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最高のタイガース=プレイヤー

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第六章


第六章

「これからな」
「よしっ」
 皆の言葉に気合が入った。
「バース様の御活躍を祈願して」
「神社にもお寺にも参って」
「教会にもな」
 皆戦う前からはしゃいでいた。まだ勝負もはじまっていないというのに日本一になった時のことばかりを考えている。阪神が日本を覆っていた。その熱狂の渦がいよいよ実際に勝負になろうとしていた。
 広岡は思っていた。まず相手はバースが鍵だ。そのバースの弱点はもうわかっていると。確信さえしていた。
「西武球場での一戦二戦だが」
 彼は試合前のミーティングにおいて選手達に対して話していた。既に阪神ファンは西武球場を占拠してその歓声がミーティングルームまで聞こえている。広岡はそれを背に話をしていた。
「指名打者はバースですか」
「バースですか」
「そうだ」
 左の若手工藤公康の言葉に応えた。
「まず確実だ。バースの守備は阪神の弱点だ」
 こうまで断言する。
「それを隠す為にだ。まずこうしてくるだろうな」
「では監督」
 それを聞いて選手の一人が広岡に対して言う。
「今回はそれでは」
「第二戦までは一勝でいい」
 はっきりとその選手に告げた。
「そしてバースが守る甲子園で」
「バースを徹底的に攻めますか」
「その通りだ。何も打つばかりが野球ではない」
 広岡はそれがはっきりとわかっていた。今現在の巨人のように打つだけで野球が出来ると考えているような粗雑極まりない幼稚で浅はかな男ではない。そうしたことも完全にわかっているのだ。
「守備もだ。そして我々は」
「そこを攻めると」
「阪神の守備は決して侮れるものではない」
 広岡はこれもわかっていた。彼は相手を侮る男ではない。多分にプライドが高いがそれでも知将を自認するだけはある。阪神の守備力も冷静に分析していたのだ。
「およそ穴はない」
「ありませんか」
「あの広い甲子園だ」
 今度は甲子園球場も指摘する。その広い球場を。
「そこで勝ち抜くには打つだけではないのも事実だ。だからこそ」
「数少ない穴を攻めると」
「バースは確かに鍵だ」
 広岡はこのシリーズにおいて絶対の存在感を示している彼の名をまた出す。
「しかしそれは我々にも言えることだ。それを知らしめるぞ」
「はい」
「それでは」
「日本一になるのは我々だ」
 広岡は表情を全く変えずに一言述べた。彼らしく。
「いいな、それだけは絶対の自信を持っていい」
「阪神が何だ、ですか」
「ピッチャーについては何の問題もない」
 この時の阪神投手陣について彼は完全に安心していた。そう思わせるだけのものが当時の阪神投手陣にあったのもまた事実である。
「何のな。だからこそ」
「俺達が日本一ですか」
「そうだ。あとは敵将だが」
 意外な程顧みられていない敵将吉田義男についても言う。
「彼は私より慎重だ」
「監督よりもですか」
「危険な橋は渡らない。だからこそ安心でもある」
 それだけに手の内を読んでいるとまで言うのであった。
「そういうことだ。それでは」
「ええ」
「行きましょう、日本一の胴上げに」
「うん」
 広岡はまたしても静かに頷いた。そうして彼は痛風でどうにも動きにくい身体で戦場に向かう。彼の痛風についてもまあ色々と言われているがこれもまた彼の意外な人間臭さの部分でもある。
 阪神と西武は西武球場で戦闘に入った。観客席は見渡す限り縦縞である。六甲卸しが鳴り響いている。
「おいおい、西武ファンは何処なんだよ!」
「甲子園かあそこは!」
 テレビを見て思わず突っ込む者すらいた。そこはまさに阪神の世界であった。
「バースもおるで!」
「おお、おったおった!」
 誰もが三塁ベンチにいるバースを見る。それは西武ナインも同じであった。
「大きいな」
「ああ、二メートルはあるな」
 実際にはそこまで大きくはないバースを見て口々に言う。それだけ圧倒的な存在感とプレッシャーが彼にあるということであった。
「あんなのの相手か」
「だから守備だろ」
 ここで誰かがそっと囁く。
「下手に見て気を呑まれるな」
「そうだな」
 そう話し合ってまずはバースからのプレッシャーを避ける。そうしてスターティングメンバーの発表が行われる。
「えっ!?」
「嘘だろ!?」
 これに驚いたのは広岡や西武ナインだけではなかった。阪神ファン達ですらそうであった。
「バース指名打者ちゃうで」
「弘田がなっとるやんけ」
 ロッテから阪神に移籍してきていた小柄な外野手である。業師として知られている。守備にも定評がありセンターを守ることが多い。
 
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