久遠の神話
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第七十二話 愛の女神の帯その一
久遠の神話
第七十二話 愛の女神の帯
広瀬は登校の時に隣に聡美が来たのを確認した、聡美は彼に正面を向いたまま静かにこのことを話した。
「まずはお一人です」
「死んだか」
「いえ、戦いを降りられました」
そうなったというのだ。
「高代さんが」
「あの先生ならな」
広瀬もまた正面を向いている、そのうえで大学に向かって道を歩きながら聡美に対して答えた。
「有り得る」
「驚かれないのですね」
「あの先生は本音では戦いたくなかった」
このことを知っているが故に出した言葉だ。
「だからな、降りることもな」
「当然としてですか」
「驚かない」
それも全くだというのだ。
「特にな」
「そうですか」
「lこれでまずは一人だな」
広瀬はこの言葉は少し喜ぶ感じで言った。
「有り難いことだ」
「有り難いですか」
「ああ、有り難い」
「それは戦う相手が一人減ったからですね」
「戦いはないに限る」
こう考えているからこそだというのだ。
「出来ればこのままだ」
「一人も倒すことなくですね」
「戦いが終わればいい。そしてだ」
「願いを適えたいのですね」
「一緒になりたい」
広瀬は前を見たまま己の願いのことも話した。
「何としてもな」
「愛情ですか」
「あの娘が俺の全てだ」
広瀬は言い切った、そしてだった。
横にいる聡美、長身の彼と比べてもあまり引けを取らないだけの背を持っている彼女を目だけで見て問うたのだった。
「それであの先生が降りた理由は」
「そのことですね」
「気になる。どうしてだ」
「願いを適えられました」
聡美は表には出していないがこの問いが来るのを待っていた、それでその待っていたものを静かに述べた。
「そうされてです」
「学校を開くんだな、あの先生は」
「間も無くあの先生にその願いが届きます」
「そうか」
「ですから貴方も」
聡美も広瀬を目だけで見た、そのうえで彼に告げた。
「願いを適えられて」
「戦いを降りられるんだな」
「そうされますか?」
やはり顔は正面のままだ、目だけで見ながら問うた言葉だ。
「貴方も」
「嫌と言うと思うか」
「いいえ」
この問いが来ることもわかっていた、聡美はその読みを隠しながら応えていく。
「それではです」
「戦わずに願いが適うなら乗った」
是非共だと、広瀬は聡美に答えた。
「話して欲しいな、どうして出来るんだ」
「貴方が欲しいのは愛情ですね」
「さっき言った通りだ」
「そうですね、それならです」
「貴女は愛情を司る女神じゃなかったと思うが」
「ご安心下さい、私は一人ではありません」
聡美は自信のある声で広瀬に答えた。
「ですから」
「アテナ、それにペルセポネーだったな」
「今は三人です。ですが」
「まだ女神が来るか」
「来ることはなくとも」
それでもだというのだ。
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