八条学園怪異譚
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第五十二話 商業科の屋上その十一
「他にも、うわばみさんとかね」
「普通に神社とかお寺にもいるしね」
「日本の神は数多い」
俗に八百万と言われている、しかし実際はそれより遥かに多いであろうか。
「人も神社に祀られれば神になる」
「豊臣秀吉さんもですね」
聖花は戦国の英傑の一人の名前を出した。言うまでもなく百姓から身を起こし天下人にまでなった人物である。
「太閤神社で祀られていますから」
「徳川家康や織田信長もだ」
「あと上杉謙信もですね」
「そうだ、そしてだ」
日下部はこの神社のことも言った、まもなく屋上に迫ろうとしている。
「靖国神社もだ」
「あの神社もですか」
「人が神様になっているんですか」
「そうだ、我が国を護る為に戦い散華した英霊達が祀られている」
それが靖国神社だ、そしてその英霊達であるが故になのだ。
「祀られている神々の数は多い」
「そうなんですね、あの神社の神様はですか」
「かなり多いんですね」
「そうだ、そしてだ」
ここでだ、日下部は二人にこうも話した。その話すことは非常に重要なことだった。
「あの社の英霊達は国を護っている、そして神は貶められると祟る」
「じゃああの神社の神様達って」
「下手をすると」
「祟り神になる、その力は強く数も多い」
それが靖国神社の英霊達であり祀られている神々だ、それ故に貶めてはならないのだ。
だからだとだ、日下部は二人に話すのだった。
「あの社を自分達の主張の危機を脱する為に利用した者達はだ」
「後が大変ですか」
「祟られるんですね」
「恐ろしいことがあっても不思議ではない」
他の社にしてもこのことは変わらないが靖国神社はとりわけそうなのだ、間違ってもそうしたことをしてはならないのだ。
その為日下部は二人にこう言うのだった。
「とある新聞社や政党、知識人達はな」
「祟られます?」
「物凄い祟りが来ます?」
「そうだ、何が起こっても不思議ではない」
こう話すのだった。
「己の保身の為に英霊、神々を貶めることはこの世で最も醜い行いの一つだ」
「そういう人達もいるんですね、世の中って」
「そうなんですね」
「そうだ、残念だがな」
日下部は実際に苦い顔と声で二人で話す。
「そもそも人は貶めるものではない」
「ですね、品のいい行いではないですね」
「少なくともそうですね」
「そうだ、君達も気をつけてくれ」
日下部は二人にそうした行いをしないでくれと言うのだった、それは人としてあまりにも浅ましい行いであるが故に。
「戦後の日本の知識人のモラルはあまりにも低い」
「学校の先生の中にはとんでもない人が多いですしね」
「有り得ない人が」
「シェークスピアも驚く程だろう」
あの人間の内面をこれ以上はないまでに書いた彼ですらというのだ。
「その醜悪さはな」
「戦前は違ったんですね」
「そうした人は」
「いるにはいたがあそこまで多く、しかも卑しくはなかった」
戦後日本のモラルの低下はあまりにも酷いというのだ、とりわけ知識人の腐敗たるや特筆すべきものがある。
だからだ、こう言うのだった。
「嘆かわしいことだ」
「ですね、本当に」
「卑しい人間にはなりたくないです」
二人も日下部の言葉に頷く、入学の時にお互いを妬み堕ちようとしていいたことも反省しながら。そうした話をしてだった。
三人は屋上に着いた、日下部が屋上への扉を開くと。
目の前に屋上、夜の世界の中のそれがあった。上も左右も夜空でありコンクリートの白は幾分夜の色に染まっている。
その屋上の中央にだ、夜とは正反対の白いドレスを着た黒髪の少女がいた。
その少女を見てだ、愛実は彼女に声をかけた。
「あの」
「こんばんは」
「はい、こんばんは」
「こんばんは」
愛実に続いて聖花も挨拶をした、ややイタリア訛りのある日本語の挨拶に返したのだ。
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