戦国異伝
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第百五十話 明智と松永その十一
「そうですな」
「うむ、その通りじゃ」
「我等は同じじゃ」
「ですからそれがしもこれまで働いてきました」
「そしてこれからもな」
「わかっておるか」
「ですから今ここにおります」
あえてだ、織田家の中にだというのだ。
「時が来た時の為に」
「そうであるな、ではな」
「時が来ればじゃな」
「頼むぞ」
「その時にこそ」
「はい」
松永は微笑みさえ浮かべて応える、そしてだった。
影達はだ、松永に残念そうな様子でこのことを話したのだった、その話すこととは。
「宇佐山城は陥ちませぬ」
「援軍が来てしまったわ」
「そして明日にはこの軍勢も辿り着く」
「だからな」
それでだというのだ。
「近江でもしくじった」
「伊勢でもな」
「後は延暦寺を動かすか」
「加賀の他にな」
「左様ですか」
ここまで聞いてだ、また言う松永だった。
「わかりました、それでは」
「そのことは誰にも言わぬな」
「織田家の誰にも」
「決してな」
「そうするな」
「まさか。それがしは十二家の一つ松永家の主です」
それ故にだというのだ、松永も。
「それでどうして言いましょうか」
「はい、それではですね」
「今から」
「そうです、そして」
さらに言う松永だった。
「加賀に赴きます」
「織田家におるのか」
「そのつもりか」
「そうです、まだ」
今は、というのだ。
「何もしませぬ」
「ならばよいがな」
「それならな」
「しかし織田信長の首は取れそうか」
影の一つがここで松永にこのことを問うてきた。
「あの男の」
「暗殺ですか」
「うむ、出来るか」
「いえ」
これがだ、松永の返答だった。
「それは無理です」
「無理か」
「信長公の周りには常に人が多くおります」
「だからか」
「特に毛利殿と服部殿が」
信長の身を常に守っている二人、彼等がだというのだ。
「そして池田殿もおられますので」
「到底か」
「池田殿は常に精兵で信長公を守っておられます、また毒を入れようにも」
暗殺ではよくあるやり方だ、だがこれもだというのだ。
「毒見役が何人もいまして」
「茶の席でもか」
「その時もか」
「出来るものではありませぬ」
穏やかですらあった、松永の今の言葉は。
ページ上へ戻る