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魚屋繁盛

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第七章

「じゃあよ」
「もう絶対によ」
「上手にやりなさい」
「いいわね」
「ああ、やるよ」
「私達もこんなの続くの嫌だから」
 準也と麻琴は真剣に言うのだった、そして。
 二人は隠居に言われた秘策を二人だけで実行に移した、だが父親達はそのことに気付かず相変わらずだった。
 商店街のど真ん中で喧嘩を続ける、それも毎日だ。
「またやってるし」
「雨が降っても槍が降っても」
「安売りでも新しい魚が入っても」
「それでもやるからねえ、あの二人は」
「まさに三度の飯より喧嘩が好き」
「死ぬまでああなのかしら」
 商店街の人達もお客さん達も呆れ顔だった、しかし。
 事態は水面下で動いていた、そして遂にだった。
 二人の高校の卒業式にだ、稲葉と真中も女房達と共に出席した。二人共着慣れないスーツで来ているがそこでもだった。 
 顔を見合わせるとだ、顔を見合わせて言い合うのだった。
「息子の目出度い卒業式に手前と会うなんてな」
「こりゃ縁起が悪いぜ」
「何ならここでやるか?」
「今日こそ決着着けるか?」
 顔を見合わせて言い合う、だがこの場は。
 それぞれの女房達がだ、彼等の後ろから言うのだった。
「御前さん、今日は準也の晴れ舞台だよ」
「麻琴の人生の旅立ちの時だよ」
「だから今はね」
「卒業式の間はね」
 せめてこの場では、というのだ。
「抑えておくれよ」
「中学校の時みたいにやらかすんじゃないよ」
 二人は子供達の卒業式の時も喧嘩をしたのだ、小学校の時も幼稚園の時もだ。とかく常に喧嘩していたのだ。
 それでだ、女房達はせめて今はというのだ。
「わかったね、じゃあね」
「やるなら家に帰ってからにしなよ」
「ちっ、仕方ねえな」
「じゃあ今だけだぜ」
 二人はそれぞれの女房達に顰めさせた顔を向けて答えた。
「店に帰ったら思いっきりやってやるからな」
「その時まで我慢するぜ」
 こう言ってだった、そのうえで。
 二人は今は堪えた、そして。
 卒業式に参列する、二人共その場では感無量だった。
 そして子供達を迎えてだ、まずは稲葉が準也に言った。
「大学でもしっかりやれよ」
「ああ、親父」
 準也は父の言葉に無愛想な感じで応えた。
「折角受かったしな」
「おう、じゃあな」
「こいつの倅と同じ大学ってのが癪に触るがな」
 今度は真中が稲葉を少し見ながら麻琴に言う。
「大学に受かったからにはな」
「ええ、お父さん」
 麻琴はにこりと笑って父に応える。
「私頑張るから」
「それじゃあね」
「いいわね」
 二人が言ったところでだ、ここで。
 それぞれの女房であり母である二人が言って来た。その言うこととは。
 準也と麻琴にだ、こう言ったのだった。
「ほらあんた達いいわね」
「心構えは出来てるわよね」
「ああ、今からな」
「言うわね、お母さん」
 二人も母達に応える、丁度二人共校門のところに並んで座っている。桜はまだ先だが最高の祝いの場である。
 その場でだ、二人は互の距離を狭めてから。 
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