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久遠の神話

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第七十三話 帯の力その一

                      久遠の神話
                  第七十三話  帯の力
 広瀬が森の中に入るとすぐに咆哮が聞こえてきた、中田はその咆哮を聞いてすぐに聡美達に対して言った。
「肉食の獣じゃないな」
「はい、そうです」
「肉を好んで食う獣じゃないな」
 こう言うのだった。
「この声は、そうだな」
「何だと思われますか」
「猪だな」
 それだとだ、中田は聡美に対して答えた。
「この声はな」
「その通りです」
「猪の怪物とも何度か闘ってきたからな」
 それでわかるのだ、猪の咆哮だと。
「それでか」
「そうです、しかしあの人が今闘われる猪は」
「普通の猪じゃないよな」
「猪といっても色々です」
 ギリシア神話においてはそうだ、巨大な怪物である猪もいるのだ。
 そしてその中でもだ、広瀬が今から闘う猪はというと。
「アレス神が変化していた」
「その猪か」
「アレス神が恋敵を殺す為に姿を変えていた猪です」
「じゃあ神様か」
「その力を持っています」
 無論アレスがそのままここに来ている訳ではない、やはりレプリカだというのだ。 
 しかしその力はだ、どうかというと。
「アレス神の力を」
「成程な、じゃあ強いんだな」
「はい、かなりの力があります」
「最後の闘いに相応しい相手か」
「願いを適えるにはそれなりの怪物に勝たなければ適えられません」
「それで神様の変身した猪か」
 その力を忠実に移したそれだというのだ。
「そうなるんだな」
「その通りです」
「しかしな、今思い出したんだがな」
 中田はここで智子をちらりと見た、そのうえで聡美に話した。
「アレスさんだよな」
「はい、そうです」
「アレスって戦いの神だけれどな」
「智子姉様と比べてですね」
「あまりいい話がないよな」
 彼は神話にあるアレスの姿を話した、そのアレスはというと。
「負けてばかりで考えもなくて性格もへたれててな」
「それはその」
 聡美はアレスのそうした話にはバツの悪い顔になった、彼女は嘘はどうしても言いたくはないので困っているのだ。
「何といいますか」
「確か不倫もしてたよな」
「そうしたこともあったのですが」
 美と愛の女神アフロディーテとだ。もっともこうした話はゼウスを筆頭としてオリンポスの神々では普通にある。
「その、そうしたお話は」
「止めた方がいいか?」
「御願いします」
 かなり切実な言葉だった。
「どうか」
「わかったよ、それじゃあな」
「アレス神は。私達の弟にあたりますので」
 やはり腹違いだ、母はヘラなのでゼウスにとっては嫡子になる。尚最初の嫡子は技術と火の神ヘパイストスでありゼウスの子達の中で一番年長だともされている。
「弟の悪い話は」
「だから止めるな」
「そうして下さい。とにかくです」
 聡美は話を変えてきた、それもかなり必死に。
「あの咆哮の主はかなりの強さです」
「神様の猪か」
「猪は恐ろしい獣です」
 獅子と比べてもだというのだ。
「狩りの相手としてもかなり」
「狩りの女神であるあんたから見てもか」
「はい、手強い相手です」
「反撃してくるからな」
「その突撃と牙で昔から多くの狩人が命を落としています」
 狩りの女神だけあってこのことはよく知っている、その目で見てきたことでもあるからだ。 
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