フェアリーテイルの終わり方
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七幕 羽根がなくてもいいですか?
2幕
前書き
妖精 と 料理
料理ができるようになりたい。
突然の申し出だったにも関わらず、ジュードはすぐに笑顔を浮かべて申し出を受けてくれた。
そして、思い立ったが吉日とばかりに、昼食のトマトソースパスタで料理のいろはをフェイに教えてくれた。包丁の握り方、野菜の切り方、火の扱い、etc…
「じゃあ弱火にして。全体の量が2/3くらいになるまで煮詰めて。20分ほどが目安かな」
「うん」
「掻き混ぜるのはたまにでいいから。混ぜ過ぎるとトマトが潰れて風味が飛んじゃうからね」
「うん」
ジュードの指示通りにして、鍋に蓋をした。
煮込む間はやることがない。フェイとジュードはテーブルに座った。
「びっくりしたよ。急に料理したいなんて言い出すものだから」
「ゴメンナサイ」
「いいよ。フェイのこれからの生活の助けに少しでもなるなら。フェイさえよければ、これからちょくちょく教えに来ようか?」
「イイの?」
「うん」
「じゃあ――フェイ、ジュードにお料理、教わりたい」
出来上がったトマトソースパスタを二人で食べながら、ジュードはたくさんの話をしてくれた。
源霊匣のこと。共に働いている、バランやマキといった周りの人間のこと。今日まで打ち込んできた研究のこと。異国での一人暮らしのこと。
「元々自炊してたから食事にはあまり困らなかったっけ。――フェイは? 料理はしないほう?」
「しない。レトルトパックがあるから」
「手料理よりレトルトが好き……ってことじゃないよね。ルドガーの料理は食べてるし」
「自分で作るとオイシクナイの。レトルトだと、オイシイ時とオイシクナイ時があるから、まだいい。ミラのスープはオイシかった。ルドガーのゴハンはいっつもオイシイ。あ、ジュードのゴハンもだよ」
「ありがとう」
「〈温室〉にいた頃のは、味はしたけど、ツメタくてウスかった。だからゴハンってみんなそんなだと思ってたの。ルドガーのゴハン食べるまで、ずっと。フェイの舌、オカシイのかな」
「おかしくないよ。その時のメンタルで味の好き嫌いが別れるのは珍しいことじゃない」
「そ、っか。よかった」
自分がおかしいわけではないと、信頼するジュードが保証してくれた。それだけでフェイは安堵できた。
「答えるのがイヤならいいけど――フェイ、10年間ずっと、そんな食事してきたの?」
「うん」
当たり前のことだったので、当たり前に答えた。
「霊力野が開いてからしばらくして、誰もフェイにゴハンくれなくなったから。食べられるだけでよかった。だからヘリオボーグにずっといなさいって言われてもイヤじゃなかった」
「――――」
「でも、しばらくしてね、なんだか胸に穴が開いたみたいになった。みんな、研究とか実験とか。みんながキョーミあるのは〈妖精〉のわたしだけだって。――だからずっと考えてた」
フェイはまっすぐジュードを見た。
「いつかフェイが〈妖精〉じゃなくてもスキでいてくれる人と逢えたらいいなって」
言って、自分がとても分不相応なことを言った気がして、フェイは目を伏せた。
「これってワガママ……かな」
「……そんなことないよ」
ジュードは優しくフェイの頭を撫でてくれた。くすぐったかった。
ぴんぽーん
「誰かな」
「出て来る」
フェイはエプロンを外すと、とたとた、と行って玄関を開錠した。ドアがスライドする。
立っていたのは――ユリウスだった。
後書き
オリ主の味覚は味覚そのものよりも、相手がどう思っているか、相手をどう思っているかに左右される傾向がありますね。今回はジュードの料理だからオイシイと感じられました。
さて。イラート海停にいるはずのユリウスさんが何故ここに? 答えは次回!
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