パンデミック

日本支部装甲壁前で始まった、本部の兵士達と突然変異種との交戦。

最初に遭遇した、遺体を喰っていた突然変異種が

「グガアァァァァァァ！！」


と、空に向かって咆哮した。
すると…………四方八方から、獣のような唸り声と足音が聞こえてきた。
しかも、それらは段々と兵士達に近づいてくるのだ。


「おいおい……アイツ一匹でも厄介そうなのによ………今度は何が来るってんだ？」

精鋭の一人・レックスが冷や汗をかきながら突然変異種とその周囲を警戒する。


「………5体は来たな………」


ブランクが静かに呟いた。
ブランクの言葉を聞いたヴェールマンは、突然変異種ではなくその周囲を見回した。
この時から、ブランクは既に人間ではなく"適合者"だった。ヴェールマンにも、ブランクがいつから適合者
になったのかは分からない。適合者であるためか、ブランクは"気配"という曖昧なものを、詳細に感知する
ことができた。ヴェールマンはそれを信用した。

そして、ブランクとヴェールマンの悪い予感は的中した。


ブランクの言った通り、突然変異種が5体、まるで加勢に来たように兵士達を取り囲んでいた。

「クソッ！周りを囲まれた！」

「退路を塞がれた！どうすりゃいい！？」


見たこともない化け物に囲まれ、一斉に取り乱す兵士達。



「落ち着け！！」


取り乱した兵士達に、ヴェールマンが一喝した。

「し、司令………」


弱々しくヴェールマンの方へ振り向く兵士達。先程より僅かに冷静さを取り戻したようだ。

「よし………レックス隊は前方の1体を。ブランク隊は左の2体を。タガート隊は右の1体。後方2体は
私の隊が倒す！攻撃開始！」


ヴェールマンの指示で、兵士達が突然変異種に攻撃を開始した。




「食らいやがれぇぇ！！」

レックス隊の兵士が、突然変異種にコンバットナイフで切りかかった。しかし、素早い突然変異種に
当たるわけもなく、あっさり避けられた。

「クソッ！」

ドスッ

「ゴブァ……」

素早く兵士の背後に回った突然変異種は、そのまま背中を爪で刺し貫いた。
多量の血を吐き出し、息絶えた。

「……………てめぇ……！！」

レックスは怒りを抑えられずギリッと歯を鳴らす。
その間に、突然変異種は兵士2人を引き裂き、喰い千切った。
兵士を喰い千切った直後に振り返り、レックスに飛びついてきた。

「………八つ裂きで済むと思うな……」

レックスは日本刀を持つ左手に力を込めた。

「ガアァァァァ！！」

それを知らず、レックスに飛びつく命知らずな化け物。


ヒュン


風を切るような音が聞こえた。
飛びついた突然変異種は、レックスに何もせずそのまま横切った。

いつの間にか、レックスは刀を抜いていた。抜刀した瞬間を誰も見ていない。
そのまま素早く日本刀を鞘に納めた。
キンッと納刀する音が聞こえた瞬間………突然変異の四肢、胴体、頭が何十とバラバラになり、
一瞬のうちに血の海と肉塊に変わった。


「おい、見えたか？今の……」

「いいや……相変わらず、すげぇ……」

レックス隊の兵士でさえ、レックスが何をしたのか分からない。それほど素早いということだ。








タガート隊も、少なからず損害を受けていた。
既に2人兵士が殺された。

「レックスの方はカタがついたか……」

タガートは仲間の死を見ても、決して怒りも悲しみも表に出さなかった。
"取り乱せば負け"がタガートのポリシーだった。

「グガァァァァ！！」

突然変異種がタガートに向かって咆哮し、突っ込んできた。

「冷静さを無くした奴に勝ちはこないぞ………」

タガートの言葉に耳をかたむけず、突然変異種はタガートを刺し貫こうと腕を突き出す。
しかし………

「ふんっ！！」

素早く突然変異種の真下に潜り込み、突き出した腕を掴み、一本背負いを見舞った。

「グゲッ！？ゴガガッ……ゲブ……」

一切の手加減を抜いた一本背負いは、突然変異種の背骨を砕いた。




あっという間に、突然変異種2体が倒された。



「お前ら！！あの2人に続くぞ！！」


タガート隊の兵士が、他の兵士達を鼓舞する。
その瞬間………

ガリッ グチュッ


「ぐぉあ！？」

兵士の腕に、感染者が噛みついてきた。

「クソッ！離……せ……！？」

噛まれながらも、驚愕した。
噛みついてきたのは、ついさっきまで共に戦っていた兵士だった……


「畜生………覚悟はしてたが………！！」


コープスウイルスが絡む現場で注意すべきなのは、"仲間が敵に変わる"ことだ。
敵は感染者や突然変異種だけではない。仲間ですら疑わなければならない。


「手を止めるな！躊躇うな！発症すればただの敵だ！」

ヴェールマンから、正しくも悲しい言葉が飛んできた。
手を止めていた兵士達が、嘆きながらも戦いを続行した。







「クソッ、早くこの地獄から抜け出したい……」

フィリップの嘆きに、ブランクが喝を入れる。

「しっかりしろ。俺達が弱気では誰も救えない。怖いのは皆同じだ」


「……………そう、だな。すまない」


突然変異種が、ブランクとフィリップを睨む。



「行くぞ、フィリップ」

「あぁ、任せてくれ」