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ふとした弾みで

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第四章

「履歴書とか教員免許とかの証明のコピーを送ったらすぐにだったよ」
「雇ってくれたか」
「そうなのね」
「しかも給与もいいんだ」
 このことも話すのだった。
「こっちの給料よりずっといいよ」
「アメリカの方が豊かだからか」
「だからなのね」
「そうみたいだね、じゃあね」
「向こうで金持ちになれよ」
「働いてね」
「不安はあるけれどアメリカで生きていくよ」
 ロナルドはこう言ってアイルランドを後にしてカルフォルニアに旅立った。大学はカルフォルニアの中心都市ロサンゼルスにあった、その街はというと。
 ダブリンより遥かに栄えていた、様々な人種がいてやはり様々な店があった。大学からの迎えと共にまずはハンバーガーを食べてだった。
 その大きさに目を剥いた、しかも。
「いや、美味しいですね」
「日本の観光客はよく大味だっていいますよ」
「日本人はですか」
「はい、あそこに丁度いますけれどね」
 迎えの者が笑顔で指し示した先に黒髪のアジア系の者達がいた、彼等はロナルドが今食べているものと同じハンバーガーを前にしていささか驚いている顔だった。
「日本のハンバーガーはアメリカのより小さくて」
「味もですか」
「繊細らしいですね」
「そうなんですね」
「まあ今は日本人だからといって収容所に放り込みませんし」
「そうした歴史もありましたね」
「ええ、この州には」
 だからこの州はアメリカの人種差別のメッカでもあると言っていいのだ、汚らわしい人種差別主義者共がアメリカで最も多い州でもあったのだ。
「ありました」
「そうでしたね」
「ところが今は日系人も多いですし」
 収容所に叩き込まれた彼等もだというのだ。
「アフリカ系もヒスパニックも」
「他のアジア系もですね」
「アメリカで最も様々な人種がいる場所の一つですね」
「では大学の方も」
「様々な講師、学生がいますよ」
 人種的にだというのだ。
「貴方と同じ様に」
「アイルランド系もですね」
「いますよ、ただ学部の方は人手不足で」
「だから私が採用されたのですね」
「頑張って下さいね、頑張れば頑張るだけ」
「収入が増えますね」
「そして地位も上がります」
 そうなるというのだ。
「期待して採用されていますから」
「そのことを忘れずにですね」
「いい仕事を」
「それでは」
 こうハンバーガーを食べて話す、そしてだった。
 そのうえでだ、ロナルドは大学側が用意されたアパートの一室に入り大学の助手として働きはじめた。大学は設備も蔵書も非常に充実していた、そして迎えの者が言う様に。
「色々な人がいますね」
「そうですよね」
 迎えの者が彼に大学の食堂で一緒に食事をしながら応える、彼の名はハロルド=コウジレフという。名前からわかる通りロシア系だ。大柄な金髪の青年だ。
 その彼がだ、こうロナルドに話すのだ。 
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