ソードアート・オンラインの二次創作、第六話となります。 よろしくお願いします。 独自解釈かなり多くなっちゃいました。 作中で出るスキルは格ネトゲやSAO原作をベースとしています。 リミッター・ブレイク→MHF大剣嵐の型SRベース。 グランツァ→名前はスターレット・グランツァV、アバンはSAO原作より。 バーサーク→ROのロードナイトのスキルより。 石碑内特殊モンスター内については、通常MMOはデータを常にサーバーにバックアップしているのでそこからサルベージしたと考えてください。
初の一話完結型じゃなく、今回が前半となります。
6月13日。 27層、迷宮区。
刃物を削るような音と共に、槍を持った女性が、その空間に現れた。
「いやしかし、まさかソロである私が呼ばれるとは思わなかった。 金稼ぎのためにトップギャンブラーと組んでいた時期はあったとは言え。
よもやここまで有名人になっているとは思わなかった」
その女性は、ザサーダ。
快楽のために誰にもバレずにMPKを繰り返す、誰よりも正常で異常な狂人。
スユアとの関係を絶った後、彼女は再びソロになり、MPKを繰り返していた。
そんな彼女の前に、一つの影が現れる。
目にも留まらぬ速さで現れたその影は、ザサーダの前で停止した。
「自惚れるなよ。 MPK。 貴様も私も、有名になることなどありえない。 このゲームの闇の部分である我等は、話題になってはいけないのだからな」
その影は、HeavensDoor。
最速のPKを誇る、光速の殺人鬼。
HeavensDoorも、誰にも認知されずに、PKを行ってきていた。
「これはこれは、私をこの場に呼んだのは貴方か。 いやはや、想像していたよりも凛とした印象で驚きだ。
しかし、この私に何の用だ? 迷宮区では私に分があるぞ?」
冷ややかに、そして、落ち着いた物腰でそう口にするザサーダに、天国の扉は特に何も言い返さず。
ただ、ザサーダにとある申請をした。
それを見て、ザサーダは暫く承諾画面を見た後。
「面白い。 なるほど、こういった用か。 了承しよう。 して、これの目標は何だ?」
そう言って、目の前の了承ボタンを押す。
すると、天国の扉は冷ややかな笑みを浮かべた後。
「私達は存在しているが認知されない存在。 否、認知されてはいけない存在だ。
しかしやっていることは共通している。 ただやり方が違うだけ。 ならば各々がソロで活動するための情報交換を目的としよう。
面倒事など一切ない。 ただ、互いを切磋琢磨するためにも、週末には数の報告をしよう」
そんな天国の扉の提案に、ザサーダは薄く笑った後、疑問を投げかける。
「なるほど素晴らしい提案だ。 して、今のところは、私と君だけということかな?」
「いや、既に2人ほどスカウトしてある。 これで4人となったわけだ。 全員が異なる理由の犯罪者。
これが、私が理想とする、このギルドの方針だ」
そう口にして、天国の扉はその場から跳ね、壁から壁へと縦横無尽に跳ね回った後。
「『Dirac』。 物理的真空状態を指すこの言葉こそ、私たちのギルドに相応しい名だ。
これからも、各々の理由で禁忌を侵そうじゃないか」
そう言って、天国の扉はその場から姿を消す。
残されたザサーダは、クルクルと槍を回した後、構え、壁にあったスイッチを押す。
すると、隠し部屋が現れたが、ザサーダはその中には入らず、その場から姿を消す。
暫くして、そこの隠し部屋に入った人間がいたが。
その部屋から戻ってくることは、永久になかった。
「新しい試みは常に私に新鮮さを与えてくれる。 何気ないいつも通りのことも、新しい気持ちで溢れるものだ。
今のことも、今からのことも、明日からのことも、私に新鮮な快感を与えてくれる。
嗚呼、人の死の瞬間を見るというのは、何故ここまで新鮮で安心で、刺激を与えてくれる、素晴らしいものなのだろうか」
その言葉だけを残して、恍惚に満ちた表情のまま、ザサーダはその場を去る。
平和な世界の水面下では、途方も無いようなどす黒い闇が展開されていた。
―――――
現実というのは常に死と隣り合わせだ。
それを、今、俺は再び実感している。
何気なく開いたフレンドリストから、月夜の黒猫団の連中が全て消えていることに気づいた。
何があったのかはわからない。
だが、永久にこの世界からも現実からも消えたことだけはわかる。
サニーさんの時も、ホイミの時もそうだったが。
命というのは余りにもあっけなく消えていく。
この世界では、フレンドを永久に失うことは、当たり前なんだ……。
しかし悲しいもんだよな。
現実なら、葬式とかに出て死に目くらい見てやれるが。
こんなデータの世界じゃ死んでもその体を拝めねぇ。
ただ、ため息を吐きながら、ギルドの本拠地である家の自室で寝転がる。
結局本拠地は22層にある酒場付きの家を50Mで購入した。
酒場はスユア、レイカ、桜花が店でもやってギルドの財源にするらしい。
俺はリアルは営業とかのサービス業じゃなく事務だったからな。
店での接客にはあんまり向いてない。
経理くらいはやってもいいが、レイカがリアルでそれだったみたいだから、俺は店には出ない。
天乃は店長という名目だが、あいつは元々ライン系の職のリーダー候補生だったみたいだからな。
飲食店系には向いてないのだろう。
まぁそんなことはどうでもいい。
俺としては、フレンドが減ったことがただただ悲しい。
大体、フレンドが減ったところで、いいところなんざ一つもない。
最近出てきたアイテムを加工して作った紙巻煙草を加えて外へと出る。
所詮、こんなアイテムもニコチンもタールも入ってない、それっぽいだけのものだ。
ま、それでも販売制限がかかってて、二十歳以下は購入できないんだけどな。
因みに1箱5k均一。 20本入り。 味はマイセン、マルボロ、セッタ、KOOL、ラーク風の5つ。
俺はマルボロとKOOKの2つを所有してるが、天乃はマイセンとラークを所有してる。
まぁ飽きたら交換できるし、悪いもんでもないだろ。
ストレスを紛らわすためだけのもの……。
それが5kで買えるなら安いもんだ。
そう思いながら、ふけていると、メッセージが一件届く。
送り主は、玖渚。
件名は、うまい話があるから今晩、ホールに集合、か。
まぁ、ホールなら酒も出るしな。
街に入れないあいつと話すには、それが無難だろう。
「了解、っと……」
俺はメッセージを返信し、吸い終わった煙草をその場に落とすと、そのまま煙草はデータの海に消えた。
夜、ホールへと行くと、玖渚とレイカ、天乃、スユアがいた。
「よう。 なんだ、玖渚にでも呼ばれたのか?」
俺がそう問いかけると、玖渚はニタニタしながら口を開けた。
「そうだよ。 私が呼んだ! まぁ今からする情報は、出来るだけギルド内の人で共有したいからね」
「じゃあなんで桜花とクーレイトとガンマさんがいないんだよ」
「桜花っちはもうこの時間じゃ寝てるでしょ? クー君とガンちゃんは別PTに呼ばれてるから来れないってさー。 それに……」
そこで玖渚は一度区切った後、声のトーンを下げ、周りに聞こえないように。
「この話、ちょっとああいうピュアだとか、いい人らには向いてない話なんだよね……。
曰く付きの話ってやつでさ……」
おいおいじゃあ俺らはいい人じゃないのかよとか突っ込んでやりたかったが、そう言える雰囲気ではなかった。
玖渚が、いつもよりも、顔に影があるように感じたからだ。
そう思っていると、天乃が口を開いた。
「……とりあえず、話してみてくれ。 内容によってその情報が有益か否か決める」
そんな天乃の言葉に、玖渚は暫く黙った後。
「ものすごく美味いクエがあるんだ。 一度そのクエをやればどんなレベルのやつでも、最低でも1は上がる。
最大で10以上上がることもあるらしい」
突拍子も無く言われたその話に、一同は唖然とする。
10上がるだと……!?
このレベルが上がりにくいSAOで、クエスト1回で10以上というのはあまりにも破格だ。
それどころか、1が確定で上がることすら相当美味い。
それは、有益どころの問題じゃない。
是非、ギルドの人間全員に推奨するべきクエストだろ!
そう思っていた矢先、再び玖渚が言葉を紡いだ。
「しかし、クエストの条件が少し厳しくてね。 まず期間限定。 一ヶ月のうち、四週目の金曜日、夜10時からクエスト受付開始。
朝4時でクエストが終了条件を達してようがなんだろうが、強制終了。 受注場所は13層の街中らしいけど、よくわからない。
しかもそれに加えてクエストに受注条件があって、それが……」
そこで、玖渚は言葉をしばし詰まらせた後。
吐き出すように、言葉を発した。
「フレンドの中で死んでいる人間がいる場合のみ有効なんだよね。 最低2人以上が条件。
私もなんだかんだで条件は達してるけど、嫌な予感しかしない……何より、このクエスト……。
一度やった人間は、二度とやらないって言って、内容を語ろうとすらしないから、内容がわからない。
だから、誰もやりたがらないクエストで、期間や条件が厳しいから、ドマイナーなクエストなんだ」
ああ……コイツは……。
死ぬほどイヤな予感しかしねぇぜ。
そう思っていた刹那、天乃が口を開けた。
「……俺はパスさせてもらう。 フレンドでいなくなったやつは三人くらいいるけど。 それを条件にするクエストなんかやりたくないからな」
それだけ吐き捨てて、天乃はその場を去る。
残っていた面々は、俺以外顔を合わせると。
「私もパスさせてもらおうかしら。 私はギャンブラーであって戦闘員じゃないわ」
「うーん……私もちょっと……」
そう言って、スユアとレイカは二人揃って天乃の後を追う。
残ったのは、俺と玖渚のみ。
美味いクエストって言っても、条件が条件だ。
そりゃあ……そうなるよなぁ。
「……アルスはどうするの? 私はまだやってないんだけど」
やってない、か……。
てことは、コイツはもしかしたらやるかもしれないってことか。
ソロでそんな美味いクエストをやらせるってのもアレだよなぁ。
それに……無事に戻ってこれるかわかんねぇしな……。
「……なら、俺はやるぜ。 それまでに装備の強化は済ませておく。 スキルレベルも出来る限りあげておこう。
で、だ、お前はどうするんだよ、玖渚」
そう疑問を投げかけると、玖渚は暫く黙った後。
腕を組んで、少しだけ考えた仕草をして、ようやく口を開いた。
「……まぁ言い出したのは私だし。 消えたフレンドもギリギリ二人いるし……。
やるよ。 あ、でも受注はアルスがやってね! 私はPTに加わるだけにしておくから!」
そう言って、玖渚は無邪気な笑みを見せる。
まぁ、自称デュエリストのコイツが加われば戦力としてはでかい。
盾役がいないのが多少厳しいが……。
グリュンヒルが次のレベルで新しい固有スキル開放だからな。
それに賭けて見よう。
うまくすれば二人でもいけるかもしれないし……。
「よし、なら四週目夜までに少しでも情報を集めて、その日に受注をするか。
それまではメッセージとかでやりとりをしようぜ」
「はいはい、了解ー。 まぁ、私もちょっと財産叩いて現時点での最強装備揃えておくよ。
何があるかわからないからね。 あとほしい素材とかあったら連絡してよ。 商業連合のツテ使って仕入れておくから」
「頼むわ、情報屋にもよろしくな」
そんなやり取りをして、玖渚と別れる。
……さて、と、だ。
ホールからフィールドへと移動し、装備レジストリからグリュンヒルを取り出す。
現時点でLv49。 特殊リーチ、発動済みスキル3。
スキルその1、『リミッター・ブレイク』。
任意の溜め時間の後、通常スキルよりも約1.5~3倍近くのダメージを叩き込む基本スキルだ。
一秒で1.5倍、2秒で2倍、3秒で3倍、4秒で敵の防御率無視で2倍、5秒で防御率無視で3倍だ。
それ以上溜めても意味はない。 発動中はスーパーアーマーがついて相手からの攻撃による吹き飛ばされはなくなる。
スキルその2、『アバンラッシュ・グランツァ』
大剣の突進系スキルのアバンラッシュのグリュンヒル専用バージョン。
通常のアバンラッシュより威力と判定が増強されている。
そこから追加モーションでコンボに繋がる。 最大コンボ数6。
スキルその3、『バーサーク』
発動モーション後、HPが3倍化、最終攻撃力200%上昇、攻撃速度30%増量という破格のスキル。
ただし発動中はHPが10秒ごとに5%勝手に減る。
単純計算、もしノーダメージでも、200秒発動してれば勝手に俺が死ぬ。
発動中は特殊状態異常、バーサークになり、他の状態異常を一切受けなくなるが、バトルヒーリングが発動不可となる。
発動モーション中は無敵状態だから敵からのダメージを気にすることはないが……。
問題は解除で、解除モーション中は3秒間無防備になる。
使い勝手が難しい上に燃費が悪いのであんまり使ってないスキルだ。
ただし、この状態でリミッター・ブレイクの溜め5を発動させると破格のダメージ量を与えることが出来る。
ボス級でさえ体力ゲージが一段分なくなるレベルだ。
まぁあんまり成功したことはないんだけどな……。
下手すりゃ俺がマジに死ぬ……。
しかし、これだけあってもまだ足りない。
内容がわからないクエストに挑むんだ、フィールドボスがいる可能性もある。
故に、二人でもボスを討伐できる技量でないと厳しい。
だからこそ……。
グリュンヒルの強化、スキル、レベルの底上げで、対応できるレベルまで持っていく……!
期限はまだ二週間ある。
明日から天乃、クーレイト、ガンマさんの四人固定PTでレベル上げだ。
クーレイトとガンマさんは認証してくれるかどうかわからないが……。
まぁレイカ、桜花、スユアは店番があるしな。
足りなかったら、フレンドから呼び出す。
そこまでしてでも、明日からは真面目にやろう。
リアルの仕事時間と同じピッタリ7.5時間サビ残アリだ!
学生共見てろよ、夕方になったらお前らと違って、こっちは夜遅くまで働くくらい忍耐力あるんだぜ……!
酷い時は泊りがけになるしな。
それでもな、勝手に飯が出てくる学生と違って、こっちは働かないと、稼がないと、生きていけねぇんだよ!
SAOでも同じだ! 体張って狩らないと、稼がないと、努力しないと、永遠にゲームクリアなんてのは訪れねぇんだよ!
生きていけないんだよ!!!
さぁ努力をしよう、さぁ仕事を始めよう、さぁ働こう。
今月の俺は、ちょっとマジだぜ。
6月下旬、金曜日。
ステータス、俺のレベル55、グリュンヒルLv53、防具、武器共に現段階で最高クラス。
大剣スキルも800突破。
スキルも大幅に増えたし、攻撃力も圧倒的に上昇した。
グリュンヒルのスキルも増えたが、スキルの危険度はさらに上がった。
前々から思っていたが、グリュンヒル特有のスキルは殆どが諸刃の剣だ。
自分を代償にして、一撃に全てを賭けるスキルが多い。
デスゲーム化したSAOとは相性が最悪と言える。
殆どの剣士はこんな危険なスキルばっかつくグリュンヒルなんか使いたくないだろう。
俺くらいなもんだな……ここまで強化して使ってるのは。
しかし、一気に狂ったようにレベル上げしたお陰で、一気に所持金が減った。
どうも、本気で戦闘を行うと燃費が悪い装備ばっかつけてるみたいだ。
だから慢性的な金欠に陥ってるんだよな……俺。
天乃に交渉して、ギルドでやってる酒場から得てる財源からの個人への配分。
まぁ所謂給料みたいなもんだが。
それを少し上げてもらおう……。
あいつも強化武器使ってるし、俺の辛さはわかってくれるハズだ……。
さて、そろそろ時間だ。
13層のフィールドで玖渚を探すと、結構すぐに見つかる。
「よう、どうだった?」
「やぁ。 情報はバッチリ。 けどまぁ、内容まではわからなかったけどね。 受注NPCは13層の裏路地にいる白いローブ被ったオッサン。
今日の夜10時からしか出現しないから、見ればわかるよ。 で、クエスト開始場所は……1層、石碑の前」
そんな玖渚の言葉を聞いて……いよいよマジで嫌な予感しかしなくなった。
検討は、なんとなくついてるが……。
そんなことがあっていいのか?
そんなことがあってたまるのか?
まぁ……でも、最悪、そういうことなんだろうな。
俺は玖渚をフィールドに置いて、街へと入り、裏路地でNPCを探す。
すると、かなり込み入った裏路地の奥に、白い人影を見つける。
……あのNPCか。
とりあえず接近して話しかけると。
NPCのオッサンはクエストの内容を喋りだした。
『1層に石碑があるのは知っているか? あそこには死者が刻まれ、死者が封じられている。
今宵は死の期、未知の世であるこの層へと悪魔が上がってくる。
ヤツらは無念を抱えあの石碑より現れるだろう。
どうか頼む、あの悪魔共を、世に出す前に倒してくれ』
そこで、承認と拒否ボタンが現れる。
なんかやったら回りくどい言い方だが、とりあえずこれを承認、と。
で、あとなんかグダグダ言ってるおっさんを適当に無視して、一層の石碑の前に行けばいいだけだな。
フィールドに出て、そこで気づく。
あれ……石碑って街中にあるから。
オレンジの玖渚って入れなくね?
いや、入れるけど、めっちゃ強いNPCが来てぬっ殺されるじゃん。
どうすんの……。
そう思っていると、玖渚が現れる。
「受けてきたみたいだね。 それじゃ、行こうか。 転移結晶はもう用意してあるよ」
そう口にする玖渚の上のポインターをふと見ると。
……あれ、緑?
「ちょ、おい、待て、ポインタ……!」
「ああ、今日のために頑張ったんだよ。 まぁ、今日が終わればどうせその内オレンジに戻ると思うけどね」
なるほど……あの噂のかったるて面倒なクエストをクリアしたってことか。
SAOにはオレンジへの救済処置として、緑に戻れるクエストが用意してある。
しかし、そのクエストがくそ面倒で、くそかったるいのだ。
さらに言えば時間がかかる。
故に、そのクエストをこなすやつは決して多くない。
しかしまぁ、よくも頑張ったものだな、と思う。
俺だったらたぶんやらねぇ……。
まぁしかし、これで玖渚もいけるはずだ。
一層、SAOでの全プレイヤーの名前が刻まれている、石碑。
元、リスボーンの間に……!
石碑の前に着いた俺達は、すぐに異変に気づいた。
石碑の前に、透明な下へと続く階段がある。
恐らく、他プレイヤーには見えていない。
クエストを受注した者と、そのPTにいるプレイヤーしか見えない仕様なのだろう。
「……行くか」
「うん……」
俺達は、それだけ言葉を交わし、階段へと一歩踏み出す。
その直後、一瞬意識がブラックアウトしたかと思うと。
俺達は、見知らぬダンジョンの中にいた。
薄暗く、石畳のような壁の全面が黄金色に塗られたその空間。
天井と地面が、不気味な淡い光をかすかに放っている。
まるでピラミッドの中だな……。
とりあえず、前へ前へと進むと。
特に敵が出ないまま、一つの部屋にたどり着いた。
扉の前には、『ONE―始まりの衝撃―』と刻まれている。
なんだこれ……。
ONEってことは、TWOもあるのかよ。
しかし、この部屋を通らないことには前にも進めないみたいだし。
とりあえず、扉を開けて見ないといけないな……。
「じゃ、開けるぜ」
「うん、武器は装備したよ!」
そう答えてくれる玖渚にグッと親指を立て、部屋を開ける。
そこには。
――――考えうる最悪の展開があった。
こうなることは予想してなかったわけじゃない。
クエストを受注した内容とかでなんとなくわかってはいた。
だが、【こんなこれを】目の前にして、俺は、流石に動揺を隠せなかった。
それどころか、体が震える。
対面したのは敵。
たった二体だけで、それぞれゲージも一段しかない。
しかし、見慣れない紫ポインター。
だが、俺はこいつらを知っている。
そりゃあそうだろ……! コイツらは……!
「サニー! ホイミ!」
思わず俺が叫ぶと、目の前の二人は、光のない眼で、俺達へと視線を移した。
最後に見た、あの時となんら変わらない装備で。
手に持った槍と、盾は、今や中層となった、サニーとホイミが死んだ階層の装備。
普通に考えれば、勝てない敵じゃない。
恐らく、普通にスキルを使えば、勝てる。
だが……だが……!
そう思っていた直後。
突如、サニーが、口を開いた。
『まぁまぁ、大丈夫大丈夫。 ボクがいるから。 スキルも上がってきて、一層の雑魚なら大体一撃だからね』
その台詞に、背筋が凍る。
無表情のまま放たれた台詞は、何処までもあの時のままで。
まるで録音された声をサニーが放ったようだった。
『あの、えとー、ごめんなさい、準備に手間取っちゃって』
次に言葉を放ったのはホイミだ。
……悪趣味すぎるぜ、製作者!
恐らく、コイツらが喋ってるのは……そのキャラのログだ。
バックアップを取っていたキャラデータや音声ログを、ここで再利用してきてる……!
あのNPCのおっさんが言ってた言葉を言い換えればこうだ。
このクエストの内容は!
『石碑の奥に眠る、ゾンビを倒せ!』
こいつらは……プレイヤーにとって最も倒しにくい敵だ……!
しかし、ここで引くわけには……いかねぇよな!
「玖渚! 腹は括ったか!?」
「大丈夫! 知らない人達だから、デュエル感覚で倒しちゃうよ!」
そう言って、玖渚がサニーに向かって切りかかっていく。
しかし、そこで。
『スイッチ!』
突如、横からホイミが現れ、盾で攻撃を防いだ!
……まずは、盾から潰さないといけないってか。
だったら……!
モーション開始……!
「ウ、お、おぉォオオオオオオオオオオオオオオオッ―――――!!!!!!」
強制叫び声モーションと共に、バーサーク、発動!
この間は発声がちと難しくなるが……。
盾役を潰せるって考えたら、デメリットでもなんでもねぇな!
「ホイミィィイイッッッッ!!!!!!」
グリュンヒルを振りかぶり、ホイミへと斬りかかる。
この時にスキル、リミッター・ブレイクを発動。
一秒……!
『女の子になりたかったんだ、憧れがあったんだよ!』
横から切りかかってきたサニーからのダメージを受ける。
正直、これくらいと思っていたが。
ゲージの7分の1が一気に減る!
こいつら……! もしかして、俺らと同じくらいのレベルになるように調整されてるのか!?
天乃と遊びでデュエルした時と同じくらいのダメージ量食らってるぞ!?
『あ、僕は二十二だよ、現役大学生』
3秒! ホイミからの追撃!
くそ! 二十二とかもうしらねぇよ!
大体死んでなかったら二十三だったんじゃねぇのかよ!
「止まれよ! 止まれって!」
横で玖渚がサニーの攻撃を受け止めながら反撃している。
しかし、一人で二人相手は流石に辛いか……。
だが……安心しろ!
5秒!
「リミッタァアアアアアアアアアアアッッッ! ブレイクッッッッ!!!!!」
一気にグリュンヒルを振り降ろし、ホイミの脳天から地面まで、持っている盾ごと、一気にたたっ斬る!
その瞬間、ホイミの体力ゲージが一気に減っていき。
あっという間に、なくなった。
『僕、まだ死にたくない! ゲームの中で死にたくない! 生きて現実に帰りたい!』
そんな捨て台詞を残して、ホイミは消える。
……くそ、胸糞悪い。
まるでPKしたみてぇだ……。
もう帰れないんだよ……死んだやつにとっては、叶わない願いなんだよ……!
……ごめんな。
心の中でそう呟いて、グリュンヒルを握りなおす。
すると、玖渚とサニーによる剣戟が聞こえてきた。
「アルス! 次だ! このサニーとかいうやつ、動きは単調だけど、全然怯まない! しかも攻撃力も高い!」
ふと、そう口にする玖渚に視線を向けると、確かに苦戦しているようだ。
まぁ怯まないのは当たり前だ……ゾンビなんだから。
……二人もやるのは気が引けるが……!
やるしかねぇか!
「オオオオオオオオオオッッ!!!!!」
バーサーク状態のままサニーへと斬りかかる。
盾役が消えたサニーは、俺の攻撃をあっさりと受け入れるが。
『ごめん……ホイミ……』
全く怯んだ様子はなく、俺へとためらい無くターゲットを変えて攻撃してくる!
俺はホイミじゃねぇよ! クソAI野郎が!
何度か、サニーと打ち合いになり、その隙に玖渚が確実にサニーの体力を削る。
流石に体力が減る一方の俺は、もうリミッターブレイクは使えない。
だからこそ!
アバンラッシュ・グランツァを使う!
「輝けぇェェエエエエエエエエエエエッ!!!!」
グランツァはドイツ語で輝きの意!
このアバンラッシュは! 輝きのエフェクトを纏って攻撃する!
グリュンヒルと、それを持つ俺の両手が輝き、その光の粉を振りまきながら一撃を放つ!
「玖渚ァッッッ!!!」
「了解ッ!」
玖渚と同時に、攻撃を繋げ、コンボを開始!
「一撃ッ!」「2連!」「3撃ィッ!」「4スコア!」「5撃!」「6ヒット!」「7撃ッッッ!」「8コンボ!」「9撃ッ!」「「ファイナルッ!」」
互いに攻撃することで、限界が6コンボの技を、10発まで無理やり上げる攻撃!
当然、息が合ってないと出来ない。
本来の限界は12回だが、玖渚の武器の都合上、10回だ。
単体にしか有効じゃないのが痛いところではある。
しかし、これで十分!
太陽の如き輝きと共に、サニーの体を、俺と玖渚の武器が貫く!
『……わから……ない……な。 なんで……PKなんか……』
それだけ残して、サニーは消える。
……俺は、PKじゃねぇよ……。
敵が出ないことを確認し、バーサークを解くと、HPがかなり減っていることに気づいた。
残り8分の1程度しかない。
結構危なかったな……。
あんまりバーサークは使うもんじゃない。
特にボス戦でなんか使えないな。
今回みたいな戦いでは有効ではあるけど。
とりあえず俺は回復ポーションを飲み、体力を回復した。
それと同時に、部屋の奥に、新たな扉が現れる。
扉に書かれた文字は……。
『TWO―二つ目の絶望―』
……やっぱ、順番があるみたいだな。
「さて……行くか、玖渚」
「うん……アルス、無理はしない方がいいよ」
「大丈夫だ、社会人のメンタルなめんなよ、上司に死ぬほど怒られまくってる俺のメンタルは鋼のハートだぜ」
「えー、怒られてる方が問題なんじゃないの?」
「……痛いところをつきやがるな」
今の戦闘よりも玖渚の言葉の方が深く突き刺さりながら、俺達は、次の扉を目指す。
これ以上、何が出ようと、動揺しない……!
俺はそう決意しながら、扉を開けた――――。