魔法少女リリカルなのは平凡な日常を望む転生者 STS編
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第43話 ライトニング潜入
前書き
こんにちはblueoceanです。
みなさん、体調は大丈夫ですか?自分は先週の急な温度変化でダウンしてしまいました………
インフルでなかったものの、いまだに咳がひどく、のどが痛いです………
みなさんも気を付けて下さいね………
「なあ、最近スターズの皆、かなり気合い入ってるよな?」
「そうだね………何か前以上に仲も良いし………」
昼食時、ライトニングのメンバーで固まっていたエローシュ達5人は今もなのは、ヴィータ、ヴィヴィオを含めた8人で食事しているスターズの席を見ながらヒソヒソと話していた。
「何かあったのかな………」
少し羨ましそうな顔で呟くキャロ。
「だけどあの女性陣の中で普通に食べてるバルトさんが凄い………」
「エリオは囲まれただけでアガっちゃうものね………」
「そうでも無いよ。最近じゃ普通に話も………あれ?ルー怒ってる?」
「うるさい」
「?」
そっぽを向くルーテシアの態度がよく分からなかったエリオは不思議そうな顔をした後、再び食事に戻った。
「………段々レイ兄っぽくなってきたなぁ」
「キャロも相当だと思うよ?」
「えっ、どういう事?真白ちゃん?」
「ううん、まだ気にしなくていいと思う。キャロちゃんはこのままで良い」
「??」
真白の言葉の意味がよく分からないキャロはエリオと同じ様に不思議そうな顔をした後、食事を再開した。
「全くこの2人は………」
「何の話をしているの?」
「フェイトさんの今日のパンツの色は………痛っ!?」
そう叫んで痛んだ足を見てみると、隣に座っていた真白が笑顔でエローシュの足を踏んでいた。
「何すんだよ真白ちゃん………」
「信也くん、セクハラは犯罪だよ!」
「何を言っている。俺はセクハラなんてしていない。俺はただ単にパンツの色を聞いて、その姿のフェイトさんを想像してだな………」
「「「変態!!」」」
「ありがとうございます」
実に満足気にそう答えるエローシュ。
「エローシュにとって誉め言葉なんだ……」
そう呟くエリオの隣にフェイトが座った。
「………で、フェイトさん 。今日の下着の色は!!!」
「えっ?ピンク………だけど?」
「ピンク………!!!」
フェイトを見て悶え始めるエローシュ。
「大人のフェイトさんに少々可愛らしいピンク色の下着………そのギャップが男をそそる!!!」
「コイツ、本当に同級生?」
「それはみんなが不思議がってるよ」
ルーの問いにエリオが答える。
「ほら、何時までもバカな話をしてるな。エローシュ、今日のお前は訓練の量、皆の5倍だ」
隣の机から注意してきたシグナム。そしてそのついでに大きな爆弾を投下していった。
「えっ?何でそんなついででかなりでっかい爆弾発言しているんです?」
「貴様の歪みきった煩悩、消し去ってやる」
「いやいや、その前に力尽きますよ確実に………」
「心配するな、不本意ではあるが、台車に入れて医務室まで運ぶ」
「せめて担架で運んでくれませんか………?」
「人に迷惑をかけるな」
「理不尽だ!!」
「今に始まった事では無いだろう?」
「確かに………!!」
新事実に気が付いた時の顔の様に驚愕するエローシュ。
「シグナムさん!!それは酷いです!!」
「キャロちゃん………」
まさか助け舟が来るとは思っていなかったエローシュは涙目でキャロを見た。
「エローシュ君から煩悩が消えたら居ないのと一緒です!!」
「えっと、ちょっと待とうかキャロちゃん………それは明らかにおかしいよね?」
「エローシュの体の90%が煩悩出来てますから人じゃ無くなるから消えます」
「断言!?いや、消えないからねルーさん!!俺も普通の人間と同じだから!!」
「エローシュ………消えても忘れないから」
「いや、消えないから!!エリオも何言ってんだよ!!」
「お墓はいつか立ててあげるからね信也君!!」
「真白ちゃんまで………」
そんな仲間内の言葉を聞いて机に深く項垂れるエローシュ。
「何か………すまんなエローシュ」
「胸揉んで………げふっ!?」
鋭く重いげんこつを喰らい地面にめり込むエローシュ。
「さて、みんな食べ終わったら訓練ね。今日は私もしっかり見るからそのつもりでね!!」
「「「「はい!!」」」」
そんなフェイトの号令に反応し、立ち上がるライトニングの4人。
『………学習しないなお前は』
「うるさい………」
エクスに念話で声を掛けられたエローシュは弱々しく返事を返し、立ち上がるのだった………
「死ぬ………」
『成長したな。今日も一日耐えきったじゃないか………』
「よく言うぜ、結局吐くのを我慢するのに精一杯だったぜ………」
夜。
5倍とはいかなかったがそれでもかなり苦しかった訓練を終え、フラフラになりながら夕食を食べ、残る気力を振り絞り、風呂を覗こうとして見つかり、ティアナにボコボコにされ帰って来たエローシュ。
『さて、寝る前に今日もやるぞ』
「そして最後には相棒のしごきだよ………俺の安息の時は無い」
『半分自業自得だがな。………無駄口はいいから真面目にやれよ』
「分かってるよ、ユニゾンイン!」
そう言ってエクスとユニゾンしたエローシュは時の記憶に意識を繋いだ。
『うげぇ………一日でこれだけの情報が………』
『先ずはこの情報を整理した後、昨日の続きだな。さっさと終わらせるぞ』
『あいよ………』
現在エローシュはこの時の記憶を40分利用出来る様になっていた。
六課入隊から毎日毎日夜繋いで情報を整理していたからこそ、少しずつ慣れてきたのが大きかった。
そしてその中で情報の整理も進み、現在では必要だと思うデータを自分のファイルに保存する事が出来る様になった。
しかしそれでもごちゃごちゃにバラついたデータはまだまだ大量にあり、見ただけでやる気を失うほどの圧倒的な量がエローシュの前にあった。
『クレイン・アルゲイル博士のバリアアーマー概要………要らねえか』
『良いのか?一応バリアアーマーの情報はこれから先、必要になっていくかもしれないぞ?』
『それよりも先ずは真白ちゃんの親父さんのデータを探すのが先だ。気になった奴を片っ端からキープしてたらファイルが直ぐに満タンになっちまうよ』
そう、エローシュが第一に探していたのは真白の父親の足取りだった。
真白リク。
真白が母親から聞いた話だと魔法世界の科学者である事は確認が出来ていた。六課に来る前に写真も見せてもらい現在真白が持っている。
『畜生、結構違法研究のデータもあるんだが、真白ちゃんの父親が関わっているデータが中々見つからないな………』
『処分できない以上、地道に探すしかない。文句ばかり言うな』
『うるせい………」
エクスに小言を言われ、不機嫌になりながら捜索を続けるエローシュ。
『ん?新しいデータだな………ん?これは………!!』
『どうしたエローシュ?』
『これ………』
そう言ってエローシュがエクスに見せたデータは街中に設置されていたカメラの映像の一部分だった。
『映像だな………』
『この映像の端っこ、今は封鎖されている筈の地下通路の方に降りていく人影!!』
『人影………これは、バルトマン・ゲーハルト………そしてその隣には………』
『ああ、まさかこんなラッキーな事があるとはな………』
バルトマンの隣に写っているフードの男、不意に見えた一瞬をエローシュは見逃さないでいた。
『真白リク………』
「お父さんが!!」
「ああ、昨日偶然に写っている写真を見つけた」
その次の日の学校での昼休み。
いつもの様にライトニングのメンバーと地球で生活している千歳夏穂と小岩井佐助、そして優理とリンスが一緒に固まって食事をしていた。
「ねえエローシュ、レイにも相談しようか?」
「いや、零治さんは無闇に動かない方がいいよ。零治さんがまた黒の亡霊で動いたら大騒ぎになるし、そうなるとまた雲隠れされるかも………そう考えたら出来れば俺達だけで探した方が良い」
「だけど今日も訓練よ、探す時間なんてとても………」
「俺と真白ちゃん、それとエリオは俺と一緒に地下に潜る。ルーちゃんとキャロちゃんは俺達3人は学校の用事で遅くなるって言っておいてくれ」
「えっ、でも………」
「はっきり言って地下だとルーちゃんのガリューはともかく、フリードは屋内の戦闘には向いていない。何があるか分からない以上、危険だ」
「そうね………」
そんなエローシュの言葉に俯くキャロとルーテシア。
「でも3人じゃ………」
「大丈夫だ、ただ真白ちゃんの父親に接触するだけだ。別に戦う訳じゃ無い」
「でも流石に3人じゃ危険よ?」
2人とも中々エローシュの提案に賛成出来ないでいた。
「エローシュ」
「何だよ優理ちゃん?」
「私とリンスも参加する」
「「「「「「「えっ!?」」」」」」」
まさかの優理の発言に話に蚊帳の外だった夏穂や、佐助まで驚いた声を上げた。
「優理、自分の立場分かってるの!?」
「分かってるよ」
「じゃあなんで………」
「だって、私達なら強いし、私はどのポジションでも出来る。リンスだってレイ達と一緒に訓練してきたんだからエリオ達にも負けないよ」
「そう言う事じゃないの!!お兄ちゃんが心配しちゃうでしょ!!」
珍しいキャロの怒鳴り声にも優理も全く引かなかった。
「優理、今回は止めておこう………」
「私も何か役に立ちたいの!!真白ちゃんのお父さんの手がかりだよ!!これを逃したら次がいつ来るか分からない。………だったら多少リスクを犯しても準備は万端にして向かった方がいいよ!!」
「優理………」
そんな優理の思いを聞き、止めていたリンスも思う事は同じなのかそれ以上の言葉は無かった。
「エローシュ、2人を連れてって。2人については私や佐助も協力するから」
「………情報操作は得意」
「夏穂、佐助………」
そんな2人の言葉を聞いてエローシュは静かに考えていた。
そして………
「分かった。2人にも協力してもらう。だけど目立つのは止めてくれ。特に優理ちゃん、俺の指示にはちゃんと聞いて動く事、そして出来るだけ強力な魔法は使わない事」
「………分かった、魔力量調整しておく」
「リンスちゃんもね」
「はい」
そんな2人の返事を聞いて、多少不安が残るものの頷くエローシュ。
「それじゃあ早速ミッドに戻ってあの地下へ降りてみよう。………悪いけど頼むよ4人共」
そんなエローシュの言葉にキャロ、ルーテシア、夏穂、佐助が頷いた………
「ここに?」
「ああ、昨日の確認した映像だとここに入って行った」
ミッドチルダの中央区。その南東の端に地下へと降りる階段があった。
「何でこんな所に?」
「元々はミッドの地下に地下鉄を作り、そこを中心に東西南北色んな場所に行けるように計画されていたらしいんだけど、その計画の際、地盤沈下の事故で計画が断念されて階段も全て撤去されたとなっていたわけだが………」
「ここに残ってたんだね」
古ぼけた地下へと進む階段の所にはチェーンで『危険、立ち入り禁止』と書かれたプレートが付いていた。
『エローシュ、待て』
「どうした?」
エローシュがそう言うとエクスが次元を裂いて出てくる。
「「………」」
「あれ?どうしたの優理ちゃん、リンスちゃん?」
「あっ、えっと………どうしてもいきなり穴が現れて出てくるエクスを見るとびっくりしちゃって………」
「私も………」
「………別に驚かせたくてしている訳じゃないぞ?………よし、OKだ」
手をプレートにかざすと光の文字が現れる。それを操作し、暫くしてそうエローシュに返した。
「何がOKなんだ?」
「これはトラップだ。俺が生きていた時代にあった物でな、このまま普通に通ると別の場所に瞬間転移される仕組みになっている」
「瞬間転移!?」
「ああ。どうやらここには色々と秘密があるみたいだ。………どうするエローシュ?俺から言わせてもらうとここは慎重に考え直した方が良いと思うぞ?」
そうエクスに言われて腕を組み考えるエローシュ。
「エローシュ、行ってみよう。またいつ何処かに行くか分からないんだ、チャンスは逃さない方が良い」
「信也君、危険な事は止めよう!!別に無理してお父さんを探さなくて良いよ!」
エリオも真白も互いの意見をエローシュに伝える。 受けたエローシュの判断は早かった。
「エリオの言う通りいつ手掛かりが掴めるか分からないんだ。多少の無理は承知の上でやろう」
「エローシュ君………」
「優理ちゃん、リンスちゃん………」
「行くよ」
エローシュの言葉を遮り、優理がそう言った。
「私だって友達だもん。私も真白の為に協力する!」
「わ、私も!!私だって優理やレイ兄達と訓練してきたもん。私だってやれる!!」
「はぁ………分かった、じゃあ頼むな2人共」
力強く答える優理とリンスにエローシュも諦めてそう答えた。
「それじゃあ行こうか」
エクスの操作でチェーンを消し去り、6人は地下へと降りて行った………
「………広いな」
下に降りると薄暗い空間が広がっていた。
「えっ?エクス君、こんなに薄暗いのに分かるの?」
「俺は人間じゃないからな。これ位の暗さなら問題ない」
「へぇ………」
「恐らくだけどここはホームだな。なるほど、本当に地下に地下鉄を作ろうとしていたんだな」
「全然見えないよ………」
リンスの呟きの通り、エクス以外の全員が殆ど中の様子が見えないでいた。
「エクス、ユニゾンだ」
「分かった」
「「ユニゾンイン!」」
ユニゾンした際に発せられた光で一瞬明るくなったが直ぐに再び薄暗さが残った。
「エローシュ、何やってるの!?こんな暗闇で光なんて出したらここにいるって言っているようなものじゃないか!!もし敵がやってきたらこの暗さに慣れていない僕達は………」
「エリオ、恐らくこのフロアには……誰もいない」
「えっ、誰も?」
「エクスどういう事だ?」
聞き返した真白の言葉を流し、自分の中にいるエクスに話を聞くエローシュ。
『どういう事だと言われても俺にも分からん。だが、事実としてこのフロアにいる者は全員死んでいるってだけだ。………ただ匂いがしないのは殺されてまだ時間が経っていないか、魔法で匂いを隠しているのかもしれない』
「ねえ信也君!!」
無視された真白は再度、強めに名前を呼んだ。
「どうなってるの!?何が分かったの!?」
優理も不満そうに聞いてくる。
「………このフロアにいる人間は全員死んでいる。死臭がしないのは魔法で隠しているか、まだ時間が経っていないか………まあ後者の方は確率が低そうだけど………」
「そんな………」
真白が青い顔で周りを見渡した。
「………他に人影は無いの?」
「このフロアは居ないな。奥に更に下へ行く階段がある。だけどおそらく………」
「こんな事をしたのは………」
「多分、バルトマンだろうな」
優理の質問に淡々と答えたエローシュの顔は一層真面目な顔になった。
「多分、この先、もっと悲惨な状態になってるだろうけど、優理ちゃんやリンスちゃんは大丈夫?」
「私達は大丈夫。だけど………」
「………」
「真白………」
青くなって固まる真白にエリオが心配そうに声を掛けた。
「真白ちゃん、一度ここを出る?」
「………ううん、私も行く。私のためにみんな手伝ってくれてるんだもん。私が逃げてちゃ駄目だよ」
「真白ちゃん………」
そう言ってリンスが真白の手を握る。
「私もあんまり得意じゃないの。だから手を繋いで行こう」
「うん、ありがとうリンスちゃん」
「さあ、それじゃあ行くか」
一行はエローシュの声と共に再び先へと進むのだった………
「酷い………」
今度は道の至る所に死体があった。
次の階は先ほどとは違い明かりは付いており、部屋の様子がしっかりと分かった。上とは違い今度は長い十字路と複数の扉。ドアが無い部屋の中を見ると生活感を感じる部屋の作りとなっていた。
「ここは何かの研究施設だな。死体も白衣が多い」
「ミッドの下に違法研究施設………これはもしかしたら管理局の誰か………?」
「エリオ違うぞ、よく見てみろ」
そう言いながらエローシュは十字路のちょうど真ん中の分かれ道の所に壁にもたれかかるバリアアーマーを指差した。
「これは報告にあった冥王教会の………」
「冥王教会………」
「リンス、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ………」
優理にそう返すがリンスの表情に暗さがあった。
「じゃあバルトマンは自分の所属していた組織を潰したって事?」
「そう考えられるな。何故そんな事をしたのかはよく分からないが………」
そう言って分かれた3つの道を見るエローシュ。
左右の道の先は行き止まりだが、正面の道にはエレベーターがあった。
「取り敢えず先ずは左右の道の部屋を2手に分かれて確認してみよう。俺、真白ちゃん、リンスちゃんの3人。エリオと優理の2人な。何か動いている機械があったら俺を呼んでくれ。くれぐれも油断しないように」
「分かった。行こう優理」
「うん。リンス、真白、エローシュにセクハラされたら言ってね、滅するから」
「こんな空気でそんな事しないわ!!」
優理の冗談とエローシュのツッコミで張り詰めていた空気が多少緩まった。
「じゃあ行くね」
「ああ」
互いにエローシュとエリオを先頭に部屋を調べ始めた………
「どうだった?」
「こっちは何も。エローシュ達は?」
「こっちも移住区みたいです私室になってた」
「そう………」
残念そうに呟くエリオ。
結局約30分ん以上かけて得られた成果は殆ど無かった。
「………だけどこんな物が見つかった」
そう言ってエリオ達に見せたのは手帳だった。
「手書きの手帳………これがどうしたの?」
「ただの手帳じゃない。ここにはここで働いていた研究員のスケジュールが書かれていた。そこにはしっかりと『新型ベヒモス』についても書かれていた」
「新型べヒモス!?でもそれは真白のスカイシャインの中にデータが………」
「ああ、この手帳のスケジュールで想像するにまだまだ完成にはほど遠いみたいだ。………だけど元々のべヒモス並の破壊力を持った爆弾を作る事には成功したらしい。そして恐ろしい事に実際に実験として使おうとしていたみたいなんだ」
そんなエローシュの言葉に驚く優理とエリオ。
「じゃ、じゃあ急いで止めないと!!」
「それを止めたのがバルトマンと真白の親父だよ」
「そうなんだ………だからこんな………」
何とも言えない顔で呟くエリオ。
エローシュを除いた皆も似たような反応だった。
「因果応報だ。同情する必要は無いぞみんな」
「でも………」
「報いは必ずある。それが良い事でも悪い事でもな。それを承知でやっていたんだよこいつ等は。正義と悪なんて語ろうとは思わないけど、爆弾で大勢を危険な目に合わせるよりははるかにマシだ」
そう淡々とエローシュに戸惑いを見せる4人だが、エローシュは特に気にせずエレベーターの方へ目を向けた。
「さて、それじゃあ次に進もう。ただし、油断せずにな」
そう皆に声を掛けて先頭を歩くエローシュ。
(そう………この世は因果応報なのさ………)
『エローシュ………?』
そんな心の中でも呟きをエクスは聞き逃さなかった………
「ん?」
エレベーターは直通で更に10階降りた場所に向かう為の物だった。
「エローシュ、どうしたの?」
「………誰かいる」
最初に着いた場所よりも暗く、ユニゾンしているエローシュでも見えないほどの暗闇。
しかしエクスのお蔭が、人の気配がしたのをエローシュは感じていた。
「これはこれは………裏切り者の2人の次はこんなに小さな客人とはな………」
明かりが点き、視界が晴れると、その部屋は上をかなり長く太い柱で何本も支えている何もない部屋だった。
そしてその広い部屋の中心あたりに、聖王教会とは違う、灰色の司祭服を着た若い男が居た。
「まさかあの2人以外にもこの場所に気が付いた者が居たとは………お蔭でこの部屋に再度次元結界を張り直す時間が取れなかった」
「次元結界って言うのはあの地下へと降りる時にかけられていたチェーンの事か?」
「それを破ったのにも驚きだな。一体どうやったんだ?」
「………教えられないね」
「ふむ………この魔法は古代ベルカ戦争時の小国で潜入した敵を別の場所に強制的に移動させるための魔法を使っている国があった。現在は使える者も知っている者も僅かにいるだけな筈なのだが………」
そう話ながら顎に手を当てて考え込む男。
『当然だ。その小国とは俺の国の事だからな。今の次元に居続ける様にしたのも国の連中だしな』
「なるほど、だから入口でも気が付いたんだな………だがお蔭でこうやってヤバそうな奴とも遭遇する羽目になったんだけど」
『文句を言うな』
「一体誰と話しているんだい?それとも独り言を大きく呟く癖でもあるのかい?」
「そんな癖は無いと思うけど………」
そう眈々と言葉を返すエローシュ。
そんなエローシュを見て不満そうな顔で口を開いた。
「賢いな君は。もう少し会話から探ろうと思ったけど無駄そうだ。まあどっちにしてもこの魔法を教えた時点で君達は全員殺すつもりだったから構わないか」
そう呟いて指をパチンと鳴らした。すると男を囲むように冥王教会のバリアアーマーが転移してきた。
「いやぁ、やはり戦力は残しておくべきだね。バルトマンとリクの2人以外にも新たに現れるだろうと踏んでいた俺の感は当たっていたわけだ」
「リク!?じゃあやっぱりお父さんは………」
「バカ、真白!!」
「お父さん………?あははははは!!似てる、確かに似ているぞ!!これは傑作だ。奴を誘き出す餌がのこのことやってきたんだからな!!!おい、あのガキは殺すな、捕らえろ!!!」
エローシュの叫びも虚しく、転移してきたバリアアーマー約30人が真白に向かって動き出す。
「エクス!!!」
『あんな数、抑えられるか』
エローシュが真白を守るように展開したクリスタルは、道に落ちている石ころを蹴飛ばすように軽々と弾かれ、守っている内にも入らない。
「真白!!」
「シャインブラスト!!」
スカイシャインを敵に向け、散弾する砲撃を放つ真白。
対クロスレンジ下での戦闘で、ノーモーションから撃つ事の出来る砲撃で射程が短く、威力こそ低いものの広範囲に散弾して行く為、クロスレンジ下で距離を取りたい時に撃てる非常に便利な魔法である。
これは訓練でのクロスレンジ戦に対応できるようにと真白が覚えた魔法である。
しかし………
「………」
敵はその攻撃をもろともせず魔力刃を展開して斬りかかってくる。
「えっ!?」
真白もこの反応は予想外だった。
いくら威力が弱いとはいえAAAランクの魔導師が使う砲撃である。
バリアアーマーを着ていたとはいえ全くの無反応なのは予想していなかった。
「真白!!」
ぼーっとしていた真白の前に優理が割り込み盾を前に構えた。
「ワイドプロテクション!!」
広範囲に横に広げたプロテクションを向かってくるバリアアーマーの前に展開した。
「うぐっ!?」
一斉に向かって来たバリアアーマーの攻撃をプロテクションで受け止める優理。
「こんな攻撃、レイ兄達と比べたら!!!」
ただ受け止めているだけでなかった。優理のデバイスの長所は攻守を同時に出来る事。
「エターナルウィップ!!」
レイピアを自分の魔力で覆い、ムチのような魔力刃をを作り出す。
「調子に乗りすぎ!!」
しなる魔力刃はシグナムのシュランゲバイゼンの様に敵を斬り裂く。
耐久力のあるバリアアーマーでも直撃により損害が見えていた。
しかし前進するのを決して止めない。
「止まらない!?だったら容赦しない!!」
更に攻撃の手を増やす優理。
「サンヴァルカンメテオ!!」
優理に守られたお蔭で態勢を整えた真白も攻撃を始める。
杖の先に溜めた魔力を斜め上に向かって発射する真白。それはまるで噴火による隕石の様に降りていき、固まっている敵の中心に落ちると爆発した。
「真白ナイス!!」
「サンヴァルカンカノンの別モーション。スピードは遅いけど、その時間差で攻撃が出来る技なの」
爆風は真白のプロテクションにより守られ、こちらの被害は無し。
「今!!」
爆風から守ったプロテクションを消し、翼を広げ、羽の魔力弾を放出した。
「凄い………」
みるみるうちに倒れていくバリアアーマー達に真白が小さく呟いた。
しかし………
「まだ立ち上がるの?もう終わりだよ。君達じゃ私達に勝てない」
「………」
優理がそう言ってもバリアアーマー達は聞く耳を持たず、ボロボロながら立ち上がる。
「優理ちゃん………」
「不気味………何なのこいつ等………」
再び魔力刃を展開してくるバリアアーマー達を見て優理はそう呟いた………
「はあ!!」
「たあ!!」
優理と真白がバリアアーマーに対応している中、エローシュ達3人はバリアアーマー達を呼んだ当人を倒すべく動いていた。
しかし優理達と同じ様にバリアアーマー達が男を守る様に囲んでいて中々男まで辿り着けない。
「エローシュ!!」
「くっ!?クリスタル展開!」
横から迫って来ていた敵をクリスタルを展開し、魔力刃を逸らした後、エリオがスピードに乗ったストラーダの突きを喰らい吹き飛ばされた。
「悪い………」
「そんなの気にしなくていいよ。だけど本当にやるつもりなの?僕達だけで」
「大多数のバリアアーマーがあっちに目を向けている内がチャンスだ。こっちは人数も少ないし、相手のバリアアーマーの人数も未知数。………活路はあの男を倒してこそ得られる」
「だけどあっちの人数は………」
「大丈夫、真白ちゃんも強いけど優理ちゃんは更に強いから」
「………強い?」
「ああ、本当に化け物だよ。全く、有栖家はどうなっているんだか………」
エローシュは優理を見ながらそう呟いた………
「………ふむ」
男は顎に手を当て、戦闘を見ていた。
「ガキだと思って甘く見ていたが、まさかここまでやるとはな………特にあっちの女の子2人。一撃一撃の威力が相当高い………いくら旧式とはいえ、あんなに簡単にアーマーを破壊するとはな。………だが、やはり子供は子供だな」
そう呟きながら男は優理と真白の戦いを見ている。
「人は殺せないよなやはり」
「くそっ、しつこい!!」
盾で体当たりし、魔力刃を展開したバリアアーマーの中の魔導師を吹っ飛ばす優理。
「サンライトブレイカー!!」
真白の砲撃が複数の敵を飲み込む。
「よし!今度こそ!!」
倒れた敵を見て、そう叫んだ真白。確かに真白の言う通り敵は倒れたまま動かない。
しかしいきなり体がカクンと跳ねた後、ゆっくりと起き上がる敵達。既に2人の幾多の攻撃でバリアアーマーは全く機能しておらず、見ただけでも動けるのが不思議な位ボロボロの姿だった。
「何で!?これ以上動いたら本当に死んじゃうよ!!」
「真白、駄目!攻撃の手を緩めないで!!」
のそりのそりと近づいていた敵はいきなり地を蹴り、魔力刃を突き刺さんとするかのように真白に突撃した。
スピードも最初ほど速くもなく、落ち着いていればどうとでも対処出来る様な状態なのだが、真白は軽いパニックに陥っていた。
「何で、止まって!もう止めてよ!!」
「真白!!くっ!?」
優理も優理で敵が優理に向かってのそりのそりと近づいてくる。
「エローシュ!!2人が!!」
「くそっ!!こっちも手一杯だっての!!リンス!!」
「何!?」
「真白の援護を!!」
「えっ!?でも………」
「俺達は俺達で如何にかするから!!」
「でもエリオ君だけじゃ………」
「大丈夫!!僕もライトニングで鍛えられてるから!!」
そう言ってバックステップで距離を取ったと同時に懐に潜り込んでストラーダで一閃した。
「リンス、行け!!」
エローシュの最後の怒声で優理の元へ行くリンス。
後ろを向いたリンスにすかさず追撃をかける。
「させない!!」
再び高速移動したエリオが敵より早く動き、リンスとの間に入り、斬り裂いた。
「バルトマンと同じ雷神化………電気変換気質か。だが、バルトマンはともかく子供の君が長い時間使えるとは思えないけど、大丈夫かい?」
「それをカバーするのが俺だ!!接続回路形成………行くぞ、雷のブースト!!」
そうするとバチバチと全身から放出された雷が少々収まった。
「弱まった………?いや、コントロールしたのか!?」
「ああ。………だから好きなように暴れろ。俺がカバーする!」
「うん!!」
力強く答えたエリオはストラーダを男に向け、体制を低くした。
「!?不味い!!」
咄嗟に自分の前にバリアアーマーの増援を転移させた。
「風牙絶咬・雷刃」
雷を纏ったストラーダを先端に、雷神化したエリオの突きはまさに雷の獣が襲いかかってくるようだった。
「どけぇ!!」
バリアアーマーで固まった壁を突き破り、男に迫るエリオ。
「やれやれ………」
そうため息を吐きながらデバイスを展開する。
「なっ!?」
男はエリオの突きを槍で受け止めていた。
「速いな。この状態で高速移動の魔法を使ったらどんなスピードになるんだ?」
そう言いながら槍を両手で回転させた男はエリオを弾き飛ばした。
「くそっ!?」
「悪いが終わらせる。流石に君とクロスレンジで戦って勝てる気がしないのでな」
「何を………あれ?」
エリオは男の持っている槍に違和感を覚えた。槍の矛先部分がないのだ。
「エリオ!!」
「えっ!?」
咄嗟にエローシュの声に反応したエリオ。
「槍の先が背中に………」
突き刺さる寸前で偶然にもエローシュの声に反応したお蔭で槍先で背中を少々斬られた程度で済んだエリオ。
「次元と次元を繋いだ!?そんな事も出来るのかよ!!」
『後にしろ!!次が来るぞ!!』
「エリオ!!来るぞ、動け!!」
痛む背中に鞭打って再び男に向かって突撃するエリオ。
しかしその攻撃は予想だにしない方法で防がれた。
「!!………」
「えっ!?」
何とバリアアーマーの一体がエリオの前にいきなり現れ、そのまま自分の体を盾にしたのだ。
雷神化の影響で筋力もスピードも上がっているエリオ。非殺傷設定でありながらその突きは易々と腹部を貫いた。
「あっ………」
「エリオ!!」
いきなりの出来事と自分が人を刺してしまった影響でストラーダから手を離し、後ずさるエリオ。
「終わりだ」
男が笑みを溢しながら呟いた。
再び先ほどと同じように槍先を後ろからエリオの心臓めがけて突き刺そうとした。
「ぐっ!?」
金属の弾かれた様な音と共に男が呻く。
槍先も既に消えており、男の槍へと戻っていた。
「ちっ、時間切れか………」
「油断したな。また来ないと思ったか?」
「仕事熱心だね。そこまでこの組織に恨みがあるのかい?」
「よく言う。お前こそ、既に裏切ってクレインに協力しているんだろうが………元冥王教会科学者でそし戦闘機人及び、アンドロイド研究者、そして冥王教会幹部の1人、マクベス・エルニコス!!」
そう斧を向けて叫ぶ銀髪の男。
「バルト………さん?」
「いいや、違うね。俺達の出会いたかったもう1人の人物、バルトマン・ゲーハルトだ」
エローシュはわざと聞こえる様に言ったが、バルトマンはマクベスと呼んだ男から目を離さないでいた。
「マクベス!!お前なら知っている筈だ!!クレイン、そして冥王教会の教皇はどこにいる!!」
「君もしつこいね………リクと組んで冥王教会の隠しアジトを次々に潰してくれたおかげで、もう立て直しは不可能なほど、ダメージを受けたよ。………そのせいで俺も研究を続けるのに別の場所を探さなくてはいけなかったよ」
「そんな事聞いてねえ、話す気がねえなら力ずくでも言わせてやる………」
斧に自分の魔力を溜め、直ぐにでも発射できる態勢をとるバルトマン。
「悪いがクレインの居る場所は俺も知らない。もはや奴の居場所を知るのはこの世には誰にも居ないんじゃないか?そして法王の事も言えない」
「何………?じゃあクレインは今どこにも属していないと言う事か?」
「おっと、つい口が………あのリクの娘をこのまま取り逃がすのは惜しいが、これ以上余計な話をする前にここは大人しく逃げるとしますか………」
「逃がすが!!ボルティックブレイカー!!」
振り向いた瞬間、斧に溜めた魔力をマクベスに向かって発射するバルトマン。
しかしその攻撃は周りを固めていたバリアアーマー達が壁になってくれたおかげでマクベスには届かなかった。
「くそっ!!人形風情がじゃまをして………!!」
「人形とは酷いなぁ………まあ楽しみにしててくれ、もう少しでアンドロイドも完全に完成するから」
「くそっ!!!」
ボルティックランサーを展開し、直ぐに発射するバルトマン。
しかし時既に遅く、その攻撃はマクベスを通り過ぎた。
「もう会いたくないが、会ったときはお手柔らかにね。子供達も実に楽しかったよ。そして真白リクの娘、近いうちにまた会いに行くよ。楽しみにしててくれ」
そう言い残してマクベスは消えていった………
「くそっ、俺としたことがとんだミスをしたもんだ………」
舌打ちしつつ、斧を力一杯地面に振り下ろすバルトマン。
「これでまた手がかりなしか………」
「バルトマン・ゲーハルト」
そんなバルトマンにエローシュは声を掛けた。エローシュの他にも、男と一緒に転移して消えたバリアアーマーと戦っていた真白達も駆け寄って来た。
ただ、エリオはその場で立ち尽くしたままだった。
「色々聞きたい事がある」
「邪魔だガキ、ぶち殺すぞ」
「この子は真白雫と言う」
いきなりそんな説明をされ、真白は深々と頭を下げた。
「リクの娘………って事はお前等は………」
「ライトニングの部隊の者だ」
「そしてお前は有栖優理」
「本物のバルトマン………」
盾とレイピアからスピアに変え、身構える優理。
「武器を下げろ。お前等に興味は無い」
「俺達は色々と聞きたい事もある。お前達2人の目的は何なのか?さっきの敵にした質問の意図は何なのか?今真白の父親は何処にいるのかも全て………」
そう言ったエローシュを睨めつけるがエローシュは全く引かなかった。
「ふん………良いだろう、多少話してやる。俺もあのリクの娘ってのにも興味があるからな。だが先に言っておく、話を聞いたらもう俺達の邪魔はするな」
「それは分からない。何せ俺達は真白リクの行方を探す為に機動六課に入ったんだからな」
そんな真っ直ぐ答えるエローシュにバルトマンもきょとんとしたが、不意にエローシュの肩に手を置き、顔を近づけた。
「そこのガキの女のためにそこまでするのか?」
「女のための何が悪い。俺はしつこく諦めが悪いからな、どんなになってもあんた達を追う」
決して目を離さないで答えたエローシュ。
「ふっ、面白い男だ。だが、俺達も俺達も目的があるんだ。邪魔したときは容赦しねえぞ?」
「その時は俺もあなたを止めます。真白のため、管理局員として………」
エローシュの答えを聞いたバルトマンは満足気に笑みを溢した。
「分かった。だが後から後悔しても遅いぜ?」
「あんたも、俺に会わない様にしないとな」
そう互いに言った後、大笑いする2人。
そんな光景に真白達3人は冷や汗が凄かった。
「それじゃあ多少付き合ってやるよ」
そう言ってバルトマンは近くの柱に寄り掛かった………
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