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チコリ

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第五章

 店の新人の中でも一番手になった、その薫にコンテストの話が来た。
「私がですか」
「そや、薫ちゃんごっつう腕がええさかい」
 それでだと言うのは店の店長だった、髪の毛を茶色いパーマにした派手な中年のおばちゃんだ。
「出てくれるか?うちのお店から」
「まだ新人ですけれど、私」
「何言うてるん、こっちの世界は実力やで」 
 店長は笑って返す。
「そやから薫ちゃんもや」
「コンテストにですか」
「新しい髪型のな」
 そのコンテストに出てはどうかというのだ。
「それにな」
「そうですか、それじゃあ」
「薫ちゃんの名前も出しておくで」
「お願いします
 コンテストのことは瞬く間に決まった、しかし。
 その話が決まった日にだ。
 薫は家に帰ってだ、両親にこのことを話した、すると両親は驚いた顔で娘に対してこう言ったのだった。
「凄いな、新人でか」
「コンテストに出るなんて」
「それだけ御前が凄いってことだな」
「やったじゃない」
「ううん、けれど」
 それでもだとだ、薫は両親に難しい顔で返した。
「もうコンテストなんて」
「いや、専門学校の頃にも出てただろ」
「そこでも評判よかったじゃない」
「それは学生の間でだったから」
 今は働いている、それでだというのだ。
「プロよ、それもプロ中のプロが一杯出るのよ」
「その中に参加するからか」
「不安なのね」
「恥かくかも知れないわ」
 薫は怯えていた、そうなることを。
「皆凄いのに私だけ駄目とか」
「いや、それなら店長さんも最初から誘わないだろ」
「それ自体がないわよ」
 両親は娘にこう言った。
「そもそもな」
「その時点でね」
「だからな、ここはな」
「度胸よくいったら?」
「度胸っていうけれど」
「大丈夫だ、店長さんだって御前の腕を見込んでくれたんだ」
「それによ」
 両親は不安と心配で一杯の娘にこうも告げた。
「お花もあるしな」
「チコリのお花がね」
「薫にはお父さん達だけじゃないぞ」
「店長さんもお店の人達も背中を押してくれたでしょ」
「それにお守りのチコリもあるだろ」
「薫ちゃんを絶対に守ってくれるわよ」
「お花もなのね」
 チコリのことを聞いてだ、薫は少しだけ気を取り戻した。
「チコリもあるから」
「薫ちゃんいつもチコリを見て頑張れてるでしょ」
「うん、大切な試験にも合格出来たし」
 美容師の専門学校の試験もだ。
「これまではね」
「それならこれからもそうよ」
「コンテストも?」
「ええ、そうよ」
 これからのこのこともだというのだ。
「だから安心してね」
「コンテストに出ればいいのね」
「大事なことはやりきることよ」
 母は娘に確かな声で告げた。 
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