箱庭に流れる旋律
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歌い手、忍者に会う
「ラッテンさん、あれが・・・?」
「はい、恐らくあれがしゃがむ!」
「へ・・・?ムグ!?」
急にしゃがんだラッテンさんに腕を引っ張られて、胸に顔をうずめる形になってしまい、顔が熱くなるけど、
ヒュン!ビイィィィン・・・
今まで二人の顔があった辺りを、小刀が通り過ぎていった。
一気に顔から熱が引いた。
「・・・ありがとうございました、ラッテンさん」
「とりあえず、二つの意味として受け取っておきます」
・・・・・・
「あー、そろそろいいっスか?」
「あ、スイマセン。なんか待ってもらってたみたいで」
「いいっスよ。自分、忍者なんで。忍耐とか得意っスから」
「へえ、忍者の方には初めて会いましたよ。あ、僕“音楽シリーズ”歌い手ギフト保持者、“奇跡の歌い手”の天歌奏って言います」
「これはどうもご丁寧に。自分、忍者やってる風間レヴィっス」
「って、なにやってるのよそこ二人は!?」
初めてラッテンさんに突っ込まれた気がする。
「というか、ご主人様ってそんなキャラでしたっけ!?」
「あー、その・・・風間さんと話してると、なんでかあんな感じになっちゃうといいますか・・・」
「いや、まあそれは分かりますけど・・・」
ラッテンさんも、風間さんの不思議な感じは共感できるようだ。
「あ、私は“音楽シリーズ”笛吹きギフト保持者、“ハーメルンの笛吹き”のラッテンよ」
「どうもご丁寧に。じゃあ、再開といくっスか?」
そう言いながら、風間さんはクナイ(いや、見たことないから分かりませんが)を投げてくるので、僕は必死になって避ける。
人間、死ぬと思えば予想だにしない動きが出来るものだ。
「そういえば、先に攻撃して来たの向こうでしたね」
「ええ。だから私は何故敵と話しているのか、という意味合いで先ほどの問いかけをしたのですけど」
「・・・面目次第もございません」
いや、改めて言われると本当に言い訳のしようもない・・・
「まあいいです、この忍者は私が引き受けますから、奥の方をお願いします」
「了解しましたけど」
「行かせる気はないっスよ!」
レヴィさんはその方向に立っている。
ついでに言えば、ヴァイオリンの音で操られている魔物も。
どうやってたどり着けと?
「多鋭剣を。どうにかして道を開きます」
「分かりました」
言われたとおり、僕は多鋭剣をギフトカードから取り出して地面にばら撒く。
「では・・・剣の舞」
「む・・・そうきたっスか。埋まったっス」
そして、物量で一気に押して無理矢理に道を開いた。
風間さんはなぜか首から上だけ出てるけど・・・ここを逃したら、次はないよね?
「僕、あんまり運動得意じゃないんですけど!」
「文句言ってないでさっさと走ってください!」
そして、物量に押されている(というより埋もれている)風間さんの横を走って通り過ぎ、ヴァイオリニストの元までたどり着く。
「ハア、ハア・・・もうバテ、た!?」
両膝に手を置いていた僕に向けて、魔物が向かってくる。
えー・・・少しは休ませてくださいよ。
「はあ・・・ね~んね~ん、ころ~り~よ、おこ~ろ~り~よ~」
とりあえず、子守唄で眠らせようと試みるけど・・・依然、魔物はこちらに向かって牙なり爪なりを向けてくる。
「やっぱり、無理か・・・」
まあ、予想は出来ていた。
音楽とは、より共感できる曲の方が感動も強くなる。
こんな自我のなさそうな存在に対して、子守唄なんかよりもあの狂ったような、それでいてどこか情熱的にも聴こえる曲の方が彼らにとって共感できて当然である。
「となると・・・ヴァイオリニストさん?」
向こうは、僕の問いかけに対して何の反応も示さなかった。
それどころか、こう・・・まるで聴こえてすらいないみたいに。
「はあ、とりあえずこの魔物たちだよね・・・剣の舞」
僕は多鋭剣を一振りだけ取り出し、剣の舞を歌う。
今回はいつもと違い、僕自身を対象にして。
結果として起こるのは、僕が、剣舞を舞う。そんな状態。
剣舞なんて出来るほどの筋肉はないけど、そこは音楽シリーズ、何とかなるものだ。
そして、あらかたの魔物を片付けたら・・・龍が現れた。
目をこする。
そこには、龍がいた。真っ黒な。
「マジですか・・・」
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