログラムである祝福の風、リインフォース。あの書は君達が呼ぶような『闇の書』などという名前ではないし、我らが主八神はやては決して『闇の書の主』ではない。誇れ、騎士達よ。アレを追い出した今、我らは既に闇の存在ではない」
その姿は、まさに王か何かと言わんばかりに、威厳に満ちた姿であった。
一方その頃竜二は、未だに戦闘中であった。空中で剣戟を繰り広げつつ、距離が開くたび見舞われる竜二の銃撃を全部魔力シールドで防ぐ。さっきから延々とこれの繰り返しである。
「クッソ、これじゃジリ貧やないかい……」
「諦めろ青年。貴様では私に勝てない。少なくとも、今のままではな」
その言葉が竜二をさらに焚きつけたのか、突きの構えをとり、突進のための体勢をとった。
「舐めんなよ……勝負はまだついとらんで!」
「その意気やよし。だが足りぬ!」
それを見た男もさらに激しい剣戟に移る。
「遅い遅い遅い遅い!」
「くそっ、くそォッ!」
しかし、竜二は防戦一方。対策を立てようにもどこに剣が来るか予測するのに必死で、対応するのがやっとといった状態では、考える余裕がなかった。今彼の頭の中は、ある意味空白状態とも言える。右かと思えば左から、上かと思えば下から。袈裟切りかと思えば突き、振り上げ。さらに回転切りなども効果的に使ってくる。そしてつばぜり合いになると、力の差なのか押し負けて飛ばされる。
「ホンマ強いわ……勝てると思えるところがない」
『余裕ないですよねぇ』
『あるかそんなもん。ついていくだけで精一杯や』
『そこが不思議なんですよ。倒すのが目的ならわざわざなんとかついていけるところまで「落とす」必要なんかないのに、って』
『まだ上があるんかい……』
アスカのその言葉に、竜二は内心放り出したくなった。しかしその衝動を放り投げて冷静に考える。
『てことはあのおっさんの目的は時間稼ぎか?』
『わかりません。これが彼の本当の全力なのか、主の対応力が予想以上に早くて驚いているのか……でも、ある意味一番納得できる仮説だとは思うんですがね』
『まぁ確かにな。そう考えると、向こうから攻撃してくるのも戦いの主導権を握り、指揮官に当たる俺の目をできるだけこっちに向けるためだと……?』
『そう考えるのが自然かと』
そしてしばらく斬り合って間合いをとると、男のほうが少し退いた。それを見た竜二も追撃を避けて剣を下げ、男に訪ねた。
「何のつもりや?」
「どうやらこれで私の出番は終わりらしいのでな。この場はこれで退かせてもらう」
「なんやと?逃げる気か?」
「戦略的撤退と言わせてもらおう。君たちもこんなところで私と遊んでいる暇はないだろう?」
「けっ、仕掛けた方がそれいうか?……まぁ、もうええわ。とっとと去ね」
あからさまに戦意を喪失し、剣をしまった竜二。それを見て男も剣をしまった。
「懸命な判断だ。敬意を評して一つ忠告しておいてやろう」
そんな彼に対し、男は告げる。
「深追いは禁物だ。早く仲間のもとへと戻ったほうがいいぞ?」
「……じゃあお言葉に甘えてそうさせてもらおうかいな」
「ではな青年。機会があったらまた会おう」
そして竜二は男を見逃した。まぁ頭を冷やした彼からすれば、戦っていた男はあくまで自陣に接近してきたから撃退しただけであり、ある意味勝利と言えなくもない。
「まぁええわ。今はあいつらより闇の書や」
『ですね……主、後ろ!』
「何……ぐはっ!?」
急いで竜二は自らを飛ばし、仲間たちの元へと急ごうとしたが、はるか後方から魔力砲撃の直撃を受けてしまう。非殺傷であったために肉体にダメージはないが、展開していたアサルトモードが解除されてしまった。
『大丈夫ですか!?』
『とりあえず動くのに心配はあらへん!しかし、誰や今の一発……』
『6時方向500メートル先より多数の魔力反応!?さらなる追撃来ます!』
それを聞いた竜二を軽い敗北感を襲うが、すぐに気を取り直すとアスカに支持を出す。
『チィッ、そんなところまで接近されて気付かんとか俺は間抜けか!フルファイアモードに移行してすぐバリア展開!』
『了解!』
かろうじて間に合ったか追撃は防いだが、どうやら避ける時間すらなかったようだ。これがあの男の作戦であったことなどに今更気付いてももう遅い。あの中年の男は完璧に竜二を殺すつもりだったのだろう。自ら手を下すわけではない司令官的立場の人間。本来の彼ならばこのまま黙っているつもりはないが、いくらなんでも単騎であの数は不可能と判断したのか、まずは一旦撤退を選択した。
『ブースター噴射の演算は俺がやるから、お前は全力でバリア頼む』
『了解です!なんとかこの場は逃げ切りましょう!』
『それを許してくれる連中やとありがたいけどな……とにかく行くで!後ろは見といてくれよ!』
『もちろんです!』
しかし、それでもとにかくこの場は逃げ切ることに全力を注ぐ。戦うこと第一と思われる彼だが、それはテンションが上がっている時や限定的なシチュエーションである時に限られており、その場を選ぶ判断力は高い。しかし、魔力弾の雨は次から次へと襲い来る。
『やっぱりただじゃぁ逃がしてくれんか……』
『そりゃそうでしょう。さて、どうします?』
『バリアの残りゲージは?』
『残量38%。このまま逃げ切るには少々不安な数値ですが……』
バリアはただ展開するだけで魔力を食い、また攻撃を受ければさらなる魔力を消費してしまうという曲者。その回復はバリアを解除するまで不可能であり、また形態を別のものに変化している時の方が回復が早いという面倒な仕様。しばらくしてから、なんでこんなところまで再現したのかと膝まづいている竜二の姿があったとかなかったとか。
『アサルトのブースターの残量は?』
『84%まで回復させていますが……』
『なら十分。アサルトに変形、すぐにブースター全開で振り切るで!』
『了解!』
しかし、どうやら先ほどの男に随分深いところまで突っ込まされていたようで、なかなか元の位置へと戻れない。
「なんやねんこいつら……こっちは色々キツいってェのに!」
『戦います?』
『んなわけないやろ無理やて。相手の数見ろや』
『ですよねぇ……』
砂漠であるために遮蔽物がほとんどなく、襲撃者の数は見えているだけで30人は下らないだろう。流石にその人数を相手にドンパチは避けたいところ。しかし、向こうはそんなことお構いなしに集中豪雨のごとき数で魔力弾を降らせる。
「こっわ!マジこっわ!こんなところで死にとうないぞワシャァ!」
『一人称変わってますけど!?』
『そんなけ怖いねん!』
『真に恐るべきはやはり人間っ……!』
『ざわ……ざわ……ってやっとる場合か!』
念話で悪ふざけをしつつ、ブースターを小刻みに噴射して攻撃をかわしていく。ただ、焦っているのは間違いないらしい。そうでもしないと正気を失いかねないほどの焦燥感にかられているということだろう。
「遅い遅い!」
『とか言いつつ魔力弾には追いつかれてませんか?』
『うるさい黙れ、んなこたぁ言われんでもわかってんねん!……って!?』
すると、いきなり竜二が倒れ込んだ。とうとうブースターに使う魔力が底をついたらしい。メインブースターに充填していた魔力も現在0%のようで、完全に万事休す。
『こうなったらソードマスターで……』
『かわせますか、あの雨を?』
『クッソ、なんでこんなところまで再現したんや俺は!』
『今更言っても仕方ない気がしますけど……』
『死ぬかも知れねぇって時に呑気やなぁテメェは!』
『あなたは死なないわ……私が守るもの』
『お前それ死亡フラグぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううううううううううううううううう!』
悪ふざけをしているが、今は本当に絶体絶命。現実逃避だろうか。
「処刑、開始!」
突然その場に鋭い声が響き、竜二を追う敵陣に魔力によって構成された刃が豪雨のごとく襲いかかった。謎の集団はそのおかげか、一時前進を止めざるを得なくなったようで、少しペースが落ちたようだ。
「なんや今の!?新手か!?」
『わかりませんが、正面から魔力反応が二つ、こちらに急接近してきています!』
『そうか、俺らもこれまでか……』
『ちょ、主!?縁起でもないこと言わないで下さい!ならなんで我々ではなく彼らを狙う必要があったんですか!?』
『クズに邪魔されるくらいなら殺っちまえ、とりあえず足止めだけでもできりゃいいや、てなところかと』
『なんでそう悲観的なんですかぁ……』
しかし、事態は彼らとは真逆に動いていた。竜二の前方上空に現れた青年と少年の二人組は、自らの武器を後ろの集団に向けて高らかに声を張り上げる。
「先輩をこれ以上やらせやせんでェ、このクソ共が!」
「時空管理局執務官、時空艦アースラ所属のクロノ・ハラオウンだ!貴様らが何者かは知らんが、ここより先は通行止めだ!」
フレディに妨害されて撤退している最中、たまたま近かったんであろうこちらへと向かってきた直人と、飛び出していった彼をサポートするために同行したクロノの二人だった。
「助かった……ってことでええんかな?とりあえず」
『どうやら、あの人たちだったようですね……』
『クソッタレ、カッコよすぎるわあいつら……』
などと言ってまたふてくされようとするフリをする竜二に、アスカが追撃を加えた。
『主、今回大した出番ありましたっけ?』
『うっさいな!確かにおっさんに振り回されて追っかけ回されて終わった感すごいけども!ってかまだ終わってへんし!』
『子供ですか!』
『男はいくつになっても少年なんです!』
『もう!……はぁ、でもそんな風に必死になる主も可愛い……』
『お前はどこに行こうとしとんやぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああッ!?』
半分諦めの境地にいたからか、緊張感を感じさせないやりとりをしている二人だが、それを周囲に感じさせないのはある意味すごいかも知れない。まぁあくまで念話であるから当然といえば当然か。そして連中がストップしたところを見て、直人とクロノが降りてくる。急降下のごとくスピードだったので、降りた瞬間砂嵐のようなものが舞い上がったのはご愛嬌。
「無事っすか先輩!?」
「なんとかな、生きとるよ……」
もはや舞い上がる砂嵐に文句をつける元気もない様子。
「後は我々に任せ、すぐになのはたちと合流してください」
「そういうわけにもいかんやろ。お前らだけでどうにかできるんか?」
「情けなくずっこけてた先輩なんぞ足手まといだと言ってもですか?」
「くっ……」
そう言われると反論できない竜二。
「すまんな、ここからは一旦任せるわ」
「大丈夫、俺らできっちり仕上げてやりますよ」
「早く行ってください」
「了解!」
そして竜二は、ラストスパートと言わんばかりにソードマスターモードに変更して駆け出した。その瞬間は、銃剣士とエリート魔導士が巨大な壁となって立ちはだかるように見えたという。
竜二を追い込み、撤退していった中年の漢に、一発の魔力弾が襲いかかる。それそのものはたいしたことなどなかったが、ここまで深追いしてきた輩が何者か気になって振り向いた彼は驚いた。
「ほう……今のは貴様か。久しぶりだな」
「預けておいた首をいただきに来たぜ、オッサン」
そこに立ちはだかるのは、彼らの戦いを影から眺めていたフレディ=アイン=クロイツだった。
「まぁ、闇の書ほどのロストロギアを処分することが可能なのは、今の管理局には貴様くらいのものか。魔導士の質も落ちたものだな」
「まあそう言うな。普通の人間は50年くらい生きれば前線から退かなきゃならんからな。俺らを基準にするのは酷って奴よ」
「クククッ、生物の限界か……それでは貴様は生物なのか?」
「おいおいひでぇこと言いやがる。まぁ何年生きてるかは俺自身もうわからなくなってきてるがね。昔の記憶なんてほとんど酒と女しかねぇわ」
見た目で言えばフレディの方が彼よりも一回りほど若く見えるが、そんなことなど彼らには関係ないのだろう。
「御託はそろそろいらねぇよな?」
「あの青年もいいものを持っていたが、延々相手をしていて少々退屈していたところだ。お相手願おうかな?古代ベルカを今に伝える最古の騎士よ」
「ハッ!上等!」
駆け出した二人の拳と剣が正面から激突し火花を散らす。ロックフェス以来、二度目の激突となった。
後書き
連日寒いです。頭は回るけども体がプルプルします。プルプル。
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