【IS】何もかも間違ってるかもしれないインフィニット・ストラトス
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役者は踊る
第六六幕 「スタートライン」
前書き
ただいまー。今回から本編再開です。
前回のあらすじ:何かの建設ラッシュ
その日の朝のホームルームで、事件は起きた。
「今日の実技の授業にはデッケンが参加することになった。学園内での治療がうまくいき、医者からの取り敢えずの許可を得たそうだ」
千冬のその一言が、クラス内のすべての生徒の時間を一瞬停止させた。彼等の抱いた感情は恐らく驚愕、困惑、そして歓喜だろう。普段は何かとすぐ騒ぎたがる生徒達が、今この時だけは固唾をのんだ
やがて、一夏が呼吸困難なのではないかと疑いたくなるほどに詰まった喉を何とか動かし、千冬に確認を取る。
「ベルが、ですか?」
「ああ」
「大丈夫なんですか?」
「本人たっての希望だ。今回の授業の様子次第だな」
「俺、実は白昼夢見てませんか?」
「・・・」
千冬は無言で一夏の目の前までつかつかと移動し、出席簿で一夏の頭部を強かに引っ叩いた。すっぱーん!と気味の良い音が鳴り、一夏の視界を星が舞う。
「痛いか?」
「痛いです」
「当たり前だ馬鹿者。寝ぼけた脳ミソは醒めたか?」
「はい。お手数掛けて申し訳ございませんでした」
朝っぱらからコントしている織斑姉弟だが、それを始めるだけのインパクトが先ほどの発言には存在した。学園唯一の保健室登校病弱美少年(ベルとも会による誇張あり)。ISに乗れないにも拘らずIS適性者となってしまった不幸な子。それが・・・普段は目撃することすら難しいと言われる希少種がとうとう我々の目の前に姿を現すという事。いや、それだけではない。治療がうまくいったという事はこれからクラスメートとして接する機会も増えて・・・
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーー!!!!」」」」」
「ベルきゅん!ISスーツを着てその青白い肌を晒したベルきゅん!」
「ウォーーー!ベルーナ君!ウォーーー!!」
「ベルーナ君に(ISを)手取り足取り・・・ブハァッ!!」
「あの子また鼻血噴いてるわよ?」
「何時もの事でしょ。そんな事よりアンタ何してんの?」
「何って盗撮の準備じゃん?このチャンス逃したらいつ取れるか分かんないし」
「すんなっ!!」
駄目だこの学校変態しかいねぇ。最後の方にいたツッコミの子が不憫でならない。こういう時はクラス代表が注意するものなのだが、代表は残念ながら半狂乱になっているためリーダーシップは望めない。仕方ないなぁ、と溜息をつきながら佐藤さんは動いた。最近この役目が板についてきたような気がするのは気のせいだろうか。
ばん!と机を叩いて立ち上がり、少し強い口調で皆を諌めた。
「ええい黙れ!黙りおろう!!こんな調子でまたベル君が保健室に引っ込んじゃったらどうするの!!」
「「「「う・・・」」」」
「お医者さんのお墨付きが出たって言ってもまだみんなと同じように動き回れるようになったわけじゃないんだからね?」
「佐藤の言うとおりだ。今回はあくまで様子見に過ぎんことを忘れるな。そして、張り切るのは結構だが実技は怪我と隣り合わせの科目だ。デッケンに気を取られて内容を疎かにすることのないように!」
流石は担任、ぴしゃりと締まった。ユウがいればもう少し簡単に締められたのだが、彼は生憎まだ病院のベッドの上だ。もうすぐ怪我も完治して戻ってこられるという話だったからそれまでは率先してこの仕事をやらねばならない。何せ私は教務補助生という御大層な役割を預かってるんだし、と心中でぼやく。
「それと佐藤。お前は補助生としてデッケンの指導をやってもらう。いいな?」
「イエス、マム!」
実際にはよろしくもよろしくなくも拒否権は無いのだが。周囲の嫉妬と羨望のまなざしが痛い。トーナメント以降はもっと痛くなった。でも誰も私の悪口とか言わない。何でかと思って学校の裏サイトを探ってみたら、「呼び捨てにしようとしたら口が勝手にさん付けしてた」「キーボードで“さ”と入力したら予測変換に一発で“佐藤さん”が表示された」「佐藤さんに逆らおうとすると息が出来なくなる」「名前を言ってはいけないあの人」とか別の意味で散々なこと書かれてた。織斑先生に高く買われているのも大きなポイントになってか上級生までさん付けしてくる。
(どうしてこんなことに・・・どこかで何か間違えたのかなぁ?)
憂鬱だ。私は自分でもそれほど意識しないうちに、インフィニットストラトスの世界にずぶずぶと埋まりつつあった。
= = =
頼まれたならばやらねばならないのが生徒の辛い所。とはいえベル君の世話を焼くのは慣れているので抵抗は無かったりするが。事前に専用機のフォーマットとフィッティングは済ませてあり、その段階で山田先生にIS操縦の基礎くらいは教わったらしい。実際に授業内容に即して指示を出し、ベル君が従う。少し離れた所からほかの生徒達の視線を感じるが、織斑先生の咳払いと共に無くなった。
ベル君の動きはやはりというか初心者相応の動きであった。当然だろう、だって初心者だし。さらに言うならばやはり本人が運動を得意としていない事と虚弱な体の所為で体力そのものが足りていない事が難点かな。ISのパワーアシストに若干振り回されているのが重心の動きで分かる。・・・おお、なんか言ってることがプロっぽい。などと馬鹿丸出しな発想はさておいて、歩行などの基礎は一通りできているが、方向転換やターンが怪しい。
事前に見たデータによるとベル君のIS適性はCと低い部類に入っているため、イメージとのズレで余計な体力を使っているように見受けられる。・・・箒ちゃんは適正Cなのに修羅の如き動きを見せるので適正なんぞ当てにならん、という考えもあるが、やはり初めのうちは適性の差が大きく出やすいだろう。ランクの上下による争い事が起きるのも何となく納得したけどよく考えたら適性Sの私が言うと嫌味でしかないね。
それにしてもベル君の乗っている第3世代IS“モナルカ”は変わったデザインをしている。
シンプルすぎて逆に珍しいほど直線的で飾り気のない腕部と脚部。ISとしては珍しく胸部が完全に装甲で覆われており、黒に近いグレーのカラーリングが金属というより彫刻に近い光沢を放っている。背部には切れ目のような隙間のある円柱型のバックパック2つに挟まれる形で推進用と思われる縦に長いスラスターが一つ。まだ適性の関係で本来の機能を発揮することは出来ないらしいが、これがまた恐ろしいほど飾りっ気が無い。スラスターもライフルを入れる武装コンテナの類かと思いたくなるほどパーツが少ない。ISならば普通ウィングによってPICの補助を効率化させるのが主流だが、これは取り敢えず飛べばいいんだ、偉い人にはそれが分からんとか言っているメカニックが語りかけてくるような錯覚を覚える。
あと、頭部のセンサーがちょっと変わっていて、顎部全体を覆うように装着されるタイプのようだ。ゲッターロボみたいな角もあって頭が動かしにくそうに見えるが本人は問題なさそうである。センサーのサイズが大きいので指揮官機か単独行動を想定して設計されたのかもしれない。
(ちなみにセンサーは絶対防御のエネルギー伝達効率の関係もあって、どんな形であれ必ず付ける企画になっているらしい。サイズの小さいヘッドギア型が一般的で、打鉄で言う猫耳みたいなパーツがそれに当たる)
パーツや装甲の多くに円や曲線が使われているのはより衝撃を逸らしやすくするため、つまりシンプルなナリしてパワーと防御に特化したISだ。よって機体は動きが少々鈍い・・・が、ベル君が使うことを考えればこれくらいの方がいいだろう。高機動型だと反応が過敏すぎて余計に混乱するし。
と、反復練習するベル君の様子を見た私は思考に沈むのをそこで打ち切る。
「む、顔色が悪くなってきたかな・・・ベルくーん!一旦訓練中断してISを解除!一息入れようか!」
「わかった」
素直に頷きISを解除したベル君は、些か危なっかしい足取りでこちらに歩み寄ってくる。ISとの感覚のずれで随分消耗していたようだ。優しく手を引いて日陰まで誘導してあげると、ぼそりと「そこまでしなくても歩ける」と不満そうにつぶやいた。感情を分かりやすく表に出すとは珍しい、と同時にあんな足取りで何をのたまうか小童が!とも思う。
ISによって体が動かせるからと悪い勘違いをしているかもしれない。新兵がよくかかる病気という奴なら後が大変なので、ここはびしっと決めておこう。
「強がりは体力をつけてからだよ?ISを動かせるようになったからって、別にベル君の身体が急に強くなったわけじゃないの。手と足の届く場所が増えても、それに体が付いてこなければ全然意味がないって事、分かる?」
「・・・うん」
「今はこれでいいんだよ。そのうち手を借りなくてもいいようになれるだろう、ってぼんやり考えながら一歩一歩踏みしめて行こうね?」
「・・・その時は」
「ん?」
「その時は、手を引かれるんじゃなく、手を繋いで隣を歩く」
余程子ども扱いされたのを腹に据えかねているようだ。少しムキになった顔でそんな事を言うベル君が子供っぽくて、でもそれもいいなぁと年甲斐もなく考えてしまった。
前世ではそういう事殆ど無かったから憧れのようなものがあったのかもしれない。実は今世の中学では2,3回男子に告白されたこともあったのだが、肉体目当てなのが見え見えだったのですっぱり切った。でもベル君はそういうこと考えないし、ちょっとくらいは少女マンガみたいなシチュエーションをやって思い出にするのもいいかもしれない。その相手が可愛いベル君なら、きっと心温まる思い出になる。・・・保護者と子供的な感じで。
「たはは、それもいいね。その時は一緒に歩こっか」
「・・・いつかミノリの手を引いてやる」
「言うねぇ、頑張れベル君!私はいつまでも待ってるよ?」
タオルで頭の汗を拭きながら仕返しを誓う少年に、少女は微笑みながらそう答える。
日差しが降りそそぐ真夏のアリーナの影は、不思議と涼しくも暑くもなく、春眠のように暖かかった。
「ねぇアレ告白だよね?絶対告白だよね?」
「しかもあれが告白なら佐藤さんOK出してるんですけど!陥落してるんですけど!!」
「悔しいけど・・・悔しいけど今の佐藤さん超可愛いよ・・・!」
「先生、口から砂糖洩れそうです」
「佐藤(砂糖)さんだけにか?」
【審議中】(´・ω) (´・ω・)(・ω・`) (ω・`)
【否決】(´‐ω) (´‐ω‐)(‐ω‐`) (ω‐`)
「織斑、ISを降りてアリーナ10週走って来い」
「殺生な!?」
「いや完全に自業自得だぞ、一夏・・・」
「なるほど、これが本場のすべり芸というやつか・・・しかし、誰も笑っていないところを見ると不発か?」
今日もIS学園は平和です。
後書き
顎部全体を覆うように装着されるタイプ・・・マヴラヴの衛士強化装備みたいな感じで覆ってます。
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