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銀河転生伝説 ~新たなる星々~

作者:使徒
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第26話 グリニア星域会戦


――宇宙暦813年/帝国暦504年 7月26日――

ルフェール軍の残存部隊は、ルフェール本国と辺境との国境付近にあるグリニア星域まで辿り着いていた。

当初10万を数えていたルフェール軍はミンディア星域における会戦と、その後の撤退戦において帝国軍の追撃に次ぐ追撃によりその数を16000隻にまで減らしていた。
また、司令官が健在なのは第二艦隊のみという有り様であり、残存部隊の指揮は第二艦隊司令官であるマイト・アルベイン中将が執っていた。

「あと少し、あと少しで味方の勢力圏に入る。そうすれば敵も流石に追ってはこれまい」

アルベイン中将は、そう自分を叱咤することで挫けそうになる心を抑えつける。
ここ数日に渡る撤退戦は確実に彼の心を蝕んでいた。

撤退開始時は32000隻であったルフェール軍残存部隊は、この7日間で半数の16000隻を失っており、更には辛うじて航行可能というレベルの損傷艦は2000隻を数える。
いっそのこと損傷艦を放棄すれば良いのかもしれないが、その時間さえ惜しい。
それ程に、帝国軍の追撃は熾烈であった。

しかし、その苦労もあと少しで終わる――多くの将兵はそう感じていたが、アルベインは気を抜けなかった。
最期にもう一度、帝国軍の襲撃があることが予想できたからである。

ここグリニア星系は恒星グリニアと六つの惑星によって構成されており、別段特別な資源が有るわけでもないため何処の国にも所属していない無人の星系として放置されてきた。

無論、そういった情報は銀河帝国も征服したロアキア経由で掴んでいる筈であり、ここを過ぎればルフェール領に入る事も理解しているだろう。

だからこそ、銀河帝国軍はここで仕掛けて来る。
アルベインは確信していた。

そして、彼の考えは見事に的中する。

「こ、後方に熱源反応! これは……帝国軍です!」

「敵旗艦確認、グラン・ティーゲル……グエン・バン・ヒュー艦隊です!」

現れたのはグエン・バン・ヒュー艦隊12000隻。

「やはり来たか、全艦応戦用意。数ではこちらが上だ、一気呵成に蹴散らして本国へと帰投するぞ!」

アルベインはそう言って叱咤激励したが、本国間近ということで気が緩んでいた将兵の士気は簡単には上がらなかった。

一方、帝国軍のグエン・バン・ヒュー上級大将は旗艦であるグラン・ティーゲルの艦橋で咆えていた。

「シャハハハハハハハ、ようやく追いついたか。行くぞ、敵を殲滅しろ!」

数だけで見ればグエン・バン・ヒュー艦隊の方が劣勢であったが、ルフェール軍は疲弊の極みにあり、各艦隊の残存戦力の寄せ集めでもあるため指揮系統に乱れがある。
つまるところ、後ろから追撃してきている味方が来るまでの間なら互角に戦える程度の戦力差でしかない。
故に、グエン・バン・ヒューはルフェール軍を脅威とは見ていなかった。

攻撃重視で編成されたグエン・バン・ヒュー艦隊がルフェール軍に牙を剥く。

26日 19時11分。
グリニア星域の会戦が開始された。


* * *


――20時15分――

「ラウード隊、突破されました!」

「エーヴィン提督の艦隊が200隻にまで撃ち減らされています」

第二艦隊旗艦トイホーレの艦橋には悲痛な報告が引っ切り無しに入ってくる。
そのどれもがルフェール軍の劣勢を示していた。

「キュネイ隊をラウード隊の援軍に向かわせろ。エーヴィン隊は後退、オズン隊は前進してエーヴィン隊の穴を防げ」

アルベインは指示を矢継ぎ早に出すが、悪化する戦況には追いつかない。
これが全てアルベイン直属の艦隊であればこうはならなったのだが、混成部隊のため指示がスムーズに伝わらないのだ。

「このままでは埒が開かん、戦線を押し上げる。ヨルキン、ドーザン隊を横に展開させて敵の頭を抑えさせよ」

「しかし、それでは予備兵力が底を突いてしまいますぞ!」

「今の我々に出し惜しみをしている余裕があると思うか? 敵は目の前の艦隊だけではないのだぞ」

アルベインはそう言って、参謀の反対を却下する。
グエン・バン・ヒュー艦隊の撃退に手間取れば敵の増援が到着してしまうのは自明の理であり、無視して撤退しようにもグエン・バン・ヒュー艦隊の攻撃は激し過ぎた。

「それにしても、味方が脆過ぎる。如何に寄せ集めとはいえ、このままでは………」

・・・・・

――22時06分――

グエン・バン・ヒュー艦隊はルフェール軍前衛部隊の切り崩しに成功していた。

「敵の前衛の分断に成功しました!」

「なかなか手間取ったな、敵の指揮官は余程優秀と見える。だが、こいつで終わりだ!」

既にルフェール軍はグエン・バン・ヒュー艦隊の突撃に耐えるだけの余力は無い。
前衛を崩せばそのまま連鎖的に全軍が崩れるのがオチだ。

グエン・バン・ヒューは麾下の艦隊に敵中央への突撃を命じる。

が、その時――

「て、敵の新手です!」

「何だと!」

それは、本国より救援に駆けつけてきたロング・ニトラス中将率いるルフェール第一艦隊15000隻であった。

優劣は一気に逆転する。

今まで狩る立場であったグエン・バン・ヒュー艦隊は、一転して狩られる立場となった。

「ハハハ、こいつは参った。やられたぞ!」

グエン・バン・ヒュー艦隊は攻勢に秀でている反面、守勢に弱いという欠点を持つ。
これは旧ビッテンフェルト艦隊やファーレンハイト艦隊、ハルバーシュタット艦隊など攻勢特化型の艦隊に共通する特徴であるが、中でもグエン・バン・ヒュー艦隊は特に顕著であった。

数の暴力の前に先程の勢いは何処へやら、艦艇は次々に討ち取られ壊滅へと急落していく。

ハルバーシュタット艦隊が戦場に現れたのはそんな時であった。

「前方で戦闘が行われている模様です」

「交戦中か……ん、苦戦しているだと?」

見れば、グエン・バン・ヒュー艦隊は防戦一方だ。

「(元々攻勢において強力な攻撃力を発揮するあの男が一方的に押されているのか……。何が起きているというのだ?)」

その疑問に答えたのは、オペレーターからの報告であった。

「敵、25000隻を超えます!」

「何ぃ!? 馬鹿な、数が合わんではないか!!」

ハルバーシュタットは驚愕した。

「司令官閣下、どうなさいますか?」

「どうもこうも、ここは行くしかなかろう。味方を見捨てるわけにはいかん」

てっきりルフェール軍の残存艦艇15000隻程を予想していた彼らにとって、第一艦隊によるこの早期の救援は完全に想定の範囲外である。
故に、対処といっても場当たり的なことしかできない。

戦艦シュトルム・ティーゲルを旗艦とするハルバーシュタット艦隊は有効射程に入るや否や砲撃を開始し、グエン・バン・ヒュー艦隊を援護する。

「無事か?」

『おお、卿か。助かったぞ』

「ずいぶん苦戦していたようだな」

『ああ、ここで敵の援軍が現れるとは想定外だった。あのままだと流石にヤバかったな』

「生憎だが、まだピンチは去ってないぞ。こちらは約20000隻。一方の敵は25000隻以上だ」

『俺たちの艦隊の攻撃力を以ってすれば5000隻程度の戦力差、十分に覆せると思うが。ましてや敵は弱卒のルフェール軍だ』

「敵の片方は疲弊していないフレッシュな戦力、油断は禁物だぞ。だが、ここで一戦交えぬという選択肢も無いな」

『おう、まだまだ戦いはこれからだということを敵に教えてやるぜ!』

グエン・バン・ヒュー、ハルバーシュタット艦隊はその攻撃力に任せて攻め立てる。

だが、ニトラスとアルベインは良く連携して帝国軍の猛攻を防ぎ、それどころか抽出した戦力の一部を側面に回して逆攻勢をかける程であった。

「む、いかん! 急いで側面の防御を固めろ!」

ハルバーシュタットは即座に防御を固めたが、その分正面戦力が手薄になり攻撃力が低下してしまう。

それを見逃すニトラスとアルベインではない。
ハルバーシュタット艦隊に砲火を集中し一時的に後退させ、その後結果的に突出した形となってしまったグエン・バン・ヒュー艦隊に砲撃を浴びせる。
これにより、帝国軍の行き足は完全に止まってしまい守勢に転じざるを得なくなった。

「むう、敵もやりおる。側面の1隊、僅かあれだけで戦況をこうも変化させるとは………」

「16時方向より熱源多数」

「敵の新手か!」

「いえ、味方…味方です! 戦艦ヘルゴラント確認。ファーレンハイト艦隊所属、ホフマイスター上級大将の部隊です」

現れたのは、ファーレンハイト艦隊の副司令官であるホフマイスター上級大将の分艦隊2100隻。

このホフマイスター隊の参戦は兵力においてこそ過少であったものの、戦局全体においては小さく無い効果を発揮した。
一目で状況を把握したホフマイスター上級大将が、ハルバーシュタット艦隊の側面に張り付いている部隊へ攻撃を開始した為である。

「戦艦アムドレイシン撃沈、オズン提督戦死」

「敵の増援か……だが、それにしては数が少ない。おそらくは先行部隊だろうが、あまり良くない展開だな」

ルフェール第二艦隊司令官マイト・アルベイン中将は、スクリーンに映るホフマイスター隊に顔を顰める。
増援があの部隊だけならやりようは有るが、時間を掛ければ後続が次々と参戦してくるだろう。
それは望ましくない。

「どうされますか?」

「………退き時だな。第一艦隊のニトラス中将へ連絡を取れ、『これ以上の戦闘継続は不要、攻勢に出て敵を押し戻した隙に撤退する』とな」

「はっ、直ちに!」

このアルベインの進言をニトラスは入れ、ルフェール軍は攻勢の後、タイミングを見計らって撤退した。

「敵が退いていきます。追撃はどうなさいますか?」

「その前に艦隊の再編が先決だ。それとファーレンハイト艦隊との合流も必要だろう」

ファーレンハイト艦隊の本隊7500隻が到着したのは、それから1時間後のことであった。

『…………であるからして、追撃の是非についてファーレンハイト元帥の判断を仰ぎたく存じます』

「ふむ……これ以上踏み込めばルフェールの領土内に入ることになる。そうなれば敵の援軍も1個艦隊では済むまい。今回はここまでにしておこう」

そのファーレンハイトの一言で、帝国軍は追撃の断念を決めることとなった。


宇宙暦813年/帝国暦504年 7月27日 3時51分。
ミンディア星域会戦より長時間に渡って続いた戦闘は、この時を以って終結した。
 
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