久遠の神話
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第七十三話 帯の力その七
「アフロディーテ女神の帯ですが」
「それか」
「はい、こちらです」
智子はその手に桃色の薄い帯を手にしていた、それがだった。
「猪の身体の中に含ませていたものです」
「見つけられなかったが」
広瀬は智子達の方を振り向いた、そのうえでの言葉だった。
「あの怪物の中にあったのか」
「その通りです、姿を消して」
そしてだというのだ。
「光と共に一旦浮かび上がり私達の手元に舞い降りたのです」
「そうだったのか」
「受け取られますね」
「当然だ」
それを、願いを手に入れる為に命を賭けて戦いたくない戦いも戦ってきた、それならばだった。
「それではな」
「では」
智子は帯を手にして前に出た、広瀬もまた。
彼は時分からその帯を取った、そして言った。
「この帯はだ」
「どうされるのですか」
「首に巻くのもいいがな」
彼の趣味でだ、まずそうするのがいいと言った。
「だが俺の首に巻くものは一つだけだ」
「そうですか」
「マフラーにしてもスカーフにしてもな」
そのどちらでもだというのだ。
「「一つだけで」
「では」
「腕のところにでも巻くか」
手首、そこにだというのだ。
「そうしようか」
「この帯は身に着けるだけでも効果がありますので」
それならとだ、広瀬も頷いてだった。
その帯を己の左手首に巻いた、そうしてブレスレットの様にしてだった。
あらためて智子を見てだ、三人の女神達に告げた。
「これからは剣士としてでなくか」
「ごく普通のですね」
「友人か」
そうなるとだ、、彼は智子に応えながら述べた。
「そうなるか」
「若し貴方さえ宜しければ」
「わかった、これからもな」
「宜しく御願いします」
女神達は穏やかな笑顔で広瀬に応えた、広瀬は女神達の言葉を受けてそのうえで再び踵を返し中田のところに来た、そのうえで彼に言った、
「これで俺は終わった」
「おめでとうってところだな」
「後は好きにしろ」
「俺のかい」
「続けるのも降りるのもな」
「降りるねえ、そうだな」
中田は何やら思わせぶりな笑顔になってここでこう言ったのだった。
「時間もないしな」
「時間?」
「ああ、ちょっとこっちの事情だよ」
「そうか」
広瀬はここではあえて深くは聞かなかった、中田のことを察してだ。
「わかった、ではな」
「明日からは敵同士じゃなくてな」
「友人になるか」
「それでいいか?」
気さくな笑顔でだ、中田は広瀬に問うた。
「これからはな」
「そうだな、それじゃあな」
「友達として会おうな」
「そうしよう」
こう話をしてそれでだった、広瀬は夜の森彼の最後の戦場を後にした。後に残ったのは中田と女神達だけだった。
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