函館百景
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その1
前書き
会社の休みを利用して、2012年夏に北海道に行ってきた僕。
せっかくだから、これを小説風に書いてみようと思っている。
たまには硬派な小説にも挑戦したいと、前々から思っていた。
夏目漱石の『倫敦塔』や太宰治の『富嶽百景』に少しでも近づければ、と思っています。
ちなみに自分のブログにも載っけてます。
『きったぜ、きたぜ、はーこだーてへー』
そんな歌を昔聴いたことがあると家族に打ち明けると、答えはこうだった。
「アラレちゃんとサブちゃんがごっちゃになってる」
まあ、北島三郎のみならず、多くの人々にとって、函館は憧れの地なのだろう。
僕は皆といるより、一人でいるほうが楽しめるタイプ。
本来なら家族旅行になるはずだった北海道旅行を、無理を言って一人旅にしてもらった。
親不孝極まりないが、そうでないと自身が楽しめず、道中不安定になりそうだったから仕方がない。
元々情緒不安定になりやすい性格。短い休みの期間、危険因子をなるべく除いたほうが楽しめる。
そう思ったのである。
当然、旅行の企画も自分一人で立てることになった。
元町、函館山、五稜郭は完全征服。
様々な情報誌を見て、そう思うようになっていった。この3つのスポットが、華のある場所だと、今でも思っている。特に函館山からの景色は、写真に撮る価値があろう。
三脚を持って行ったほうがいいが。
ホテルは安さに惹かれて、函館駅前の安いビジネスホテル(朝食つき)にした。
見知らぬ景色を見て、写真を撮れれば、雑魚寝でも構わなかった。
ところが旅行直前になって、元町と五稜郭が函館駅を挟んで反対側だと知り、少し狼狽した。予約をキャンセルすればキャンセル料を取られてしまう。
結局そのホテルにした。
ホテルを予約したあたりから、函館旅行をテーマに小説を書きたいと思うようになっていった。
いつまでもライト・二次創作系の小説ばかりでは進歩がない。
夏目漱石の『倫敦塔』や、太宰治の『富嶽百景』を目標に、旅行をテーマにした硬派小説。
書けたらどんな気分だろうか。
函館までの道中は、刮目して車窓や景色を眺めたほうがいいと思うようになった。
出発の日は涼しく、霧深かった。
出発の日は、家族が駅まで送ってくれた。
駅の構内に入ると、殺風景なプラットホームが目に入った。
先の大地震で釣り天井が落下し、ボロボロになった写真を僕も見たことあるが、その面影が見られないほどに修復されている。
釣り天井で或るところは変わっていないようだが。
また地震があったら、ぐちゃぐちゃになりそうである。
乗る新幹線は、車体にポケモンの絵を携えて待機していた。
JRも洒落たことをする。
乗り心地は、研修のため東京に行った時と変わっていない。
ふかふか感もあまり変わらないが、今回は新幹線が出発する直前、妙に息苦しくなったのを覚えている。
ちょっとわからないが、家族を連れてこなかった罪悪感か、旅行が始まることによる『産みの苦しみ』か、
いやいや、単に霧深かったせいか。
理由はよくわからないが、僕は妙な鬱を抱えつつ、街を出発した。
家族の勧めで買ったデジイチカメラは、今回の旅で初陣ということになり、旅行期間中ずっと首にかけ、撮影体勢に入ることになった。
コンパクトカメラとは違い、かなり重い。
小学生の時に使った、鉛分銅を首にぶら下げるような感じで、ホテルに行った時にはすっかり首がこってしまっていた。
本当は年季の入ったコンパクトデジカメもあったが、充電してもすぐ切れてしまうほどバッテリーが老朽化してしまっていた。
加えて、ぼかし等を入れ、本格的な撮影を楽しめるのがいい。
そう勧められたのである。
新幹線の車窓から、いちいちふたを開けたり閉めたりして、写真を撮ったりしていったが、そのうち面倒くさくなり、カメラのふたをポケットに入れて車窓を取るようになった(ふたは旅行中、どこかに行ってしまった)。
とは言え、霧が深く、車窓から見る風景はあまり期待できるものではない。
焦点を合わせる場所を選択できるから、狙いを定めた風景を綺麗に撮れるカメラであったが。
乗る前に自販機でCCレモンを買ったのはよかったと思っている。
喉越しがいいし、電車の中で買うと高いのである。
集中すると喉が渇くものだ。
霧深い車窓が晴れてきたのは、花巻あたりに入ってから。
これから綺麗な写真が、いくらでも撮れる。
これから、
というときに、盛岡あたりを過ぎたあたりで、僕は白河夜船をこいでいた。
車窓を刮目して見る。という思いはどこへやら。
それとも、前日の寝付きが悪かったのか。
いつも、いくら寝てもね足りないのである。
目を覚ましたのは、終点の新青森駅近く。
あまり変わらぬ田園風景が続いているが、とりあえず到着した。
新青森から函館まで向かう特急は、緑色のひたち、という感じの電車であった。
指定席が禁煙席だったのでタバコ臭い、ということもなかったが、左側の窓際の席で合ったのは、後で振り返るとちょっと残念だった気がする。
海は右手にあるのである。
この特急は一風変わっていて、新青森を出発してから、いったん反対方向を進んで青森駅に到着した後、函館駅に向かうのである。
なかなか世界は広いものだ。
青森駅周辺もなかなか開けた場所で、サラリーマンや家族連れ、20人くらいの人が函館を目指し てこの特急に乗ることになった。
一風変わった絵柄を持つデパートの方が、妙に印象深かったが。
青函トンネル前後の車窓は、大いに期待にしていた。
期待はずれであった。
地味。あまりにも地味。
見慣れた田園風景を両脇に挟んだと思ったら、すぐトンネルに入ってしまう。
以前家族と一緒に行った、袖ヶ浦アクアラインとはけた違いに地味。
アクアラインは両脇に海を挟んだ道を通り、豪華客船をあしらったかのようなパーキングエリアを通りすぎて、トンネルに入る。
青函トンネルは中に入っても、暗い壁ばかりで、これといった特徴がなかった。
撮るに撮れない。
トンネルの中の竜飛海底駅も薄暗い。
降りても見るところがあるのかどうか。
トンネルから出ても、北海道に入ったという気がわかない。
畑に囲まれて一戸建てや工場が続くという、新幹線の車窓によくある風景がだらだらと続いていた。
指定席の車両だが、右側の席はがら空きだったので移動すると、やっと海が見えてきた。
ようやく、別世界に、北海道に来たという気がしてきた。
函館は港町。
海が見えた方がそれらしい。
『北海道らしさ』はないものの、『港町らしさ』は実感できる車窓。
やっと函館らしくなってきた、といえた。
そうこうする間に
『間もなく、終点函館です』
というアナウンスが流れてきた。
何となく東北の駅とは違う作り。
やはり北海道には北海道らしい駅がひつようなのだろう。
ちょうどコの字型にプラットホームが作られていた。
海を横にして走った列車らしい漢字はしていた。
とはいっても、JR函館駅の近くに海はない。
駅ビルやデパートなど、それなりに発展した町という気がしたが、それだけでは普通の都市で、個性はない。
しかも、避暑も兼ねて北海道に来たのに、汗をかくほど蒸し暑い。
その日の最高気温は29度だったという。
函館の個性を感じられないまま、僕は函館駅のホームに足を踏み入れた。
続く。
後書き
どうだったでしょうか?
次回は函館の街並みで有名な赤レンガ倉庫と、食事を中心に話したいと思います。
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